れいむとシロ   作:ねっぷう

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第61話 「獣のグルメ」

とら「おかしいな、迷っちまったぞ」

 

暇つぶしにふらふらと出歩いていたらいつの間にか竹林に迷い込み出るにも出られなくなってしまったとら。

 

しかし困ったな、こんな場所来たことないぞ。

どんなに速く走っても同じ景色が続くばっかりだし、空を飛んでも何故か竹林の終わりが見えねぇ。

おまけに、今日の夜は何故だか暗い気がするぞ。きっと誰かが竹林全体に術でも掛けてやがんだな。

 

とら「ほォ、美味そうな匂いがしやがる。こんなところに屋台かよ」

 

わしは空腹だったことを思い出す。

もう腹がすっからかんだ、まぁ言っても最近はほとんど何も食ってなかったし、どうもこの美味そうなタレの匂いで食欲が湧いてきた。丁度金も多めに持ってるし、ちょっと入ってみるか。

 

 

周りに気を取られず、己の腹を満たすとき。

誰にも邪魔されず、最低限のマナーを守ったうえで満足するまで美味い物を食べるという孤高の行為。

これこそが人間、妖怪、動物問わず何かを食べて生きる者すべてに平等に与えられし、権利。

食べる、という事はその者にとって最高の癒し。

 

獣のグルメ~竹林の中の八目鰻~

 

 

ミスティア「はいいらっしゃい!」

 

とら「…ふむ」

 

なるほど、いい雰囲気だ。

懐かしい感じだ、昔を思い出すなぁ。

 

とら「おい、はんばっかはあるか?」

 

ミスティア「はん…?いえ、ウチではやってないですねぇ」

 

とら「そうか…」

 

まぁ当然と言えば当然だな。

こんな古臭い場所に外のあめりかんな食いモンがあるわけねぇ。ダメもとで聞いてみただけだ。

わしが初めてはんばっかって聞いた時にピンと来なかったようにやはりここの連中もそうなのだろう。

 

とら「じゃあ…ここのおススメを頼む」

 

ミスティア「はい、八目鰻のかば焼きですね。そういえばお客さん、随分体が大きいみたいだけど狭くないですかね?」

 

とら「いや、別に問題は無い」

 

ミスティア「そうですか、少しお待ちくださいね」

 

椅子が小さいなら浮けばいいだけだからな。

ふぅ、一つ注文をしたら屋台を見たり色々と考える余裕ができた。

それにしても中々住みやすい結界の中だな。

外の都会とかいう場所みてぇに変な匂いもしねぇし、この屋台を見た時も思ったが何か懐かしいんだよな。

わしは端っこしか入った事ねぇが向こうにある里、あそこも何か不思議な気分になる。

これでもうちょっと退屈しなけりゃあ最高なんだがなぁ。

 

とら(ほう…)

 

ミスティアは網の上に串に刺した八目鰻の切り身を置き、加熱していく。

ジューという音と立ち上る煙がいかにもって感じだ。

そして色々塗られたタレの香りが一層強く立ち込め始める。

 

そういやぁ八目鰻って何なんだ?

まぁ鰻みたいな奴って事は分かるが、どんな鰻なんだろうか。

純粋に楽しみになって来たぞ。

 

ミスティア「お待たせしました、どうぞ」

 

とら「ふむふむ…美味そうだ」

 

アツアツに焼かれ少し焦げ目の付いた八目鰻のかば焼きが5本ほど皿に乗せられてやって来た。

串を一本つまんでみる。香ばしいタレが串の持ち手の部分まで垂れてくる。

 

とら「おっと」

 

垂れてくるタレをこぼさないように舐めてから、とらはかば焼きにかじりついた。

 

濃い味だ。普通に美味いぞ。

少し弾力があってコリコリとなかなか噛みきれないような触感がまた…ちょっと鳥の皮焼きに似てるかもしれん。

この辺で採れるのだろうか。

 

ミスティア「お客さん、飲み物は?」

 

とら「そうだな…」

 

普通こういうとこじゃ酒…といきたいところだが別にそこまで酒は好きじゃねぇし、気分的にさっぱりと喉に通るものにしよう。

 

とら「水か冷たい茶で頼む」

 

ミスティア「はい、では麦茶でよろしいですか?」

 

とら「ああ。それと、八目鰻の揚げ物をくれ」

 

ミスティア「はいはい」

 

うん、しょっぱいタレで乾いた喉に丁度良くスッキリと麦茶が通る。

また少しかば焼きを食べて、また水を飲む。おぉ、これだな。

やっぱり何度も言ってしまうが美味いな…さっき頼んだ揚げ物を食い終わったら米か野菜系のものでも食べるか。

それにしてもさっきと比べて視界が明るいような気がするぜ…さっきまで目の上にコブができたみてぇに見えにくかったのによ。

…!なるほど、こりゃいっぱい食わされたな。

このスズメ野郎の自作自演だ、まず自分の能力で無差別に周りの奴らを鳥目にして、自分の店に引き寄せて八目鰻を食わし、鳥目を解消させる。それにわしはたまたま引っかかっちまった訳だ。

 

ミスティア「お待たせ、八目鰻のから揚げです」

 

差し出された長方形の浅い皿を手に取り、自分の前に置く。

いかにもすっぱそうな、見てるだけで唾が出てくるようなレモンまで添えられている。

 

これは凄い、いい揚げ物だ。

ちょっとつまんだだめで肉汁と油が漏れ出てくる。

 

とら(どれ、味は…)

 

ほうほう、いい感じだ。

よくあるありきたりな、外はパリッと…ってやつだ。

噛みにくい食感はさっきのかば焼きと同じだが、やっぱり味の感じは全然違う。

多分、人間の軟骨も揚げればこんな感じなんだろうな。

 

おお、そうだ。全部食べ切ってしまう前に飯も頼んでおこう。

 

とら「おい、白飯はあるのか?」

 

ミスティア「あ…ごめんなさい、米は置いてないんですよ。何せうちは妖怪の客が多いんで、米は全然注文されないんですよ」

 

とら「そうか…」

 

どうしようか、じゃあさっぱりした野菜みたいなのはあるかな。

 

ミスティア「ああ、すみません。メニューを置くの忘れてました。いつもは机の上に何枚か置いてるんですが、今日は偶々忘れちゃって…」

 

メニューが有ったのか。

まあしょうがない、そういうのを忘れることはどいつにもある。

さて、メニューを見ると意外と品目が多いな。

お、この野菜炒めなんて良さそうだ。

 

とら「この肉野菜炒めをひとつ」

 

ミスティア「はい、少々お待ちください」

 

すぐに密封できる袋から豚肉やらキャベツや玉ねぎといった肉野菜を鉄板の上で炒め始める。

 

背後から足音が聞こえる。

どうやら次の客が来たようだ。

 

ミスティア「いらっしゃい」

 

今泉影狼「やぁ」

 

この迷いの竹林に棲む妖怪の一匹、狼女の今泉影狼がやってきた。

長いストレートの黒髪に狼の耳が生えており、手には長く鋭く赤い爪を伸ばしている。

 

影狼「いつものかば焼き2つね」

 

いつもの…ほほう、コイツはこの屋台の常連なんだな。

 

影狼「それと3本、持ち帰り用にちょうだい」

 

持ち帰り!そういうのもあるのか!

 

ミスティア「はいはい」

 

影狼「よいしょっと。あら、見ない顔ね?」

 

とら「何だよ、わしに言ってんのか?」

 

影狼「そうそう。もしかして外から来たの?」

 

とら「…半年ほど前にな」

 

影狼「そうなの!通りでなんか人間臭いと思ったわ~」

 

そんな事を話している間に先ほどとらが頼んだ肉野菜炒めが置かれた。

 

ミスティア「お待たせしました」

 

ふむ…まぁ見た目は普通だな。

どれ、一口…。うんうん、中々良いじゃないか。

しっかりと肉や野菜に味付けがしみ込んでいて、それでいて野菜はシャキシャキしていて美味い。

 

とら「はーっ…」

 

とらはものの2,3口で肉野菜炒めを綺麗に平らげてしまった。

 

とら「あっ…」

 

わしとしたことがうっかりしていた。

野菜と一緒に食べようと残しておいたかば焼きとから揚げを忘れていた。

まぁいいか、まだ冷めている訳じゃないしな。

うんうん、美味い美味い。

そうだ、わしも何本か持ち帰りとやらで頼むか。

 

とら「おい、さっきのかば焼きを3本持ち帰りで」

 

 

それにしても、ここは変わってねぇんだなァ。

何百年前かで時が止まっているようだ。

…そうか、外のあのぐしゃぐしゃした雰囲気に疲れたら、こっちに来て休めばいいんだな。

ここじゃ全てが何だかいい感じだ。ちと…つまらないのを除けばな。

 

とら「勘定」

 

ミスティア「はーい、えっと…合計で…」

 

影狼「気を付けてね。感覚も戻ってるはずだから、貴方くらい強そうな妖怪だったらすぐ抜けられるはずよ」

 

とら「…ふん」

 

 

持ち帰りのかば焼き、つい好奇心で持ち帰りにしてしまったがどうしよう。

…そうだ、あのマリサにくれてやろうか。一本だけ。

さて、試しに雲の上まで飛んで、そうやってこの竹林を抜けよう。

 

 

   獣のグルメ~完

 

 




ドラマCDの中の人繋がり、という事で。

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