れいむとシロ   作:ねっぷう

46 / 101
第46話 「延頸鶴望」

シロ「…」

 

「…」

 

シロと謎の妖怪が霊夢の帰りを待ち続けて1時間が経っていた。

2人はピクリとも動かずにただ待っていたが、謎の妖怪が首を妙な角度で曲げ、シロをジロリと見る。

それに気づいたシロは目だけを動かして謎の妖怪を見返したあとに話しかけた。

 

シロ「獣の槍の、元使い手か?」

 

そのシロの問いに謎の妖怪は見開いていた片目を閉じ、もう一度その片目を開けるとその眼は人間と変わらない目に変わっていた。

そして石のように乾いた唇を人間らしい仕草で舐めて濡らすと、先ほどとは違って聞こえる澄んだ声を発した。

 

「…長い間…待ったわ、この時を…。覚えて、いない…?500年前、私も、貴方も八頭龍と戦ったの…」

 

シロ「ふん、あの時我を含めた数多き妖怪が居たが…目は見えずとも一人だけ人間の気を感じていた。お前だな」

 

「ふふ…そうよ。私は、獣の槍の使い手だった…いえ、使い手というよりは…持ち手、だったかしらね…」

 

シロ「持ち手?」

 

「白面よ、貴方は八頭龍が復活したときに必ずや必要になる存在…。だから、あの丘の上で眠る貴方を失ってはいけなかった。だから、私は獣の槍を手にした…槍を使い続ければいずれ魂を削られ獣になる…。獣はやがて字伏という妖怪に成り果て、字伏は獣の槍に刷り込まれた白面に対する憎しみが強く残る…そして、白面を憎む者ある限り白面は滅びない…だから、私は憎しみを持ち意識を保てるこの状態のまま、ひっそりとここに居座ることになった…」

 

シロ「封じられていた我の生命線か、人間がその状態を500年も保ち続けるのは、さぞ辛かったであろう…」

 

獣と字伏の中間、つまり魂を完全に削られた状態で500年も誰の協力も得ずにただひたすら人間の頃と獣と意識を保ち続ける事が出来るのは、ずば抜けた霊力、体力、精神力を持つ博麗の巫女だけだ。

 

「私は待っていたわ…いつになればこの地獄が終わるのだろう…ただ一人で、いつまで寂しく待てばいいのだろう…」

 

シロ「…己、獣の槍が…ここまで我に関わろうとするか…!」

 

シロは彼女も言葉も聞かずにブツブツと悪態を付く。

 

「でも、貴方は滅ぶことなく復活し、八頭龍も時期に現れる…。貴方とあの女の子が来たとき、すごく嬉しかったよ…ようやく、解放されるってね…」

 

シロ「くくく、莫迦奴!!」

 

シロはその眼をカッと開き、赤い瞳がパキリと音を立ててヒビのような模様が走る。

 

シロ「お前の働きは全て無駄だったのだ!何もお前が居なくては我が滅ぶ物か!お前以外にも我を恐怖し憎むものは多くいるのだからな。ああ、それと、我以外の存在は我に消されるべきだ…八頭龍も霊夢も、もちろんお前もな!!」

 

「じゃあ…私の事も…殺してくれる?」

 

その言葉にシロは顔色一つ変えず、むしろ喜んでいるような笑みを浮かべる。

 

シロ「かかか、言われずとも、今殺してやろうと思っていた所だ」

 

「やったぁ」

 

ガラスのようにヒビ割れた目を閉じ、うっすらと笑う。

だがその彼女の笑みを見てもシロは全く表情を変えずに、ソファに座っている彼女を見下ろす。

 

シロ「一瞬で楽にしてやる」

 

シロは身体を変形させ、元の獣の姿に戻る。

そして抱え込むように彼女を腕の中に隠し、そのまま数秒動きを止める。

シロがその場から数歩下がると、彼女は後ろに首をガクリと落し、そのまま目を開けることも口を開くことも無かった。

彼女の白面の者を生き長らえさせるという使命から、ようやく解放されたのだ。

 

シロ「…今の顔をしたのも、久しかったよなぁ…」

 

その埃まみれの木造りの家の中で、シロは一人で霊夢の帰りを待ち続けた。

 

 

何時間が経っただろう、窓から見える空は既に青みを帯びている。

日暮れなのか早朝なのか分からない。どうやら眠ってしまったようだ。

ふと後ろを見ると、黄色いソファの上に妖怪の亡骸がある。

 

シロ「…ふん」

 

そう唾を吐いた瞬間、空間が裂け、そこから霊夢が転がり出て来る。

 

霊夢「はぁ、疲れた。ああ、待った?でも八頭龍はバッチリ、この目で見て来たわ。…ん?」

 

霊夢はソファの上で動かない妖怪を見る。

 

霊夢「…どういうこと?」

 

シロは淡々と霊夢に説明した。

彼女が500年前の博麗の巫女で、獣の槍を使い自ら獣になり、シロを生かす生命線として長い間苦しみに耐えながらここに居た事を。

シロは霊夢がまた誤解して攻撃してくるのではと思い身構えていたが、以外にも霊夢はすぐにそれを受け入れた。

 

霊夢「そう、あの先代の巫女がこの人だったの…」

 

霊夢はこの家の外まで彼女を運ぶと、土に埋め、簡単な墓を建ててやった。

彼女は500年前八頭龍と立派に戦った先代であり幻想郷の英雄だ。

それ相応に、霊夢は対応してあげたかったのだ。

 

 

時逆に別れを告げ、夜の幻想郷を神社に向けて飛んで帰っていく霊夢とシロ。

 

霊夢「シロ」

 

シロ「うるさいな」

 

霊夢「いつも、私とシロの二人なわけよ」

 

シロ「全くだ、こんなクソムスメ殺すために色々面倒ごとに付き合わされて!挙句に八頭龍とかいう粕を相手にしろだと!?」

 

霊夢「な~んですって~?じゃあ今殺してみなさいよ!」

 

シロ「…ふん、それで何が言いたいのだ?」

 

霊夢「んん~別にィ。ただね、八頭龍がいつか復活して最後の戦いになった時も…結局私とシロの2人で闘うんだろうなぁってね…」

 

シロ「けっ…」

 

 

 

博麗神社──

 

藍「紫様、霊夢と…シロ殿、遅いですね。やはり何かあったのでは…」

 

紫「藍」

 

紫は月を見ながら藍の話を遮る。

 

紫「貴方は…あの八頭龍を倒せると思う?この間、藍も時逆と500年前を見に行ったはずよ」

 

藍「はい…言ってしまっては失礼かもしれませんが、あのような強大な龍には正直勝てる気が…」

 

紫「いいえ、八頭龍はきっと倒せるわ」

 

紫(昔の私なら思いもしない事だったと思うけど、あの白面の者が居れば…いいえ)

 

その時、霊夢とシロが物凄いスピードで神社の境内に着地する。

 

霊夢「あぁお腹減った!あ、2人とも居たの」

 

シロ「…」

 

紫(霊夢とシロが居るならば、必ず!)

 

自分の愛するこの幻想郷を脅かしてきた龍神…いや、その正体を八頭龍。

今までは自分だけではどうにもできなかったそれを、今はどうにかできるかもしれない。

紫は心の内で、希望を霊夢とシロに託すのだった。

 




【延頸鶴望】─えんけいかくぼう
強く待ち焦がれる事。首を長くしながら待つこと。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。