れいむとシロ   作:ねっぷう

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今回はちょっと視点をずらしてみたお話です。
うしおととらに出てきたアイツも出てきますよ。



第40話 「芝蘭結契」

冥界。

ここは死者が成仏または転生をするまでの間を幽霊として過ごす場所。

さて、そこにある白玉楼というお屋敷。

夏に霊夢とシロがここを訪れ、八雲紫とその式と一悶着起こしたのも半年近く前。

その白玉楼の庭師を務めている魂魄妖夢が居る。

 

魂魄妖夢「…」

 

手には楼観剣という長い刀を持ち、持ち手を頭の後ろまで引き一気に振り下ろす。

いわゆる素振りである。剣術を扱う者として日々の修業は欠かせないのだろう。

 

その様子を白玉楼の縁側から見つめる西行寺幽々子、そして八雲紫。

 

幽々子「そういえば、あの妖夢の持っている楼観剣…。アレって謎が多いわよねぇ」

 

紫「…そうね」

 

幽々子「何か知ってそうな顔してるわね」

 

紫「うふふ、私そんな顔してたかしら?」

 

紫は手に持っていた扇子のようなモノで口元の隠しながらそう言う。

 

幽々子「ええ。何か…在りし日の事を思い出してる…そんな感じよ」

 

紫「この私としたことがねぇ。まさか考えてる事見抜かれちゃうなんて…」

 

幽々子「それで、どうなの?楼観剣の事も知ってるんでしょ?」

 

妖夢「それ、私も聞きたいです」

 

妖夢がタオルで顔の汗を拭きながら幽々子の隣に腰を掛ける。

 

幽々子「あら、剣のお稽古はもういいの?」

 

妖夢「少し休憩してるだけです。それに楼観剣を使う者として私も気になりますので」

 

紫「それじゃあ、話してあげようかしら。800年くらい昔の事よ…」

 

 

 

850年前の外の世界。

その時代はまさに激戦の時代だった。

日本を滅ぼそうと中国から人間の娘に化けて渡って来た白面の者と、日本の妖怪と人間の陰陽師や武士が手を組んだ連合軍との戦いの最中だったのだ。

 

白面「けええええええ!この白面に貴様ら粕共が相手になるものか!」

 

火焔を吐き、尾を振るい妖怪共を蹴散らす白面の者。

だがそれにも立ち向かう妖怪たちの中に、彼女も居た。

 

八雲紫「結界!!」

 

紫もまた白面との戦に参戦していたのだ。

その結界で白面の尾の一つの動きを止める。

 

紫「今よ!」

 

その隙に紫が率いていた妖怪共が一気に白面に攻撃を仕掛ける。

 

星熊勇儀「よっしゃあ白面!私ら鬼がこの時をどんなに待ったか…。今こそお前に鉄拳を叩きこむ時を!!」

 

全盛期の頃の鬼共が尾を一本のみ封じられた白面の顔に群がり、各々の持つ武器や拳で殴りつける。

だが白面をどんなに殴っても、その肉体がぐにゃりと武器や拳を包み込み、無効化してしまう。

 

白面「…莫迦め。お前の仕掛けた結界も、お前達の攻撃も我にとっては心地良きそよ風の如き。お前らなど、こうだ!」

 

白面はいとも簡単に紫の結界を破り、その尾を勇儀たちに向ける。

紫は慌てながらも再び結界を仕掛けようとする。

しかし白面の尾はそれをものともせずに、鬼共をバラバラに引き裂く。

 

勇儀「な…!」

 

白面「お前が最後か。すぐに楽にしてやろうぞ…」

 

その時、勇儀らの上から獣の影と巨大な人型の影が飛び出す。

 

一鬼「東妖軍頭、『一鬼』!白面~、倒してやるぞ!」

 

額に一本角を持った青緑色の巨人のような妖怪がその肉体から蛇を伸ばす。

 

白面「…」

 

しかし白面はそれも弾いてしまう。

 

とら「バッカだなぁ、一鬼もお前らもよ!」

 

紫「…」

 

とら「攻撃ってのは、こうやるんだぜ!!」

 

それは正しく雷と炎の化生、今でいうとらであった。

とらは雷を込めた爪を白面の背中に突き立て、そのまま切り裂きながら背筋を疾走していく。

 

とら「おらああああああああ!」

 

白面「かああああァァァァ!!お前ェ、何故お前が我に傷を…!」

 

それまでの妖怪共が一斉に白面に群がっていく。

 

「一鬼、先走るでないぞ。しっかりと他の妖と連携を取るのだ」

 

一鬼の横に現れた真っ赤な顔に長い鼻のいかにも天狗と言ったような妖。

 

「白面め、お前の身体に我の一撃と共にこの『神野』の名をその身に刻めい!」

 

大きな耳と逆立った髪が特徴な若い男の姿の妖怪が手に持った刀で白面を斬る。

それらの総攻撃により白面は上体を大きく反らす。

 

白面「おおおお!我が…この我が…!」

 

そこにとらが雷を放ち、それは白面の胸に命中する。

 

とら「よっしゃああああ!!」

 

とらの叫びに勝機を見出した紫、勇儀、一鬼、天狗、神野ら率いる妖怪共が白面をどんどん後退させていく。

 

白面「くっ…」ヒュオ

 

ついに追いつめられた白面は尾を引きながら逃げていった。

 

神野「ついに逃げていきおったか…」

 

とら「あーあ、疲れたぜぇ!わしゃここまでだ、後はオメェらでやりな」

 

紫「…いえ、白面はまだ何かをするつもりです。あの人間の女もそれに気づき、追って行きました」

 

神野「む、そうか。皆の衆よ、また白面がこの日本から逃れれば他の国が白面に滅ぼされてしまう。それを防ぐために逃げる白面にトドメを刺すのだ!」

 

それを聞いた一部の妖怪は白面にトドメを刺そうと追って行く。

 

 

妖夢「まだ楼観剣は出て来ないんですか?」

 

紫「まぁ待ちなさいな、もうすぐよ…」

 

 

1か月後──

 

西日本上空に浮かぶ『高千穂空屋敷』。

ここには西の妖怪が多く住んでおり、その西の妖怪共を取り仕切る長である「神野」が主である。

だがその空屋敷に訪れた者が。

 

紫「神野さんは…いらっしゃいまして?」

 

「何処の妖だか知らぬが、名も述べない者に神野殿に合わせる訳にはいかぬ」

 

紫「…そうですか」

 

神野「まぁ待つが良い」

 

「し、神野殿…!」

 

空屋敷の入り口の扉を開け、神野が姿を現す。

 

神野「して、何者じゃ?見たところ強力な妖と見受けられるが…」

 

紫「八雲紫といいます。神野さんと…お話したいことがありまして」

 

神野「思い出した、お前は1か月前の戦いで結界術を駆使していた者じゃな。良い、頂の間へ案内しよう」

 

 

神野「何用で参ったのじゃ?我々も少々忙しいのでな、できれば手短にお願いしようか」

 

紫「私たちが追い詰めた白面は…ここよりも西の方の海の岩壁に逃げましたね」

 

神野「うむ、しかも我らの仲間であった人間の女が強力な結界で白面を守っておる。ここ一か月、妖共がどんな手を使おうとも結界を破る事すらできなかった…」

 

あの後、逃げた白面を追った妖怪たちは最大の障壁に当たった。

なんと人間の陰陽師側として参戦していた女が白面の周囲に結界を張ったのだ。

その女が結界を作った時の衝撃で白面にトドメを刺さんと追ってきた妖怪たちは消し飛び、その結界の所為で攻撃できない妖怪共は女を憎んだ。

 

紫「そうです、私はその女の結界を破る術を…教えに来たのです」

 

神野「…なんと?」

 

神野は顔色一つ変えずに聞き返す。

 

紫「まぁまずは私と共にいらしてください」

 

 

神野と紫がやって来たのは白面が守られている海中の岩壁だった。

岩壁に張り付いている白面は心なしか以前よりも大きくなっているようにみえ、その不気味な目すらもピクリとも動かさない。

その白面の前にそびえる、前には無かったはずの岩柱の中に女が居るのだろうか。

 

神野「何だ、何をするつもりじゃ?」

 

紫「見てて…」

 

紫は女の張った結界に手をかざす。

すると紫も結界を作り、それを女の結界にぶつける。

 

神野「おお…!」

 

すると紫の結界が女の結界にひびを入れるように侵入していく。

だがそこで紫の結界は弾かれてしまった。

 

(結界術を使う妖怪よ、この結界に手を出すでない…)

 

どこからか女の声が響く。

 

紫「今みたいに私のように結界を作れる妖が多く居れば、あの結界をこじ開ける事が出来るの。でも油断しないで…結界を開けても白面を倒せるとは限らない」

 

神野「なるほど、結界を作れる妖か…」

 

 

 

妖夢「それで、その話と楼観剣の関係は…」

 

幽々子「もしかして、その白面の者を倒すために鍛えた剣が…?」

 

妖夢「その神野さんって人が…」

 

紫「うふふ、そうよ…」

 

 

 

神野「…」

 

神野は屋敷の中の鍛冶場で剣を打っていた。

既に何本かの剣を作ったがどれもしっくり来ず、神野の計画に使うには力不足だ。

 

鉄挟みで掴んだ鉄を水の中に浸す。

ジュワっという音と共に引き上げると、それは見事な長刀となっていた。

神野が炉をかきまぜた時に込めた妖気、金づちでその長刀を打つたびに込めた妖気が刀から溢れてくるようだ。

その刀に柄を取り付け、あらかじめ作っておいた鞘に納める。

 

神野「こんなものか。お前達、例の岩を」

 

神野が部屋の隅に仕えていた妖怪にそう命じると、鍛冶場の外に大岩を置く。

 

神野「この岩は『大太郎法師』が叩かれた際に毀れたといわれる大岩じゃ。これを…」

 

腰に下げていた鞘から突き出た柄を軽く握り、居合の構えを取る。

そして抜刀と共にその大岩の向こう側まで一気に斬り抜ける。

岩は見事に横真っ二つに割れ、周りの妖怪たちからおぉーと歓声が上がる。

 

紫「…」

 

その様子を開いたスキマから見ていた紫。

それに気づいた神野だがチラリと紫を見た後に再び視線を戻す。

 

紫「それで白面を倒すための剣は完成なの?」

 

神野「…いや、まだじゃ…。こんな程度ではな…もっと、岩などでなく、山をも斬っても欠けぬような剛刃を作らなければ!」

 

神野はその刀を空に投げる。

刀は空中で回転しながら地面に深く突き刺さる。

神野が再び屋敷の中に戻ると、その場に居た妖怪共も散っていく。

 

紫「…」

 

紫はその地面に刺さった刀を抜いた。

 

 

 

妖夢「へぇ~、じゃあこの楼観剣は神野さんが白面の者って言う妖怪を倒すために鍛えた剣なんですか…」

 

紫「そうよ。その剣は神野の妖気と一緒に混ぜ溶かした鉄を妖気を込めて打ったものだから見た目以上の切れ味を発揮するわ。正に斬れないモノはほとんどないという訳よ」

 

幽々子「へぇ、それでその白面の者はどうなったの?」

 

紫「それは…貴方も知ってるはずよ」

 

幽々子「?」

 

紫「そしてその剣を拾った私はそれを冥界の果てに刺し、それを誰かが見つけ剣は持ち主を点々としながらいつしか『楼観剣』と呼ばれるようになり、妖夢のお爺さんに渡りついて…」

 

妖夢「私のもとへ回って来たのですか…」

 

妖夢は楼観剣をまじまじと見つめる。

 

妖夢「じゃ、じゃあその神野さんは今も外の世界に居るんですね!一度会ってみたいなぁ…それで私は貴方の作った剣をここまで上手く使えるんですよって見せてあげたいなぁ…」

 

紫「…そうね」

 

そう呟いた紫の表情にはどこか悲しげな雰囲気が混ざっていた。

 

幽々子「…」

 

 

 

日本、沖縄トラフの岩壁─

 

一見するとただの岩壁に見えるそれはよく見るといびつな表面をしている。

さらによく目を凝らすとそれは大小さまざまな妖怪、武器や建物が岩に成って窪みを埋めるように重なっているのがわかる。

白面の者との最終決戦時に白面が日本の支える要の岩壁に穴をあけたので妖怪たちがそこに岩と成って入り込み支えたのだ。

その岩と化した妖怪たちの中に、堂々と正座をしたまま壁の一部に成っている男の姿をした者が居た。

 

紫「…私はあの時、どうするべきだったのかしら。ねぇ、神野?」

 

紫はその岩壁に、静かにそう話しかけた。

 

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