さて、突然だが。
君たちのよく知る「ゴリラ」が、実は元未確認生物だったという事を知っているだろうか。
カルタゴの航海者ハンノが紀元前480年頃に西アフリカに遠征した際に野人と遭遇し、その野人をゴリライと呼んだのが始まりと言われている。
それから2300年経った1836年、アメリカ合衆国の植民地リベリア連邦(ハンノ一行が上陸したと思われるシエラレオネの隣国)にて、宣教目的で赴いていたアメリカ人の医者兼宣教師のThomas Staughton Savageが未知の類人猿のものと思われる頭蓋骨といくつかの骨を発見する。新種の生物と確認されたニシローランドゴリラに対し、ハンノの逸話にちなんで「Troglodytes gorilla(穴居人+「gorillai」の単数形)」という学名を付ける。これによってゴリラの存在が科学的に認知された。実際の生態とは違い「Troglodytes」と名付けられたのは、ヨーロッパで信じられていた穴居人(Troglodytes)という人間に似た怪物の正体とされたチンパンジーと、新発見されたゴリラとが仲間であると推測されたためである。(Wikipediaから引用)
そのゴリラがまだ伝説上の生物とされていた時代、この幻想郷にも数こそ少ないがゴリラが人間にも妖怪にも気付かれずにひっそりと暮らしていた。
だが外の世界でその存在が認知されたとたん、つまり幻想であったものが幻想でなくなった瞬間、次第に幻想郷のゴリラたちはその数を減らしていった。
魔法の森奥深く、一際大きな大木の幹の分かれ目にぐったりとしながらくつろぐ巨大な影が。
彼はかつて幻想郷の森に棲んでいたゴリラの最後の生き残りである。
通常よりも大きな体躯を持ち、長い年月生きた事によって動物よりも妖怪側に変化しつつあった彼はいつも気ままに、誰にも害されることなく生活していた。
しかし、冬の終わりの風の吹く夜だった。
いつの間にか彼の棲み家である大木の下に見慣れない人間の女の子が。
彼ははて…と思い、その子供を拾う。
服装からして外から来た人間か。昔に外から来た人間は神社に居る巫女によって外に帰されると聞いたことがある。
丁度食べていた木の実を一口で噛み砕くと、彼はその女の子を小脇に抱えて東の方角へ森を進んでいった。
「おう、そのガキ喰わねぇのか?」
森の中を進んでいると、やたら細い癖に身長だけは高い狒狒の集団と出くわした。
「…」
彼は何も言わずにただ狒狒共を睨みつけ、逃げる道を探っている。
「聞いてんのか?ずばりな、そのガキ寄越せよ。外の奴だろ?外の奴なら喰っていいんだっけなぁ?渡す気がねぇんなら…やっちまいなぁ!」
ボスの後ろに居た狒狒がキーキー鳴き、手を叩きながら彼が抱えている子供を奪おうとする。
彼は向かってくる狒狒共を足で蹴り、殴りつける。
狒狒の一匹の頭を片手で掴み、握りつぶしながらボスに投げつけると、彼はその場を逃げようとした。
「逃げんじゃねぇよ!」
ボスが抱えられた子供の足に噛みつこうとする。
だが彼は咄嗟に子供を庇うように抱え込み、ボスの牙が彼の肩に食い込む。
「…ッ…」
痛みに顔をゆがめるが、彼はひたすらに東に進み続けた。
朝、博麗神社─
シロ「…む」
神社の屋根の上で寝ていたシロは目を覚ました。
シロ「おい、何か来ておるぞ」
何かこちらへ向かってくる沢山の気を感じ、シロは屋根の上から浮かび中でまだ寝ている霊夢に話しかける。
霊夢「何よ~も~」
慌てて歯を磨きながら外に出てきた霊夢。
その時、寝ぼけながら何か大きなものが目の前にあることに気付く。
シロかな、と思いシロの方を見るが、人間状態のままで特に大きくはない。
ふとそれを見上げると、霊夢は咥えていた歯ブラシを落とした。
「…」
顔をしかめて荒い鼻息を立てながら霊夢らを睨む黒い獣人。
小脇に人間の子供を抱えていて、身体にはいくつもひっかき傷のようなものができている。
霊夢「…この子を連れて来たの?」
彼は何も言わずに子供を霊夢に差し出す。
そして唸りながらその場に座り込むと、気を失ってしまった。
シロ「何なのだ、コイツは?」
その時、その場に十数匹もの狒狒の大群が現れた。
「けええええ、ついにここまで来たかぁ!巫女ォ、そのガキ寄越せええええ!」
狒狒のボスが長い腕を振りかざして霊夢に襲い掛かる。
しかし、その腕をシロがガシリと掴んだ。
「お前ェ、邪魔をするなァ!」
シロ「黙れよ」
「い、痛ってぇ…なんて力だ…!」
霊夢「なるほど、大体事情は分かったわ」
シロは掴んでいた手を離す。
すると後ろの狒狒共がキーキー喚きながら向かってくるので、尾で軽く吹っ飛ばしてやった。
ボスの毛を掴んでそのまま逃げていく狒狒に向けて投げつける。
「ひィ~~~!」
狒狒共は全員逃げていった。
霊夢「さてと…このでっかい猿が幻想入りしちゃったこの子を連れて来てくれたのね」
シロ「どうするのだ?」
霊夢「この子は私がどうにかするとして…シロはその猿を永遠亭ってところまで連れてってあげてくれない?」
シロ「永遠亭?」
霊夢「竹林があるでしょ、そこで妹紅を見つければ案内してくれるはずよ!」
シロ「う、うむ…」
シロは尾で彼を持ち上げるとそのまま竹林の方へ飛び去る。
妹紅「うわぁ、何だそれ…」
シロ「霊夢に言われてな、コイツを永遠亭とかいう所まで連れて行けと…」
妹紅「なるほどな、永遠亭に行きたいんだな。私について来いよ」
シロは竹の間をすり抜けるように駆ける妹紅を追いかける。
前にも何回か竹林に入ったことがあるが、今回案内されている道は何処も通ったことのない場所だった。
上から見た時はこんなに広く見えただろうか…そんな事を考えていると急に竹林が開けた場所に出た。
シロ「ここが…」
目の前にあったのは日本風の大きな屋敷だった。
妹紅「ここが永遠亭さ。行ってきなよ」
シロは彼を尻尾で持ったまま塀を超えていった。
霊夢「で、この猿はどうにかなるの?」
無事子供を外の世界に送り返し、今こっちに到着した霊夢が言った。
八意永琳「まぁ疲れて気を失ってるだけね。一応傷の手当はしたから大丈夫よ」
彼女はこの永遠亭を実質仕切っている凄腕薬師の八意永琳。
ここで医者として活動している。急病がでたときなど、場合によっては竹林の地理に詳しい妹紅が道案内をしてくれたりする場合もあるが、基本的に一般人は辿り着くことはおろか途中で引き返すことすらままならない。
霊夢「そう、ならいいわ」
霊夢は少し息を付いた。
霊夢「じゃあ私たちは帰るわ。シロ、行くわよ」
シロ「…」
飛んでいった霊夢に続いて、シロも9本の尾を引きながら飛び去って行った。
「…」
彼は目を覚ました。
そこは畳の敷かれた普通の部屋で、自分はどうやら大きなクッションの上で寝ていたようだ。
腕や肩といった怪我をしたはずの場所に布がまかれている。
誰がやった、そしてここはどこだ?
彼は外の風の匂いを感じ、その部屋を出た。
そこに有ったのは短い草の生えた綺麗な中庭だった。
鈴仙「ああ、目が覚めたんですか?」
彼が居た部屋のある通路の向こうから、鈴仙が歩いてきた。
鈴仙「って言っても、言葉なんてわからないですよね~」
「…」
永琳「もう大丈夫なの?」
彼は地面に両手を付きながら軽く頷いた。
永琳「どう、その傷が完全に治るまでこの辺りに居てもいいのよ?その状態で森に戻っても貴方を襲った狒狒達にどんな報復を受けるかわからないし」
「…」
彼はそれを聞くと、のそのそと寝ていた部屋に入って行った。
鈴仙「あの兎たちの遊び相手になると思えば、いっか」
冬の終わりの、少し暖かい風の吹く三日月の夜だった。
投稿ペースだけが売りなのにいくらか日にちを開けてしまいました…すみません
今回はちょっと変わった話を書いてみました。