れいむとシロ   作:ねっぷう

101 / 101
どうも。
一度完結した作品に何か追加したりするといらんことするなって怒られる法則がありますが、そこは投稿者権限を行使するので何とか我慢してください。天空璋が発表された時点で書きたくてたまらなくなったので書いちゃいました。


extra1 「東方天空璋」

幻想郷は真夏だった。妖怪の山は太陽がさんさんと照り、緑に覆われていた。

一方、博麗神社の境内には桜が舞い散り、春の香りを醸し出していた。さらにまた別の場所では曇天の空から雪が降り注ぎ、周囲を真っ白に染めていた。

 

「これは…やはり、そういうことなのでしょうか…」

 

雪の中を飛んでいる射命丸文は一人でそう呟いた。

 

「おや…?」

 

その時突然、大きく吹雪いた。天狗である文でさえも両腕を顔の前で伏せ、耐えるしかない程の吹雪だった。

数秒経ってそれがおさまる。文が再び飛び出したころ、吹雪く前には何もなかったはずの場所に、一つの影が見えた。目を凝らし、それが人の形をしていることに気付いた文は、大声で呼びかけてみた。

 

「あのー!そこの方ー!!」

 

しかし、その謎の人物は全く微動だにせず、静かに吹雪の中で佇んでいる。更によく見てみると、その顔にある眼が真っ赤に光った。

 

「な…!」

 

驚く間もなく、謎の人物は文との距離を一瞬で詰めた。文の反射神経やそのスピードでさえも以ってしても、反応することができなかった。その者は相変わらず吹雪の所為で姿はぼんやりとしているが、何やら背後に白い尻尾が何本も見える。しかし、その顔には鉄のように冷たい仮面がはめられており、裂けたような眼から覗く紅い光が文を見据えている。

文はすぐに背後へ飛び、その場から離れようとするが、またしてもそのスピードが負けた。

 

「妖怪…だとしたら、強すぎる…!」

 

白い妖怪は文の頭を掴み、下へ向けて投げ飛ばした。そして気合を込めるような仕草をすると、周囲に衝撃波が放たれ、文に直撃する。吹っ飛ばされた文はそのまま吹雪の中を落下してしまう。

その瞬間、さらに猛烈が吹雪が視界を遮るが、その間際に見たものは、白い尾を持つ、どこか見覚えのある姿であった。

 

 

 

「うおおおお、夏楽しすぎるううう!!」

 

妖怪の山で、太陽に向かってそう叫んでいるのは妖精のチルノだった。その横には蟲の妖怪、リグル・ナイトバグが少し疲れた様子で立っている。

 

「ほんとだね…」

 

「うん!どんなに暑くても平気だし、背中の氷も全く溶けない…いつもはもっとダルくなるのに…」

 

そう言うチルノの肌はいつもよりも日焼けして褐色肌になっており、その背中にある氷のような羽も普段より大きく鋭くなっているような気がする。

 

「でも、流石におかしいと思うよ…ほら、ずっと向こうの方は雪が降ってる…神社の方は桜が見えるし…」

 

「ほんとだ、雪がこっちに来る」

 

「雪がこっちに…?」

 

ズドォン

 

リグルがそう疑問を口にした際には、彼女らのすぐそばに、何かが隕石のように落下していた。土煙と千切れた草があたりに舞う。

その中から突風のように出現した腕が伸び、リグルの首元を掴むと、締め上げた。

 

「ぐっ…!」

 

煙の中で赤い一対の眼が爛々と輝いているが、その姿を確認することはできない。まるで、その身から発せられる強大すぎるエネルギーが靄となっているようだった。

 

「アンタ誰さ!?」

 

チルノは氷の槍を生成すると、それを放って見せた。しかし、氷が靄のような煙に触れた瞬間、煙ごと謎の敵はフッと消えた。次に現れた場所は、チルノの目前だった。

仮面からのぞく赤い目が笑っているかのように見え、あまりの不気味さに後ろに下がろうとした時、敵の尾の一撃がチルノを吹き飛ばした。勢い良く地面へと落下し、下に居たリグルに頭から激突してしまう。

 

「いたた…」

 

「今のは…?」

 

二人はすぐに空を見上げるが、先ほどのような靄も敵もいなくなっていた。

…幻想郷を、謎の妖怪が襲っていた。

 

 

 

 

「おーい、霊夢ー、異変だぞー」

 

博麗神社の庭で、魔理沙はそう呼びかけていた。しかし、神社の中からの返事は無い。魔理沙はため息をつくと、縁側から中へ入ろうと足をかけた。

 

「何の用?」

 

居間には、博麗霊夢が座椅子に腰かけていた。しかし、その顔は暗く沈んでいた。眼は淀んだように窪んでおり、左腕は白いギプスで固定されている。

 

「何の用ってお前…」

 

魔理沙は呆れたようにそう呟いた。霊夢はおもむろに立ち上がり、台所の方へ歩き出す。

 

「お茶入れるから待っててね」

 

「そんな事してる場合じゃないって!異変だよ、久々の異変!」

 

「だから何よ」

 

台所の奥からそう返してきた霊夢。

 

「だから、お前の仕事だろ?元凶を突き止めてそれを何とかする!」

 

「知らないわよ、第一アンタ1人でも異変解決くらいできるでしょ?それに…私はもう…戦わないから」

 

霊夢は魔理沙の前にお茶だけ置くと、部屋でゴロンと寝転んだ。それを見た魔理沙は参ったなぁと言うように頭をかき、息を突いた。

あの時の戦い…そう、幻想郷を覆う2枚の結界の間に封印されていた邪悪な龍、”八頭龍”が復活し、それを幻想郷に住む皆で協力し打ち倒した戦いだ。しかし、その戦いで同じく博麗神社に封印されていた白面の者、いや、シロという妖怪が命を落とし、それきり霊夢はこんな調子なのだ。

確かに、幻想郷そのものを食べようとしていた邪龍を倒すことが叶い、破壊された幻想郷の大地も息を吹き返した。しかし、霊夢自身に刻まれた傷は未だ消えていないのである。

 

「分かったよ、行って来る。待ってろよ」

 

魔理沙は再び箒に跨ると、舞い散る桜の花びらと春の風を切りながら空へと飛んでいった。

 

「…くだらない」

 

霊夢はただ一言、そう呟いた。

 

 

 

「とは言ったものの、どこから当たりをつければいいのか…」

 

周囲を見渡しながらそう呟く魔理沙。こんな四季折々の現象が一気に起こる異変など今まで見たことも聞いたこともない。今までのように黒幕が居ればいいのだが、誰にも会わない事には原因を突き止められそうもない。

 

「おや、魔理沙さんではないですか」

 

「お前は…文じゃないか」

 

魔理沙は自分の名前を呼ばれ、ぎょっとして振り向いた。すると、いつの間にか背後に居たのは、射命丸文であった。あの戦い以降、文とは何故かたびたび顔を合わせる機会が多い。

 

「なんでお前がここに?」

 

「いやー、私は今この異変の調査をしていてね…。ずばり、白い妖怪を見ませんでした?」

 

「白い妖怪だって?見てないな」

 

文はそうですかー、と一言言うと、すぐにこの場から立ち去ろうとする。

 

「おい待て、その白い妖怪ってなんだ?」

 

「ああ、今この幻想郷各地を襲っている異常気象の中で最も強い箇所に出現する謎の妖怪ですよ。長い尻尾を持ってこそいますがその素性は依然として不明で、神出鬼没で圧倒的な戦闘力を持っています。かくいう私も一週間ほど前に…」

 

「なるほどなぁ。とりあえずそいつを見つけて倒せば、何か分かるかもしれないんだな」

 

ドガァン

 

その瞬間、どこかから爆発のような音と衝撃が聞こえた。鳥が一斉に鳴きながら木々から飛び立つ。その方向を見ると、そこは無縁塚などがある西の方角であった。

 

「まさかあれか?」

 

「…行ってみましょう」

 

二人はそこへ向かう事にした。

 

 

 

「おりゃー!!」

 

チルノは空中で巨大な氷塊を生成し、それを砕いて鋭い無数の槍に変じさせながら一斉に放った。氷の槍たちが向かう先は、暗黒のオーラに包まれた、あの妖怪だった。

 

「くらえ!」

 

さらにそこに現れたのは、蝶のような羽を持つ妖精。名は「エタニティラルバ」といい、チルノと共にこの謎の妖怪を追っていたのだ。エタニティラルバはチルノと同時に弾幕を放つ。

が…妖怪を取り囲んでいたオーラは払われ、中から9本の尻尾がムチのように振り回されながら飛び出し、自らへ襲い来る氷塊を一つ残らず粉々に叩き割って見せた。

さらに、今度は妖怪本体自らが目にも止まらぬ速さでエタニティラルバの方へ突撃していく。身体に光弾がぶつかろうと、傷一つつかずに一気に距離をつめる。

 

「そんな…!」

 

驚く二人などお構いなしに、妖気を込めた腕でパンチを繰り出そうと構える。

 

ドォン

 

「…!」

 

その時、星型の光弾が降り注ぎ、妖怪に命中した。妖怪には特に目立ったダメージは見られないが、腕を止めてその方向へ顔を向けた。

 

「アレは…まさか…」

 

「そんなはずは…!」

 

その妖怪の姿を見て、魔理沙と文は思わず固まり、それ以外の言葉を失った。白い肌に白い髪、白い毛並みを持つしなる9本の長い尾、鋭く長い爪…そして顔にはめられた仮面の奥で、眼が赤い光を放った。

そう、その姿は、服装こそ以前と違えど、あのシロにそっくりであった。

 

「あ、有りえない…シロさんはあの時、確かに…!」

 

「くそ…どうなってる!こうなったら、確かめてやるぜ!!」

 

魔理沙はポケットからミニ八卦炉を取り出すと、それをシロにそっくりな妖怪に向けて構えた。妖怪は魔理沙の方へゆっくりと体を向けると同時にラルバを腕で払い、吹き飛ばした。チルノは慌ててそれを追うようにその場から退散する。魔理沙が必殺技を使用しようとしているのを見かねての行動だろう。

 

「最大火力でやってやる…マスタースパークだ!!」

 

ミニ八卦炉が小刻みに震え始めると同時に、その発射口にエネルギーが溜まり始める。しかし、敵の妖怪はじっとこちらを見つめたままだ。

 

「いっけえええ!!」

 

エネルギーが溜まり終えると、すぐに魔理沙はマスタースパークを放った。山をも消し飛ばすと言われる最大級のマスタースパークだ、奴を倒せるはずだろう。

 

「な…!」

 

だが、文は見た。極太の光線がぶつかる瞬間、敵はそれを両腕と9本の尻尾でもって受け止めた。光線は完全にそこで止まり、反射したエネルギーが下の大地へ降り注ぐ。

文も負けじとマスタースパークを止めている妖怪に向かって、光弾を放ち攻撃を仕掛けた。光弾は当たりこそするが、全く効果が無い。

 

「私も!クールサンフラワー!!」

 

チルノも弾幕を放つ。文とチルノ、双方からの攻撃を喰らった妖怪は、思わず顔を逸らした。この機を逃さないとばかりに、魔理沙はマスタースパークに更に魔力を込めた。

極太の光線がさらに太くなり、ついに敵の妖怪の全身を飲み込む。

 

「やったか!?」

 

握り拳を作りながらそう呟く魔理沙。

 

だがしかし…

 

一瞬だけの妖気の噴出と共に、周囲の煙が吹き飛ばされた。そこにはあの妖怪が腰を曲げ、腕を垂らしたような姿勢で平然としていた。が、服の一部が焦げて煙を出しており、何よりも顔の仮面の一部が割れ、左目が露出してしまっていた。

 

「…ッ」

 

多少はダメージは与えられているだろう。だが、その目に睨まれた魔理沙たちは再び固まってしまう。その憎悪に満ちた目はひび割れたような模様が走り、歪んでいた。まるで、まだシロが復活したばかりの頃、あるいは白面の者であった頃の眼にそっくりだったのだ。

固まった理由はそれだけではない。あそこにいるのがシロに似ているというだけで、ここまで攻撃の手が出せなくなってしまう。例え、あれが本物だとしても、ニセモノだとしても。

 

「カァッ!!」

 

何かを引っ掻くような鳴き声を発した後、妖怪はくるりと向きを変えた。その向いている先は、チルノによって地面に寝かせられたエタニティラルバだった。

 

「アイツ、何するつもり…!」

 

チルノはラルバを攻撃しようとしているものと思い、止めに入るべく飛んでいこうとする。しかし、妖怪はラルバの背中に頭を押し付けると、そのままスルリと消えてしまった。

 

「な、何だったんだ…?」

 

「どういうこと…?」

 

魔理沙と文は顔を見合わせてそう言った。

 

「もしかして、あの妖精の中に入り込んだ?」

 

「いやいや、それはさすがに…」

 

二人があーだこーだと話している間に、チルノはラルバの元へと寄っていく。

特に彼女に異変が無い。チルノは頭にはてなマークを浮かべながら、その背中に触れた。すると…

 

「わっ」

 

ラルバの背中に切れ目が入ったかと思えば、そこに扉が浮かび上がったのだ。ドアノブや蝶番まである。どういう訳だかわからないが、とにかく背中に扉が出現していた。

 

「魔理沙、文!これ見て!」

 

チルノは二人を呼び、魔理沙たちはその扉をいぶかしげに見つめた。

 

「なるほど、この扉の中に入っていたって訳か…」

 

「どうします?」

 

「…入るしかないだろ。アイツが何者なのか、この異変と何か関係があるのか…入ればわかるかもしれない」

 

「そうですねぇ…」

 

「アタイも行ってやるぞ!」

 

3人は、扉の奥の未知の世界へと足を踏み入れていった。

 

 

 

「何だここは?あの妖精の背中の奥がこんなところに繋がっていたとは…」

 

魔理沙は開口一番にそう口にした。

 

「不思議な所ですねぇ」

 

「薄暗くてつまらんところだな」

 

その世界は、今まで彼女らが体験した如何な世界とも異なっていた。空を飛ぼうとせずとも体はふわふわと浮かんでおり、何も無い処を壁のように足場にしたり蹴ったりできる。さらに、遥か彼方まで色とりどりのドアが浮かんでいる。

 

「あらら?変な奴らが紛れ込んでるわ」

 

「本当だ、何だコイツらは」

 

そこへ現れたのは、二人組の少女だった。1人は手に笹を持ち、緑色のドレスのような服を着ている。もう一人は手に茗荷の葉を持ち、ピンク色のドレスのような服を纏っている。緑色の方を丁礼田舞、ピンクの方を爾子田里乃という。

雰囲気からして、良さそうな奴らではない事は分かる。

 

「なるほど、あの仮面を追って来たんだね」

 

二人は明らかに先ほどの仮面の妖怪を知っているようなそぶりを見せた。

 

「アイツは何者なんだ!?」

 

そう魔理沙が問いただした。

 

「何者って、知ってるはずでしょ?白面の者よ、白面の者。いや、貴方たちはシロって呼んでるんだっけ?」

 

「何だと…?どういうことだ?」

 

「いいよ、僕らに勝ったらお師匠様に会わせてあげる。そしたらいろいろ聞いてみなよ」

 

「良いよ!アタイは準備万端だ。なんでシロが蘇ってるのか、わっかんないもんね!」

 

「魔理沙さん、行きましょう!」

 

「おう!」

 

3人は一斉に、舞と里乃に攻撃を仕掛けた。両者の弾幕が飛び交い、周囲を真っ白に染める。それは数秒の出来事だった。その数秒の間に、隙間なく光弾が飛ばされ、幾多もの打撃の火花が散った。

双方は後ろへ飛び、互いに距離を取った。

 

「ふふふ、三人がかりでもその程度のようね」

 

「くっ…強いな」

 

たったそれだけの攻防を通じて、互いの力量を探ったのだ。

 

「だが、次は本気でやってやる!」

 

魔理沙はまるでサーフボードを扱うように箒に足を乗せると、空中を駆けまわった。狙いは舞だ。

舞はそれを目で追うが、流れ星のようにも見える魔理沙に翻弄されかけていた。気が付いた時には、背後から放たれた弾幕に気付かず、それを喰らいかけた。寸前で避け、顔面スレスレで回避したのだ。

 

「はやい…!」

 

一方、文とチルノと交戦するのは里乃。

 

「あの程度の速さに翻弄されるなんて、舞はやっぱり甘いわね」

 

「あの程度の速さ?」

 

すると、文が不敵にそう呟いた。

 

「では、このスピードはどの程度でしょう?」

 

「何?」

 

文はまさに目でも追えないほどのスピードで動いた。飛ぶ際の風圧が、微妙に感じられる程度だ。魔理沙以上のスピードを前に、里乃も困惑を隠せなかった。

 

「流石は天狗と言ったところね…」

 

だが、里乃は目を閉じた。

文はそのまま体当たりを仕掛ける。

 

「だけどねぇ、当たらなければどうという事は無いのよ!」

 

体当たりが当たる瞬間里乃は身をひるがえした。すると、文の攻撃ははずれスカッと空を突いた。

独特な動きだった。踊りのようにも見えるそれは、文の最高スピードを乗せた攻撃を回避している。

 

「くそっ、なんで文の攻撃が当たらないんだ!」

 

チルノも負けじと、巨大な氷柱を生成して飛ばして見せる。

 

「今、貴方は私たちの力によって強くなっているだけなのよ。だから私には勝てないわ」

 

「ぐぬぬ…!」

 

チルノは悔しそうに拳を固めた。見かねた文は止まり、チルノをちらりと見る。そして、彼女にもわかるように、ハンドサインで何かを記した。

一瞬首をかしげたチルノだが、奇跡か偶然か意図を理解したように頷いた。

再び、文は飛びながら体当たりを仕掛けた。

 

「何度やっても無駄よ、無駄…!」

 

やはり里乃の不思議な動きによって攻撃は回避されてしまう。

 

「…!」

 

だがその瞬間、里乃は自身の指先に異変を感じた。

動かない…固まっている!?薄く氷が張っている…!

 

「どういう…まさか!」

 

氷は既に腕や足にも張り、だんだんとその範囲を拡大している。やがて、里乃がどんなに力を込めてもぎこちなくしか動けない程になった。

今、チルノの能力は強化されている。ならば、自身から大きく離れた地点の気温を急激に下げたり、氷を発生させることも容易かった。

 

ドガァ

 

そして、ついに文の突撃が里乃の胸に命中した。

 

「ぐは!」

 

氷は衝撃で砕け散った。更に、近くまで接近していたチルノは里乃の頬を思いきり殴る。

 

「里乃!」

 

魔理沙と戦っていた舞はそう叫んだ。

 

「よそ見はするなよな」

 

魔理沙は舞の目前で八卦炉を構え、少量の威力ではあるが、光線を放った。舞は吹き飛ばされるが、空中で態勢を立て直し、里乃の横に並んだ。

 

「くっ…やるね、君たち…」

 

「まだやります?」

 

文は少し息を切らしながらそう言った。

 

「二童子よ、何をしてるんだ?」

 

その瞬間、その空間全体に声が響き渡った。

 

「お、お師匠様!」

 

舞と里乃の二人はサッと跪いた。すると、上にあった扉が開き、また新たな人物が現れた。その扉が変じた椅子に腰かけた女性であった。

金髪の長い髪に冠を被り、オレンジ色の衣装に緑色のスカート、足にはブーツ。背後から赤、青、黄、緑のオーラが立ち上っている。

 

「私は究極の絶対秘神にしてこの幻想郷を創った賢者の一人、摩多羅隠岐奈である」

 

「お前だな、この異変の主犯は!」

 

「その通り。あの戦い以降、この幻想郷が正常に機能しているのかどうかを確かめたかった。部下であるこの二童子を使い、妖精や妖怪に力を与えた。その影響で季節が少しおかしくなってしまったが…そんな事はどうでもいい。おかげで私はこんな素晴らしい僕を手に入れられたのだから」

 

隠岐奈は指をパチンと鳴らすと、突然周囲に暗黒の妖気が漂い始めた。やがてそれは渦となり、その中央には先ほどの仮面の妖怪が現れていた。

 

「…お前、ソイツは一体何者なんだ!?」

 

魔理沙がそう叫んだ。

 

「ふふふ。季節がおかしくなり始めた時、同時に何か強力な気が大地から漏れだしていることに私は気付いた。それは紛れもなく、あの時の戦いで命を落とした白面の者だった。私はそれを抽出し、コイツを作り上げ、仮面の力によって強制的に私の手下へと変えたのだ」

 

「何だって…じゃあソイツはシロなのか?」

 

「シロ?ああ、白面の事か。答えは私にもわからない…コイツは白面そのものであるのか、あるいは気で作っただけのニセモノに過ぎないのか。だがそんな事はどうでもいい。この幻想郷の民はコイツの姿に思い入れがあるようだからな…利用しようと思ったんだよ」

 

隠岐奈の冷酷だがどこか楽しんでいるような眼が魔理沙たちを見つめた。

 

「魔理沙…」

 

チルノは小さい声でそう呟いた。

 

「ああ、分かってる。私は異変を起こしたことよりも、コイツがそんな事の為にシロを利用してんのが気に入らねぇ!!」

 

「同感です!」

 

怒りをあらわにする三人。

 

「ならばどうする?ここで戦ってみるか?おい、二童子よ」

 

「うふふ…」

 

「ふはは…」

 

隠岐奈は何かを命ずると、舞と里乃はふわりと浮かび上がり、仮面の妖怪の周囲をゆっくりと回り始めた。手に持った葉を揺らし、高い声で歌いながら緩やかに踊って見せる。

仮面の妖怪の眼がさらに凶悪に見開かれ、筋肉がわずかに隆起する。

 

「オオアア────ッ!!」

 

 

 

「…はぁっ!?」

 

何か不吉な気配を感じた霊夢はガバッと飛び起きた。部屋の神棚の上に置いてあるお祓い棒に目をやる。すると、そのお祓い棒は何かに呼応するように小刻みに震えていた。

次に霊夢は自分の腕を見た。あの時、千切れてしまった腕はまだ完全に動かせるようにはなっていない。

 

 

 

「なんて妖気だ…!」

 

暴風雨のように襲い来る妖気を前に、魔理沙たちは耐える事しかできなかった。二童子の踊りによって強化された仮面の妖怪はそれほどまでに凄まじかった。

 

「いけ」

 

隠岐奈がそう呟くと、仮面の妖怪は三人に襲い掛かった。

 

「ぐわ…!」

 

チルノの頭を掴み、もう片方の腕で殴りつけると今度はそれを魔理沙に向けて投げつける。文は巨大な光弾を放つが、仮面の妖怪は尻尾の一振りだけでそれを潰し、文へ向かって走るように移動した。そしてラリアットのようにその腕を顔面に叩きつけ、強引にねじ伏せる。

そして跳躍すると、倒れた文を思いきり踏みつけた。

 

「ぐあああ!!」

 

「コイツ…!」

 

魔理沙は八卦炉を向け、攻撃を溜め始めた。

 

「…!」

 

しかし、こちらを向いた仮面の妖怪の顔を見て、シロを連想し、思わず手を緩めた。その隙を見逃さず、仮面の妖怪は妖気の波動を撃った。それは魔理沙に命中し、魔理沙は吹っ飛んで文に激突した。

 

「くそ…!」

 

力の差は圧倒的だった。妖怪は彼女らを見下すと、雄叫びを上げた。

二童子は尚も妖怪の背後に周り、不気味に笑いながら踊り続けている。

 

「くくく…お前たちもこの程度か。もうよいわ、妖精に天狗に人間風情…消してしまうがいい」

 

仮面の妖怪は指示に従い、その手の中に光弾を生成した。それを放つと、光弾は空中で何倍もの大きさに膨れ上がりながら三人に向かう。

 

 

 

だがその時、どこかから颯爽と現れた影が三人を抱え、その場を離れた。巨大な光弾はその場で炸裂し、強力な爆発を起こした。

 

「何だと…?」

 

隠岐奈は小さく驚きの声を上げるが、仮面の妖怪は目線一つ変えずにその影を見ている。

 

「ほう、お前がようやく来たか!博麗の巫女!」

 

そう、その場にいたのは博麗霊夢であった。動かせるほうの手にお祓い棒を握り、先ほど魔理沙と話したときとは別人のような強い表情で敵を見ていた。

 

「霊夢!」

 

「ごめんね、遅れちゃった。…でも、大体状況は掴めたわ」

 

霊夢はそう言うと、拳を強く握り、怒りの表情を見せた。

 

「シロの姿を使って好き勝手させてたみたいね。せっかく眠ってるのを叩き起こして利用して…本当に頭に来るわね」

 

「博麗の巫女か!僕らが相手になってやる!」

 

「そうそう!今の貴方なんて私たちの敵じゃないハズよ!」

 

二童子はにやりと笑いながら、霊夢に飛びかかった。

 

「はっ!!」

 

しかし、霊夢は気合を発するだけで膨大な霊力を放出した。その波動は二童子を一瞬にして空間の遥か彼方まで吹き飛ばしてしまった。

 

「あ~れ~~!」

 

「ふん」

 

自身の向かってくる舞を軽く避ける隠岐奈。

 

「やるな。ではこいつはどうだ?いけ」

 

二童子を吹き飛ばした霊力の放出を受けても平然としていた仮面の妖怪が、その鋭い手の爪を向けながら霊夢に襲い掛かった。

 

「アイツ…霊夢がシロのいないせいで病んでいた事を知ってながら…!ダメだ霊夢、ソイツは本物が利用されてるだけかもしれな」

 

魔理沙がそう言いかけた瞬間、妖怪の顔の仮面が粉々に砕け散った。霊夢が繰り出した前蹴りが、見事に敵の顔面を捉えていたのだ。足が仮面を叩き割って顔面にめり込んでいる。

魔理沙たちはその霊夢の圧倒的な力に唖然とした。

 

「ッ!!」

 

仮面を破壊された妖怪はその素顔を露わにした。その顔は、生前のシロにそっくりだったが、憎しみと悪意に歪んでいた。それを見た霊夢は、思わずフフッと笑ってしまった。

 

「ほらね、シロじゃない。”本物の”シロが言ってるもの」

 

霊夢はお祓い棒を掲げながらそう言った。そう、2年前の八頭龍との戦いでシロの化身である無数の小妖怪・婢妖たちがこのお祓い棒と完全に同化して融合していた。その中の婢妖、つまりシロが霊夢にそう語りかけているのだ。

そして、一撃を喰らった妖怪は怒りでさらに表情を歪ませ、もう一度霊夢に襲い掛かった。

 

「夢想封印…!」

 

───『冴』!!

 

色とりどりの光を纏ったお祓い棒を、縦に振り下ろす。脳天にそれを喰らった妖怪の頭部は真っ二つに割れ、それは胴体にまで達した。やがて声にならない悲鳴を上げながら、その妖怪は煙となって消滅していった。

 

「すっ…すげぇ…」

 

霊夢はじっと隠岐奈を睨みつけた。

 

「ほう、奴を倒したか。その聡明さに敬意を払って、この私が本気で戦ってやる。見よ!聞け!語れ!秘神の真なる魔力がお前の障碍となろう!」

 

隠岐奈は椅子から立ち上がると、先ほどの仮面の妖怪にも負け劣らないような気を発した。しかし、霊夢はそれにも動じずに立ち尽くしている。

 

「怖がって声も出ないか…!」

 

そう言った瞬間、既に隠岐奈の目前には霊夢が迫っていた。驚く隠岐奈にお構いなしに、霊夢はその胸ぐらを掴んで持ち上げた。隠岐奈は一瞬にして、この巫女には敵わないと悟った。尋常ではない純粋な怒気に押され、かつてないほどに焦りを覚えてもいた。

 

「…ははは…すまなかったよ、試したかっただけなのだ…二童子の後継者を探したくてな…人妖の潜在能力を引き出させてみたりしたのが原因で季節が狂ったりしてしまったが…!そうだ、白面を使ったのもテストのつもりだったんだ、最低でもあ奴に勝たないと後継者にしないつもりだったんだ!巫女よ、お前は奴に勝ったのだ、博麗の巫女は部下にはできないが、お前が望むなら…!」

 

苦し紛れに早口でそう喋った隠岐奈だが、今の霊夢には何も届いていなかった。

 

「言わなかった?私は今…」

 

霊夢は頭を上げ、それを思い切り振り下ろした。

 

「頭に血ィ昇ってンのよ!!!」

 

超強烈な頭突きが隠岐奈にお見舞いされた。この後戸の世界全体に鉄と石をぶつけたような鈍い音が響き渡り、それを聞いた魔理沙たちは隠岐奈を憐れむような表情を浮かべた。

 

「ご、ごめんなさ…」

 

隠岐奈は頭からシューと煙を上げながら、気を失った。

 

 

 

 

──かくして、この四季異変は無事に解決された。主犯でもある摩多羅隠岐奈とその部下である舞と里乃は霊夢らの活躍によって懲らしめられた。

無事に幻想郷は元の真夏へと戻り、各地を襲っていた異常気象も消えた。隠岐奈は後継者は見つからなかったと嘆いていたが、自分が少しは目立てたので良かったと気楽な様子。またいつ霊夢の頭突きが飛ぶかわからんなこりゃ。

 

どうやら、チルノの身体が日焼けしたように黒くなっていたのも二童子が潜在能力を引き出していた所為だったらしい。いわばあの時のチルノは暴走状態にあり、このままいけば自我を失う寸前だったらしい。

 

ともかく、めでたしめでたし、だ。

 

 

 

それと、霊夢だけは知っている。あのお祓い棒の中に、本当のシロは眠っているという事、そして今回力を貸してくれたこと。未だ見つからない本物の御神体の代わりに、これを置いてみるのもいいかもしれない。

 

 

「東方天空璋」─完

 

 

───────────────

 

 

「れいむとシロ」時系列順年表

 

2500万年前 日本誕生/イザナギプレートが大陸の下に潜り込んで消滅

 

200万年以上前 八頭龍誕生

 

200万年前頃 八頭龍が新天地を求めて移動開始/日本に辿りつき須佐之男命に撃退される/八頭龍が大陸へ逃走

 

4100年以上前 嫦娥が不死の薬を飲んで月の都へ

 

3000年以上前 陰の気が白面の者と成る

 

約3000年前 白面の者がシャガクシャに憑依して肉体を得る

 

約2300年前 白面の者が都を襲う/獣の槍誕生

 

約2200年以上前 獣の槍が深山幽谷にて封印

 

約2200年前 シャガクシャが獣の槍を手に/しばらくして字伏に

 

500年頃 伊吹萃香誕生

 

600年頃 萃香が山の四天王の一人を倒し、その座を奪う

 

700年頃 藤原妹紅誕生/青藍が獣の槍を手にする/青藍が字伏と成る

 

753年 白面が大陸から日本へ/純狐を配下にする

 

1000年頃 数多くいた天狗の大半が白面の者を怖れて幻想郷へ移住

 

1155年 白面の者と日本の妖怪と人間の戦い/白面が沖縄トラフのプレートに封印

 

1500年頃 妖怪拡張計画/幻想郷へ八頭龍が一度目の来襲/時のはざまを通って幻想郷へやってきた白面の者が眠りにつき、その上に博麗神社建立/初代博麗の巫女誕生/紫が獣の槍を幻想郷へ持ち込んで妖力を抽出し神社へ散布/紫が外の世界へ戻した槍を草太郎が拾う/とらが岩に封印/草太郎が出家して寺を立て蒼月姓となる

 

1500年~1600年頃 鬼が徐々に幻想郷から去る/旧都の鬼達が忌み嫌われる妖怪達を地底界に受け入れる

 

1885年 博麗大結界創設/八頭龍が2枚の結界の間に封印される

 

1982年 蒼月潮誕生

 

1996年 白面の者と日本中の妖怪との決戦/とら消滅/青藍が寺子屋を襲撃

 

1999年 博麗霊夢誕生/霧雨魔理沙誕生

 

2005年 六十年周期の大結界異変(花映塚)

 

2010年夏 紅霧異変

 

2015年6月 白面の者が復活、シロと命名

 

2015年秋頃 とらが幻想郷で復活

 

2016年7月 東方紺珠伝

 

2016年8月31日 八頭龍の妖気が固形化した物体が降る/幻想郷の民の霊夢とシロに関する記憶が消される

 

2016年9月1日 伊吹萃香消滅/八頭龍復活/八頭龍との最終決戦

 

2018年夏 四季異変(今回の話)/仮面の妖怪出現

 

2019年 八雲藍が幻想郷の新体制を確立

 

2021年9月 天狗の新聞に「博麗神社の御神体決定」の見出しが載る(最終話の後半)




隠岐奈さんが小物っぽくなっちゃったのは許してください。多分もうこれ以上話は追加しないと思いますがもしかしたら追加するかもしれません。
ではまた会いましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。