れいむとシロ   作:ねっぷう

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第70話 「憤怒泥濘」

シロ「…『くらぎ』!!」

 

きた。この土壇場で尾に変化を感じた。

自分の化身の名を叫びながら、その尾を振るう。

2本の毛の生えた頭角、万力のようにかみ合わさている大顎の上から伸びる長い触角、そして棘の生えた鎌のようにゆるく湾曲した脛節、真っ赤な地にに黒い斑点模様の背甲殻と腹甲殻の間から伸びるバッタのような長い脚。

 

「キエエエエエエエエエエ」

 

そのくらぎという化身は尾から分離すると、こちらに向かってくる戦艦の砲撃に真っすぐ向かって行く。

そして砲撃が、くらぎの背中に命中する。それを見ていた藍たちは、あっと息を呑んだ。

砲撃が、あの威力の砲撃がいとも簡単に跳ね返っていったのだ。

跳ね返した砲撃は戦艦の方へ威力はそのままに戻っていく。

 

豊姫「…!」

 

咄嗟に豊姫は艦首から飛び降り、戦艦の真下まで一瞬で移動する。

その直後、跳ね返った砲撃が、それを放ったはずの飛空戦艦に命中した。

戦艦の装甲が砕け、主砲が取りつけてある翼はボコボコに曲がってしまった。

森を一瞬で素粒子レベルで分解する砲撃だが、やはり自らの技術で滅びはしないのだろう。

 

ダイト「…助かった…のか?」

 

豊姫「…一体どんな術を使ったの?」

 

豊姫が再びシロ達の前に降り立つ。

当然だ、自分らの最新技術で作った兵器がたかが地上の妖怪に簡単に跳ね返されてしまったのだ。

 

とら「くらぎ、かよ…」

 

シロ「…ああ」

 

豊姫「もう戦艦も使い物にならない…。ならば、月の通路に留まっている軍隊を一瞬で連れてきて、この穢れに満ちた地上を…」

 

シロ「ダマレ」

 

豊姫の話を辞めさせるように、シロは震えた声でそう言った。

そしてこちらを向いた豊姫にズカズカと近寄り、下から睨めあげるように顔を近づける。

 

豊姫「…何のつもり?」

 

シロ「月の民、のリーダーだったな…お前に言いたき事がある」

 

 

─月の飛空戦艦艦内

 

紫(はぁ…藍たちは大丈夫かしら…?シロも月の民にやられてなければいいけど…)

 

ゴゴゴゴ…

 

その時、戦艦が大きく揺れた。

緊急用のサイレンが鳴り響き、紫が居る部屋の外から乗員が慌てふためく声が聞こえる。

何かの攻撃を受けたのか?しかし、まさか月の戦艦がこれほどの衝撃を受けたとは…。

そんな事を考えていると、自分が居る部屋よりもずっと下から何かが崩れる音が聞こえている。

ガン、ガンとそれはどんどん近づいてきて、ついにこの部屋の床と壁をぶち壊してきた。

現れたのは大きな甲虫のような妖怪、くらぎだった。

 

紫「あっ…」

 

いつの間にか声が戻っている。

藍たちが先ほどの三剣士に勝ったのだろうか。

 

紫「シロの…分身ね?」

 

くらぎはシロのものに酷似した白い毛の生えた尾の先で紫を掴むと、再び壁を突き抜けながら外へ出ていった。

 

 

 

そのころ、表の月。

月には表と裏があり、表の月はいつも我々人間が見たり、月面探査などに赴く一般的な月である。

対して裏の月は我々では決してたどり着くことのできない世界で、月の民は通常裏の月に都を構えている。

表の月と裏の月は地上でいう現実世界と幻想郷のような関係で、我々が幻想郷に行けないように普通は裏の月に行くことはできない。

 

「はあはあはあ…なんで…?」

 

霊夢「もう勝負あった、妖精にしては凄かったけどアンタの負けよ」

 

「生命の象徴である純化した妖精がここにいる限り、月の民は手も足も出せないって言ってたのに」

 

地獄の妖精、クラウンピースは疲れ切ったようにその場で手で膝をつく。

 

鈴仙「ねぇねぇ、その話誰から聞いたの?」

 

「ご主人様の友人様よ。友人様の力によって純化して貰って月の都を襲ったの」

 

どうやらその友人様とやらが今回月の都を襲った張本人で、この妖精たちはその友人様に純化とやらの力を受けて元から生命力の象徴だった妖精を更に生命力の塊にしているらしい。

確かにここの妖精達は穢れまくっている。いや、穢れその物といってもいいレベルだわ。

このレベルで攻められると都は榛穢(しんわい)化するかもしれないわね…。と鈴仙は思った。

 

魔理沙「でも残念だったな、月の民はお前みたいな生命力を嫌うかもしれないが、私達は月の民じゃないからなぁ」

 

「月の民じゃないって…まさか、貴方様達はもしかして地上人!?」

 

急に驚いた様子で叫ぶ。

 

早苗「そうよ、地球人よ」

 

「なぜこんな場所に地上人が…?話が違うわ」

 

魔理沙「しかし、月の民が生死を嫌うなら人間だって死ぬぞ?」

 

「もちろん、普段は妖精程度でここまでやられることは無いんだけど、今は純化して貰ってるからね。ちょっと触れただけで穢れて嫌なんじゃない?月の民的に」

 

鈴仙「まとめてみましょう。その敵は月の民のクリティカルな弱点を知っていて、生命力の象徴の妖精を使って都を占拠した…」

 

「でも、あんた…いや、貴方様も月の兎なのにどうして私が平気だったのでしょう」

 

鈴仙「私はもう…地上の兎だからね。もう既に穢れているから平気なのよ」

 

霊夢「とりあえず、その友人様とやらのところまで案内してくれるかな。とりあえずそいつを倒せばいいんでしょ?」

 

「えー、もう疲れたよー。連れて行ってあげるから休ませて…」

 

半ば強引にクラウンピースを友人様の所まで案内させた。

だが、これより会う事になる敵の正体を、霊夢たちは思いもしなかった。

 

 

 

豊姫「私に言いたいことがある?何かしら?」

 

シロ「先刻から、地上が穢れてるだの愚かだのと言っておるな…。それに関して言ってやろう」

 

そう低い声で言うと、シロは豊姫から少し離れる。

 

シロ「かつて、世がはっきりと出来上がる前、国はまだ形を保っておらぬ『気』であった」

 

それを仏頂面のまま黙って聞く豊姫。

後ろに居る藍やとら、ミツルギもその話に耳を傾けている。

 

シロ「そしていよいよ国ができ始めた。そこで澄んだ清浄な気は上へ昇って今の世となり、濁った邪な気は下に溜まり、次第に形をとっていった。そしてようやく今の世が出来上がった時、我も出来上がった。濁った気は下で溜まって何になったか、理解できるな…?」

 

豊姫「だから、何が言いたい?」

 

シロ「お前達は地上を貶し、罵ったな。では…ではそれならば…我はどうなんだよ?」

 

豊姫の胸ぐらを掴みながらシロが問いかける。

赤く光りながら下から恨めしそうに睨めあげる目を見ても、豊姫は全く動じないままだ。

 

シロ「おい、我はどうなんだって聞いてるんだ…言えよ。ええ?言ってみろよ…コラ」

 

シロを中心に周囲の空気が渦を巻くように蠢いていく。

今は真夏のはずなのに地面に霜柱が発生し、それになんだか急に寒くなって来た気もする。

 

とら「おい落ち着け!」

 

とらが怒りに身を任せるシロを止めようとする。

その時、シロが立っている地面の下から、何か尖った物が何本も突き出してきた。

どうやらそれは刀の刀身で、真っすぐなものから身に返しのついた鋭利なものまで様々だ。

その地面から現れた刀がシロの身体を無数に貫いた。

 

シロ「お…ぎゃ…!!」

 

剣はシロを突き上げ、そのまま空中で固定してしまう。

 

「これは女神を閉じ込める、祇園様(ぎおんさま)の剣。今回は閉じ込めるではなく、固定するのに使わせていただきましたが」

 

豊姫「あら、来てくれたの。依姫」

 

いつの間にか現れた女。剣を地面に差し込み、この祇園様の力とやらを使ったのか。

 

依姫「呼んだのは姉様でしょう。月の通路に待機していた戦艦に乗っていた私の目の前にここに通じる道を広げて」

 

藍「…月の民のリーダーが2人も…!」

 

依姫「動いてもいいんだぞ、白面の者。ま、祇園様の怒りにふれもっと苦しむことになるがな」

 

シロ「…お前…」

 

ほぼ豊姫の色違い版のような服装だ。

依姫は豊姫の妹で、姉妹揃って月の民のリーダーである。

豊姫は山と海をつなぐ能力を持ち、依姫は神様をその身に降ろして力を借りることができる。豊姫は後方支援、依姫は侵入者や敵を直接迎え撃つ実力派といったところか。

 

とら「何だてめぇは?そいつを離せよ!!」

 

とらは依姫に向かって殴りかかる。

が、突如とらの前に龍の形をした炎が現れる。

 

とら「な、何なんだ…?」

 

依姫「妖怪が八百万の神に敵うはずがない。『火雷神(ほのいかづちのかみ)』よ、その力を振るい我らに手を上げようとしたことを公開させよ!」

 

とら「けええええ!!」

 

とらは龍の炎に向かって、自分の炎を吐きつける。

さらに身体から雷を放って攻撃を仕掛ける。

が、更に7つの龍の首の形をした炎が現れ、容易に炎をかき消す。

そして龍が身をくねらすと周囲に雷が落ち、それはとらの雷と激突しはじけ飛んだ。

 

とら「駄目か…」

 

依姫「やはり地上の悍ましい妖怪…我らの月の光を浴びても平気だったと聞いてどんなものかと思ったけど、面白くないわね」

 

炎の龍の首がとらに襲い掛かる。

とらもそれを避けようと駆け出すが、間に合わず炎に包まれてしまう。

 

とら「ぐぅ…!」

 

藍「とら殿!くっ…」

 

藍は腫れていてまだ痛む腕を庇いながら周囲に発生させた光の玉からレーザーのようなものを放つ。

 

依姫「愛宕様(あたごさま)の火よ、同じくあの妖怪も焼き尽くせ」

 

藍「うわっ…」

 

依姫の右腕が火に変わり、レーザーを避けながら火の腕で藍に掴みかかる。

藍は間一髪でそれをしゃがみながら避けるが、直後に目の前まで迫っていた依姫の足が藍を顔面から蹴り上げた。

 

依姫「もろに喰らったか。鈍くて…哀れですね」

 

ダイト「やはり綿月様二人はおかしくなっているようですね、あの侵略者によって!」

 

依姫「何をバカなことを、地上に来ておかしくなったのはお前たちの方では?」

 

豊姫「どう?貴方を助けようとしたこの愚か者はすぐにのされてしまったわ」

 

シロ「…」

 

豊姫がシロの耳元でそう囁くが、シロはただ2人を睨みつけるばかりだ。

 

藍「シロ殿…今助けます…」

 

藍はシロに刺さっている祇園様の剣を殴り、壊そうとする。

が、当然藍では剣をどうにかすることなどできず、祇園様の怒りに触れた事で吹っ飛ばされてしまう。

 

シロ「余計なマネはするな…我はお前などに仮など作りとうはないわ!」

 

藍「確か、里に向かった虫の妖怪を倒したそうですね…」

 

シロ「いつの話だ?」

 

藍「妖怪の山では新たに居着いて力を振るう土地神を静め、地底では旧都を襲った竜を倒したそうな…」

 

シロ「何を言っておる、そんなのは全部霊夢につられてやったのだ!」

 

依姫「祇園様の剣に策もなしに立ち向かうとは…正に裸で吹雪に突っ込むが如し。よくもまぁそんなのでミツルギに勝ったものね」

 

依姫は吹っ飛ばされてもなお祇園様の剣を折ってシロを解放しようとする藍を見て一瞥する。

 

豊姫「異論がないところを見ると貴方もあまりの情けなさに…愛想が尽きたかしら?」

 

その時、シロの身体がぐにゃりと変形していく。

元の獣の姿に戻ると同時に、無理やり祇園様の剣をへし折って抜け出して見せた。

 

シロ「愛想など…持ったこともないわ」

 

依姫「な…あの拘束から自力で抜け出すなど…八百万の神に妖怪が勝てる訳が…!?」

 

神の力を振り切ったシロに驚きを隠せない依姫。

2人はこちらをじっと見つめるシロの大きな目を見て、今まで味わった事のない異様な恐怖を感じた。

 

シロ「先刻我が言いたいといった事の続きだ。いくつか質問をしよう」

 

その声に豊姫と依姫ははっと我に返る。

シロの尾がそれぞれうねりながら2人に向かって行く。そのうちの一本が黒い海蛇のような怪物に変化し、豊姫に噛みつきかかる。

 

シロ「月では、塵に等しい暗愚魯鈍(あんぐろどん)どもが恐怖に叫び狂いながら死んでいくことはあるか?」

 

豊姫「有り得ないわ、月ではそんな死に方をする者はいない」

 

豊姫は扇子を広げ、再び風を起こして尾の怪物を攻撃する。

風を喰らった尾の怪物は唸りながら吹き飛ばされる。

 

シロ「それならば、高らかな産声を上げながら新たな命が顔を見せることはあるか?」

 

依姫「そんなことはない。穢れなき月にそのような事が起こり得るか!!」

 

ドカカカカカ

 

シロと依姫は互いに飛びあがると、尾と刀で何度も打ち合いを繰り広げる。

 

シロ「ほほーう、そうなのか。だったら…地上(こっち)の方が面白いかもな」

 

今度は笑みを浮かべながら、2人にそう言った。

そして依姫の剣を持った腕を尾で絡めて掴み、豊姫の背中側の襟をつまみ上げる。

 

シロ「失望だな、月の客…お前らも全く面白く無し!!」

 

一気に尾と腕を振り、豊姫と依姫の二人の頭部を互いに激突させる。

ゴキと鈍い音と共に2人の意識が遠くなる。

 

とら「この…!」

 

ようやく身を包んでいた炎を振り払ったとら。

そこで周りを見渡すと、地面に座り込んでいるシロの前で寝そべったまま動かない豊姫と依姫の姿が。

 

とら「これ、アイツがやったのか?」

 

藍に問いかける。

 

藍「ああ…」

 

シロ「何でかなぁ、コイツらにお前達を馬鹿にされると何故か腹が立つ!我はお前達なんて、殺したいほど憎いのになぁ…」

 

 




この話をずっと書きたかった…

どうしてこの月の話を書いたかというと、去年儚月抄を読んだんですよ。
まぁそこで豊姫が紫にいろいろ言ってましたよね。
それを読んでちょっと腹が立ったんです。だから、代わりにシロに月の民を叩きのめしてもらいました。

綿月姉妹が好きな人には、ごめんなさい。
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