霊夢は冥界の奥へと進んでいく。
だんだんと幽霊たちが居なくなっていき、あたりには凄まじい妖気が立ち込める。
そして見えたのは、丸くぽっかりと空いた小さな洞穴。
霊夢「この妖気はここからね…おえっぷ」
その穴から漏れ出る妖気は、いくら博麗の巫女と言えど気分を害するほど強力なものであった。
霊夢「…入るしかないのね…」
霊夢はその洞穴に入っていく。
穴の中は奥へ行っても何故か明るく、奥に行くにつれ通路が広くなっていく。
10分ほど歩くと、通路は大きな部屋に変わり、そこには無数の御札と結界が張り巡らされていた。
そしてその奥にあるのは…
霊夢「アレが、シロの欠片…」
壁にめり込んだその物体は一見するとただの岩に見えるが、よく見ると丸めた獣のような形をしており目のような模様も見える。
??「よぉく来たねえ…」
霊夢「誰よ!?」
時逆「八雲紫に言われて、白面の者の過去を知りに来たんだろぉ?ならそれをぜ~んぶこの『時逆』が教えてやろうなぁ?」
何もない空間から3本指の手が出現し、それに続いて身体の切れたあべこべな妖怪が姿を現す。
霊夢「『時逆』…聞いたことない妖怪ね」
時逆「それもそうさぁ、あたしゃあ時を逆さに手繰る化け物…色んな時間を旅してまわる妖怪さあ」
霊夢「なるほど…私が時逆と一緒にシロの過去を見るのね…」
時逆「そうさ。白面の者…いや、シロの欠片についてあたしが知ってることだけここで教えようかねぇ」
霊夢「ほんと!?」
時逆「霊夢と言ったかな?あんたは知っておるかい?500年前、八雲紫がこの幻想郷にたくっさんの妖怪を招き入れたのを…」
霊夢「え、えぇ…話だけね…」
時逆「シロも、その時に幻想郷に入って来たのさァ」
霊夢「なるほど…でも、なんでシロは幻想郷に入った直後に眠らなきゃいけなかったのよ?」
時逆「そうだなぁ、シロが500年前に幻想郷に来たとき、シロはボロボロの傷だらけじゃったぁ」
霊夢「だからそれを治すために眠りについたのね…そこを賢者たちが結界を張って封印したと…」
時逆「でもなぁ、おかしいんだよぉ。850年ほど前の外の世界でな、大きな戦争があったのよぉ。日本の妖怪たちと白面の者との壮絶な戦いがなぁ」
…日本を滅ぼそうとする白面の者とそれに対抗する人間と妖怪の戦いは長きにわたり…ついにさしもの大妖怪にも逃げる時が来おった。白面の者は体の破片をまき散らしながら逃走していき、ついに人間の手によって海底で完全に封じ込まれた。
霊夢「…ちょっと待って、800年前から人間に封印されてたのよね…じゃあ500年前に幻想郷に来ることなんてできないじゃない?」
時逆「そう思うじゃろ?その疑問をあたしと一緒に見に行くのさァ。さぁ、まずは2500年前の外の世界へ参ろうか」
霊夢「ちょ、ちょっと…」
ボヒュン
時逆に手を引かれると、霊夢は不思議な空間へと連れられる。
周りには外の世界の、これまでの歴史が流れていく。
それは霊夢にとって全く理解の及ばないものであったが、何となくわかった。
これが外の世界の歴史…!
パシュン
時逆「着いたぞぉ、ここは2200年ほど前の中国という国の都さぁ」
霊夢「ここが…昔の外…」
官人「よくぞ参上した、造剣の忠民達よ!今日はその忠心に応えて寛大なる我が君がお目通りを許される。知っての通り、ここで神剣を選ばれた者は神職としての高位を許される!」
国王「倒せ…白面の者を…神剣を~…」ガチガチ
霊夢「ちょっと!こんなとこに居たら目立つんじゃないの!?」
時逆「大丈夫だ、あたしの術であたしらの姿は誰にも見えやしないよぉ。今は、この都に目を付けた白面の者を倒すための剣を、王に捧げようとしてるのさぁ」
その時、王の横に使えていた女たちが何かに操られたようにかたかたと震えだす。
国王が急に椅子から飛び跳ね、後ずさりしながら叫ぶ。
国王「でっ…で…出た~!!白面の者だァ~~~!!」
人々「うわああああああ!!」
瞬間、女たちの身体が白い物体によって貫かれ、その白く長い物体は一人の女のもとへと戻ってゆく。
その女は王に向けてささやきかける。
国王「あ…あうわ…」
女「国王よ、これはお前が招いた事よ」グニャリ
白っぽい肌を持つその女の顔が獣のように歪む。
その時、鎧を着用し槍や剣を持った兵士が女の前をふさぐ。
兵士「いかなる大妖怪でも、この人数が居れば倒せるぞ!」
人々「そうだ!我らの作った神剣を威を、今こそ示す時だ!」
神剣を持ち、この場に参じていた鍛冶屋たちも各々の剣を取り出し、その女に向かって行く。
女「哀れよのう…国王よ。くだらぬ兵とつまらぬ剣をかき集めて、何と戦うつもりだったのだ?」
シパン
白面「この白面の者とか!?」
女の姿から元の9尾の獣の姿となった白面は周囲の兵士や鍛冶屋たちを圧倒的な力でひねり殺していく。
鍛冶屋「皆!己の作った神剣を信じるのだ!いざァ!!」
挑む鍛冶屋も、その神剣も白面の者の前では木や紙の如し。
簡単に折れ散っていく。
白面「人間どもよ…恐怖に叫べ、狂え!それが我の悦び成ればァ!!」
白面の者は口元に火炎を溜める。
それに気づいた子供が、周りに居た人間を庇おうとする。
だが白面の吐く火柱は庇い損ねた者を瞬時に消し飛ばした。
少年「くっそおおおお!!」
その少年は落ちていた槍を手にして、白面に向かって行く。
霊夢「あ、危ないわよ!!」
白面「子供…白面の者に立ち向かうかよ。ならば我は覚えておこう…お前の断末魔の叫びと後悔の苦しみをな!」
白面の者がその少年にもう一度火炎を吐くと、その屋敷が爆発し、その爆風に乗って白面の者は上空へ舞い上がる。
それを霊夢が追っていく。
時逆「お、おい!何をする気じゃあ!?」
霊夢「ねぇシロ!こんな事止めなさいよ!!」
白面「娘、お前も我に立ち向かうのか?空を飛ぶ不思議な娘よ…お前のことも我は覚えておこう…」
白面は再び火炎を吐く構えをとる。
だが寸でのところで時逆が霊夢の腕を掴み、そのままその場を離れる。
霊夢「シロ…」
それから霊夢が見た者は凄惨極まるものだった。
白面の者は半日と経たぬ間に都とそこに棲む人々を焼き払って行った。
そして白面の者は周囲に動く者が無くなると、文字通り白い顔に亀裂のような笑みを浮かべ、天空へ消えていった。
霊夢「…」
時逆「どうじゃあ、これを見て…まだシロの過去を見たいか?」
霊夢「…大丈夫。次はどういう感じなの?」
時逆「次は、ついに日本に渡って来た白面の者を見てみようかぁ」
時順「さぁ行くぞえ!」
時逆の横から、時逆にそっくりな妖怪がもう一人現れる。
時逆「こっちは時順。あたしが時をさかのぼる妖怪だとしたらこっちは時を順に昇っていく妖怪さぁ」
シュパン
時逆「ついたぞぉ、ここが800年前の日本さ。丁度、白面の者が人間と妖怪と連合軍に敗れ、逃げるところさぁ」
さっき中国の都で見たときよりもかなり大きく成長していた白面の者は迫る妖怪の大群にも怯まず火炎を吐き、尻尾を振り回し応戦する。
霊夢「シロ…」
白面「おおおお!我が…この我が…!!」
それでも攻撃を辞めない妖怪たちの攻撃に、上体が大きく反れる白面の者。
そこに現れた大きな毛の長い虎のような妖怪が雷を放ち、それは白面の者に命中する。
虎の妖怪「よっしゃあああ!!」
その虎の妖怪の叫びに勝機を捉えた妖怪たちは白面の者をどんどん後退させてゆく。
白面「…くっ…」ヒョ
ついに追いつめられた白面の者は尾を引きながら逃げていった。
妖怪たちと人間の喝采が上がるなか、一人の人間の女が逃げる白面を追いかけていった。
時逆「それじゃ、ちょおっとだけ時間を進めるよぉ。あの人間の女が逃げる白面に追いつくとこまでだ」
ヒュパン
バシャアアア
霊夢「これは…」
時逆「白面の者は海底に逃げていった。それは何故かというとな…」
女「待て、白面!そなたが如何に逃げようともいつかは必ず倒される!日本中の妖怪もお前を追っているのだ。いつかきっと!」
時逆「しかしなぁ、あの白面の者が逃げた先は、考えうる限りで最悪の場所だったんじゃあ」
白面「ふふふ、そうか…我を討つか人間の娘!よろしい、だが女。心して倒すがよいぞ。我が力を取り戻すため眠るこの場所がいかなる所かをだ!」
女「何…何を言う!?」
白面「一つの小さき穴が堤を壊し、洪水を引き起こす。ここは島国の大地を支える柱の『要の石』よ!」
白面は尻尾をその要の石にめり込ませる。
白面「今、我はここまで身を差し込んだ。我が再びここを飛び去ることを考えよ。その時、この国を支える要の石は崩れ出し…日本なる国は大海に没するであろう!!…さぁ、これでもこの白面を倒そうというのか…?」
女「…」
白面「くくく、どうする?お前の仲間の妖怪共が来たぞ」
妖怪「白面~~~見つけたぁ!滅ぼせぇ~~!!」
白面「さぁどうする!?女よ!!」
ギイイイイイイ
女は咄嗟に白面の周囲に結界を張り、それに当たった妖怪は消滅してゆく。
それに白面は計画通りと言わんばかりの笑みを浮かべた。
妖怪「うわああああ!女、裏切ったか~~!!?」
時逆「このようにして、白面の者は以後800年の間この場所で封印されたのだ」
時順「ついによぉ、お前さんの疑問の核心に迫る時代に行くよぉ」
時逆「時代は800年後の外の世界、日本よ!ここでは800年の時を経て復活した白面の者対人間と妖怪の最終決戦さぁ」
霊夢「最終決戦…」
シュパン
白面「おのれ!おのれ!殺してやるぞ~!!」
そこに有ったのは、さらに巨大になっていたが眼から血を流し、体中に傷を負った白面の者。
それと対峙するのは髪の長い槍を持った少年と、800年前にも白面と戦っていた黄金の虎の妖怪。
少年「皆のためなら、俺だってえええ!!」
虎の妖怪「よぉぉぉし!!」
白面「獣の槍ィ、シャガクシャア、死ねェ!!」グオオオ
白面の者はその口から火炎を放出する。
だが槍を持った少年が背中でその火柱を受ける。
虎の妖怪「ばっか、おめぇ今更わしの盾んなって…」
少年「こんなの何でもねぇ…何でもねぇよ!!」
そして…少年の持つ槍が、向かってくる白面の者の口内に突き刺さる。
そのまま槍は白面の後頭部を貫通し、白面の肉体は崩壊していく。
白面「ギエエエエ…莫迦な…我は不死のはず、我は無敵のはず…我を憎むお前のある限り…シャガクシャア!!」
白面の者にシャガクシャと名を叫ばれた虎の妖怪は白面の頭を内側から串刺しにし、言う。
虎の妖怪「生憎だったなぁ…わしはもうどういう訳だかお前を憎んでねえんだよ。憎しみは…何にも実らせねぇ!」
ビリビリ
虎の妖怪「可哀想だぜ、白面!!」
その妖怪の放つ雷が白面の者の全身を流れる。
白面の肉体は雷に焼かれ、身をくねらせながら崩れ、消滅していく。
時逆「どうじゃあ、これが…白面の者、いや、シロが幻想郷に来る前の全てよ。では、幻想郷の元の場所へ帰ろうか…」
霊夢「…ちょっと待ってよ、でもこれじゃシロがどういう経緯で500年前の幻想郷にたどり着いたのかわからないじゃない」
時逆「…時期に分かるさ」
時逆と霊夢は元の幻想郷の時代へ戻るため、時間のはざまの空間へと入っていった。
そこを通って幻想郷に戻ろうとするが、その時間のはざまの中で、後ろから傷だらけの白面の者の魂が霊夢たちを追ってきていた。