空。
もう既に時刻は午前4時を丁度過ぎ、本当にうっすらと東の空が青みがかっている。
空は綺麗だ。大きく輝く太陽が昇ればたちまち明るくなり、地上を照らすだろう。
だとすれば我は雲だ。
一見すると真っ白で様々な形が有りとても愉快だが、実際は蒸発した水が空で集まったもの。
太陽の暖かさによって弾き出された水が集まって雲になる。まるで、かつて世界が陰と陽で別れた時、陽より弾き出された陰の気が集まり生まれた我のようだな。
正にその通り…その通りだ!
雲は決して空の一部には成れない。その空よりもっとずっと下で惨たらしく蠢くだけだ。
だから雲はいつも思うているだろう、我も太陽や空のように綺麗だったらなぁ、と。
それでもやはり雲は空には成れない。雲は空に憧れる。
しかし憧れは嫉妬へ、嫉妬はやがて憎しみへと変わり、憎しみはかつて憧れていたものを破壊し始める。
だから我は夜だ、我は雲だ!太陽の輝きを遮り、青い空をその身で埋め尽くし雨を降らし雷を落としてお前達を苦しめてやろう!!
だが空を埋め尽くしていた雲の隙間から一筋の光が入った。でもその光も今や…
白蓮「白面よ、逃げられるとでも思ったか!?」ギュオ
シロ「思っておらん!」
白蓮「ふん、お前が必要とされているですって?そんな正義の味方気取りで大物ぶって舞い上がりだしちゃって…」
シロ「舞い上がったからとてどうした、我はそれすらもしてはならぬというのか!?」
白蓮「その通り!お前は滅ぶべき妖怪なのですよ!!」
ビームサーベルを発生させる独鈷杵、雷を放っている数珠、法力を込めて高速回転させた千宝輪が無数の弾幕になってシロに襲い掛かる。
シロ(確かに、嬉しかったさ…)
霊夢と出会うた時、そしてそれからの日々を過ごしてみて、ああ、これが我が長年求め、追いかけてきたものなのだろうかってな。
それからこの幻想郷を脅かす八頭龍を倒すために我の力が必要だと言ってくれた。
だがその結果どうなった!?
その我を救うために霊夢は必死になって戦った…こんな我の為に。
シロ(我の大莫迦野郎が!!)
シロは心の中でそう叫ぶと、9本の尾を振り回して聖の法具を粉々に粉砕する。
白蓮「ははは、法具を砕いたか…!脆い物がだめなら、これはどうだ!?」
聖は空中で魔人経巻を広げると、その背後に巨大な光輝く千手観音像が出現する。
そして文字通り両方合わせて千本は有ろうかという数の腕を全てシロに向ける。
次の瞬間、一瞬の瞬きも許されない程の驚異的なスピードで、無慈悲な千手の連撃がシロに放たれる。
しかし、シロはそれにも臆することなく向かってくる腕を片っ端からへし折っていく。
シロ(巻き込んだのは…この我だ!)
白蓮「な…これでも止まらないだと…!?」
聖は観音像の残っている腕を使い再び連打を浴びせようとする。
が、既に観音像の腕は一本と残らず破壊されており、もう攻撃する機能は無かった。
聖がそれに気づいて一度目線を観音像に向けた瞬間、周囲に飛び散った破片に交じってシロのパンチが聖の顔面にめり込む。
さらに間髪置かずに聖ごと観音像に向けて最大出力の火炎を放出する。
白蓮「や、やったなァ~~~白面~!!」
観音像は炎に包まれ消えていった。
シロは聖の首を掴むと尾を聖の体に巻き付けていく。
白蓮「お前…まさか、誰かの為に戦っているな…?あの白面の者が…!お前は今まで自分がしてきたことを理解しておきながら開き直り、あのクソ共の為に戦ってるんだ…」
シロ「クソだと?聖白蓮!!」
シロは取っ組み合いながら聖に大声で怒鳴りかける。
シロ「お前には空はないのだろうが…」
白蓮「空…ですって?」
シロ「そうだ空だ…。空は掴めぬ。時たま曇ったり豪雨を降らせたり吹雪いたり、雷を落としたりするが…必ず太陽が照る晴天や満天の星空は現れる…!それを、お前は…!」
白蓮「私にだって…空くらい…」
聖の脳裏にはかつて先に亡くなってしまった自分の弟の姿が浮かんだ。
このことで白蓮は死を恐れるようになり、若返りの術を身につけ魔法使いとなった。
それから人間からの不当な迫害を受ける妖怪達を目にするうち、次第に本心から妖怪を守らねばならないと思うようになった。その人柄ゆえに人間からの人望も非常に厚かったが、妖怪との共存を望み加担していたことが露見すると一転、悪魔扱いされ魔界に封印された過去を持つ。
シロ「黙れよ」
シロは歯を食いしばり今にも泣いてしまそうな程に眉を八の字に釣り上げた顔で呟いた。
霊夢「よぅし、これで全員ね?」
布都「うむ、感謝するぞ!」
全員に掛かった法力の鎖をたった今全員分解きおえた。
どうやらこの法力の鎖は縛った者の力を吸い取ってより強固になっていくものらしく、霊夢でも解くのに一苦労した。
青娥「しかし、あの鎖の所為でまだ力が出ませんわ…」
屠自古「私もだ。それなのに普通にピンピンしている太子様は、やはり私たちとは格が違うんだな…」
とら「おいおい、わしも普通に動けるんだが?」
神子ととらだけはあの法力の鎖もほとんど効果が無かったようだ。
恐らくは単に2人の力が強すぎたために無事だったのだろう。
霊夢「おや、アレは…」
「…」
霊夢らの前に現れたのは、先ほど聖の後ろに仕えていたぶかぶかのマントに大きなフードを被った何者かだった。
屠自古「アイツは…聖の後ろに居た奴…」
神子「もうじき聖は倒される、それでも私たちに敵するというのならば私がお相手しよう」
神子は再び腰から剣を取り出すと、それをフードの者に向けて構える。
布都「おいお前!せっかく太子様が相手をしてやろうというのに、その態度はなんじゃ!?顔を見せい顔を!」
布都がそう言うと、そのフードの者はゆっくりと顔の下半分を隠す程の襟に手をかけた。
そしてその襟を下に降ろすと、何やら薄い光が神子に向けられた。
神子「あ、あ…」
神子は力が抜けたようにその場に膝から崩れ落ちた。