れいむとシロ   作:ねっぷう

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第71話 「倶に天を戴かずとも」

空に浮かぶボロボロの戦艦から、先ほどのくらぎがこちらへ向かってくる。

背中には紫が座っているようだ。

 

藍「紫様!」

 

くらぎは地面に着地し、背中の紫を降ろす。

そこへ藍が駆け寄っていく。

 

紫「藍、それにシロととらも…無事だったのね。…あら」

 

紫は少し向こうで寝かされている依姫と豊姫が目に入った。

 

紫「…どういうこと?」

 

藍はこれまであったことを紫に話した。

ミツルギとの勝負に勝った事、豊姫と依姫がここにやってきてシロと戦った事。

 

とら「それでよ、ミツルギ共…おめぇら、わしらが勝ったら全部教えるとか言ってたよな?」

 

シロ「そうだ、全て話してもらうぞ」

 

とらとシロはミツルギのダイトにそう言った。

 

ダイト「あ、ああ…そうだったな。話そう。我々の住む月の都には、たびたび詳細不明の敵が襲撃してきていた。其のたびに我らミツルギが追い払ったり、綿月様や他の賢者様たちが知恵比べで追い払ったりしていた。が、半年ほど前だったか…いよいよその敵も本気で月の都を襲って来た。敵の操る生命力の力に手出しができない月の民は、夢の世界なる場所に避難した」

 

ムジカ「だが、直接その敵と交戦した時に既に術にかかっていた綿月様と我々はその敵と同じ波長、同じニオイを持つ妖怪を地上で発見した。それがお前さ、白面」

 

グルカ「だから綿月様と我々は考えた。きっと月の都を侵略した敵はこの妖怪の仲間だ、とな。だからお前を消そうとしたのさ。他の民や賢者様たちには秘密裏に我らは軍を遣わしたのさ。もちろんその軍に本当の事は教えてない」

 

とら「おい、心当たりはあるのかよ?」

 

ミツルギの話を聞いたとらは呆れ気味にシロに尋ねる。

前にちょこっと会った青藍とかいう奴の事と言い、こいつがやらかしたことでわしは迷惑かけられっぱなしだ。

 

シロ「…いや、よくわからん。どれ、我が直接月に行って確かめて来る」

 

ここまで聞いても、その化身とやらが何の事だかわからない。

今は化身はあの黒い蛇とくらぎしか出せないし、婢妖も一匹も出していない。

昔に仲間に引き入れた字伏も、当然もうこの世に居ないだろう。

しかし、何か引っかかる…昔の記憶だ。それを確かめるために…。

 

シロ「お前は紫の指示でこれから動け」

 

とら「ああ…」

 

シロの命令をとらは受け入れた。

 

シロ「おい、月へはどうやって行ける?」

 

ダイト「今、空に見える月に重なっている通路が有る。そこから行けるだろう」

 

シロ「分かった」

 

紫「待って」

 

飛び立とうとするシロを、後ろから紫が引き止める。

 

紫「今日は満月。私の能力で、どこかに映った月との境界を弄り、そこから飛び込めるようにできる」

 

前にも、自身の境界を操る能力を用いて湖に映った月と本物の月の境界を弄り、そこから月に飛び込んだことが有る。

その方法を使おうとしているのだ。

 

ダイト「それなら、そっちのほうがはやく行けるかもしれない」

 

紫はダイトの持っていた刀を借りた。

その刀の刀身に映りこんだ月に触れると、その場所がまるで歪んだかのように蠢き、紫が普段使うようなスキマを開くときのようにぱっくりと穴が空いた。

 

紫「ここから月に行けます」

 

シロ「…ふむ」

 

シロは紫の後ろに居たくらぎを呼び、そのくらぎを自分の尾に戻した。それと同時に姿を人間時のものに変化させた。

そしてダイトの刀に向かって勢いよく滑空し、そのまま月に繋がる穴にひゅるりと入っていった。

 

ダイト「…今回は悪かった」

 

紫「あら、月の民がたかが地上の一妖怪の私に謝ってくれるの?」

 

紫に頭を下げるダイト。

それに対して紫は少し笑いながら嫌味を込めた感じで行言った。

 

グルカ「ああ。しかし、考えてみるとおかしなものだったな。月の民は地上の穢れを恐れて月へ逃げた連中から起こった民だ。それが、かつて自分らも住んでいた地上を忌み嫌うなんてな」

 

ムジカ「私はあの戦艦がまだ飛行可能か見て来る」

 

ムジカは空中で大破したままの戦艦に向かって行った。

 

藍「しかし、よかったじゃないですか。今回はしっかりした勝利を、月の民相手に治められて」

 

紫「まぁ、ね」

 

 

 

クラウンピースに案内され、今度は裏の月に戻って来た霊夢たち。

裏の月の海、静かの海でついに黒幕との遭遇を果たした。

波打つ海面には青い地球が映っており、水は驚くほど透き通っていて生き物が全く見当たらない。

 

「いかに策を練ろうとも、相手はそれを乗り越えて来る。口惜しや。もう少しで宿敵に手が届くというのに」

 

目の前で立ち尽くしていた何者かが、そう呟きながらこちらに振り向いた。

 

霊夢「…!?シロ…!?」

 

いや、似ているけど違う…。

あの目つきと顔だち、独特の雰囲気と漏れ出している気はシロそっくりだった。

 

魔理沙「何だお前…魔力ではない、感じた事のない力を持っている」

 

「ひとまず、私の負けを認めよう」

 

しかし、その黒幕はあっさりと負けを宣言した。

突然のそれに、4人の頭の中は大きなはてなマークが浮かんだ。

 

早苗「お、おにょい?」

 

「アポロ11号の船員だって傷だらけだったというのに、人間を甘く見ていました」

 

そう言った黒幕は、次に目に入った鈴仙の方を向く。

 

「まさか月面に地上人を送り込んでくるなんて、頭の片隅にも無かったわ。私の読みが甘かった…すでに勝負は決したのです。それに、まさか月の兎までもが来てるとは、狂気の民が正気にでも堕ちたのか?」

 

鈴仙「私も命令で来ただけだから、何が狂気で何が正気か良く判らない。ただこれだけは言える!月の民は狂気のままだ!まごう事なき狂気、絶対の狂気!そうじゃなきゃ、こんな仕事振るわけが無いもん」

 

鈴仙はその黒幕に言い放った。

久々にやってきた月も、私が居なくなっている間に少しは良くなっているかなと思っていた。

だが、いくら民が全員都にいないとはいえその場に残った狂気は前から全く進歩していなかった。

 

早苗「ちょっと、私たちが勝ちってどういう事?それにあなたは誰よ?」

 

「私は純狐(じゅんこ)、月の民に仇なす仙霊である。正直今回の戦意は既に喪失したが…ここでお前たちを持て成すのが礼儀でしょう?それに、私にはもう一つ成さねばいけないことが有る」

 

純狐と名乗ったその仙霊は、装いは満州族の袍服のようで、黒のロングスカートを穿き、大拉翅を被り、後ろには7本の紫色のオーラのように揺らめいている尻尾のようなものが生えている。

 

霊夢「私も月の都がどうなろうが知った事じゃないけど…ここまで私を手こずらせた鬱憤を晴らさないと気が済まないわ!それに、知り合いに似ててムカつくし…」

 

魔理沙「やっぱり私は永琳の駒の一つでしかなかったんだな…。こんなやり場の無い怒り、全てお前にぶつけてやる!」

 

魔理沙は八卦炉を純狐に向ける。

 

「そう、私も怒り、憎しみが原動力なのです。彼女とは倶に天を戴かずとも憎しみだけが純化する。見せよ!命を賭した地上人の可能性を!そして見よ、生死を拒絶した純粋なる霊力を!」

 

純狐は揺らめく7本の尾を振ると、突風と共に鋭い棘のようなものがあたりに飛び散る。

尾を一本ずつ振るうたびに波紋のように飛ばされるそれはさながら嵐のようだ。

 

「まず、そこの地上人」

 

棘を避ける早苗の目の前まで一瞬で距離を詰める。

驚く早苗の首を片手で掴むと、そのまま締め上げた。

 

「お前らは私に勝つだろう、誰かによってそういうシナリオが用意されているはず。だから私のこのやり場のない憎しみをお前にぶつけてやろう」

 

そして右腕に気を込め、その手を上に振り上げた。

このまま振り下ろして早苗を殴れば、タダでは済まないだろう。

 

早苗「くっ…!」

 

だが、純狐の背中に何かが当たり、小さな爆発を起こした。

それは冷戦の放った銃弾型の弾幕で、純狐は後ろを振り向く。しかしそこには既に鈴仙の姿は無く、今度は鈴仙は振り向いた純狐の後ろへ移動していた。

 

鈴仙(確か、少し先の未来が見えるお師匠様の薬…飲んでおいてよかった)

 

「…お前もだ、地上の兎」

 

禍々しい気を放つ右腕を、骨格的にありえない向きから後ろに回した。

当然それに反応することもできなかった鈴仙は腕を掴まれた。

直後、純狐の手と鈴仙の腕の隙間から紫色の光が走ったかと思うと、直後、それは霊力交じりの爆発を起こした。

 

鈴仙「いっ…た!」

 

そのまま掴んだ腕を引っ張り、勢いをつけると下に広がる海面に鈴仙を叩きつける。

 

「さてと…」

 

純狐は再び早苗を睨みつけると、暴れる早苗の顔を目を隠すように掴んだ。

さっきの爆発前と同じように、紫色の光が隙間から漏れる。

 

霊夢「『尖』!」

 

霊夢の声と共に放たれた霊撃が純狐に飛び、早苗の顔を掴んでいた手が離れた。

ちょうど爆発を起こしかけていたのか、離れた瞬間に爆発し、かろうじて早苗には爆炎が少しかかっただけで済んだようだ。

首を掴んでいた手も離れ、早苗はせき込みながら後ろに下がっていく。

 

「…この地上人らはお前達が考えるよりもずっと弱かったようだ、月の民よ」

 

純狐の尾の一本が伸び、魔理沙に近づいていく。

そして半透明のオーラのようにも見える尻尾が、魔理沙の身体を包み込んだ。

 

魔理沙「な…力が抜ける…!」

 

「月の民が使用していた、地上の者の力を奪う光。見よう見まねで使ってみました。私が純化させた月の光の前に、もうその者は戦えないでしょう」

 

更に7本の尾を縦横無尽に走らせ、同じく霊夢にも尻尾を振り回す。

鞭のようにしなりながらの右から、左から、下からと絶え間ない連続攻撃だ。

そして、尾の振りざまに一度、尾が霊夢を一瞬だけ包んだ。

 

「…何故、月の光が効かない?」

 

しかし、魔理沙が動けなくなった尾で霊夢を包み込んでも、霊夢は力を奪われる様子は無かった。

いくら一瞬とはいえ純化したこの月の光ならば地上人など最悪ならば衰弱死されることができるというのに。

 

霊夢「確か命蓮寺でもそんな光使ってた奴がいたわね。でも生憎、私にはそれは効かないみたいなの」

 

「…そうか…!お前からはアイツの匂いがする!さてはアイツに…」

 

純狐がそう言いかけた時、不意に遠くの方をじっと見つめる。

 

「…何だ?」

 

霊夢も一緒になって目を凝らす。

海を割るように進み、それによって起こった波が凍り付いていく。

 

霊夢「シロ!」

 

シロ「ようやく見つけたぞ。…ん、お前か?月の都とやらを襲っているのは」

 

霊夢「でもどうして来たの?」

 

シロ「説明は後だ」

 

シロは目の前に佇む純狐を見る。

確かに、自分に似ているが、自分の記憶をたどってもこの者の事を思い出せない。

 

「よく来たな…白面の者!お前に会えるこの日を、どれほどの年月待ち望んだか…」

 

シロにそっくりな目つきをさらに深くして睨みつける。

 

シロ「お前のせいで、我は地上で大変な目に遭った。何でも、お前が我の化身だと思った月の民が直々に地上にやってきて八雲紫を人質にして我と藍、とらに戦いをしかけて来てな。その後も大変だった…危うく幻想郷が月の兵器で木っ端微塵になるところだった。だが、我はどうしてもお前に見覚えが無い。お前は…何者だ?」

 

霊夢「え…?」

 

「…分からないわよね。お前は私の事なんてすっかり忘れているんだからな…!!」

 

 




さぁ、純狐です。
自分が勝手に結び付けただけなんですが、その純狐と白面もといシロがどういった関係なのか…。

純狐の元ネタを辿れば、ぼんやりとですが予想できると思います。
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