れいむとシロ   作:ねっぷう

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第32話 「化け獅子 後編」

俺は小さい時から人間に育てられた。

同種の親なんて居なくて、身の世話から何から何まで人間がしてくれた。

ある程度成長したら、何やら跳ねたり走ったりする練習をさせられた。

 

それが何年か続いて、その練習は日に日に厳しくなった。

失敗すれば打たれるし、反抗しても打たれる。

だけど頑張った日には一番仲がいい人間から御馳走ももらえたり一緒に遊んだりしてくれた。

そして大勢の人間の前で練習して覚えた事を披露するんだ。

好きな人間や、他の自分と似た仲間と一緒にそれをやるのはとても楽しかった。

 

ある日、俺は練習中に怪我をした。

足を挫いて転び、右前脚を折っちまったんだ。

最初のうちは人間も優しくしてくれたり構ってくれたりしたが、足が痛いのも消えずにずっとグッタリしてる俺を見て、ハッキリと言ったんだ。

 

「もうだめだな、別のにしよう」

 

その時はその言葉の意味は分からなかったが、今なら理解できる。

この糞人間がァァァアア…

殺してやるぞ…許すまい、必ず殺してやるぞ…

 

その人間への憎しみを押さえ込みながら寝たきりの生活を送っていた。

 

ある日目を覚ますとそこは今までの部屋とは違うところ。

重ねられた金網と鉄格子の壁の向こうには沢山の人間。

人間に見られるのは慣れてた。ここでは何もしなくても、ただ歩いたり寝てたりしてるだけで美味い物が喰える。

 

しばらくはこれでもいいかなって思ってたんだけど、俺の尻尾がだんだんと形を変えるにつれ、再びあの人間への憎しみが込みあがって来た。

尻尾が完全に2つに分かれた時、俺はついに金網を破り、檻を壊してそこから逃げた。

あの人間を探しながら人も動物も食いながら俺は体を大きくしていき、何年も探してようやく見つけたのだ。

 

「な、なんだぁコイツ…!」

 

忘れもしないあの人間。

俺はかまわずにその人間の首を噛み千切り、爪でズタズタに引き裂いて捨てた。

それから俺は山で暮らすうちに、この森に迷いついた。

 

 

 

「負けるかよ、俺は失敗しちゃダメなんだ、失敗して負けたらまた…!!」

 

化け獅子はそう呟きながら自分に纏わりつく人形を体当たりで蹴散らしながら魔理沙とアリスへ向かって行く。

 

「俺はな、別にお前らなんてどうでもいいよ…俺だって静かに暮らしたいけどさ…ダメなんだよ。既に妖怪としての本能が頭に響くんだ…目の前の奴を殺しちまえ、食っちまえって囁きかけるんだよぉ!」

 

魔理沙「どんな訳があるのか私にゃどうでもいいこった!」

 

「グオオオオオオ!!」

 

魔理沙の放つ魔法を素早く避けながら一気に距離を詰める。

そして手足の爪を目いっぱい伸ばし、そのまま2人に飛びかかる。

 

「ぬう!?」

 

だが化け獅子はまるで自分の身体が石のように重くなっていることに気付く。

化け獅子の踏み込んだ場所には魔法陣の罠があらかじめ仕掛けてあったのだ。

そしてその魔法陣から星型の弾幕が飛び出し、それは化け獅子の巨躯を容易に上へと打ち上げた。

 

「か…!」

 

上へ待ち構えていたアリスの人形たちがレーザーを放ち、それは打ち上がってくる化け獅子を下へと勢いよく落下させた。

受け身も取れずに地面に激突した化け獅子は唸るだけで動かなくなってしまう。

 

魔理沙「作戦成功だぜ!」

 

アリス「作戦って言っても、本当に誰でも思いつきそうなやつだけどね」

 

倒れたままの化け獅子はどうやら致命傷を負ったようで、そのまま呼吸を繰り返すだけで動こうとしない。

 

魔理沙「やり過ぎたか?」

 

魔理沙が近づくと化け獅子は目をくわっと見開き、魔理沙を睨む。

それに驚いた彼女は身を引いて構えるが、化け獅子はすぐに視線を空に向ける。

 

「なぁ…なんであの時俺を手放したんだ?」

 

アリス「…え?」

 

「今まで一緒に頑張って来たのに、なんでそうも簡単に俺を手放せるんだよ…?」

 

魔理沙「…」

 

「お前を噛み殺したとき、俺は躊躇したよ。でもお前が俺を見てオロオロする様を見て、あぁやっぱりか。って思った…だから噛み殺すに至った…」

 

化け獅子は急に我に返ったように顔だけをこちらに向け、口を開く。

 

「…くくくっ、いいなぁ、ここの奴らはさァ。お前、名前は…?」

 

魔理沙「私か?…霧雨魔理沙っていうんだ。そうだ、お前地底に行ってみろよ!そこにゃさとりっていう心を読める妖怪が住んでて、そこならお前も安心して、今までの事なんか忘れて普通に暮らせるよ!」

 

「魔理沙か…。いいよなァ、俺もそこで普通に暮らせたらいいなぁ…。でもよ、俺は今まで色んなのを殺してきたんだ…今更、普通に暮らせるわけねぇよな…」

 

魔理沙「はぁ!?」

 

「もういいんだ…」

 

魔理沙「そ、そんなこと言うなよ…」

 

通常の化け猫や、または動物から変化した妖怪と違って彼は人間の温もりを知っている。

如何なる理由だろうとそれを殺し、挙句には無関係な者も殺して回った罪の意識故か。

 

魔理沙「な、じゃあ地底なんかじゃなくてもいいからこの幻想郷で暮らせよ!お前をまた追い出したりしようとする奴が居たら私がぶっ倒してやるからさ!」

 

「…そうか」

 

ブシャ

 

化け獅子は自分の胸元に顔を寄せたかと思うと、そこに牙を立て抉るように噛みつき始める。

 

アリス「な…!」

 

そしてバキという音と共に肋骨を噛み折ると鼻先を深く食い込ませ、中から脈打つ赤い心臓を取り出す。

 

「俺はお前達のおかげで、やっと救われたよ…」

 

魔理沙「やめろぉ!!」

 

「じゃあな…あの世という物があるとしたら、また会いたいな…」

 

化け獅子は自らの心臓を噛み潰す。

すると化け獅子の肉体が煙のように消滅し始める。消えゆく二股の尻尾を魔理沙は掴もうと腕を伸ばすが、それも間に合わず化け獅子は完全に消滅してしまった。

 

魔理沙「くっそおおおおおおおおお!!」

 

手に持っていた八卦炉から、何もできなかった悔しさと怒りを込めた特大の光線を空に向けて放つのだった。

 

 

 

とら「…あーあ、あの神社にでも行ってみるか」

 

とらの向かった先は博麗神社。

灯りの付いている神社の屋根の上に行くとシロが尾を丸めながら眠っていた。

 

とら「おい」

 

シロ「何だお前か。どうした?」

 

とら「別にィ。ちょっと色々あったからよ」

 

その時、幻想郷を一望できるこの博麗神社から見て魔法の森の方角から上空へ向けて斜めに光の筋が走った。

それは数秒間打ち上げられた後、徐々に薄くなり消えていった。

 

シロ「…」

 

とら「…」

 

 

今宵、人間に運命を左右され続けた一匹の動物が生涯の幕を閉じた。

それを知るのは、魔理沙、アリス…そしてとらの3名のみである。

 

 




この投稿日はクリスマスイヴですね。
霊夢とシロがクリスマスを知っているのかは分かりませんが、きっと外世界でも2日限りの幻想に溢れていることでしょう。
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