林を抜け、夜の道を人里目指して飛んでいく吸血鬼。
吸血鬼「…やはりあっちから温かい人間の血の匂いがするなァ…ん?」
人里へ向けて飛行する吸血鬼の前に現れ迎え撃つは2つの影。
一つは鍬を持った金髪の男…そしてもう一つは傘を持つ最凶の妖怪。
岩崎「テメェ、超新参のクセして人間襲いに行くんだってな…ゴキゲンだぜ!」
幽香「私たちはゴキゲンだから…つい頭撫でてあげたくなっちゃうわねぇ…」
吸血鬼「何だお前たちは、この私に立てつこうというのか!」
岩崎「なァ幽香…こいつ吸血鬼っていったよな?じゃあよ、炎とか水とか十字架とかに弱かったりすんのか?」
幽香「個人差はあると思うけど、やってみる価値はあるわね!」
岩崎「よっしゃ!いくぜーッ!!」
岩崎は鍬を振り上げながら吸血鬼に突撃していく。
そして鍬を思いきり振り回すが、吸血鬼に防がれてしまう。
吸血鬼「人間にこの私がどうにかできるかよ…ぶ!」
岩崎は鍬を取られども今までしてきた喧嘩のように、拳を吸血鬼の顔面にめり込ませる。
続いて幽香はその吸血鬼の首元を掴みそれを持ち上げ地面に叩きつけて見せる。
吸血鬼「ぬげ…お前達何者だよ…?」
岩崎「お前に何て教えたくねーや!!」グ
岩崎は再び吸血鬼に殴りかかる。
吸血鬼「馬鹿め!私がそう何度も人間に殴られるかよ!」
吸血鬼は岩崎を跳ね飛ばす。
幽香「岩崎!」
吸血鬼「よそ見したなぁ!」
幽香「きゃっ…!」
吸血鬼は幽香と岩崎を叩きつけると、再び人里目指して移動を始める。
岩崎「くそ…幽香、テメェ俺の事気にしながら戦ってるだろ…?」
幽香「…え?」
岩崎「ああいう喧嘩は慣れてるからよ…俺がそばにいるから幽香は思い切って殴れねぇ…かと言って一人じゃ勝てるかもわかんねぇ…いて…」
幽香「…怪我したの!?」
岩崎「ごほ…へっ、少しあばらと腕がいっちまっただけよ…」
幽香「待っててね、あとは私に任せて…貴方はここで休んでて!すぐに殺してくるから…」ザワ
岩崎「…」
岩崎は吸血鬼を追って行った幽香をだまって見つめていた。
彼には幽香の背中がとても大きく、美しく…そして温かく見えた。
吸血鬼「やっと奴らも諦めたか…くくく、久しぶりの人間の血だぞぉ…」
幽香「いや、諦めてないわねぇ!!」
吸血鬼の横まで追いついた幽香が話しかける。
吸血鬼「キサマ、まだ私を追うか!わからんかなぁ、キサマじゃ私には勝てないってな!」
幽香「…」ギロ
直後、吸血鬼の脇腹に幽香の傘が直撃し、吸血鬼はぐにゃりと体が歪む。
さらに幽香の打撃が吸血鬼を襲い、地面を削りながら引きずられていく。
吸血鬼「げぇ…貴様、まだ本気じゃなかったっていうのかよぉ…!?」
頭から血を流しながら吸血鬼は尋ねる。
それに幽香は汗が垂れる前髪を手でかき上げながら不気味な笑みを浮かべて言う。
幽香「ええ…私は弱いのは、嫌だからね…」
吸血鬼「けけけ、弱いのはイヤ、か…私も弱いのはイヤ…皆よ、弱いのなんて嫌に決まってるよなぁ!」
幽香「はっ、血が無いと生きていけない半端な魔物が、私に勝てるとでも!?」
幽香は吸血鬼に殴りかかる。
だが吸血鬼の身体は霧のように分散し、攻撃を無効化してしまう。
吸血鬼「効かんなぁ、お前に私は倒せぬわ!」ギン
幽香「ぐは…ッ…念力、ね…!」
吸血鬼の額がわずかに光ったかと思うと、幽香の頭がガンガンと痛む。
吸血鬼「これが人間の血の力よ。私は人間の血を飲むことによってこんなにも偉大な力を手にし、永遠に闇の世界を歩き続けるのだ。うまいのだぞう、動けなくなった人間の喉にプツリと歯をたてて甘い体液を味わうのは…!私が吸血鬼として生まれて500年間それは変わらぬわ!」
幽香「500年って…まだ子供じゃないの」
吸血鬼「な、なにィ~~?よくも私にそんな口をォ!!」
吸血鬼は動けない幽香の首を絞めつける。
岩崎(俺は…今まで何してきたんだっけか…)
岩崎「へへ、ロクな事してねぇなぁ…親にも迷惑かけてよ…」
吸血鬼「お前は何故そうして私に殺されたがるのだ…!?」
幽香「…くくっ…お前は私の大切な人を傷つけた…理由はそれだけで十分よ…」
吸血鬼「では死ねい!!」
その爪を幽香に突き刺そうとした瞬間、視界の遠くからこちらに走ってくる何かが。
それは怒号と上げながら向かってくる…
岩崎「うおおおおおおおお!!」
先ほどへし折られた鍬を持ってこちらに走ってくる岩崎だった。
そのまま折れた鍬を振りかざし、吸血鬼に飛びかかる。
だがそれも空しく、掴まれた岩崎の肩に吸血鬼は爪を喰い込ませていく。
吸血鬼「お前もわざわざ私に殺されに来たのかよ…!?」
岩崎「うぐ…くくく…この岩崎サンをナメるなよ!俺ァ、弱えのァ…嫌なんだよ!!」
岩崎は鍬の刃床部を吸血鬼の心臓があるであろう位置に突き刺し、そのまま走っていく。
吸血鬼「くそぉ、離れろォ!!」
吸血鬼は鋭い爪の生えた手で岩崎の顔を何度も殴る。
さらには念力を至近距離で食らわすが、岩崎の勢いはおさまる気配はない。
岩崎「いってしまえええええ!!」
吸血鬼「うぎゃあああああ!!」
苦しみに暴れる吸血鬼は岩崎を何度も押しのけようと引っ掻いたり殴ったりする。
だがそれでも刃を押さえて離れない岩崎に、ついに吸血鬼は諦めて静かになる。
吸血鬼「…くく…ありがとうよ…死ぬには良い夜だ…」
岩崎は吸血鬼が霧のように消えていくのを見ると、その場でがっくりと力なく横たわる。
幽香「岩崎!!」
倒れる岩崎を抱きかかえ、名を叫ぶ。
岩崎は血まみれの顔で目をわずかに開ける。
岩崎「へへ、やったか…奴はもう、里にゃいけねえか…」
幽香「そうよ、貴方のおかげよ…」
岩崎「なぁ、幽香…良く見えねぇ…」
幽香「ここに居るよ…」
岩崎「…何で俺が向日葵が好きって言ったかってなぁ…俺の好きな漫画によ、『太陽に顔向けてまっすぐに立ちな』ってセリフがあるんでぇ…。それでよ、向日葵も、その俺の好きな言葉通り太陽にツラ向けて立ってるからよ…。だから幽香も…太陽にツラ向けて…」
幽香「…」
その時、日の出の太陽の光が幻想郷を照らし始める。
岩崎「なぁ、俺は太陽に顔向けて、立ってるか…?」
幽香「うん…貴方は立派に、太陽に向かって立ってるよ…」
岩崎「…」
幽香「うわあああああああん…」
たった短い間だったのに、彼が目を閉じたとたんに私の目から涙があふれた。
彼を抱えて家に帰った後も、私は溢れる涙を止められなかった。
───
夏には立派に花を咲かせた向日葵も、既に花びらを枯らし種を落とそうとしている。
それでも向日葵は、さんさんと照る太陽に顔を向けてまっすぐに立っていた。
─向日葵みたいに、俺はまっすぐ立ってるか?
御天道さんに顔向けて、まっすぐ立てよ。
吸血鬼
外の世界からやってきた吸血鬼。高い身長に厳つい体躯をしており吸血鬼の中でも驚異の力を持つ。