シロが地霊殿へ向かっている頃。
シロに負かされた勇儀のもとに仲間の妖怪たちが集まっていく。
鬼「大丈夫ですか、勇儀殿」
勇儀「いてて、やっぱり白面は恐ろしいよ。ありゃ敵に回したら幻想郷が大変なことになるよ」
その集まった群衆の中に、眼鏡をかけた暗い顔をした鬼が居た。
彼女は名を靄子と言った。
勇儀「ふぅ、私はそろそろ帰るとするよ」
ドン
靄子「あっ…」
勇儀「ん?」
靄子「…」
妖怪「これっオメェ靄子!勇儀殿にぶつかったろ、謝りな!」
靄子「あ…え…」
勇儀「いいっていいって、気にしないでな」
靄子「…」
勇儀「しかしお前さん、鬼なのに暗い性格してるのなぁ…」
靄子「ご、ごめ…」
妖怪食堂─
勇儀「お、ありゃ…」
靄子「…」モグモグ
勇儀(さっきの奴…靄子とか言ったっけ、苦手なんだよな~)
妖怪「それでよ…」
妖怪2「へへへ、そりゃあ傑作じゃねぇか!」
妖怪「そうよ、笑っちまったよ~!!おっと」バシャ
飲み物を持って歩いていた妖怪の二人組が他愛のない会話をしながらじゃれ合っていた。
片方が相方に小突かれると、持っていた飲み物の中身がこぼれて近くで座りながら飯を食べていた靄子にかかってしまう。
靄子「…」ビチョ
妖怪2「へへ、だめじゃ~ん!」
妖怪「ギャハハ、ひで~!!」
靄子「はは…」
靄子は丁度飯を食べ終わるとお椀を持って立ち去ろうとする。
勇儀「待ちな!なーんで黙ってるんだい?何も仕返ししろとは言わんさ、だけど不愉快ですの意志くらい示したらどうだい?」
勇儀は靄子の手を少し力を込めて握る。
靄子「痛い…はなしてください…」
勇儀「アンタらもノリばっかで謝ることも知らんのかい!?」クワ
妖怪「ひ…」
勇儀は飲み物をひっかけた妖怪2人を殴りつける。
妖怪はすっかりビビってしまったらしく、急いで店から立ち去って行った。
勇儀「何か腹立つなァ、少しは何か言わないとダメだよ…」
靄子「…君にはわからないわ…」
ガゴォォン
勇儀「何だ?」
店に居た勇儀を含めた妖怪たちが外に出る。
そこに居たのは上空、天井の穴から出てきたと思われる黒い西洋風の竜が飛んでいた。
その竜は眼下に広がる都に火球を吐きつける。
勇儀「アイツ…」
勇儀はその黒竜のところへ向かって行く。
黒竜「ギャオオオオオ!」
だが黒竜の硬質な細長い鞭のような尻尾に勇儀は突き飛ばされる。
そこに颯爽と現れたシロが勇儀の足を掴む。
シロ「ほう、竜か…」
勇儀「シロ…」
シロと勇儀、そして妖怪たちが黒竜に戦いを挑む。
シロ「おおおお!」ボオオオ
黒竜「キュイエエエエ!!」ボオオオ
シロと黒竜の火炎同士がぶつかり合う。
その隙にも勇儀含めた妖怪たちが黒竜に攻撃を加える。
だが…
ガキン
勇儀「な、硬い…!」
黒竜の鈍く黒く光る鱗は非常に硬質で何者の攻撃も通さなかった。
黒竜「ギョオアアアアアア!!」
しつこく付きまとうシロや他の妖怪たちに苛立った黒竜は手当たり次第に火球を吐き続ける。
妖怪にも、眼下の都にも。
シロ「ふん、無能な妖怪共め…やるなら勝手にやるがよし。我を巻き込むでないぞ」
シロはこの竜を倒すのが面倒と踏んだのか、戦うのを辞め地上へ戻ろうとする。
勇儀「…」
鬼「何だと!元よりキサマなどあてにもしておらぬわ!!見てろ、我らがあの鬼を仕留め…」
バキャ
シロはその鬼を蹴り飛ばして見せる。
シロ「莫迦か、さっきのを見たであろう!あの竜の火炎は我の火炎と似たような威力を持つ、故に怒らせればこの旧都もものの数発で焼かれてしまうぞ」
鬼「な、ならどうすれば…」
シロ「我はもう何もせぬぞ、貴様らの為に指一本でも使ってやるものか」
勇儀「…しょうがない、地上の助けを借りるか…」
シロ「…博麗の巫女の力が有れば、どうにかできるかもな」
勇儀「そうだ、霊夢だ!博麗の事をすっかり忘れていたよ!」
シロ「いや、霊夢が来たとこであの竜を何とかできるとは限らない。奴の霊力を使うのだ」
勇儀「霊力?」
シロ「霊夢の放った霊力を我の尾に溜めこみ、それを放出する…」
鬼「そんな方法があるなら何故言わなかった!?」
シロ「さっきから調子に乗るなよ粕が…だからお前たちが嫌いなのだ、大した力もない癖に文句ばかり言いおって!」
シロは再びその鬼を尾で突き飛ばす。
シロ「いいか、それはな、貴様ら妖怪の身体を通して霊力を高めるのだ。どの道貴様らの腐った根性じゃできないな」
シロの考えはこうだ。
シロと霊夢の間に多数の妖怪を必要とする。
手と手を握り霊夢の霊力を一人一人の身体に通してゆく。
霊力は多くの妖怪の身体を通ることでより強力なものとなり、最後のシロが先刻の勇儀との戦いで発揮した尾の能力、「外からの力を反射する」能力を使ってそれを竜に向けて反射する。
力を反射させるタイミングはシロ自身が調節できるので、霊力を全て溜め終えるまで待つことができる。
だが霊夢が一番最初とし、シロを最後尾だとすれば最後尾に近い者ほどその霊力が肉体を通る負担は大きくなる。
霊夢「…私、アンタに面倒ごとは起こすなって言ったわよね…?」
シロが地底から出て霊夢を呼びに行ったのだ。
シロ「しょうこともないであろう、我の所為ではないわ!」
霊夢「まぁいいわ…」
ドン
シロ「ぬ…」
靄子「あ…」
シロ「何をしておる、邪魔だぞ」
靄子「…怒ってるんですよね?」
シロ「…?」
靄子「私がぶつかったから…」
シロ「…別にどうでもよいわ」
靄子「そうやって何でもできる奴は陰で馬鹿にしてるのよ…」
シロ「あ?」
靄子「…」
靄子はシロから離れると勇儀の袖を後ろから掴む。
勇儀「む?」
靄子「ほら、私だってこの勇儀さんみたいに強くて明るければ、他の妖怪に飲み物をかけられても文句だって言えるわ。だけど性格がそうじゃない人は皆から馬鹿にされて生きていかなきゃいけないの?」
シロ「何を言っておるのか分からんし、お前ら粕妖怪の事情は知らんが、卑屈な奴よのう…」
靄子「…」
勇儀「よし、私がシロの後ろに入ろう。他に間に入ってくれるのはいるかい?」
皆が静まり返る中、2名だけ名乗り出た。
それは先刻にシロとも会った古明地さとりと、同じく地霊殿に住む火焔猫燐だった。
さとり「私にだって…この地底の危機に何かできますよね…」
燐「同じく。さとりさまがしようとすることにアタイだって協力してやりたいもん!」
勇儀「よぅし!」
鬼「ならば私も…」
鬼2「なら俺もォ!」
さとりと燐を筆頭に、妖怪たちが次々と名乗りを上げていく。
その妖怪たちは勇儀の後から手をつないでいく。
霊夢「体が頑丈なやつは勇儀側に行って!さとりみたいに体が弱いやつは私のほうにきて!」
妖怪「お、俺どうしようかな…」
妖怪2「な、何だよ…お前行けよ…」
妖怪「お前が行けって…」
霊夢「よし、並び順はこれでいいわね。じゃああとはシロの婢妖があの竜を狙いやすい位置におびき寄せるから、それまで休んでていいわよ」
シロ「…行けよ婢妖共」
シロは尻尾から10体ほどの婢妖を飛ばす。
靄子「…」
靄子はそそくさとその場から立ち去ろうとする。
だってそんなことやっても本当にあの竜を倒せるか分からないのに、今までいつも暗い自分を苛めてきた奴らだって怖がって震えてる。
食堂に入ると、そこに座りながら酒を飲んでいる勇儀が居た。
勇儀「また逃げるのかい?」
靄子「あ…」
勇儀「お前さんのその顔は、自分が嫌いで嫌いでしょうがないって顔だ…。ふぅ…生きてりゃさ、なんでアタシだけこんな目にあうんだろうって思う事って山ほどあるよなぁ。現に今さ、アタシらは必死こいて竜と闘おうとしてるのに、まだこの地底のどこかじゃ呑気に腹出して寝てる奴もいるんだ…。理不尽だよなぁ?」
靄子「うん…」
勇儀「でも、どんな理不尽でもそれに立ち向かわなきゃ。そうやって立ち向かえる自分を、好きになってやるのさ」
靄子「…」
霊夢「手と手をしっかり握って!間隔は一定!私の霊力をアンタらを通して勇儀に送り、勇儀は送られてきた霊力をシロの尾に向かって放つ!」
勇儀「…」
シロ「…」
婢妖「ひゃははァ、竜よ!こっちよォ~!!」
黒竜「キュエエエエエ!!」
黒竜は口元から炎を垂らしながら挑発する婢妖を追いかける。
婢妖はシロの思惑通りに黒竜をシロ達の居る真上に移動させる。
霊夢「行くわよ…ふん…!」
ビリビリ
さとり「ぐっ…伝わって来た…!」
燐「思ったよりキツイですね…」ビリ
鬼「おお、来た~!」
勇儀「ふふふ、きたきた!!もっとだ、もっと送りこめ!」
シロ「…」
勇儀「もっとだ、もっと来い…この程度ではまだダメだぞ…」
さとり「ぐう…」
靄子(怖い…怖い…)ガクガク
靄子「皆…いいなぁ…理不尽に立ち向えて…いい…なぁ…」
黒竜「ギャオオオオオ!!」ボオオオ
婢妖(御方様、博麗~!早く~!!)
婢妖「うおっ!」
黒竜の吐いた火球が並んでいる勇儀たちの目の前に着弾する。
その衝撃で繋いでいた手が離れ、バラバラに列が崩れてしまう。
勇儀「あと少しのところを…くそっ、手を伸ばせ!!」
鬼「これ以上は…届きませんッ…!!」
婢妖「わ、我々が加われば~!!あと一人分だァ~!」
勇儀「あと一人分…誰か…!」
パシン
靄子「うおおおお!」
婢妖と勇儀の間に入ったのは、靄子だった。
勇儀の隣は一番霊力が強まっているところ。そこに靄子は自ら入ったのだ。
勇儀「来た来た来た!よおおし、シロ…受け取れーッ!!」
約30名ほどの妖怪の体内を巡り、元の100倍以上にもなった霊力を勇儀が増幅させ、シロの尾にぶつける。
シロの尾に溜められた霊力はさらにシロが数倍に膨らませ、その尾を引き離し、ミサイルの如く放つ!
黒竜「オ…!?」
ガキィィ
霊力の込められた尾は黒竜の腹の鱗に突き刺さる。
シロ「おお…!」
そして尾に籠った霊力を全て反射させる。
槍の如く放たれた霊撃は黒竜を上へ上へと押し上げていき、地底と地上をつなぐ通路をどんどん昇っていく。
そこに現れた妖怪は…土蜘蛛の黒谷ヤマメであった。
彼女の張った網目状の蜘蛛の糸が、黒竜をキャッチする。
黒竜は身動きが取れなくなっても霊撃の威力は変わらず。
ついに霊撃は黒竜の胴体を突き破り、地上へと突き抜けていった。
ヤマメ「やったあ~!!」
霊撃が貫通した黒竜はわずかな火の粉と共に消滅していった。
霊夢「ふぅ、やったわね…」
シロ「…ふん」
シロは自分の元へ戻って来た一本の尾を元あった場所にくっつける。
勇儀「なぁ、オイ…」
靄子「え…」
勇儀は靄子の前に手をかざす。
勇儀「やったよな、アタシら!イエーイ!」
靄子「…ぷくく…うん!」
パァン
靄子は差し出された勇儀の手を、力いっぱい叩き豪快なハイタッチをしてみせる。
ありがとう、勇儀さん、霊夢さん、シロさん…私はようやく、自分が好きになれそうだよ
博麗神社─
霊夢「なんでアンタはいつもそうやって面倒ごとをおこすかねー?」
シロ「いつも我の所為という訳ではないわ…お前だって我が知らせに来たら結構乗り気だったくせに…」
霊夢「アレは仕事だからよ!」
シロ「我ももう疲れたわ!じゃあな」
霊夢「あら、天下の大妖怪様でも疲れるのね」
もう深夜時の空に、見事な三日月が上がっていた。
旧都─
勇儀「…」
萃香「やあ勇儀。シロと喧嘩したんだって?どうだった?」
勇儀「萃香か。私の負けだよ、まぁ私も手加減はしてたんだけど、あのシロはもっと手を抜いてた。ありゃ800年前の何百分の一も出してないね」
萃香「ふーん…」
勇儀「そうそう、それと今日は凄いことがあたんだ、聞いとくれよ…」
黒竜
幻想入りし地中を進み地底へやって来た西洋の竜。
強力な火球を吐き、自らの体の熱で溶けた岩や金属が体表に層となって塗り固められており、鱗はかなりの強度を誇る。