俺は…強い。
あの時に覚えた高いジャンプも、あの時覚えた速く走る方法も、教え込まれた小さい足場でバランスを取る方法も、せまい穴を素早く潜り抜けるのも他の奴らみんな真似できねぇ。
俺だけのもんだ。
妖怪「うわああああああ!!」
ザシュ
その鬣を持つ獣の妖怪は森中を駆け回る。
道中の妖精も、妖怪も無差別に切り裂きながら。
「…誰だテメェ、邪魔すんじゃねぇよ」
アリス「残念だけど、ここから先は行かせられないわ」
朝─
とら「…」
魔理沙「ふぅむ、これを足してもう少し加熱するか…」
とら(なーにやってんだコイツ…魔法とか訳の分からん事言ってやがる。やっぱりコイツに憑いたのは失敗だったか?)
コンコン
魔理沙「あ?誰か来るとは珍しい…はいはーい今開けるから…」
魔理沙の家の扉がノックされ、魔理沙は急いで玄関まで行き扉を開ける。
魔理沙「お、お前…どうしたんだよ?」
アリス「…ぐ…」
訪ねて来たアリスはボロボロで人形たちに支えられているが今にも気を失ってしまいそうだった。
魔理沙はアリスを家に入れ、ベッドに寝かせると安心したのかアリスは眠ってしまった。
アリス「う…」
魔理沙「お、気が付いたか?そんなボロボロで何があったんだ?」
とら「…」
アリス「そこの方は?」
魔理沙「ん、コイツはとら。私に憑りついてる妖怪さ。それで、何があったんだ?」
アリス「昨日の晩…」
私は外を見回らせていた人形たちがやけに騒がしいと思って外に出たの。
そしたら案の定森の中で一匹の妖怪が暴れているようだった。
人形に案内され、他の妖怪の死骸を順にたどっていくと、その妖怪を見つけたわ。
その妖怪は細い岩の先に立って見せ、さらに狭い木々の隙間を素早く駆け抜けていた。
そいつはまるで大きな猫のようで、やけに筋肉質で毛むくじゃらだったのに凄い身ごなしに私は圧倒され…
魔理沙「逃げて来たって訳か…」
アリス「えぇ、あんな妖怪、見た事なかったわ…」
とら「物の怪…化け猫…猫又…だな」
アリス「でも、あの妖怪は猫なんかよりももっと強くて…」
とら「お前らはしらんのか。『らいよん』っていう動物だよ」
魔理沙「らいよん?」
とら「そうだ、外の世界の動物で猫科…つまり猫の仲間だ。ソイツが何らかの形で妖に変化したんだろ」
魔理沙「外の世界の動物…となると、調べるにはあそこだよな!」
森近霖之助「外の世界の動物図鑑…?」
魔理沙「おう、ちょっと調べたい事があってさ」
魔理沙ととらが訪れたのは、魔法の森の入り口付近にある香霖堂。
ここは店主の森近霖之助が経営している道具屋で、幻想郷で唯一外の世界の道具が揃っている。
販売だけでなく買取も行っているらしい。
魔理沙「『らいよん』って動物が載ってる本とかないか?」
霖之助「らいよん…?」
霖之助は魔理沙の発音に首をかしげつつ本棚を漁る。
そして一冊の大き目の本を取り出し、魔理沙に渡す。
霖之助「多分これに載ってると思うけど…」
魔理沙「ん、サンキュ」
魔理沙はページをペラペラと捲っていく。
魔理沙「へぇ、トラだって。とらにそっくりじゃん」
とら「いいからさっさと探せよ…」
魔理沙「あった!『ライオン』!ふむふむ…確かに猫の仲間みたいだな。それにしても強そうだな~、この鬣と牙がかっこいいよな~」
その図鑑のページにサーカスで活躍するライオンの写真があった。
ライオンが大玉の上に平然と乗ってバランスを取り、天井から吊るされた輪をジャンプして潜り抜けている写真だった。
とら「…」
魔理沙「なぁ香霖、この本ちょっと借りてもいいか?」
霖之助「それと似たような本はまだ何冊かあるし、別にタダで構わないけど」
魔理沙「本当か?サンキュ~!」
魔理沙「という訳で図鑑を貰って来た。このライオンみたいな奴でいいんだな?」
アリス「えぇ、そっくりだわ。でもあの妖怪はこのライオンの2倍も3倍も大きく見えたわ、気を付けて」
魔理沙「そうだな、夜にまた現れるかもしれない。その時に退治に行ってみよう」
とら「言っておくが、わしは何もせんからな」
アリス「一応私の人形を森中に張っておきましょう。もしそのライオンが出ればすぐに知らせてくれるわ」
アリスは自分の横に居た人形に何かを囁くと、その人形は軽くうなずき外に出ていく。
その人形から自宅に居る他の人形たちに森中を見張れと伝えてくれるよう頼んだらしい。
とら「…そのらいよんって動物はサーカスってのに使われるらしい」
魔理沙「サーカス?」
とら「わしも詳しくは知らんが、動物を訓練して芸をするんだってよ。そこの女が言ってた化け猫の動き…前にてれぴんで見た動きに似てるよな…」
もう4時過ぎにはあたりが暗くなり始め、妖共も活動を始める。
だがその妖共の中に、一際大きく、長い鬣を持ち、二股の尾を持つ獣が居た。
「…へへ、今日も…他の奴ら殺しに行こうかな…確か、森の外に人間が住んでるとこあるって聞いたな…今日はそこに行ってみようかな…」
そう、彼はライオンが変化して化け猫と化した妖怪。
しかし何事も彼の思う通りには行かない。
「…お前昨日の奴かよ」
アリス「…ええ」
月の光にその化け猫…いや、化け獅子の姿が照らされる。
正しくそれは図鑑で見たライオンがそのまま大きくなったものだが、両後ろ足には千切ったような鎖が巻き付いていて、右肩から胸にかけてと右腕には毛が無く、青い痣が点々と見える。
魔理沙「悪いが、無差別に暴れるお前をこのままにゃしておけない」
アリス「行きなさい」
アリスの人形たちが化け獅子の周りを囲い、武器として持っていたスピアーを突きつける。
「邪魔だァ、退けェ!!」
化け獅子は人形たちを振り払い、アリスと魔理沙に向かって行く。
「敗けっかよ!!」
──そうだ、負けたらお終いなんだ…何もかも。失敗したら…お終いなんだよ!!
化け獅子
30年近くの時を経て獅子が妖怪化した存在。化け猫や猫又の一種だが通常の化け猫をはるかに凌ぐ巨躯と怪力、スピードを持つ。