霊夢は薄れていく意識の中で考えていた。もう浮かんでいられる霊力もない、戦いで全て使い切ってしまった。このまま、落下して地面に激突すれば、私も死んでしまうのかな。ふふっ、それもいいかもしれない…。やるべきことはすべてやったし、いいかな…。
だが霊夢のそんな考えも、すぐに変わった。
魔理沙「霊夢ゥゥゥゥウウウウウ!!」
ああ、帰れるんだ…。
魔理沙は魔力が底を突いてすでにプスプスと嫌な色の煙が上がっている箒にまたがって霊夢の元まで飛んでいく。が、さすがに箒も限界だったようでそのまま下へ降りて行ってしまう。
魔理沙「くそ…!」
落ちていく箒の上に足を乗せ、そのまま霊夢に向かってジャンプした。間一髪、霊夢の足を掴みそのまま抱きかかえる事が出来た。
魔理沙「よし、箒よ来い!」
…しまった、忘れていた。箒も魔力切れで使えないんだった。
ただ下に落ちていく箒を見るばかりだ。霊夢を抱えたままどうしようもなく落下していく魔理沙だが、突然落下の速度が遅くなったような気がした。驚いて下を見ると、何者かの張った結界が二人を支えていた。
藍「危なかった…」
藍が結界を張って二人を助けたのだ。そしてその結界を自分の元へ引き寄せ、ゆっくりと地面に足を付ける。
神子「おお、霊夢…無事だったのですね」
神子たち、そして戦いに参加していた者たちも続々と地面に降りてその身を休める。
藍「だが…シロ殿は…」
魔理沙「あ…」
感傷に浸っている暇は無い、何故ならば幻想郷の結界の崩壊が既に始まっていたからだ。八頭龍の本体が結界を壊してやって来た事、最期に放ったブレスが結界を突き破ったことで結界はどんどん崩れ落ちていた。
そんな時、無数の小さな影と4つの巨大な影がその場へ降りてきた。そう、シロの化身たちだ。
「幻想郷の民よ、大儀だったわ」
斗和子は藍や神子たちにそう言った。
布都「うむ、お主らもな!大したものじゃ!」
「それでは、霊夢にご苦労と伝えておいてくださいね」
神子「もし、何処へ?」
一部の黒炎たちは今もなお広がり続ける結界の穴に向かって飛び立ち始める。
「今、この幻想郷は滅び始めている。八頭龍が結界を大きく破壊してしまった故…。だから我々シロの御方様の化身達が、結界と化して穴を塞ぎ、崩壊を止める!」
藍「なんと…いけません、それでは…!!」
「霊夢が…眠っていてくれて助かる…。我々と戦ってでも行かせまいとするだろうからな」
腕の符節が欠け、甲殻もボロボロになってしまったくらぎが、牙のある顎の口から声を発した。
「だけど、間違わない事ね。私たちはお前達のために行くのではない…私たちはこの幻想郷が好きなのよ。草木が語り、土がなお生きるこの地がね…」
「いつでも心しておけ、幻想郷の礎には我らが有ることを…!」
斗和子たちも黒炎を追いかけるように空へ飛んでいく。黒炎は結界の穴に互いに組み合うように隅から重なっていき、そのまま博麗大結界や夢と現の境界と融合していく。そこにくらぎ、斗和子、あやかし、シュムナが加わり、彼女らも結界と同化し
てその形もなくなっていき、ついに最後の黒炎がはまったことで崩れた結界の穴は完全にふさがれ、幻想郷の崩壊は止まった。
魔理沙「行っちまう…シロが…」
我らが結界と成ったことにより、今までの幻想郷とは少し変わってしまうだろう。だが、お前たちが新たな幻想郷の歴史を切り開くのだ。皆が楽しく暮らせる、そんな楽園をね。それに、いつしか御方様が戻りし時、幻想郷が無かったらきっと悲しむでしょうから。
さらばだ、生命ある者どもよ…───
九月一日午後七時一四分、多大な犠牲を払った末に…戦いは幕を閉じた。
その後、八雲紫氏亡き後の幻想郷を、かつてその式であった八雲藍氏が管理するようになった。藍氏は今までの幻想郷とは違う、人間が妖怪に怯え妖怪が人間を脅す必要のない幻想郷を築くことを第一に掲げた。何故ならもう結界の仕組みは以前のような絶妙なバランスを保つ必要が無くなったからだ。当然、それでは妖怪の本分を否定することになってしまう、と多くの妖怪は反対したそうだが、もう今までの妖怪の在り方は古い、人間は妖怪に卑下されるほど愚かではないと悟り、わずか三年でその新しい体制を確立させたそうな。精神に依存する妖怪の思い込みの力は意外とすさまじく、人間を襲わなくてもいいと思い込めばそれをする必要もなくなったのだ。
それから、山の神や鬼を初めとした妖怪、そして人間によって現在幻想郷の復興作業が続いている。妖怪の建築技術をもってしても里を完全に元通りにするにはまだ時間が必要なようだし、抉られた地面などの戦いでの傷は未だ深く残っているところもある。しかし、必ず、いつかもとに戻るでしょう。幻想郷そのものの存在へとなり、大地に宿る…シロがそうしてくれるはずです。
幻想郷の歴史が大きく動いた、この偉大なる出来事をここ、幻想郷縁起に記しました。
編纂 稗田家九代目当主 稗田阿求
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草の上にふわりと金色の毛が落ちる。陽光を受けて光るその毛は、どうやら腰から伸びる9本のふさふさした尻尾から落ちて来たらしい。
「紫様、あれから5年が経ちました。貴女が守った幻想郷は、今も楽園として生命ある者で溢れております」
新たな幻想郷のリーダーとなった八雲藍は、かつての自分の主である八雲紫の墓を訪ねていた。墓石の上から仕入れた特上の酒をかけて、手を合わせる。
「では…また来年来ますね」
藍はその墓を後にした。
「号外、号外ー!!」
複数人の鴉天狗が、里中を駆け回って新聞を配っている。私はその新聞を受け取り、一面に取り上げられたどんな見出しよりも、隅に小さく書かれた見出しを真っ先に確認する。見出しには、こう書いてあった。
「博麗神社が祀る御神体を正式に決定!?その正体は…
一昨日、博麗神社が御神体を正式に決定し、これを未来永劫祀り続けていくと、神社の元巫女である博麗霊夢氏が発表した。その御神体の正体を、編集者であるこの射命丸文が取材させていただくことができた。その正体とは、かの幻想郷を救った英雄であるシロ氏が遺した大幣だという。この大幣はシロ氏の遺した化身と同化していて、これを祀ることはシロ氏を祀る事と同じ、幻想郷と一つになったシロを祀るのが一番、私にとっても納得がいく、とのこと」
私はその新聞を小脇に挟み、小高い丘の上に見える博麗神社を見てから、その方角に向かって人のにぎわう里の大通りを歩き始めた。
そのころ、夏の緑あふれる妖怪の山。ここでは今日も彼らにとっては重要な、生存競争が行われている。
山を流れる大きな深い河の中では魚妖や怪魚が泳いでおり、陽の光が水の中に差し込んでくる。が、魚妖たちの様子がどうもおかしい。と、その時、川の中に一匹の猪が転落してきた。猪と言ってもその体の大きさと牙の発達具合は尋常ではない、山に住む大猪だろう。魚妖たちは待ってましたと言わんばかりに大猪の足や首に噛みつき、それを川底へ引きずり込んでいく。
川岸にあったのは、川沿いを駆け抜ける巨大な大猪の大群。それを自らの糧とするべく追うのは、十匹ほどで群れを成した山犬だった。大猪に比べればかなり体躯で劣る山犬だが、滝の近くの岩の上から飛び降り、そのまま大猪の背中に爪を突き立て肉に噛みつく。それによってバランスを崩してしまった大猪が背中にくっついた山犬ごと川へ落下してしまう。これも格好の餌食とした魚妖や怪魚たちだが、突如接近してきた大きな影にそれらを奪われ、ひと呑みにされてしまう。
一匹の仲間を犠牲にしてしまったが、ようやく山犬の群れはボスと合流することができたようだ。仲間の山犬よりも2~3倍も大きく、大猪すらも噛んだまま持ち上げてしまえそうなボスがやってきたのだ、一気に先頭の猪まで追いつき、その牙を向ける。先頭を仕留めれば、その先の群れは反対側に逃げようとし、そこを仲間が挟み撃ちのように塞ぐ。今まで何度も成功してきた彼らなりの作戦だ。ボスが大猪の喉元に噛みつこうとしたとき、彼らにとって最悪の敵が来襲した。
吠え声と共に、その大きな目玉模様のついた翼をはためかせ、炎のように真っ赤な竜が飛来した。竜は寸前で山犬が狙っていた先頭の猪を足で蹴り、そのまま少し離れた所へ引きずっていく。当然、獲物を奪われた山犬たちは黙っているはずはない。すぐに竜に飛びかかり、その大きな鉤爪のついた足の下から横取りされた獲物を取り返そうと、精一杯に引っ張る。しかし山犬達では到底竜に太刀打ちできるはずはなく、攻撃もことごとく通らない。ボスも仲間を鼓舞しながら自らも竜に立ち向かっていくが、竜の口からほとばしる炎の前には何もできず、ただ唸りながら後ずさりするだけだ。
実はあの戦い以降、幻想郷に多くの竜が住み着き始めた。果たしてただ新たに幻想郷へやって来ただけのか、それともかつて八頭龍の手下であった黒竜が、八頭龍が死んだために術から解放された姿なのか…それは定かではない。が、黒竜のような邪竜ではなく、あくまで今の幻想郷のルールをわきまえたうえで一種族として認められている。
だがその時、新たな乱入者が出現する。川から勢いよく上がって来たのはワニかサンショウウオを連想させる、巨大な妖怪だった。妖怪の山の水辺では彼にとって脅威となる存在が居ないため非常に気性が荒く、相手が竜だろうがなんだろうがこのように猛然と攻撃を仕掛けて獲物を奪おうとする。
その乱入者と竜相手ではもう勝ち目はないと判断したのか、山犬たちはその場を離れ、大慌てで逃げていく大猪を群れを再び追い始めた。
その間にも水辺の王者と竜は互いに吠えながら威嚇し合う。そして王者は口を大きく開け、竜ごと獲物をしとめてしまおうと襲い掛かる。が、竜は寸前で大猪を足でがっちりと掴み、そのまま飛翔した。自分の届かない場所まで行かれてしまった水辺の王者は、ただ飛び去っていく竜を恨めしそうに見つめるしかなかった。
竜は飛ぶ。山の麓の森林の上を飛び、草原ではしゃいでいる妖怪や妖精の上をすれすれで飛んでいく。眼下の紅い館をまたぎ、その前方の湖に波を起こしながらどんどん進んでいく。
私は遠くの方から何かの吠え声を聞いた。見上げてみると、真っ赤な体の竜が白い引き締まった腹を見せながら里の上すれすれを飛行していた。自分の周囲に、竜の形の影ができるのが少し面白い。だが竜は眼下の小さな人間など目もくれない、といっているように全くこちらに興味を示さない。
周りで遊んでいた子供たちが竜を指差しながら追いかけているが、竜が里の領空を抜けたところで子供たちは追うのを辞めて手を振った。翼をはためかせながら、竜は魔法の森の方角へ飛んでいった。おそらく、森に竜の巣があるのだろうか?
そういえば、大分私の腕も動くようになってきた。戦いで千切れ飛んでしまった腕だが、完全に消し飛んでしまったわけでは無かったのですぐに回収し、河童の薬と永遠亭の医者の力で神経をつなげ、元に戻す事が出来た。しばらくは麻酔がかかったように力が入らなかったが、最近はそれも少しずつなくなっていくらか自由に動かせるようになってきた。
私は里を抜け、自分の住んでいる博麗神社に向かった。
長い階段を上り切り、鳥居を抜けて居住スペースへ向かう。その途中、神社の本殿の前で思わず立ち止まった。あの時、天井を壊された本殿も今じゃすっかり修理が完了して、御神体の置かれている拝殿が大きく改築された。
それよりも…どうしてもここを通るときはいつも立ち止まってしまう。忘れるはずもない、大切な相棒と出会った場所だからだ。
痛いことも苦しいことも、面白いことも…全部ひっくるめて…楽しかったわよねぇ、シロ。
今では、大賑わいとまでは行かなくとも一日何人かの参拝客が訪れる。今まで幻想郷の創造神、そして最高神として崇められてきた龍神に代わって、幻想郷そのものと同化することで崩壊を防いだある妖怪が幻想郷での守り神として信仰を集めている。神様は信仰を集めることで力を増していく。それならば、それならば…博麗神社に祀られているシロという神様がこの調子で信仰を集めれば、また…いつの日か…。
あれから5年が経った。そうなる日も、そう遠くはないかもしれない。
──れいむとシロ 『完』
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「よォ、見るものは見、読むものは読んだかい?」
「これまでお前さん達に見てもらったのは…白面の者を救うお話さ。だって可哀想だろ?だから…皆にこのお話を見てもらいたかったのさ」
「でも…お前さん達にはあたしらの勝手に付き合わせちゃったみたいで、すまんなぁ」
「自己満足で終わらなくてよかったけどさ。さて、あたしらはそろそろ時間の旅に戻るとするかぁ、時逆よぉ」
「おう、そうだなぁ。じゃ…また見たくなったらいつでも読みに来な。待ってるからよ…」
さて、丁度100話で完結です。
最初の頃は話を書くのが楽しいから誰も見てなくとも最後まで書ききれればいい、と思ってましたが、誰か一人でも見てくれた方が居た、という事がここまでたどり着けた支えになっていたと思います。自己満足で終わらなくてよかったです。
前回のあとがきでもちらっと書きましたが、このお話、3年前から思い浮かべていた妄想が元になってます。そして去年の夏にうしおととらを読み終えました。そのころに、友だちがここハーメルンで小説投稿をしている、と本人から聞いたので、じゃあ僕もやってみようかな、ということで連載させていただきました。
台本形式で書いてきましたが、これ、どこかで「どのキャラが喋っているのかを上手く書くことができれば台本形式にする必要がない」と書いてありまして。初めて書くし、キャラをかき分けられる文章力が無いのでじゃあ台本形式でもいいか…と思ってここまで書いてきました。僕の文章力や語弊の少なさも相まって非常にお見苦しい文章だったと思います。ごめんなさい…。
この話も一応は完結しましたが、これからもリメイクを加えたり、連載中はネタが思いつかなかったり色んな都合で書けなくて没にしてしまった話を外伝として追加していく予定なので、よろしくお願いします。
長くなりましたが、今まで読んでくださりありがとうございます。では、また次の作品を投稿することが有ればお会いしましょう。