れいむとシロ   作:ねっぷう

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第6話 「藤原妹紅」

思い出せぬ…何故我はこの幻想郷という地に迷い込んだのか…。

いや、何か、我にとって脅威であった何かを忘れているような気もする。

 

そう、我は自分以外の者の負の感情を喰ってより強く成長する大妖怪。

我は世の悪、陰の気の塊なり。故に陽の気に属する全てを滅ぼす。

人間を滅ぼせ、動物を滅ぼせ虫を滅ぼせ。草木も枯らせ、もちろん妖怪も生かしておかぬ。

 

 

シロ「…」

 

我は今縁側にて日の光を浴び、休息をとっておる。

我が眠りから覚めてから倒してきた化け物…それらが我に倒される瞬間の恐怖を啜り、それで繋いでいるが…。

正直、それでは足りぬ、この飢餓感は解消できぬ。

 

霊夢「シロ、お茶飲む?」

 

この莫迦みたいな人間の娘は博麗霊夢。

神社の下で眠っていた我を上から押しつけていた結界を解いた人間だ。

あの封印を解くとは人間にしては中々の力を持つようだが、やはり所詮は人間。

本気になった我の相手ではないだろう。

 

シロ「…要らん」

 

前までは我が勝手に行動するたびに結界の札を押し付け脅していたが、もう札を使ってこないという事はもう札の効力はないと踏んでいいだろう。

そしてこれが最も忌まわしき、我の体中を幾重にもわたって縛り付けておる結界…。

これがあるので我は元の姿に戻れぬし、尾の能力も、我自身の力も思うように出せぬ。

 

魔理沙「よう、霊夢にシロ!遊びに来たぜ~」

 

この白黒は…何て言ったかな、まぁよいわ。

コイツに至っては何故か殺す気も起きぬわな…。

 

チルノ「おーっす!シロいる?」

 

シロ「…」ギロ

 

何だ、やかましい。

耳に障るような声を上げるな。…おっと、よく見てみればいつぞやの氷の妖精。

たかがあれくらいの事で馴れ馴れしくするな…。

 

チルノ「いやぁ、リグルがね、シロを見てみたいって言うから連れてきたんだけど」

 

リグル「どうも~」

 

…虫の妖怪の一種か…。名はリグル、というのか。

頭から伸びる触角、背中のマントは虫の羽根を模しておるのか?

だが取るに足らぬか弱き妖怪だ。わざわざ無駄に力を使ってまで消滅させてやる相手でもないだろう。

 

リグル「結構有名だよね、人里で妖怪同士が戦ってたって」

 

チルノ「私もソイツもシロの戦いを見てたんだから」

 

何と。あの時の事が広まっておるのか。

しかも結構有名とな。

 

霊夢「何言ってんの、トドメ刺したのは私じゃないの」

 

シロ「けけけ…」

 

もう一週間と数日前になるのかしら。

人里で人間の魂が集まってできた妖怪のガシャドクロをシロと私で退治したのは。

それが、里を含めて意外といろんな場所で話題となってるらしい。

シロもリグルとチルノがその話をしてるのを、眼をつむりながらじっと聞いてたわね。

だけどそれが、あんなことになるなんて私は思ってもいなかったわ。

 

 

コリコリ クチャクチャ

 

「…なんだぁ、お前はァ?」

 

平原と迷いの竹林という鬱蒼とした竹林の丁度境目の少し広い場所。

一匹の妖獣が一心不乱に骨の突き出た肉塊の中に鼻先を突っ込み、貪っていた。

ちなみに妖獣とは、幻想郷に数多いる妖怪の中でも、獣から変化した妖怪である。

 

妹紅「…藤原妹紅だ。お前を退治してくれと里から言われたのでな…」

 

その妖獣に近寄り、食事の邪魔をしたのは銀の腰辺りまで伸びた髪に、白いカッターシャツ。

赤いもんぺのようなズボンをサスペンダーで吊った女だった。

 

「ふん、人間がよ、俺の食事邪魔すんのかよ!?えぇ?」

 

久々にありついた食事の邪魔をされた妖獣は、口の周りに血を垂らし、肉のカスを飛ばしながら怒鳴った。

だがそれにも臆することなく、女は続けた。

 

妹紅「妖怪は普通、たまに何か食べるだけでいいはずだ。なのにお前は人を食べ過ぎた…」

 

「うるせぇや!お前も食っちゃろかァァ!?」

 

その妖獣は女に向かって吠えながら襲い掛かる。

だが、女は妖獣の爪の生えた手を掴み、噛みつこうと伸ばしてきた頭を手の平で押さえ込む。

 

「げぇぇ!しまった、コイツあの妹紅かよ…!」

 

妹紅「…」

 

ゴギィィ

 

そのまま女は拳骨を作ると、それを勢いよく脳天に叩き叩き落とす。

 

「いってぇ、頭がァァァ!!うげ…」

 

妖獣は頭を押さえ、痛みに声をあげながら後ろによろめいていく。

 

妹紅「…もう二度と人を喰わないというなら、見逃してやろう」

 

「わ、分かったよ…もう人は喰わねぇ…動物だけ食べるよ…それでいいだろ!?」

 

ゆっくりと歩み寄ってくる妹紅を見て腰を抜かし、腹を見せて両手を上にあげて降参の意志を示した。

妹紅は探りを入れるようにじっと妖獣を見回したのち、言った。

 

妹紅「いいだろう、行け」

 

「あ、ありがとよ…へへ…」

 

頭を殴られ痛い目を見たその妖獣はよろめきながらそそくさとその場を立ち去ろうとする。

だが、ふと妹紅の視界に入ったのは、血の付いた子供用の大きさの草履。

 

妹紅「…待て」

 

立ち去ろうとする妖獣を呼び止める。

 

「え?」

 

妹紅「お前…子供を喰ったのか?喰ったんだな!?」

 

いかん、バレた…とでも言わんばかりの表情をする妖獣に手の平から放った火炎を浴びせる。

ほぼ火だるまの状態になった妖獣は慌てて地面に倒れ込むと、ゴロゴロと転がって火を消そうとする。

 

「ぎゃあああ…」

 

ようやく火を消し終えた妖獣はその場を素早く走り去っていった。

 

妹紅「…はぁ…」

 

走り去る妖獣を無視して膝から崩れ落ちる。

 

妹紅「さっきのやつでもなかった…一体どこにいるんだ…あの寺子屋の子供たちを殺し、慧音を半殺しにして私の背中にも消

 

えない傷をつけたあの獣の妖怪…」

 

妹紅は自分の背中をさする。

そして憎しみを込めた目で空を見る。

 

妹紅「あれから20年だぞ…20年…」

 

 

20年前─

 

慧音「今日は里でお菓子も買って来たし、あの子たちも喜んでくれるだろうか…」

 

彼女は上白沢慧音。

里で寺子屋の教師をしている。

 

妹紅「うん、それちょっと高いお菓子だよね?じゃあ多分喜ぶと思うよ」

 

里で買ったというお菓子の入った紙袋を開いて中を見る慧音。

あ、あそこの店か…と思った妹紅は慧音の肩を叩きながら言った。

 

慧音「昨日はちょっと怒鳴り過ぎてしまったからな…」

 

どうやら、昨日生徒の度の過ぎたいたずらに堪忍袋の緒が切れ、強く怒鳴り過ぎてしまったらしい。

その後自分でも起こり過ぎたと反省し、生徒と仲直りをするためにお菓子を買ったようだ。

 

妹紅「…じゃあね」

 

寺子屋に着いたようだ。ここで慧音は寺子屋に入り、妹紅は別の用があるので別れることになる。

妹紅は優しく慧音に手を振った。

 

慧音「うん」

 

手を振り返した慧音は、早朝の里を寺子屋に向けて歩いていった。

寺子屋の鍵を開け、中に入る。

そして教室に近づくと、いつもは騒がしい話声が聞こえてくるはずが今日はとんで静かだった。

 

シーン

 

慧音「いつもより静かだな…お前達、まさかほとんど遅刻でもしてるんじゃ…!?」

 

慧音が勢いよく教室の戸を開ける。

いつも通り、子供たちが教室に居て、自分が入ったとたんに慌てて席に着く。

だが、慧音が見た光景は…。

 

ギチギチ ピチャピチャ

 

「…」クチャクチャ

 

 

慧音と別れ、仕事場へ向かう妹紅。

だが、寺子屋の方から慧音のものと思われる悲鳴が聞こえて来た。

 

妹紅「!?何かあったのか!?」

 

私は慧音の悲鳴を聞いて走って寺子屋まで行った。

そして慧音の教室のドアを開けると、「ヤツ」は一直線に向かってきた。

 

ザシュ

 

四足の獣がこちらに物凄い勢いで走ってきた。ほんの一瞬の事だったので良くは見えなかったがこれだけは見る事が出来た。

少なくとも5本以上はある複数の尾、その尾は薄暗い教室に驚くほど溶け込んでいた。

そしてすれ違いざまに私の背中を切り裂き、逃げていった。

 

…どうやら意識を失っていたようだ。

自分の下には血だまりが出来、今も背中の傷口から血が流れ出ているのが分かる。

だが、自分のものではない血が床を伝っている。その血の流れているもとを恐る恐る見る。

そこには、惨たらしくズタズタに食い散らかされた子供たちの残骸と、同じくヤツにやられたであろう血まみれの慧音が横たわっていた。

 

妹紅「慧音…うおおおおお…」

 

 

妹紅(慧音は無事で今は普通だが…どこだ、どこにいる…慧音をひどい目に遭わせ子供たちを貪り食った獣の妖怪…)

 

あの日より妹紅は暇さえあれば人を襲う妖獣の退治依頼を受け、それが20年前の妖怪と一致するかを確かめ続けてきた。

が、今まで相手をしてきた妖獣はどれもヤツとは違っていた。

そんな日々をただひたすらに送るだけだった。

 

 

翌日、人里─

 

妹紅「…」

 

朝、いつものように仕事場に向かって歩みを進めている妹紅。

何となく周囲の人々の話を聞いていると、一つ気になる会話が聞こえて来た。

 

「あぁ、里の外でも結構話題らしいぞ…この間の骸骨と獣の妖怪…」

 

「えぇ、私は見ていなかったけど里で妖怪同士の戦いが起こるなんて物騒よねぇ」

 

男女がそんな会話をしていた。

 

妹紅(獣の妖怪…確かめてみる価値はあるかな)

 

妹紅「すいません、その話聞かせてもらえますか?」

 

妹紅は人柄良くその男女に話しかけた。

 

「あ、あぁ…2週間くらい前だったかなぁ…」

 

男はその妖怪同士の戦いについて話をした。

ある日里の人間が妖怪に襲われ、その数日後に里の地中から現れた骸骨のような妖怪と、白い獣の妖怪が戦った、と。

 

妹紅(間違いなし…その妖怪を軽く倒したという事は相当の妖怪という事…ソイツだ!絶対に逃がさないわ…)

 

その話を聞いてほとんど確信を得た妹紅は、早歩きでその場を立ち去った。

 

 

 

一方、博麗神社。

 

霊夢「…」グー

 

シロ「…」

 

腹を出していびきをかきながら眠っている霊夢の顔を覗き込むように近づくシロ。

振り上げている手には、明らかに殺意のある爪が光っている。

 

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