れいむとシロ   作:ねっぷう

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ごめんなさい、今回だけです…次回からは霊夢も白面も出ますから…


第44話 「幻想の楽園へ」

背中に荷物とフーシー、リンモ、ゴンピン、ムァリーを乗せた妖怪蜥蜴のファダオは森の中を只ひたすらに歩いていく。

行く先々でいくつか村を見つけたが、ファダオを姿を見るなり妖怪だ、怪物だと言って追い払われた。

朝に出発してからかなり東の方角に歩いたがどうやら昨日の隕石は色んな場所にも降っていたようで、大きな窪みを中心に未だ燃える山もいくつか見て来た。

 

当てもなく歩いていると、荒々しい岩山に出た。

ここらは土煙に覆われており、まともに目を開けていることさえできない。

しばらくその場でじっとしていると、干し肉を食べながらゴンピンが地面を指差した。

 

ゴンピン「なぁ、なんか揺れてないか?」

 

他の3人とファダオが下を見ると、確かに転がっている小石がカタカタと震えているのが分かる。

するとだんだんその揺れは強くなる。

身を伏せていると、向こう側から大量の何かの集団がこっちに進んできた。

ファダオが立ち上がって離れようとする暇もなく、その集団の先頭の動物にファダオは突き倒され、地面に再び倒れ込んだ。

訳が分からないままに自分を突き倒した動物を見上げる。

その動物の姿は、ファダオにそっくりだった。

冷酷そうな鋭い目つき、角ばった顎に頑固そうな口元から除く鋸のような牙。

顔つきも体格もあちらの方がはるかに厳しく大きいが、間違いなくその動物はファダオと同じ妖怪蜥蜴だった。

 

「邪魔だ!」

 

その妖怪蜥蜴はファダオを跨ぎながらそう怒鳴りつけるとそのまま進み始めた。

一瞬、何も考えられなかった。もがくように起き上がったとたん、体を誰かにどつかれた。

 

「クルトの声が聞こえんのか?どけ!」

 

先ほどの妖怪蜥蜴はどうやらクルトという名前らしい。

だが今自分をどついた奴も妖怪蜥蜴のようだが、体つきもクルトよりもずっと厳つく、体表の鱗までも岩のように硬そうだ。

その後にも群れは続いた。大きな地響きと共に無数の様々な妖怪や動物が通り過ぎていく。

群れにぶつからないようにファダオは素早く身をかわしたりした。

フーシー達もファダオの背中と首に必死でしがみ付いた。

辺りを改めて見てみると、やはりそれは大移動中の妖怪の群れのようだ。

大きな犬や猫などの獣の形をした妖怪もいれば目がいくつもある毛むくじゃらの異形の妖怪もいたり、大きな猿のような集団も混ざっていた。

よそ見をした拍子にファダオはまた別の妖怪蜥蜴とぶつかった。

さっきの2頭とは逆に、とても魅力的だった。

 

「気を付けて!」

 

優しい顔に似合わずキツイ口調でそう言うと、さっさと先へ行ってしまう。

ファダオはしばらくその妖怪蜥蜴を見つめていたが、すぐに重たい足音に我に返る。

 

「…はぁ…」

 

砂煙を空かしてみると、周囲を圧するような体躯と身長を持った巨人が杖を突きながらのそのそと歩いていた。

ファダオも背中の4人も唖然としながらその巨人を見つめた。

 

「何だいアンタ、頭と尻が逆になってるのかい?」

 

突然、力ない声が響いていた。

声の方向を見ると、そこに居たのはファダオと同じほどの大きさを持つ大きな犬だった。

かなり年配のようで、首周りの長い毛並みを砂煙になびかせ、眼の上の垂れた毛の隙間の目がファダオを見た。

神々しい見た目が威厳を醸し出しているが、いかんせん先ほどの巨人を見た後だと自分と同じ大きさもある巨大な犬も小さく見えてしまう。

その犬が通り過ぎて、ようやく砂嵐が収まった。

たまたまファダオ達は大移動中の妖怪の群れと出くわしたのだ。

 

ムァリー「すごい、妖怪がいっぱいだわ!」

 

ムァリーが興奮気味にそう言った。

ファダオは何とも言えない気分を味わっていた。人間の村で暮らしていたころは妖怪はファダオだけしか居なかった。

なのに、この見知らぬ土地で妖怪の仲間に出会うなんて思ってもいなかった。

 

フーシー「おいファダオ、妖怪の群れなんかに…おい!」

 

ファダオはフーシーの言葉を無視するように通り過ぎていった群れを追って行った。

 

 

 

クルトは周りの景色をざっと見渡した。

岩場の下は焼けた森が広がっている。焦げ臭い煙を吸い込んでしまい鼻を鳴らして首を振る。

一日中歩き続けた末にようやく岩場を越えられそうなところまで来たのだ。

妖怪の群れはひどく疲れていた。理想的な場所ではないが、ここで一晩過ごすしかなさそうだ。

クルトの忠実な右腕の大柄な妖怪蜥蜴のブギーが近づいてきた。

 

ブギー「もう少し先に安全な場所が有る。どうする?」

 

クルト「いや、いい。今晩はここで過ごす。群れに伝えろ」

 

リーダーのクルトは部下の進言をあっさり退いた。

頭の固いこの非情な独裁者は仲間の意見には耳をかさず、あくまで自分の意見を押し通そうとする。

ブギーは黙ってうなずくと群れに命令の雄叫びを轟かせた。

ブギーの大声は群れの最後尾にいたファダオ達にも聞こえた。

 

ジェニィ「ねぇグラン、海はまだなの?早く海を渡って幻想の楽園へ行きたいわ…」

 

先ほどの、身長が10メートルを超すだろうという巨人の老婆が杖を使って腰かけながら横に座っていた巨大な犬に不満そうな声で話しかける。

 

ジェニィ「あの騒ぎをごらんなさい。なんて恥ずかしいの?みっともない…」

 

向こうで起こっている寝床を確保しようとする妖怪たちの喧嘩を軽蔑するジェニィ。

 

グラン「ふん、アンタのその大足で蹴散らしておやり」

 

ジェニィ「まぁ、レディーには無理よ…」

 

巨人のジェニィはブツブツ呟く。

座っていた老犬が立ち上がり、近くを通った猫又たちを見る。

 

グラン「そんな手ぬるいやり方じゃダメね」

 

グランは大声で吠えると猫又達はビックリして群れの先頭へ走っていった。

 

ファダオ「どうも!」

 

グラン「うわあああ~~~!」

 

突然耳元で話しかけてきたファダオに驚いてその場で飛び跳ねる。

 

ファダオ「ごめんよ、今の話が聞こえたもので…。僕はファダオ、妖怪蜥蜴さ。こっちは僕の家族なんだ。昨日まで村で過ごしてたんだけど、隕石で村が無くなっちゃって…そしたらこの群れを見つけたんだ」

 

ジェニィ「まぁ、可哀想に…」

 

ジェニィはしわの入った顔に同情の色を浮かべる。

 

グラン「そっちのデカいのはジェニィ。北欧の巨人族なんだけど、人間の所為で徐々に減っていってね、いわば最後の生き残りって訳さ。そして私は北欧で巨人族と共に暮らしていた白狼で、ジェニィとは昔からの仲なんだ」

 

北欧の山奥に住む巨人族と白狼は古くから人間と犬のような関係を気づいていたという。

しかし、人間による新天地開拓や巨人討伐により巨人も白狼も徐々に姿を消し、今やジェニィとグランだけが生き残ったという。そして2人で彷徨ってる間にこの群れに合流したのだ。

 

リンモ「ところでさっき聞こえたんだけど、幻想の楽園って何かしら?どこにあるの?」

 

グラン「私も100年生きてきてうわさでしか聞いたことないんだけどね、海を渡った先にある島国に存在する、妖怪たちの楽園さ。その楽園の管理者が、今妖怪を招き入れているんだ。それを聞いた妖怪たちがクルトをリーダーにして群れを作ったのさ…」

 

ムァリー「そこには…人間もいる?」

 

グラン「さぁねぇ、私もここまでで色んな奴らを見て来たからねぇ。何が居るやら…」

 

その幻想の楽園へはここから何百キロも歩き、さらにそこから海を渡らなければならないのだ。

それは過酷な旅になるだろうが、その妖怪の楽園を目指すほかに生きる道はないのだ。

 

ジェニィ「クルトは鬼のようなリーダーなの。私みたいな年寄りにはペースが速くて付いていけないわ」

 

ファダオ「だったらクルトに言えばいいじゃない、ペースを遅くしてくれって…」

 

その言葉が合図だったかのように、前方から3頭の妖怪蜥蜴が歩いてくる。

顔も体つきも厳つい2頭のオスと、ほっそりした身体に首と腰回りに広がる花びらのような飾りが魅力的なメスだ。

リーダーらしき先頭の蜥蜴が通り道に居たファダオを突き飛ばして行った。

 

ファダオ「待てよ!」

 

むっとして声を上げた。

しかし返事は無かった。

 

グラン「アレがリーダーのクルトよ…」

 

グランがヒソヒソ声で告げた。

御あつらえ向きだ。ファダオはクルトを追いかけ、後ろから呼び止めた。

 

ファダオ「あのぉ、クルト。お話が…」

 

ブギー「失せろ小僧!!」

 

しかし間に特別大柄な蜥蜴が割り込む。

だがクルトはふん、と鼻で笑うと部下を制止してファダオの顔をまじまじと見る。

 

クルト「お前は何だ?」

 

ファダオ「えっと…僕はファダオ。背中に居るのは僕の家族。ところで、あそこの老妖怪たちが歩くペースが速すぎると言っているので、少しペースを落としてあげてはどうでしょう?」

 

クルトは無表情のまま話を聞き、少しして口を開いた。

 

クルト「なるほど、弱い者に合わせろ、か。面白い事を言うな、考えておこう」

 

子馬鹿にした感じでそういうと軽く流す。

それでもファダオは食い付いていく。

 

ファダオ「待って、クルト!彼女らは本気で苦しんでる、仲間同士で助け合うのは当然じゃないのか?」

 

クルト「黙れ、小僧が!」

 

それだけ言うと部下のブギーを従えて立ち去っていった。

そのクルトの妹のリージャは歩きかけて立ち止まり、小声でファダオを励ました。

 

リージャ「ごめんなさいね、兄さんは新入りには厳しいの」

 

リージャは花びらのような飾りと尻尾を揺らしながら、ファダオが言葉を返す間もなくクルトらと共に去っていった。

 

ゴンピン「さてはあの子に気があるなファダオ…」

 

ファダオ「何言ってるんだゴンピン」

 

グラン「クルトと妹のリージャには逆らわないほうが身のためだよ。血も涙もないリーダーが相手じゃ正義も道理も通用しない、馬鹿を見るだけさ。私の経験に照らし合わせるならね」

 

ファダオは遠くに歩いていくリージャをずっと眺めていた。

 

 

 

あくる朝、ファダオは誰かに身体をつつかれて目を覚ました。

相手はゴンピンだった。既に群れの妖怪たちが起き、今にも出発しようとしているのだ。

ファダオはフーシーらの荷物を背中に乗せ、ゴンピンだけを首の後ろに乗せた。

他の3人はまだ眠っているグランたちを起こそうとしていた。

ゴンピンが目ざとくリージャを見つけた。

 

ゴンピン「おい、あそこにお前の好きな子がいるぞ」

 

ファダオ「誰の事だ?」

 

ゴンピン「とぼけるなって、リージャだよ!あの頭と背中の綺麗なヒレ、黄色い目…」

 

ファダオ「ああ、確かに彼女は魅力的だね」

 

ゴンピン「俺に任せとけ、見てろよ…」

 

ファダオが止める間もなくゴンピンは前方に居るリージャに奇声を発した。

猿のようにヘェーイと甲高い声で叫ぶと素早く首の後ろに隠れる。

 

リージャ「…?」

 

まるでかわいそうな人を見る目で睨まれた。

 

 

そのころ、クルトとブギーは先頭を歩きながら何か話し合っていた。

 

クルト「この群れは主に飛べなかったり浮くことのできない妖怪の集まりだ。だから念を押しておけ、他の妖怪や人間に襲われても群れは待たない、脱落者は置いていくとな」

 

ブギー「は…」

 

ブギーはうなずくと群れをいったん止め、大声で呼びかける。

 

ブギー「よく聞け!ここを三日ほど歩けば海に出る。海に出たら日本という国まで泳いでいく!海に着いたら一日休む、その間に泳げそうもない者は船を作れ!」

 

クルト「出発!」

 

クルトの号令で群れが再び動き始めた。

ここからの旅はファダオらの想像を超えるほど厳しかった。

いくら周りに食べ物も水もあるとはいえ、それでも三日寝ずに歩き続けるのはかなり辛かった。

それでも海が見えるまで妖怪たちは歩き続けた。この厳しい旅路の果てには楽園が待っている。

それを思いながら気力を奮い起こし、歩き続けるのだった。

苦しいのはクルトもリージャも、誰もが同じだった。ブギーは疲れた表情を見せるクルトを励ましながらともに歩き続ける。

途中で砂漠に差し掛かり、そこでは水も食べ物も口に出来なかった。

フーシーら4人はファダオが背負っている食料を少しづつ食べ凌いでいた。

年取ったジェニィとグランにとって砂漠を横断するのは厳しかった。

途中で体力が持ち切らずに息絶えた妖怪の骸を幾つも見た。ファダオはその骸を見つめながら通り過ぎていく。

クルトにとっては強い者は生き残り弱い者は滅びる。だからクルトは絶対に弱音を吐かない強者だったし、その思想を群れ全体に押し付けた。彼は文字通りの独裁者なのだ。

 

フーシー「おい婆さん、方向が違うぞ」

 

巨人のジェニィの肩の上からフーシーが、急に進路の曲がったグランに注意する。

グランはふらついたり斜めに進んだりつんのめったりしてまっすぐに歩けなくなっていた。

 

グラン「あたしだって、わかってるよ…はぁ…はぁ…」

 

砂漠も終わりが近づいたころ、グランは既に息を切らし、その場に倒れ込んでいた。

 

ファダオ「グラン、立つんだ…!」

 

ファダオは倒れ込んだグランを何とか起き上がらせようと奮闘する。

その様子を、リージャが見ていた。

弱い者に手を差し伸べるファダオと、弱者を見捨て自分のペースを貫き通すクルト。

その違いは歴然だった。

 

 

 

そのころ、ファダオらの群れが歩いている砂漠に、2つの龍が這っていた。

砂や岩ごと群れから脱落した妖怪の死体を呑みこみ、それをたどって確実に群れを追っているのだ。

一つの頭は薄青色の鱗に口の周りから胴体にかけて黒い棘が走り、背中には3列に並んだ斧のような背びれが聳えている。

もう片方は大きな鋭い目に嘴と同化した細長い顔を持ち、白い髪の毛のような鬣が後ろになびいている。

そう、八頭龍の8つある首の内の2つだ。

 

 

クルトの群れはようやく砂漠を抜け、人間の住む町近くの森林を歩いていた。

ここまで来るのに群れの3分の1ほど失った。

そしてさらに一日歩いたのち、ようやく海が見えたのだ。それだけでクルトも群れの妖怪も自然と足が早まり、一気に海にたどり着いた。

 

群れはそこで一日ほど休息をとることにした。

ジェニィとグランもぐったり眠り、身を休めている。

群れは皆死んだように眠っている。

ファダオはムァリーの五月蠅い声で目を覚ました。

 

ファダオ「どうしたんだ?」

 

ムァリー「この猿さんたちが何も食べようとしないの」

 

ムァリーの手には痛んだ野菜が握られていた。

旅をしながら食べてきた食料や水も今はほとんど残っていない。

 

ファダオ「ははは、ムァリーは怖いもん。おいで…」

 

ファダオは少し離れたとこにある森にムァリーと子猿2匹と共に入る。

少し経ってからファダオ達は大量の木の実や食べられそうな葉を採って来た。

それを子猿たちにも分けると、子猿たちは多くの食べ物を取ろうと喧嘩し始めた。

 

ファダオ「おいおい、喧嘩はするな。チームワークが大切だぞ…」

 

子猿たちは木の実を受けとると喜びながら親の居る場所へと戻っていった。

 

リージャ「どうも」

 

ファダオは驚いて顔を上げた。

 

リージャ「ファダオ…といったかしら?なんであの老妖怪を助けたの?」

 

真顔で尋ねた。

 

ファダオ「助けるしかないじゃないか。頑張れば助かる奴らを見殺しにしろって?」

 

リージャ「仕方ないわ、強い者は」

 

ファダオ「生き残れない、だろ?君の考えか?それとも兄の?」

 

リージャは言葉に詰まり、まごついた表情を見せた。

 

ファダオ「いいかい、命に軽いも重いもないよ。皆同じなんだ、人間も妖怪も、無駄にしていい命なんてない」

 

真剣な口ぶりで言った。

何としてもリージャに理解させなければならない。

 

ファダオ「助けあえば、海の向こうの幻想の楽園にたどり着けるかもしれない。群れを半数を犠牲にしなくてもね」

 

リージャ「…自信たっぷりなのね」

 

ファダオ「いや、希望さ。希望を持っていたいんだ。あ、そうだ…食べるかい?」

 

ファダオは持ってきた木の実を前に差し出した。

リージャは混乱し、何を信じればいいか分からなくなった。

今まで正しいと信じて慕ってきた兄の思想も、そうして正反対の意見のファダオと接すると正しいとも思えなくなってくる。

 

リージャ「いただくわ…」

 

リージャは実や葉を牙で噛み千切りながら食べた。

次の実を食べようと頭をかがめた時、同じく実を取ろうとしていたファダオと頭がぶつかった。

 

リージャ「ごめんなさい…」

 

ファダオ「いいんだ、先に食べて」

 

少し離れた場所ではフーシー、リンモ、ゴンピンがファダオを見守っていた。

家族同然のファダオが、同じ妖怪の仲間を見つけ親しげにしているのだ。

その様子を、リージャの兄であるクルトも見ていた。

しかしその目には、フーシー達とは違った非難の色がハッキリと浮かんでいた。

 

 

 

翌朝。

泳げぬ妖怪たちは簡単な船を作り、それに乗って海に浮かんだ。

クルトとブギーを先頭に、群れは海の妖怪に襲われぬよう身を固めて日本目指して泳ぎを進めた。

 

ブギー「…」

 

ブギーが鼻をひくひくさせる。

 

クルト「どうした?」

 

ブギー「何か大陸の方から迫ってる。龍か…」

 

クルト「何だと?群れの速度を速めろ」

 

そのスピードに最後尾にいたファダオ達は着いていくことができなかった。

徐々に群れとの間が開くばかり。

ジェニィは巨大な木の板に掴まり、それを漕いで進む。そのジェニィの肩にフーシー達とグランが掴まる。

彼らの集団が今のペースで進んでいく限り、八頭龍に追いつかれるのは時間の問題だ。

数日海を上を漂って、ようやく島にたどり着いた。

今でいう佐渡に上がった彼らはそこで少し休むことにした。

何時間か休むと、すぐに再び日本に向けて進み始めた。

ここまで来れば日本まで近い筈。一行は進み続けた。

 

そのころ、既に日本に上陸し、後は幻想の楽園を目指すだけとなったクルト達。

だが先頭のクルトの側にはブギーの姿が無い。

途中で脱落してしまったのだろうか。

群れは荒涼とした谷間を奥へ奥へと進んでいた。疲労はピークに達し、足を前へ運ぶことさえ苦痛になっていた。

それでもクルトはとことん群れを駆り立て前進し続けた。

既に意識が朦朧といている妖怪も少なくなかった。

クルトは哀れな妖怪たちを目にすると、軽蔑して鼻を鳴らした。弱い者には情け無用だ。強い者だけが生き残る、それが自然の掟という物だ。

群れの後ろの方では2匹の子猿が後れを取っていた。

子猿の内片方が倒れ、もう一匹は慌てふためく。先を行く妖怪たちに助けを求めるが、誰も振り向いてくれない。

 

リージャ「心配しないで。きっと楽園にたどり着けるわ」

 

動けないでいる子猿を頭で押し上げてまた進み始めた。

リージャはふと後ろを見てファダオたちを捜してみるが、それらしい一行は姿を見せない。

少し悲しそうな表情を浮かべると、2頭の子猿を背中に乗せて歩き始めた。

 

 

ファダオと仲間たちは暗い洞窟の中を進んでいた。

上陸した場所から道なりに進んでいったら洞窟に入ってしまったのだ。

暗闇と謎の熱気がえんえんと続くだけで、周囲の状況は全く掴めなかった。

もとより行く手がどうなっているのか、この洞窟がどこまで続くのかもわからない。

ふいに彼らの目前に岩が立ちはだかった。自分らの力をもってしても動かせそうにない。

 

フーシー「参ったな、どうする?」

 

グラン「引き返すしかないようだね」

 

ゴンピン「待って!」

 

ゴンピンは持っていた鉄片で岩を削り始める。

そして手のひらサイズの石を引っ込むぬくと、急激に光が差した。

ゴンピンがその穴を除くと、奥には…。

 

グラン「たまげたねぇ」

 

ジェニィ「まぁ、なんてこと!」

 

後はやるべきことは決まっている。

この大岩を退けるしかない。

 

ファダオ「皆、下がって!」

 

言うが早いが、ファダオは岩に突撃した。

岩はビクともしなかったが、再び挑戦した。何度もぶつかると、岩の一部が少し動いた。

しかし、いきなり壁が崩れ落ちてますます行く手をふさぐ結果になった。小さな隙間も塞がれて光も希望も絶たれてしまった。

 

ファダオ「くそーっ!」

 

ファダオはうめき声をあげ、怒りに任せて体をぶつけた。

激しく何度も体当たりした末に、ついに壁に寄りかかってへたり込んでしまった。

 

リンモ「しょうがないわ、別の道を捜しましょう」

 

ファダオ「別の道なんてないさ、僕らはここで死ぬんだ」

 

投げやりな口調で言った。

仲間たちは唖然としてファダオを見た。信じられなかった、彼は本気で言っているのか?どんな時も泣き言を言わず、自分たちをリードしてきた優しいファダオが?

しかし、腰を曲げたジェニィが前に進み出た。

 

ジェニィ「いいえ、生き延びるのよ」

 

皆は再び驚いてジェニィを見た。

あの消極的で臆病で、誰よりも先に弱音を吐いていたジェニィなのか?

 

ジェニィ「私たち何度も危険にさらされた。でも、生き延びてここに居るのよ。そうでしょ?なのに、この幸運にあえて背を向けるの?恥を知りなさい、ファダオ!」

 

今や、巨人のジェニィがファダオに変わって皆を勇気づけている。

 

ジェニィ「私ね、若い時はお嬢様で何の苦労も知らなかったわ。だから、いざ年老いて一人になった時、何にもできなかったわ。でも、貴方のおかげでこんな役立たずでも何かできるって気付けたの。諦めちゃだめ、ここで死ぬなんてまっぴらよ!」

 

ジェニィは曲げていた腰をピンと伸ばし、持っていた大きな杖を脇に置いて腕を後ろに構える。

そして勢いを付けて手の平を思いきり岩壁にぶつけた。

その衝撃に岩壁は揺れる。

 

グラン「一人?何言ってんだい、私も一緒だったろ?」

 

老いた白狼、グランもジェニィに続いて岩壁に体当たりする。

ゴンピン達もひたすらに岩壁を押したり削ったりしている。

誰もが全力を振り絞って、岩壁と格闘している。自分らに比べればはるかに非力な人間も、体力も力もない年老いた者も、皆一心に岩壁にぶつかっている。

こうしちゃいられない、自分も諦めてはいけない。ファダオはだんだんと気力が湧いてきて、勢いよく立ち上がった。

皆がいつもの2倍も力を出して再び壁に突進した。

ファダオも加わり、岩壁に体を押し付けた瞬間…。

 

ムァリー「おおお…!」

 

凄まじい音と共に岩壁が崩れ落ちた。

土煙の中から、確かに太陽の光と風の匂いが入ってくる。

煙が収まると、彼らは大きく息を付いた。ここはどうやら山の斜面のようで、辺りを見渡して喜びの声を上げた。

右手には広大な森が見え、左手には大きな澄んだ湖が広がっている。陽光を受けてまばゆいばかりだ。

ファダオ達は、幻想の楽園…幻想郷へとたどり着いたのだ。

 

リンモ「ここが新しい我が家になるのね」

 

ゴンピン「ビャアオウ!これでかわい子ちゃんでも居れば最高だ!」

 

ジェニィは肩にゴンピンを乗せまま、老いた巨体に見合わずに物凄いスピードのダッシュで山を一気に駆け下りて湖に向かって行った。

ゴンピンはジェニィの肩から飛び降りると、目の前の湖に飛び込んだ。

 

ゴンピン「突撃だ!」

 

水しぶきを立てて飛び込んだ彼に続いて、ジェニィも湖に向けて高くジャンプした。

 

ジェニィ「まだまだね、見てて!こうやるの!」

 

ドボーンと大きな音と波を立てて飛び込むと、嬉しそうに笑い声をあげた。

大はしゃぎしているゴンピン達とジェニィを見ながら、グランは座り込んでうっとりと景色を眺めた。

 

ファダオ「悪くないね。でも、他の連中はもう来てるのかな?」

 

グラン「ああ、もう来てる…はず…そんな!」

 

グランはそう言いながら驚いた。

彼女はとたんに走って山の後ろ側を見る。

ファダオもそれについていくと、なんと山の裏側は切り立った崖に成っていたのだ。

遠くから見ると、その崖の下で立ち往生している群れが見える。

 

ファダオ「まずい、こっちから行けるって知らせなきゃ!」

 

グラン「おいおい、クルトは誰の指図も受けないよ!」

 

ファダオは群れにこっちの道を伝えるために、今来た洞窟を戻っていった。

 

 

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