れいむとシロ   作:ねっぷう

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第68話 「切り札」

霊夢「これが月の都…?前に来た時と随分様子が違うわね」

 

魔理沙「だよな…生きている者の気配がほとんどない」

 

鈴仙「何故こんなに冷えているの?」

 

いよいよ槐安通路を抜け、月の都へとやって来た霊夢たち。

だが、そこはかつてここに住んでいた鈴仙と、前に一度来たことが有る霊夢から見れば、えらく様子が違っていた。

清潔感溢れていた街並みも、街路樹のように立ち並んでいたいい匂いのする桃の木も、見る影もないままにそのまま文字通りに凍り付いていた。

 

早苗「何か思っていたのと違うなぁ…」

 

稀神サグメ「…あら、人間…?」

 

早苗の目の前に白い鳥の羽根のような物が舞って来た。

それに気づいて辺りを見渡すと、凍り付いた路面の上に何者かが歩いている。

 

サグメ「…兎までいる」

 

霊夢「何よアイツ…月の民かしら?」

 

霊夢らに気付くと飛び上がり、こちらに近づいてくる。

背中からは右側だけ白い翼が生えており、何故か口元に手を添えている。

 

魔理沙「なぁ、お前達月の民は幻想郷をどうしたいんだ?何で月の都にお前くらいしか見当たらないんだ?」

 

サグメ「…喋るにはまだ早い」

 

無愛想にそう返した。

 

鈴仙「あ、サグメ様」

 

鈴仙は彼女の事を見知っていたようだ。

 

サグメ「まさか…汚らわしき地上の者と、そこへ堕ちた兎に可能性があるというのか…?試させてもらうわ」

 

片翼の翼をバサバサと羽ばたかせながら後ろへ下がると、自分の周囲に紫色っぽい陰陽玉を無数に展開する。

 

霊夢「陰陽玉…!」

 

陰陽玉一つ一つが更に4つの光の玉を装備し、回転しながら弾幕を放っていく。

霊夢たちの攻撃をふさぐようにサグメの周囲を飛び交う陰陽玉に4人は攻撃を加える。

 

霊夢「月の民と弾幕勝負なんて嫌な思い出が強いけど…私はあの時よりも2倍も3倍も強くなってる気がするわ」

 

魔理沙「私もだ、あの時みたいに勝てる気がしないってことは無いな」

 

サグメ(何と…)

 

霊夢と魔理沙は次々に陰陽玉を破壊していく。

早苗と鈴仙も互いに顔を合わせ、負けてられないと言わんばかりに開けた隙間を縫ってサグメに近づいていく。

 

鈴仙「サグメ様、やはり何か知っているようですね。でも負けませんよ、私はもう地上の穢れた兎…いや、普通の兎。今まで本当に狂っていたのは月の民の方…私は地上の力で浄化されたんだわ」

 

サグメ「…面白い事を言うわね」

 

早苗「蛙符『手管の蝦蟇』!」

 

早苗の背後に大きな半透明の蛙が出現する。

その蛙が口を開け、そこから更に小さな蛙の形をした弾幕をばらまく。

 

サグメ(地上の神の力を借りた攻撃ですか)

 

蛙のような弾幕はサグメを取り囲み、今にもその輪を縮め襲い掛かろうといった感じだ。

 

サグメ「”上手く不意を突いた攻撃、私はこのままやられてしまうかも”」

 

早苗「え?」

 

サグメがぼそりとそう呟いた瞬間、周囲の様子が一変する。

取り囲んでいた弾幕の一つが向きを変え、横を走る弾に激突した。

それを皮切りに、また一つまた一つと弾同士がぶつかり合い互いに消滅していってしまう。

 

早苗「い、一体どんな術を使ったのかしら…」

 

鈴仙「サグメ様の能力よ、確か語った事象を逆転させるみたいな…」

 

サグメの口に出すと事態を逆転させる能力。

何らかの事象に対して、特に関係すると思われる人物に向かって口にすると、その事象は逆に進み始めるのだ。

何かを成そうとしているのなら、それは尽く失敗するし、 悪い事が起きているのなら、何らかの打破が見られる能力である。

だが必ずしも自分に対して好転するわけでは無い。

 

霊夢「それは厄介ね。でも…」

 

霊夢は早苗と魔理沙に目線を送る。

すると2人は霊夢の意図に気付いたのか、頷いて見せる。

 

霊夢「優曇華、一応頼むわね」

 

鈴仙「…分かったわ」

 

4人は再びサグメの操る陰陽玉を壊すと、今度こそはと言わんばかりにそれぞれの大技を放つ。

これには流石にサグメも避けられる筈もない。

 

サグメ(確かに、これでは避けられない…だけど、私が口に出せば事態は逆になるわ)

 

サグメ「”~~~~、~~~”…!?」

 

鈴仙「喋ろうとしても無駄ですよ」

 

サグメ「!?」

 

霊夢「簡単よ、アンタは口に出す、つまり喋らないと能力が発動しない。だから、優曇華に舌を狂わせさせたの」

 

鈴仙(今分かったわ、きっとお師匠様が私を遣わしたのは、きっとこの時のためね…)

 

霊夢「さてと、本物の陰陽玉を味わってもらおうかしら?舌だけに。夢想封印!」

 

魔理沙「…マスタースパーク!」

 

早苗「白昼の客星っ!」

 

3人は立て続けにサグメに向かって攻撃を放つ。

明らかに焦った顔で口元を押さえていたが、口の中に指を突っ込みだした。

 

鈴仙「な…まさか無理やり狂いの力を解こうというの…!?」

 

サグメ「”この攻撃、私はまともに喰らってしまうだろう”」

 

まさに間一髪のところで、サグメは自らの力で鈴仙の能力を破った。

やはり月の賢者、いくら他とは違うとはいえ一匹の兎程度の力ならばすぐに無に出来るというのだろうか。

 

サグメ(危なかった…)

 

霊夢らの攻撃は、サグメが口に出したことによって先ほどの早苗の時のように互いに衝突し合い打ち消され合ってしまう。

 

霊夢「誰の攻撃を、よ?」

 

サグメ「さ、3人の…」

 

魔理沙「おせーよ」

 

しかし、霊夢と早苗の攻撃は打ち消されたものの、魔理沙のマスタースパークだけは何事もなかったようにサグメに直行していく。

そしてマスタースパークの光がサグメを包み込んだ。

 

魔理沙「やったか?」

 

光が過ぎ去った跡を魔理沙が目を凝らす。

そこには確かにマスタースパークが直撃したはずのサグメが、傷一つない状態で現れた。

 

サグメ「判った判った、もう充分よ。貴方たちが送り込まれた理由が判ったわ。きっと八意様の差し金ね、そんなに強いんですもの…貴方ならきっと…」

 

霊夢「ちょ、ちょっと。どういう事?」

 

サグメ「私は稀神(きしん)サグメ、月の賢者です。見てのとおり、月の都は凍結しています。これはある敵の侵略からの防御策なのですが…」

 

霊夢「アンタが幻想郷を侵略しようとしてる兎たちを指揮してるんじゃないの?」

 

サグメ「違うわ、本当に侵略されているのは月の都なの。それも、我々が手出しできない生命力の力を使ってね。全滅を回避するために移住を検討していたの。もっとも、月の民達はそんなこと知らないのですが」

 

霊夢「月の都が侵略されて、それで幻想郷を浄化という名の侵略?とんだご都合主義ね」

 

月の都を救う為ならば地上の事など気にしていない。

良く言えば大局重視、悪く言えば高慢な、月の民らしい性格が垣間見える。

 

サグメ「他の月の民は夢の世界に作った偽物の月の都に居ます。もちろん、彼らはそこが偽物の都ってことは知らないんだけどね。それで、幻想郷への遷都計画を立てていたのです」

 

鈴仙「うひゃー、遷都!?いやー、驚きすぎました。その事は地上に来ている月の兎は…」

 

サグメ「もちろん知らないわ。地上に月の都の別荘を作ろう程度にしか教えていない」

 

早苗「はあ、なる程。月の都も大変なんですね。まあ幻想郷は良いところですので引っ越しちゃっても良いかも」

 

サグメ「…そうですか。しかしもう遅い。私はサグメ…言葉で世界の行く末を変える存在です。私が喋ってしまったから運命はまた変わる。遷都は実現しないでしょう、月の都の命運は貴方たちに賭けるしかない。もう逃れられないわよ、ついに運命は逆さに動き始めた。切り札たちよ、いざ敵の本拠地、静かの海に向かえ!」

 

 

────────────────

 

ムジカ「何だ、グルカが負けたからどんなものかと思ったが…次のコイツはとんだ雑魚だったわけか」

 

藍「げふ…」

 

腹に強烈な一撃でも貰ったのか、腹を押さえてその場にうずくまっている藍。

その前に立っているのは、ミツルギの2番手、ムジカ。

ミツルギの中で唯一の女性で、閉眼している目が特徴的だ。

武器は肘まで包み込む銀色の鉄のナックルグローブ。剣での戦いではなく己の体術を武器に戦う。

ミツルギは剣士の集まりで、その中で剣を使わずともここに加わっているという事は、月の兵士でもそれなりの格闘術を使えるという事だろう。

 

とら「アイツ、手も足も出せねぇでいやがる…どうする?」

 

シロ「おい、藍。我らは既に一勝しておる、次で我が勝てば済む話だから無理はせんでいいのだぞ」

 

立ち上がろうとする藍に呼びかける。

 

藍「まさか、あのシロ殿から他人を気遣う言葉が出るとは思わなかったよ…。でも、これは勝ち負けの問題じゃないんです…紫様の式としての、従者としての気持ちの問題なんです!」

 

ムジカ「そうか、ならば私の舞拳でその気持ちごと沈めてやろう!」

 

ようやく立ち上がった藍の肩を軽く殴ると同時に向きを変え、背中に回り込みまた背中に一撃を叩きこむ。

 

藍「ぐ…!」

 

前によろける藍を確認すると、グローブをはめた拳を思いっきり地面に叩きつける。

拳は地面にめり込んでいき、勢いに任せてさらに深く腕を突っ込んでいく。

直後、ムジカは地面の中の腕から気を放出し、それは藍の真下の地面から掘りあてられた温泉の如く柱状に飛び出してきた。

もろに気の一撃が直撃した藍は衝撃によって吹っ飛ばされる。

 

ムジカ「むう、これでもまだやると言うのか。やはり浅ましいな、地上の妖怪」

 

ムジカは藍にそれを行ったのと同時にシロととらにも言いかけるように顔を向ける。

 

ムジカ「そうそう、前に寺で聖白蓮が起こした事件が有っただろう?白蓮にあれを吹き込んだのは私だよ」

 

シロ「…」

 

ムジカ「あ、あと…お前。さっきの私の技を見ていたな?もしお前がやられっぱなしではなく私に牙を剥くなら…さっきの技で幻想郷の至る所から気を放出し、人間妖怪問わず消滅させてやろうかな」

 

藍「卑怯な…」

 

ムジカ「分かったら負けを認めなさい」

 

再び藍の顔面を殴りつける。

 

くそ…逆らえば、幻想郷の無辜の民の命が消される…ここに住む全ての生き物に罪は無いのだから。

それをさせないためには、奴を一撃で倒せるか何をする隙をも与えないようにすればいい…

 

藍(だが、どうする…?)

 

そうだ、あるぞ…奴に何もさせずに勝てるかもしれない方法が…

 

藍「決して、負けなど認めるもんか…。式の私がこんな感情論を言うとおかしいかもしれないが、お前達月の民が思っているように地上の民は負けるようには作られていないんだ…」

 

ムジカ「だからどうした、負けなくても勝つことはできないのだろうが…」

 

藍「何せ、私の『切り札』ときたら…割と根性っていうのがドンとすわってるからな…」

 

 




サグメです。


ムジカの装備していたナックルグローブ

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