妖怪の山、天狗のアジト。一見、山を眺めるだけでは決してどこにあるのか気付くことはできないが、確かに、巨大な城か豪邸のようなアジトが構えられていた。
その一室、巨大な玉座があり、そこに巨大な、赤い顔をした天狗が座っている。彼は天狗の師団をまとめる大天狗の一人。
文「わ、私は見ました…白い体に9本の長い尾…アレは正しく、恐ろしい白面の者!」
その大天狗の前に進み出た射命丸文が、そう言う。
「白面の者!?あの白面がついに幻想郷にまで目を付けたというのか!?」
それを聞いた、文とは別の鴉天狗の一人が声を荒げた。
「うむ…では我ら天狗は白面の者を全力で排除する!」
大天狗は少しの間考えてから、下駄で床を踏み、カンッという大きな音を響かせた。薄暗い部屋の中で光る目には、恐怖、そして使命感の光が込められていた。
「白面から目を離すなよ、奴がこの山に近づいた瞬間全力で白面を倒すのだ!我ら天狗がな!」
そのころ、冥界を抜けて幻想郷各地をあてもなくぶらぶらと回るシロ。森の中にふと降り立ち、辺りを無言で見渡した。
「貴様ァ、俺達の縄張りに勝手に入ってどういうつもりだァ!?」
と、その時、背後から現れた毛むくじゃらの妖怪が声を荒げた。どうやら、ここは彼とその仲間のなわばりであったらしい。
しかし、シロはそれを全く気にすることなく、首を掻いた。
「無視するか!?」
シロ「五月蠅いぞ」
それに対して怒った妖怪はシロへ敵意を見せた。が、シロがそう言葉を発するとともに睨みつけただけで、数歩後ろへ退いた。
「うっ…」
シロ「ふん、あそこがいいな…」
シロはこの幻想郷で一番妖怪の密集するあの大きな山、妖怪の山に向けて飛び立った。
せっかく隠していた姿を晒され、強力な憎しみを感じたシロはこの幻想郷の妖怪を殺してやると考えていた。
尾を引きながら山をふもとまで行くと、太陽に光に反射して何かが飛んできた。それは矢で、シロの顔の横を掠るようにして突き抜けていった。
シロ「ぬ、なんだ?」
シロは下を見ると、木の陰から何者かの集団がシロに弓を構えているのが見えた。その者らは犬のような耳と尻尾が有り、皆似たような服を着ている。
それを見て邪悪な笑みを浮かべたシロは山に下りて行った。
椛「おのれ、白面の者…どこへ行ったんだろ?」
「すぐに見つけて我らが倒してくれる!」
白狼天狗の犬走椛とその仲間たちは、上司である大天狗から白面の者を倒すことを命じられ、哨戒任務についていた。一度、空を飛ぶ白面を発見したのだが、白面は地上に降り、その周囲を散策していた。
「あの、ゴメン。何を倒すんだって?」
部隊に居るもう一人の白狼天狗が、あっけらかんとした口調でそう聞いてきた。
「だから、白面の者をだよ!私たちの持つこの剣で必ず仕留めてやろう」
「それと、何で仕留めるんだって?」
「だから!この剣でだよ!!」
白狼天狗はあきれた様子で自分の持っている剣を指でなぞった。
「その剣で?そんな玩具の如き剣で我を切り裂き、その薄い盾で我の攻撃を防ごうというのか?」
「…え?」
椛「危ない、そいつは白面じゃないのか!?」
異変を感じた椛が、仲間へ向けてそう叫んだ。その時、周囲の木が歪み、それは9本と白い尾と化す。そして一匹の白狼天狗が、白い大きな獣へと変わっていく。
シロ「この我を倒そうというのか!?」
シロは尻尾を振り回して周囲の白狼天狗をまとめて吹き飛ばしながら一掃してゆく。
椛「うっ…!」
そしてシロは一通り白狼天狗を片付けると、また山のさらに上の中腹を目指して飛び去った。
シロ「この我に勝てるものか!よいか、我は…」
─『シロ!シロ!』
シロ「…シロ…であるぞ」
白面、と言いかけて言葉を詰まらせ、眉間にしわを寄せながら静かにそう呟くのだった。
文「…!椛、大丈夫ですか!?」
椛たちの白狼天狗の部隊の様子を見に来た文が、木にもたれかかるようにして倒れている椛や他の白狼天狗を発見した。
椛「…アレが白面の者の力…!」
眼を見開き、この身で感じた白面の強さに驚くばかりの椛。
文「白面の者は白狼天狗の警備を突破、飛んで山の山頂目指して移動しているようです」
文は通信機器のような物を取り出し、それに向けそう喋る。
シロ「邪魔だぞ虫けら共め!!」
空中で自分に群がってくる妖怪を蹴散らしながら山頂目指して飛んでいくシロ。
だがその時、山の中からシロめがけて大砲が発射される。
シロ「ぬ…」
シロはその大砲を軽々と避け、大砲の弾が発射されたであろう方角を睨みつけると、そこに向けて火柱を吐く。それによって爆発し、火が上がる山を見て笑みを浮かべる。
だが瞬間、突然物凄い突風が吹き、シロは回転しながら吹き飛ぶ。
シロ「な、なんだァ!?」
文「…」
驚いて体勢を立て直しながら振り向くと、そこには文が静かに佇んでいた。
シロ「何だお前は?」
文「…私を覚えていますか?」
シロ「知らんな」
文「800年前、外の世界で貴方は私たちの仲間を沢山殺し、散々侮辱してきました…」
シロ「誰が…お前たちのような粕妖怪をいちいち覚えてるって?ええ?」
シロはその顔を大きく歪ませて笑みを作る。そのまま口元に火炎を溜め、それを発射する構えをとる。
その時、またシロに向けて弾幕が無数に飛び、シロは横方向に吹き飛ばされる。
シロ「…」
怒りをまじえた表情でそちらを睨みつける。
藍「紫様に本性を暴かれた腹いせに、今度は妖怪の山を襲うか?やはりお前は危険な妖怪だな、白面の者」
妖気の煙の中でこちらを静かに見つめる藍。
シロ「…さっきの奴か。いいか、我を白面の者と呼ぶんじゃない、我は『シロ』だ…」
藍「シロ?ふふっ、陰の塊であるお前にそのような名前が似合うかな…」
シロ「…」
文「あ、貴方は八雲藍!?何故こんな所に?」
藍「幻想郷の天狗は、800年前の白面の者との戦を経験している者が多いと聞いた。今がその決着をつける時だ」
文と藍の攻撃に加え、他の天狗たちも加勢する。
火炎を吐き尾を振り回し応戦し天狗たちを薙ぎ払うシロだが、それでも新たに加勢する天狗の数の方が多い。
シロ「…くっくっく、そうか、我を今討つか。だがな、今の我には憎しみを込めた攻撃は効かぬぞ」
藍「だから白面、お前は感情を持たない物、道具や武器を恐れるんだろ?」
下方から飛んでくる大砲の弾の爆発、天狗たちの起こす突風によって徐々にダメージを受けていくシロ。
一本の矢が喉に突き刺さり、動きが止まった。すると、ここぞとばかりに発射された大砲がシロへと迫る。
その時、2つの影がシロの前に割って入り、大砲の砲弾をはじき返して見せる。
シロ「…お前たちは…」
チルノ「ちょっとここら辺をリグルと散歩してたら、シロが見えたんだよ」
リグル「大丈夫、私たちはシロの味方だよ!」
チルノと、リグル・ナイトバグが傷を負ったシロを守るようにして、前に立ちふさがった。
藍「妖精と蟲の妖怪…白面の者を味方するか?」
藍は苛々と歯をかみしめながらそう言った。
チルノ「ふん、私はそのはくなんとかじゃなくてシロに味方するんだもーん!」
しかし、シロを守ろうとする二人へと瞬時に距離を詰め、藍はまずリグルへ向けてその掌打を叩きつけた。
リグル「ぎゃっ…」
藍「馬鹿め…妖精と小妖怪に加勢されたとてこの八雲藍から逃げられるとでも?白面の者!」
チルノ「よくもリグルを!」
リグルを叩き伏せた藍に怒りを露わにし突撃するチルノ。周囲に氷を発生させ、それを藍に向けて発射する。
藍「…甘いよ」
だが藍のレーザーのような弾幕によって氷は相殺される。
シロ「おのれ、我を忘れるな…!」
藍に襲い掛かろうとするシロだが、正面へ現れた天狗たちが弾幕と風を放ち、シロを動きを止めた。
文「貴方の相手はこっちです!」
藍「頭の悪い奴らね、この八雲藍に勝てると思ってか?」
チルノ「ぐっ…」
藍の攻撃により、傷を負うチルノ。
シロ「うおおおお!」
何とか天狗たちの攻撃を振り切り、藍の元へ再び近寄る。
リグル「シロ、大丈夫ですか?」
シロ「おかげでな…」
チルノ「ていうか、霊夢はどこなの?一緒じゃないの?」
シロ「…アイツは…はぐれたきりだ」
藍「さぁ、そろそろ白面の者にトドメといこうか…」
藍は両手を胸の前で合わせ、そこで妖力を集中させて巨大なエネルギー弾を生成する。だがシロはそれに驚くことなく、笑って見せた。
シロ「ンククク…醜き獣と意地汚き愚妖共。我は白面の者ではない…シロだ」
藍「では何度でも言ってやろう、滅べ!白面の者!!」
藍と天狗たちの総攻撃がシロを狙う。チルノとリグルももうダメかと思い、頭を抱えるようにして目を閉じる。
だがその時…
霊夢「てやー!!」
シロ「…お!」
空から霊夢が現れ、天狗たちの攻撃をいとも簡単に相殺して見せる。
そしてチルノとリグルの腕を掴み、シロの背中に手を触れる。
霊夢「やれやれ、アンタは骸骨の時といい妹紅の時といい私が居ないと駄目ね~」
シロ「ふん、今更我に何の用だ…?」
霊夢「…シロ、いいから逃げるのよ!」
藍「博麗の巫女、はやり白面の味方をするか!逃がすか!」
藍と天狗たちは逃げる霊夢たちを追う。
藍「待て!白面の者!!」
霊夢「くっ、しつこいわね!」
霊夢を追う藍と天狗たち。
しかし突然、両者の間に八雲紫が姿を現した。
紫「藍、もう白面の者…いえ、シロを追う必要な無いわ」
藍「紫様!?いくら貴方の命令でも、これだけは聞けません!」
藍は紫を命令を無視し、霊夢たちに向かって行く。
霊夢「何よやるって言うの!?じゃあ…」
シロ「待て、ここは我が行こう。やられっぱなしでは嫌なのでな」
シロは腕で霊夢を遮って、藍の前に進み出た。
大天狗及び少数の天狗たちは外の世界での白面の者との戦を経験しており、それを知らない天狗たちも他の者から白面の者の事は聞いているという設定で。