れいむとシロ   作:ねっぷう

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第7話 「仇」

シロ「…くっくっく…」

 

霊夢「…」クカー

 

腹を出していびきをかきながら眠っている霊夢の顔を覗き込むように近づくシロ。

振り上げている手には、明らかに殺意のある爪が光っている。

 

ビシュ

 

霊夢「はっ!」

 

その爪を霊夢の顔に振り下ろす。

が、霊夢は寸での所で起き上がり、爪は布団を貫通して畳に突き刺さった。

 

霊夢「シロ、あんた!」

 

シロ「チッ、昼間は油断させておいたのに…」

 

霊夢「あんた、まだ私を殺そうとしてるの?」

 

シロ「その通りだァ、どんな手を使っても貴様をこの手で殺すのが我の楽しみなのだからな…よいか、我には貴様に対する憎しみしかないわ!」

 

シロは床に刺さった爪を引き抜きながら言った。

 

霊夢「くそーッ!」

 

シロ「お、我を憎んだな?それが我の悦びよ!!」

 

霊夢の自分に対する憎しみが増えたのを感じ、愉悦の表情を浮かべるシロ。

そのままもう一度爪を振り回し、霊夢はそれを避けようと後ろに飛びのくがシロはそれを読んでいたのかもっと深く腕を伸ばしてきた。

 

霊夢「いっ…」

 

シロの爪が霊夢の顔を引っ掻いた。

血が流れ、霊夢はその場に倒れ伏してしまう。

 

シロ「我を憎めよ、霊夢…」ヒュオ

 

霊夢「くそ…くそ…」

 

シロは開いた戸から外へ出て行ってしまった。

 

 

 

─翌朝

 

霊夢「あーあ…目は無事だったけど、深い爪跡4つも顔に…」

 

鏡を除くと霊夢の顔の右半分にシロの4本の爪の傷が深く残っていた。

これはずっと残っちゃうかな…。乙女の顔にこんな傷をつけるなんて…!

 

霊夢「もう怒ったわ!妖怪は妖怪!!ぶっ倒すしかないわね…」

 

霊夢は鏡の前で腕を振り回しながらそう呟いた。

 

 

シロ「けけけ、あの娘、今頃怒っているだろうな…このまま少しずつ傷をつけ、奴の憎しみや怒りが頂点に達したときに脳天から真っ二つに引き裂いてやろう…」

 

その様子を神社の上空から見ていたシロ。

怒っている霊夢を見て気味の悪い笑みを浮かべながら、シロはどこかへ飛び去って行った。

 

 

 

妹紅「霊夢、居るか?」

 

朝の博麗神社には非常に珍しい来客が来た。

妹紅は何やら忙しそうな様子で縁側に身を乗り出すと霊夢を呼んだ。

 

霊夢「…あら、珍しいじゃないの。アンタが来るなんて」

 

妹紅「霊夢は2週間くらい前に人里で骸骨妖怪を倒しているな?」

 

奥の方からやってきた霊夢に突然そのことを言った。

 

霊夢「え、えぇ」

 

妹紅(霊夢の背後にある、悪意に満ちた妖気の影は…間違いない…私が捜している獣の妖怪…!)

 

確かに、霊夢の背後にはシロの気の跡が残っていた。

それもくっきりとよくわかるぐらいに。

 

妹紅「その時霊夢は妖怪と共に居たと聞いた。その妖怪の事を教えてほしい…複数の尾を持つ獣の妖怪を!」

 

霊夢「な、なんで教えなくちゃいけないのよ?」

 

妹紅「私は20年前からその妖怪を探している…寺子屋の子供たちを全員食って、慧音も半殺しにしたそいつを…。慧音の悲鳴を聞いて私は駆け付けた。そして教室のドアを開けた瞬間…その獣は闇の中から飛び出した!飛び様に私の背中を爪で切り裂いてな…」

 

妹紅はシャツを捲って背中の傷を見せる。

背中には痛々しくえぐれた傷跡が3本、斜めに刻まれていた。

 

霊夢「あれ、でもアンタって不死だからどんな傷も治せるんじゃ…」

 

妹紅「ダメなんだ、アイツの攻撃は蓬莱人の能力さえも超越しているからな…」

 

そんなに強いのか、それとも蓬莱人でも厄介な能力を持っているのか。

霊夢は悔しそうな表情を浮かべる妹紅を見て黙り込んでしまった。

 

霊夢「…」

 

妹紅「あの獣の妖怪を…この手でどうしても倒したい…私とも仲が良かった子供たちの仇を取りたい…!」

 

霊夢(確かに複数の尾を持つ獣の妖怪で私と一緒に里に居たとすれば間違いなくそれはシロ…!だけど、おかしいわ…シロは私が封印を解くまで500年も本殿の下に居たんだから、10年前に寺子屋の子供たちを殺せるわけがない…)

 

妹紅「お願いだ、20年間手がかりが無いんだ…」

 

妹紅は縁側に座ったまま霊夢の服の袖を引っ張った。

必死に懇願する妹紅の姿に、霊夢は思わず喋ってしまいそうになる。

 

霊夢(シロは違うって言わなきゃ…)

 

霊夢「そ、その妖怪は…!」

 

『その通りだァ、どんな手を使っても貴様をこの手で殺すのが我の楽しみなのだからな…よいか、我には貴様に対する憎しみしかないわ!』

 

『我を憎めよ、霊夢…』

 

夜のシロの言葉を思い出す。

 

霊夢(私はシロとこれから上手く折り合ってやっていけるんじゃないかって思ってたわ…でも…もうアイツは関係ないわ)

 

霊夢「私その妖怪知ってるわよ!」

 

妹紅がシロを倒してくれれば私の手間が省けるわ…。

そう自分に言い聞かせ、霊夢は妹紅にシロの特徴や得意技を話した。

 

霊夢「そいつは強力な炎を吐くのよ…顔も体も髪も真っ白で赤い目を持ってるわ。私も手を焼いてるのよ」

 

 

ミーンミーン

 

霊夢がシロについて説明した後、妹紅は礼を言うとシロを探しに帰っていった。

それを後ろから見送って、縁側で冷たいお茶を飲むと、そこに寝転がる。

 

霊夢「シロ…ふん、アンタが悪いのよ」

 

寝返りを打ちながら霊夢はぼそりと呟いた。

 

 

迷いの竹林─

 

妹紅は俯きながらフラフラと竹林の中を歩き、背の高い竹を背にその場に膝を立てて座り込む。

 

妹紅「…出て来いよ、さっきの話を聞いてたんでしょ?」

 

シロ「ふん、不老の人間か…だが不死という事は永遠に我の餌になるということ」

 

妹紅が、周囲に誰も居ないはずなのに、近くにいる何者かに話しかけるような感じで喋り出した。すると周囲の竹がゆらりと歪み始め、それは蛇の身体のように揺らめく九本の獣の尻尾と化した。

 

シロ「ん…貴様、笑っておるのか?」

 

茂みから姿を現したシロは、そう妹紅に解いた。

 

妹紅「死ぬほど会いたかった奴に遭えたんだよ…」ニタァ

 

妹紅の形相は、復讐する相手に会えた歓びで意図せず笑っていた。

変な奴だ、とシロはそれを睨みつけた。

 

妹紅「やっぱりお前はあの時の影にそっくりだ…複数の尾を持つ獣の妖怪…」

 

シロ「ほう、我は知らぬが我を憎んでいるようだな…だがな、その憎しみが我にとっての糧となるのよ!!」

 

シロは足を伸ばすと滑空するように飛び跳ね、そのまま妹紅に飛びかかる。

しかし、妹紅はポケットに手を突っ込んだままそれをどうこうしようとする素振りは無い。

 

妹紅「『禁』!!」

 

シロ「ぬ…!」

 

妹紅がポケットから御札を取り出しそう叫ぶ。

すると今まで空中を浮遊していたシロが突然地面に落ちた。

 

妹紅「『禁』は能力を禁ずること。鳥に禁ずれば飛ぶことができなくなり、犬に禁ずれば噛むことができなくなる…」

 

確かに、我が力を使おうとしても飛ぶことができない。

 

シロ「我が浮けなくなったとて何だというのだ…?この白面の者がどうにかできるとでも!?」ボオオオオオ

 

シロは周囲の竹もろとも妹紅を焼き尽くそうと特大の火柱を放つ。

だが妹紅にいくら火炎を浴びせようとも、まるで水が油にはじかれるように全く手ごたえが無い。

流石におかしいと思って妹紅を見る。

 

妹紅「火炎を扱うのも私の能力の一つよ…さぁ、私の20年分の憎しみを喰らうがいい!!」

 

シロ(何が来る…?)

 

妹紅「不死『火の鳥-鳳翼天翔-』!!」

 

火の鳥を模した炎の弾幕がシロを襲う。

 

シロ「ほう、ここの地の者どもは我の知らぬ珍技を使うな…だがな、我は陰より生まれし大妖怪…怒りや憎しみ、恐怖を込めた攻撃は通用せぬわ!!」

 

シロは9本の尾を振り回し炎の弾幕を一掃する。

炎は大量の水を受けたようにじゅわっと消え、その煙に紛れてシロは再び妹紅に飛びかかる。

 

妹紅(憎しみのこもった攻撃は効かないだと…!?たとえ通用しなくても、お前が殺した子供たちの分を叩きこむだけ!)

 

 

─次の日

 

妹紅「はぁ…はぁ…奴め、結構ねばるわね…」

 

あれから夜になり、その夜も明けて朝になっていた。

これまで2人は闘い続けていたのだ。

ややフラフラになりながらも、妹紅は右手に炎、左手にお札を持ちながらどこかに隠れてこちらの様子を伺っているであろうシロを捜している。

 

シロ(くそォ、この我の慢心か…不死身の人間がここまで厄介だとは想像できなかった…)

 

一本の竹から伸びる細い枝に化けて隠れているシロ。

そう、何度妹紅の身を切り裂こうが、これまで致命傷を負わせられた感覚は無い。

一応少なからずダメージは蓄積できているようだが…。

 

 

博麗神社─

 

霊夢「昨日の妹紅、凄かったわね…。初めて会った時よりも、なんていうか凄みがあった…」

 

…あの妹紅にはシロも勝てないわよね…。霊夢は敷いたままの布団をたたみ、朝食を用意する。そして朝食を食べ終えどこか上の空のまま神社の前の掃除を始めた。

といっても、ほぼやってるふりに近いのだが。

 

ミーンミーン

 

軽い昼食をとった霊夢は午後の日差しを浴びながら縁側で昼寝をしていた。が、どうもうまく寝付けない。何度も寝返りを打ちながら、霊夢は考えた。

 

霊夢(いや、私は嘘をついた…20年前にはシロは神社の下に居た…何かをできるはずがない…)

 

霊夢「あーもう、ムカムカするわね!私は嘘をついた…だからその誤解を解きに行くだからね、シロ!」

 

ガバッと飛び起きると、霊夢は出かける支度を始めた。

 

 

 

シロ「きええええ!!」ボオオオオ

 

もう夕暮れ時か。

それでも2人は戦いを辞めない。シロは苦し紛れの炎を吐きつけた。

 

妹紅「『禁』!お前の火炎を吐く能力を禁ずる!」

 

シロ「ぐえ…炎が…!」

 

飛ぶことを禁じられ、ついには火炎を吐くことも禁じられたシロ。既に全身に御札が貼りつけられており、片足もあらぬ方向に曲がっている。

だが、いくら不死身と言えど妹紅も弱ってきているのは確実。シロの強力な妖気を込められた攻撃は治癒を非常に遅らせるのだ。

 

シロ(くっ…力が入らぬわ…)

 

妹紅「ここまで追いつめたわ…さぁ、トドメよ…」

 

妹紅は地面に突っ伏しているシロのうなじに、炎を付けた手先を振り下ろそうとする。

 

霊夢「待ちなさい!」

 

だがその時、竹林の上から霊夢が降りて来た。

 

妹紅「…霊夢か、どうした?」

 

シロ(くくく、アイツの注意がそれた…今のうちに…)

 

妹紅の気が霊夢に行ったすきを見てシロは這いずるようにその場から逃げようとする。

しかし、それに気づいた妹紅が慌ててシロに向かって歩いてくる。

 

霊夢「そいつは妹紅の仇じゃないわ!」

 

シロ「…」

 

妹紅「…何だと?」

 

驚いて様子で妹紅は動揺する。

 

霊夢「この妖怪は一か月くらい前に私が封印を解くまで、ずっと博麗神社の下に居たの!500年もよ!だから20年前に寺子屋の子供たちを殺したのはこの妖怪じゃないわ!」

 

妹紅「…」

 

霊夢「ごめん、もっと早くに言うべきだったわ…」

 

ゴキャ

 

霊夢「いたっ…」

 

妹紅「ふざけるな!!」

 

妹紅は怒号と共に霊夢の肩を殴る。

 

妹紅「20年も探してきてやっと、ついに本当に見つけたと思ったら…また違うだと?ふざけるなよ…。いや、やっぱりこいつだ、9本の…尾…?」

 

霊夢「いや、違うわ!昨日見せてもらったアンタの背中の傷は3本!しかもかなり大きな手で引っ掻いたみたいな!でも、私が昨日付けられた傷は小さいのが4本よ!」

 

自分の顔の傷を触りながら霊夢は妹紅を説得しようとする。

妹紅も眉をひそめながら、確かに…といったように口元を手でおさえる。

 

シロ「ふん、誰が助けろなんて言うたか…?」

 

シロは相変わらず地面に突っ伏したまま、震える声でそう言った。

それに霊夢は何か意味あり気な視線をシロに送った。

 

霊夢「アンタには、割と助けてもらってるからね…」

 

シロ「…なんて言った?」

 

妹紅「『フジヤマヴォルケイノ』!いや、その妖怪を倒さないと私の気が収まらぬわ!!」

 

妹紅はまるで火山の噴火のような業火を、霊夢とその背後にいるシロごと焼き尽くさんとばかりの勢いで放つ。

 

霊夢「アンタも分からない奴ね!それなら私だって!霊符『夢想封印』!!」

 

妹紅の炎をかいくぐり、霊夢は自分のスペルカードを発動する。

それは弾幕をかき消すように突き進んでいくと、その向こうの妹紅を吹っ飛ばした。

 

妹紅「ぐえ…!」

 

吹っ飛ばされた妹紅は地面で数回バウンドした後、ズザーッと地面に倒れ込んだ。

数秒間を置いてから立ち上がると、顔についた血を袖で拭いた。

 

妹紅「そうか、違うんだな…お前を倒すのは…仇でもなんでもない、ただの殺しだ…」

 

シロ「だが途中からお前は気づいたな、我がその仇の妖怪ではないと」

 

妹紅「そう、途中で気付いたのよ…あの時の妖怪は確かに複数の尾を持っていた。だけどあの妖怪は8本、この妖怪は9本…。それに、お前は暗い夜でもその白い体が輝いている…だけど仇の妖怪は暗闇の中で漆黒だった…」

 

シロ「…」

 

妹紅「謝ろう、ごめんなさい」

 

妹紅はシロに向かって頭を下げた。

シロはそれを腕を組んで黙って聞いた。

 

妹紅「だがな、忠告しておこう。お前の事を異常に警戒している奴らが居る。そいつらに地獄行きにされないようにね」

 

シロ「ならばその人の言う地獄とやらで我は頂点に立って見せよう」

 

妹紅「…ふ、ふん、結構な事ね…」

 

霊夢「それで、妹紅はどうするの?」

 

妹紅「そうだな、最近は外からやってくる妖怪が多い…もうしばらく探してみるよ」

 

霊夢「うん、ゴクロウさん」

 

妹紅「すまなかった。それじゃあ」

 

 

妹紅「シロっていうのか…あの妖怪」

 

夜、妹紅はそんな事を言いながら、ようやく今日の仕事を片付けた慧音のもとへタケノコを持ってやって来た。

 

慧音「お、今日はどうしたんだ?」

 

妹紅「何でもないよ。はい、これタケノコ。それとさ、ちょっと凄い妖怪に会ってさ…」

 

 

 

 

夜中─

 

霊夢「…」クカー

 

シロ「くく、今度こそ殺してやろうか…」

 

その日の夜中、また眠る霊夢の枕もとで爪を光らせるシロ。

今度こそは…と爪を振り下ろす…が。

 

霊夢「…むにゃ…何やってんのシロ…」

 

まずい、目が覚めたか?…いや、寝言か…。

それを見て何回か腕を振り上げたり下げたりしたあと、ゆっくりと少し後ろに下がった。

 

シロ「…ちっ、殺すのはしばらくやめてやる…」

 

シロは霊夢の顔についた傷に触れた。すると不思議なことに4本の傷は瞬く間に消え、元の普通の肌に戻っていった。それを確認すると、開いた戸から外に出ていった。

明るい三日月が浮かぶ空に、一匹の白い妖怪が浮かんでいた。

 

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