れいむとシロ   作:ねっぷう

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第69話 「俊に包まれ月に囲まれ」

藍「何せ、私の『切り札』ときたら…割と根性っていうのがドンとすわってるからな…」

 

ムジカ「黙れ、下郎が」

 

藍の足を靴の上から殴り、そのまま拳をグリグリと押し付ける。

 

藍「がァ…!」

 

ムジカ「ん?何か折れる音がしたなぁ?」

 

とら「ああ、もうわしは我慢ならん!ユカリとかいう奴なんてもうどうでもいい、アイツをぶっ殺してやる!」

 

とらは両手足の爪を伸ばし、そのままムジカに飛びかかろうと身構える。

しかし、それをシロが足を掴んで引き留める。

 

シロ「くくく、まぁ見ておれ…」

 

とら「…?」

 

ムジカ「もう飽きた。この気を込めた一撃で眠るがいい」ギュオ

 

ムジカは右腕に力を込めると、その腕の周りに気の渦が発生する。

するとその腕が縄のようにぐにゃりと捻じれていく。

気を込め、捩じった腕を一気に引き戻すときの回転力と共に一撃を打ち出すつもりなのだろう。

 

ムジカ「爆拳!」

 

そしてある程度溜めた後に膝をついたままの藍の顔面目がけて拳を打ち出す。

まさに爆発のような勢いで藍に向かって行く。

 

ガリィ

 

ムジカ「な…私の爆拳を、尾で受け止めただと…!?」

 

藍は咄嗟に背を向けたかと思えば、シロ程長くはないが、立派な9本の尾をムジカの一撃の前にかざした。

妖気を使い硬質化させた尾で受け止めたのだ。

しかし、流石にムジカの必殺ともいえる一撃の前には尾も耐え切れずに何本かが衝撃ではじけ飛ぶ。

 

藍「月の民よ、確かにお前たちは強く、気高い…。そんなお前達に見せてやるのがちょっと恥ずかしいが、是非見てくれ」

 

藍の頭上にサッカーボルサイズほどの大きさの魔法陣のようなものが出現する。

 

藍「私の自慢の式だ」

 

魔法陣より、何かが飛び出した。

その何かは周囲の竹を蹴りながらその場を縦横無尽に跳ね回る。

 

ムジカ「な…何だ…!?」

 

ザシュ

 

跳ね回りながら、ムジカの顔を引っ掻いた。

ムジカの頬に4本の爪跡が残され、血がにじむ。

 

ムジカ「げ…な、何だァ!?地上の汚物がァ…!?」

 

さらに立て続けに数回跳ね回ったのち、その何かはムジカの顔面を殴る。

 

藍「式神『橙』」

 

橙、八雲紫の式神である八雲藍の式神。つまり式神の式神。

普段は化け猫として過ごしているが、PCにソフトウェアをインストールするように、憑依させることで能力が向上する「式神」を藍に憑けられると藍の式として従うようになる。

その橙を、藍は呼び寄せたのだ。

 

ムジカ「卑怯な…!」

 

藍「卑怯だと?戦いとは己を技をたがいに活かしあってするものだ、お前もさっき自分の技で私を脅したろう、同じことだ」

 

そう喋っている間にも橙は周囲を跳ねまわり、ムジカに徐々にダメージを与えていく。

 

橙「藍様、大丈夫ですか?」

 

藍「ちょっと大丈夫じゃないかも。しかしよく来てくれたな、正直来てもらえるか不安だったんだが…」

 

ムジカ(な…来るかどうかもわからない手下を呼んだというのか…!?)

 

橙「藍様に負わせた痛み、お前も味わえ!」

 

ムジカ「くっ…!」

 

更に一発、二発とムジカをいたぶっていく。

 

ムジカ(落ち着け、落ち着くんだ私…敵をよく見ろ…)

 

ムジカは丁度目の前を通った橙を目でとらえた。

そして橙の動く方向を追いかけ、そのパターンを把握しようとする。

右に行く橙を追いかけ、頭上を飛び越えていく橙を追いかける。

 

ムジカ(よし、動きは分かった…ここだ!)

 

橙が再び目の前に通った時を狙って、そこに拳による連打を放つ。

 

ムジカ「あ…れ?」

 

不思議なことに、橙は目の前から姿を消した。

直後、橙が進んでいたはずの方向とは逆の方から橙の蹴りが炸裂した。

それを肩に喰らったムジカは横によろめく。

慌てて再び橙の姿をとらえなおし、目で追うがまた先ほどのように突然消えては思いも知らぬ方角から攻撃がやってくる。

 

とら「なるほど、錯覚を上手く利用してんだな」

 

シロ「ああ、同じ方向に一定の速さで動いているものを急に逆の向きに動かすと、相対してる者にはあたかもそれが消えたように見える、とかいう奴だな」

 

ムジカ(くそ…当たらん!)

 

ムジカは半分闇雲に腕を振り回す。

しかし、必ず近くに来るはずの橙には拳がかすりもせず、逆に煽るように顔を蹴られる。

 

ムジカ「速いんだよ、糞尿がァ~~~!!」

 

怒りに任せた一発を、背後を通過する橙の不意を突くように放つ。

 

藍「危ないだろう、私の式に何をする」

 

ムジカ「あ…」

 

そのパンチを片手で受け止めた藍。

そして藍はそのまま腕を振り上げる。

 

ムジカ「くっ…」

 

咄嗟にグローブで受け止める…が、藍の拳がグローブに触れた瞬間、グローブにピシリとひびが走った。

ひびは勢いよく広がっていき、ついにはグローブの先端が崩れた。

 

ムジカ「そんな…私のグローブが…!」

 

今まで数多の敵をねじ伏せて来た、自分の無敵の武器が壊れた。

信じられない…ムジカは驚きの余り目を見開いて崩れかけたグローブを見つめる。

 

ドムン

 

次の瞬間、今度は藍のパンチがムジカの顔面をとらえた。

拳が鼻を押しつぶしながらめり込んでいき、藍はそのまま力を込め、ムジカを勢いに任せて地面に叩きつける。

後頭部を打ち付ける形で仰向けに倒れると、そのまま動かなくなった。

 

藍「ふ~…」

 

二戦目、八雲藍は一戦目に続き勝利をおさめたのだ。

 

とら「よっしゃ、これで3戦のうち2戦勝った。もうわしらの勝ちは決まったな」

 

シロ「…ああ」

 

グルカ「…大丈夫か?」

 

先ほど目を覚ましたばかりのグルカがムジカに駆け寄る。

 

ムジカ「…ああ…私の負けだ…」

 

グローブを外した手で鼻血を拭きながらそう呟いた。

 

ダイト「…何と、地上の民に…精鋭のミツルギが敗れるとは」

 

どうすれば勝てた…?俺が最初に行くべきだったか?

いや、どちらにせよ俺でも奴らをどうにかすることはできなかったかもしれん…。

 

シロ「…どうした、もう勝負はついているぞ?」

 

シロがふと後ろを見ると、ミツルギの三番手だったダイトがマントを脱いだ状態で立っていた。

マントを着ているときからでも分かっていたが、他のメンバーと比べてかなり体格がデカい。

筋肉質の背の高いダイトの前に、彼の身長の半分ほどある太刀が浮かんでいる。

ダイトの能力は剣を触れずに扱う事が出来るのだ。

 

ダイト「白面の者とやら、お前は確か三番手だったな。俺も三番手だ。もしよければ…一度手合わせ願えないだろうか。単純に一人の剣士として、お前と戦ってみたくなってきた」

 

シロ「けけけ、良かろう…すぐに叩きのめしてくれる」

 

とら「面白れぇ、大将同士の戦いだ」

 

グルカ「頑張れよ、ダイトォ!」

 

ダイトは刀の先をシロに向け、シロも姿勢を低くして9本の尾を展開する。

だがその時、再び地上の者の力を奪う月の光が上空から照射された。

 

藍「な…」

 

橙「ち、力が抜ける~…」

 

月の光を浴びた藍と橙はその場に崩れ落ちる。

 

ダイト「…戦艦にはミツルギ以外にあの光を扱える者は乗っていなかったはず…誰が操作している!?」

 

「一諾千金…一度承諾すれば、それは千金にも匹敵する重みがある。ミツルギよ、私が言いつけた任務を失敗しましたね」

 

シロ達のすぐ後ろから声が響く。

ミツルギらは驚いた様子でそちらに振り向き、シロもそれにつられてゆっくりと振り向く。

全周のつばのついた白い帽子を被り、シャツのようなものの上に、左肩側だけ肩紐のある、青いサロペットスカートのような物を着ている。

 

藍「お前は…覚えているぞ、あの時の…!」

 

綿月豊姫「貴方は確かあの妖怪の式。久しぶりね」

 

綿月豊姫、月の使者のリーダーの一人である。

 

ダイト「豊姫様…何故こちらに!?」

 

豊姫「ずっと見てたわよ、見苦しかったわ。 月の精鋭隊でもあるミツルギが、立て続けに悍ましい獣に負かされていくのはね」

 

シロ「…」ピキ

 

シロ(…?何故だ?)

 

豊姫「幾多もの死で満たされた土…無限の生で穢れた森。本当は足を付けるだけでも心底虫唾が走るのだけど…」

 

シロ(何故、我はこんなに…)

 

腹の下からじわじわと湧き上がってくるその苛立ちが、シロには何故湧いてくるのか分からなかった。

 

豊姫「それに比べて、今も空に美しく輝いている月は本当に綺麗だわ。地上の民のように愚かな者など居ないし、こんなべたべたした地面なんてどこにもない」

 

空に浮かんでいる月を仰ぎ見ながら、目をつむってその場で軽くクルクルと回った。

まただ…とシロは頭を押さえた。

 

豊姫「だけど、その月の都を悍ましい生命力を用いて穢れの地とした妖怪が居るわね。お前よ、白面の者」

 

とら「おいコラ…そもそもコイツがどうやってテメェらの言う月の都ってのを侵略するってんだよ?コイツは昼間まで月に人が住んでるって事すら知らなかったんだぞ?」

 

豊姫「何故でしょうね、でもその侵略者と白面の者は同じ波長があったの。あらかた、白面が自分の化身でも遣わしたんだわ」

 

とら「でもおかしかねぇか…コイツが月を知らねぇんなら、その化身とやらも月を知っているハズねぇだろ…」

 

豊姫「さぁ、おしゃべりは終わり。今より地上ごと白面の者を消滅させます」

 

豊姫はふわりと浮かび上がると、一気に戦艦の艦首に当たる部分まで上がる。

艦種に降り立つと、取り出した扇子を広げて見せた。

 

藍「アレは…前に聞いたな、森を一瞬で素粒子レベルで分解する扇子…」

 

かつて八雲紫を脅すのに使った、月の最新技術を使って作られた兵器。

自分の主人である紫をひれ伏せさせたのだ、忘れるはずもない。

 

豊姫「よく覚えていたわね。この飛空戦艦の砲撃も、この扇子の風と同じ原理なの。それを扇子程度の風でなく、戦艦の砲撃レベルの威力で放ったら…どうなるか分かるわよね?」

 

ムジカ「豊姫様…我らは、地上に残った兵士たちはどうなるのですか!?」

 

ムジカが焦った様子で豊姫に大声で呼びかける。

 

豊姫「グルカ、まさかその剣で斬ってきたのは格下の兵士ばかりではないでしょうね?ムジカ、玉兎の出であるということを恨んで自分の耳を千切ったというのも有名な話ね。せめて耳が残っていれば可愛げもあったんだけど…」

 

ムジカは自分の頭を触った。

 

豊姫「ダイト…騒ぎが起こる前に家族に何かしてあげた?心残りは無い?」

 

ダイト「我らごと地上を焼き払うつもりか…豊姫様は乱心か!?」

 

その時、戦艦の2枚の翼の間に縦に並ぶように設置された砲が伸び、砲の穴がカシャンと広がっていく。

そして開いた主砲に光が集まっていく。

 

豊姫「さようなら」

 

直後、主砲より砲撃が発射された。

閃光のような光と共に発射された砲撃はシロ達に真っすぐ向かい、着弾すればシロ達ごと竹林とその周辺が吹き飛んでしまうだろう。

 

藍「くっ…」

 

藍は怯える橙を庇うように抱き、背中を向ける。

とらもさすがにヤバいと感じたのか、今にも走り出しその場を離れる態勢をとっている。

ミツルギも諦めたようにその場に立ち尽くすだけだ。

 

シロ「…」

 

だがシロだけは、ただじっとその砲撃を睨んでいた。

尾の内の一本を激しくくねらせながら、パキパキという音が鳴り始める。

 

シロ「…『くらぎ』!!」

 

その尾が赤く変色していき、巨大な蟲のような化物…妖怪に変化した。

そしてその尾から変化した妖怪は戦艦の砲撃に真っすぐ向かって行った。

 




今回次回と続いて豊姫がかなり嫌な奴になっちゃってます。ごめんなさい。
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