れいむとシロ   作:ねっぷう

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第72話 「心の在り処」

「…分からないわよね。お前は私の事なんてすっかり忘れているんだからな…!!」

 

純狐は両手の拳を強く握りしめながら、あからさまな怒りと憎しみを乗せた声で言い放った。

当然、シロも霊夢もそれを理解できるはずもなく、2人揃ってその場で固まってしまう。

 

シロ「我が…忘れてる?」

 

確かに、神社の地下より復活した我は記憶の破損が見られた。

だがその後は時が経つにつれ断片的に思い出し、シャガクシャ…いや、とらと再び相見えた時点ですべて思い出したはずだ。

かつて我はまだ人間であったとらの身に潜み今ある身を作り上げ、その後我に家族を殺された人間が作った忌まわしき獣の槍に追われ初めて恐怖という感情を味わった。

そして槍が大陸にある限りいつ我を再び襲ってくるか分からないので、隣の日本なる島国へ逃げたのだ。

だがそこでも殷々たる様子に耳をふさぐような出来事が有った。そう、日本の妖怪共の抵抗だ。

今までしてきたように日本の貴族の女に化け、様子をうかがっていたのがバレ、100年以上にもわたる戦いの末に我は傷つき、その傷を癒し力を蓄えるために我は海底で身を休めることにした。

そしていよいよ我の復活の時が来た。槍の使い手ととらの記憶を関わった全ての者から消し、日本を絶望のどん底に叩き落としてやった。

しかしまたも我の邪魔をしようとする獣の槍によって人間も妖怪も記憶を取り戻し、憎らしくも揃いも揃って我を追い詰めたのだ。そして我は己の力を使い切り、最後…負けたのだ。

その後、我は時のはざまを彷徨い、500年前の幻想郷に流れ着いた…。

もう獣の槍に完璧に負けた我は、もう槍に対しての恐怖も執着もない。

だが…こう思い返すと、今まで我が殺してきた奴らの顔…なんて…。

 

「そうだ、お前は忘れている…」

 

シロ「何を忘れてるというのだ?しっかり説明してもらわんと我にはわからぬ…」

 

「もう良い、覚えていないというならただ純粋に殺してやる!」

 

純狐は背後に魔法陣のようなものを浮かべた。

すると、下の海面に花のつぼみのような形の光が発生したではないか。

 

霊夢「気を付けて!」

 

直後、そのつぼみはまるで開花するように大きく開くと当時に爆発し、螺旋状に回転する光の筋を無数に放った。

 

「殺意の百合」

 

シロ「ぬう…」

 

レーザーの一本が、シロの足の甲を貫いた。

傷口から煙が上がったかと思えばその箇所が爆発を起こした。

 

霊夢「大丈夫?」

 

シロ「痛いが別にどうという事は無い」

 

霊夢「ちょっと純狐とやら!いい加減にしなさいよね、見て分かる通り私たちはアンタの所為で迷惑掛かってるの!」

 

シロ「…純狐…?」

 

「ふふふ、知った事ではない…私は私の恨みを晴らすだけだ!!」

 

純狐…純狐…。

思い出した…!もしや、奴は昔に我が…。

 

「…その様子、ようやく思い出したか」

 

シロ「…遠い、記憶だがな…」

 

 

──むかしむかし、今から4000千年も前の事だろうか。

中国のあるところに、九尾の狐を信仰する「純狐」と呼ばれた一族がおりました。

ある時、一族の娘が「羿(げい)」という弓術の神様に見初められて嫁入りすることになりました。

その娘は大変可愛らしく、その娘を気に入った神様たちが娘をかけて勝負をし、勝ったのが羿だったのです。

 

「我が一族から神様に嫁ぐ者が現れるなんて、何て光栄な事だろう!」

 

純狐一族で喜ばぬ者など一人としておりませんでした。

しばらくして、嫁いだ娘と羿の間に子供が産まれました。

成長した子供がかつての純狐一族の子供と遊んでいるのを見ていた羿は、よからぬ妄言に憑りつかれるようになりました。

 

「純狐氏族の者が我が子の立場をねたみ、謀殺を図るのでは」

 

「純狐氏族の血は我が子にのみあればよい、他は要らぬ」

 

羿は純狐一族の子供を、天界から弓で射て殺すようになりました。

そのような事をされ、一族が黙っていられる訳が有りません。

 

「いくら神様とはいえ、このような所業…ゆるしてはおけぬ」

 

一族は皆で力を合わせ、羿に抗議することを決めました。

その中には羿の妻と子供の姿もありました。

しかし、一族がどうしようにも相手は弓術の神様です。

束になっても敵うはずが有りません。

羿に歯向かったために純狐一族の者は一人、また一人と殺されていきました。

結局、残ったのは一族の娘であった羿の妻だけ。

まるで月の狂気にでも侵されたように自暴自棄になった羿は自分の子供すらも殺めてしまったのです。

 

「お前だけは生かす、お前はこれからもずっと私の側にいてくれるな?」

 

無残にも打ち捨てられた純狐一族の亡骸。

この時、娘は呟きました。

 

「この恨み、晴らさでおくべきか」

 

溢れ出る恨み辛みの怨念が娘の身体を包み込み、混ざり合いながらさらに強い怨念の塊となって蠢き出しました。

純狐一族から生まれ出でた怒りと憎しみの大洪水は瞬く間に羿をグチャグチャに呑み殺しましたが、この恨みこれだけで晴れようはずがありません。

目には目を歯には歯を、やられたらやりかえせの通りにまずはゲイとの接触が有った子供たちを、羿がしたように全員殺して回りました。

次に羿の親や子、友人、新妻にいたるまで、必ずやすべて根絶やしにしてやろうと純狐は心に誓いました。

 

──それから、幾ばくかの時が過ぎた。

羿に関わる全ての者を根絶やしにすることを目標にしてきたが、どうしてもあと一人だけ殺すことができない。

嫦娥…嫦娥!お前だけだ、お前の居場所さえわかれば…。

 

「どこだ、どこに居る…お前のもとにたどり着ける力が私にあれば…!」

 

空を睨みつけながら思わず爪を噛んだ。

 

「お前の言う力とやら…欲しくはないか?」

 

その時、現れたのだ。

いつからそこに居たのかわからない…顔も体も真っ白な、九つの尾を持つ獣が。

 

 

 

「そうだ、私はそこでお前から…」

 

シロ「けけけ、思い出した…全てな」

 

純狐とシロは互いに手を組み合い、押し合いをする。

だが純狐の手が光ったかと思えば、直後に爆発を起こした。

爆発の衝撃でシロの両手首から上が吹き飛んでしまう。

 

シロ「か…!」

 

 

 

「どうだ…力があれば、お前の憎しみは必ず晴らされる…」

 

最初はその妖艶なる姿に見惚れれば、暗黒の淵に誘いこまれ二度と戻れなくなるのではないかと怖れた。

しかし、だんだんとその抵抗も無くなった。

やはり私は純狐氏族の集合体…白面の者の姿は私たちの祀る九尾の狐にそっくりだったからだ。

 

「今、この大陸にはコソコソと我を狙う忌まわしき獣の槍がある…だから、我はそれを避けるためにこれから別の国へ逃げる。そうすれば、この大陸はどうなる?我が去ったことで恐怖を感じなくなり、それでは我が面白くない。分かるな?」

 

白面はまるで根を張っていくように、既に私の心を絡めとっていた。

私は親に何かを言いつけられた子供のように何度も頷いた。

 

「だから…お前が我の代わりに殺すのだ。殺せ…殺して殺しまくれば良い…お前の復讐を邪魔する奴らも殺せ…」

 

九本の尻尾の毛が伸び、私の頬を撫でる。

頷く…頬を撫でられる…あれ…?

 

「気付いたか。お前に与えたのは純化の力…神にも匹敵する力だ。お前はさっきまで、形を持たぬ恨みの気の塊だった…。だが、今我が与えた純化の力があれば、お前の恨み、憎しみだけが純化し…純化された憎しみはお前の身となっていくだろう」

 

なんと、今まで形の無かった私に身体が出来上がっていた。

白面曰く、遥か昔に私と混じり合った一族の怨念が肉体となり、媒体となった私がそれに入り込んだ感じらしい。

凄い…。私は自分の手を見つめて握ったり、逆立ちしたりして久々の身体があるという事を実感した。

 

「船が見えるな?」

 

白面は遠くの港に見える、恐らくは日本行きの船に目を向けた。

 

「今より我はあれに乗らねばならぬ。お前はお前のやり方で恨みを晴らせ…憎しみを募らせよ…」

 

「ま、待って…!」

 

「くくく…また、会おうぞ…」

 

辺りを包む閃光と共に白面の姿は消えていた。

はっ、と気付いて海の方を見ると、既に日本行きの船は海の地平線の彼方に点のように見えるだけになっていた。

 

 

 

「あの日より私が、どんな思いでどうしてきたか…ッ!」

 

シロ「け…けけ…げげげげげげげ!!我が昔に、中国に残してきた僕だと?」

 

シロの不気味な笑い声が響き渡る。

その声の発生源であるシロを中心に大波がたち、それが凍り付いて氷の柱となって純狐に襲い掛かる。

 

霊夢「シロ、落ち着いて…!」

 

シロはちらりと横目で霊夢を見ると、すぐに純狐に向かって飛び立っていく。

 

「憎い、憎いぞ白面の者…お前はあれきり私の事など忘れ、地上で起こったという戦いでも私を呼んではくれなかった…。挙句に、私が復讐に燃えている間お前は地上でぬくぬくと暮らしていて…。だから、あの姉妹と三剣士にお前の事を教えてやった。私は地上に居る白面の者に操られているとね。そして奴らに芽生えたお前への憎しみを純化し、地上に向かわせた」

 

シロ「…くらぎ!」

 

尾の一本を変化させ、先端が先ほどのくらぎになった。

そのくらぎは万力のような大顎を広げ、純狐に噛みつこうとする。

が、純狐は構わずくらぎの口内に腕を突っ込み、何か器官のようなものを掴んだ。

 

「これはお前が私にくれた力だ」

 

器官を引きちぎるように引っ張りながら、手に溜めた気で爆破させる。

顎はひび割れ、口から爆炎を吐きながらくらぎは力なく倒れ込んでしまった。

 

「さァ、私の復讐の舞台へ来るがいい」

 

純狐は両腕を広げると、自分の周りから黒い結界のようなものが広がり始めた。

それは自分ごとシロを包み込むと、その場からさっぱり消えてしまった。

 

霊夢「く…何処へ行ったの…?」

 

 

 

シロ「ここは…?」

 

シロが連れて来られたのは、宇宙空間のような、天井や床に赤い線の入った不思議な場所。

月でも地上でもない、ここは…?

 

純狐「ここは、夢の世界だ」

 

シロの前に純狐が現れた。

夢の世界とやらに連れて来られたらしい。辺りに霊夢は見当たらない。

 

純狐「…月の民はここに逃げ込んだ。月の都に居られなくなった月の民はそうするだろうと私は読んでいた。勿論、私は先手を打った。夢の世界に刺客を送り込んでいたのです。さあ出ておいで!地獄の女神、ヘカーティアよ」

 

ヘカーティア「んもう、待ちくたびれたわよん」

 

純狐があらかじめ夢の世界に送り込んでいた刺客、ヘカーティア・ラピスラズリが純狐と共にシロの前に立ちはだかった。

 

 




要するに純狐は紅煉みたいなもんです。


それと、純狐の過去のお話はこちらを参考にさせていただきました
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=53116571

今回のタイトルの「心の在り処」。
純狐のテーマ曲の「ピュアヒューリーズ ~心の在処」からとったんですが、この小説では純狐の心には白面が有る、という意味をこめて在処の間に「り」を入れました。
どうでもいいですね。
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