妹紅「…」ザッ
幻想郷のどこかにある洞窟。
妹紅「…時逆殿か?」
時逆「なんだえぇ?この時を逆さにめぐる妖怪の時逆に、何か用かえ?」
───
シロ「…」
もう周囲の林や遠くにそびえる妖怪の山は紅葉に色づいている。
シロは神社に居ても暇なので幻想郷を回ってみることにした。
シロ「おや、アレは…」
妹紅「…」
眼下に見えたのは大きなカバンを持って人間の里から竹林の方角へ歩いていく妹紅だった。
忘れるはずもない、前に我をあそこまで追いつめた不死の人間。
シロ「おい、貴様…」
妹紅「うお、お前はいつぞやのシロ…」
シロ「前に貴様から味わわされた屈辱は忘れておらぬぞ…」
妹紅「おうやるかい?と言いたいところだけど、今の私は機嫌がいい。とてもそんな戦う気分なんかじゃないね」
シロ「と言うと?まさか、お前の言う仇とやらの情報を掴んだのか?」
妹紅「ああ、ある妖怪に教えてもらったんだ…後はソイツの居場所を暴いて倒すだけだ」
シロ「ほう…」
2人はそんな話をしながら迷いの竹林に入っていく。
すると前の方から竹を倒しながら大きなものが進む音が聞こえる。
妹紅「最近な、妖怪の仕業と思われる事件が多発してるんだ」
シロ「どうでもいい」
妹紅「そう言うなって。夜、人間が里に通じる水路に水を汲みに行ったりすると、そのまま帰ってこない。用心して武器を持って行っても、そいつは帰ってこない」
シロ「原因がそこの妖怪という事か…」
妹紅「ああ…」
牛鬼「…」ガサガサ
茂みの中から現れたのは牛のようなごつい胴体に長い爪が付いた昆虫の6本足を持ち、角の生えた鬼の顔をした2メートルほどの妖怪、牛鬼だった。
牛鬼は妹紅とシロを見るなり2人に襲い掛かる。
牛鬼「なんだァお前らはァ?俺を倒しに来たのか?そうなんだな?倒しに来たんだろ!!」
妹紅「倒しに来たわけじゃないけど…事件の犯人を見つけちゃったから退治するまでよ!」
妹紅はポケットから御札を取り出す。
妹紅「『禁』!牛鬼、お前が人に触れる事を禁ずる!」
牛鬼「ぬ、何か変な感じだぞ…」
妹紅「お前はもう人を喰う事が出来なくなった。ここで倒されたくなければ、おとなしく山にでも行きそこで人と関わらずに暮らすんだな」
牛鬼「もう人が喰えないだって…?まだ1人しか食ってないのにそりゃ嫌だぜ~!!」
牛鬼は再び妹紅に襲い掛かる。
妹紅「そうかい。じゃ、そこで滅されな」
ボウ
妹紅の出した火炎が牛鬼の頭部を吹き飛ばす。
頭部を失った牛鬼はひっくり返って足をバタバタさせると動かなくなった。
シロ「…お前は見たところ日本の人間のようだが、その禁とかいう符術は中国の仙術のはず。何故知っている?」
妹紅「ん、10年ほど前にある邪仙から教わったのさ。仇の妖怪を確実に殺すために…」
シロ「…だが先刻の牛鬼はおかしなことを言っておったな、まだ一人しか食っていないと」
妹紅「確かに、今まで被害に遭った人間は分かっているだけでも6人…食い違うな」
シロ「お前は牛鬼の特性を知っているか?」
妹紅「特性?…うぐ…これは…」
シロ「牛鬼はしばしば無敵の妖怪と言われる。それは何故かというとな…牛鬼を殺すとその殺した人間が次の牛鬼になるからだ」
妹紅「痛…体中が痛む…私が牛鬼になりかけているのか…!」
妹紅の顔が苦しみに歪み、手足が黒くなり鋭い爪が生える。
シロ「くはは、普通の人間ならばただの牛鬼に成り果てるが、お前が牛鬼になれば火炎を使う不死身の牛鬼となる…そうなればお前も人間を手あたり次第食おうとするだろうなぁ」
妹紅「…そん…な…くそ…」
そう言っている間にも彼女はどんどん牛鬼の姿に変貌していく。
妹紅「そうだ、シロ…私を一度滅してくれ…」
シロ「…何だと?」
妹紅「私は髪の毛一本でもあればまたそこから再生できる…だから牛鬼になる前に一度私の身を滅ぼしてくれれば牛鬼化は止まるかもしれない…」
シロ「これは良いわ、可し…ならば我が吹き飛ばしてやろう」
シロは元の白い九尾の獣の姿に変化する。
そして口を大きく開き、そこに火炎を溜める。
妹紅「だが私も…自らの意志に反して…お前を攻撃するけどな…」
シロ「けぇ…!」
妹紅はビンとその場から跳ねるとシロの首元に飛びつき爪と突き立てる。
シロはそれを手で掴み、地面に叩きつける。
さらにそこに火炎を吐きつけるが、やはり妹紅には効いていない様子。
妹紅「な、何やってるんだよ…お前ならできるだろ…!」
シロ「…お前を消し飛ばす方法としては我の火炎が一番いいのだが、生憎お前に我の火炎はあまり効果が無いらしい。なので、お前は完全に牛鬼になる瞬間に我の渾身の火炎を吐きつけてやろう」
妹紅「そうか…なら頼む…」
シロは状態を上に起こし、そのまま息を吸い込む。
口の周りには火炎が少し漏れ、胸が膨張していく。
その間にも妹紅の牛鬼化は進み、シロに何度も襲い掛かっていく。
妹紅「そろそろヤバいぞ…」
シロ「…」
その時、妹紅の周囲に強力な妖気が発生する。
妹紅「は、はやく…!」
シロ「いくぞ…」
シロは襲い掛かってくる妹紅を尾で突き飛ばし、上空に高く上げる。
そして落ちて来る妹紅に渾身の火柱を吐きつける。
シロの狙い通り火炎ははじかれることなく、妹紅の全身を包み込んだ。
────
妹紅「あれ…」
慧音「おお、気が付いたか」
妹紅「そうだ!牛鬼は…いてて」
慧音「三日ほど前に白い妖怪がお前を…うん、運んできてな」
妹紅「そうか…これで里の人間を襲う牛鬼は…完全に退治されたって訳か…」
それから里では牛鬼による被害は無くなった。
妹紅は里の人間たちに夜は絶対に水路に行くなと教えた。
シロ「…」クカー
霊夢「ねぇ、里の人間が水路に行ったきり失踪…て事件がなくなったって聞いたんだけど、アンタ何かした?」
シロ「何のことだ、我は何もしておらぬぞ…」
霊夢「そう…」
牛鬼
主に西日本に伝わる妖怪。海岸に現れ人を喰らうとされる。非常に残忍、獰猛な性格。今回の牛鬼は住んでいた海岸が埋め立てられてしまったので幻想入りしてきた。