れいむとシロ   作:ねっぷう

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第74話 「宇宙妖怪帰還する」

霊夢「さてとー、もう地上は朝かしらね」

 

元来た槐安通路を幻想郷に向けて移動中の霊夢たち。

どうやら朝になると心なしかここも明るくなるようで、ずっと後ろに浮かんでいる月は薄くなり、今度は太陽のような物が頭上でさんさんと照り始めている。

 

シロ「…」

 

シロはここまで来る間に元に戻った腕を見つめる。

やはり純狐の持っていた憎しみの気は膨大な量と密度を持っていたようで、腕が治っただけでなく前よりもいくらか強くなっているような気がする。

 

魔理沙「おもーい…なんで私が早苗と鈴仙を…」

 

箒の絵の端に二人を乗せている魔理沙。

 

霊夢「あ、ホラ。あそこから湖が見える。もうすぐ地上よ」

 

 

 

そのころ、朝を迎えた地上の竹林。

 

ムジカ「ダメだ、あの通り浮くことは問題ないが、航行することができない。通路に待機している他の戦艦を呼び、引っ張ってもらうしか…」

 

グルカ「そうだな、我らの兵器を地上に残す訳にはいかないしな」

 

くらぎが跳ね返した砲撃が直撃したミツルギの戦艦はかなりの損傷が見られたようで、かろうじて浮いているのが救いというレベルらしい。

 

ダイト「…ん?」

 

ダイトのポケットからピピピと音が鳴り、ポケットから通信機のようなものを取り出して耳に当てる。

しばらく相手の話を聞いてから「了解」と呟いて通信機を仕舞う。

 

ダイト「どうやら、月の都と月の民は解放されたらしい」

 

グルカ「おお、ではあの白面がやったのだな?」

 

ダイト「うむ、白面と少数の地上人の手柄だそうだ」

 

豊姫「うう…ここは…?」

 

その間に、竹の側で寝かされていた豊姫が目を覚ましたようだ。

ここは…と言い目をこすりながら辺りを見回している。

 

グルカ「め、目が覚めましたか豊姫様…ここは地上でございます」

 

豊姫「あれ?依姫まで…私たちはどうして地上に?」

 

ミツルギは互いに顔を見合わせると、肩を落としながら息をついた。

 

ダイト「覚えてらっしゃらないのですか?」

 

豊姫「ああ、そうだ…あの敵から言われた妖怪を消しに…」

 

ムジカ「たった今、都から敵が引いていき、月の民は解放されたようです。今はサグメ様と獏によって移動が開始されているでしょう」

 

とら「おいおい、あれほどの事をされそうになったのにお前らはそれでいいのかよ?」

 

とらがダイトの耳元でこそこそと言った。

戦艦の砲撃でミツルギもろとも竹林を吹き飛ばそうとした事を言っているのだろう。

 

豊姫「はぁ、私は何という事をしてしまったのでしょう!そこの方!」

 

豊姫は立ち上がると、遠くの方で気まずそうに突っ立っていった紫と藍に駆け寄っていく。

 

豊姫「ごめんなさいね、あんな手荒な真似をして!…ってあら、貴方は確か…私が前にコソコソとやっていた…」

 

紫「へ…な、何の事かしらね…?」

 

分が悪そうに顔を背ける紫。

 

豊姫「私がちょっと勉強不足だったのかも…地上にあんな強い者がいるなんて知らなかったわ。前は散々言ってごめんなさいね」

 

紫「…あ、ああ、いいですのよ別に…ほほほ」

 

紫は顔の前に自分がいつも持っている普通の扇子を広げ、口元を隠しながら後ろへ下がる。

やはりかつて自分が敗北を喫した相手の豊姫の事を警戒しているのだろう。

 

その後、5隻の飛空戦艦が大破した戦艦のもとへ駆けつけた。

駆け付けた戦艦に地上に落とされた玉兎や兵士たちが続々と乗り込み、フェムトファイバーの紐、認識できない細さの繊維で組まれた組紐で、そのとき紐から余計なものが無くなり最強の強度を誇るという月の道具の一つだ。

その紐で大破した戦艦と5隻の戦艦とを結び、引っ張って月まで持ち帰る準備をした。

 

ダイト「では、世話になったな」

 

ミツルギ達もいよいよ帰りの戦艦に乗り込もうとする。

 

豊姫「おかしいわ、よく覚えてないんだけど目を覚ましてからえらく頭の中がスッキリしているような…?」

 

シロに叩かれたことによって穢れがうつされ、大昔に地上から月へ移動する前の状態に近いのだろう。

それはミツルギ達も同じだが、このまま穢れの無い月に戻ってしばらくすれば再び穢れは無くなってしまう。

しかし、今は地上に対して以前ほどの嫌悪感は感じられない。これだけは消えることは無いだろう。

 

ムジカ「そういえば、あの妖怪はまだか?しっかりとこちらに戻ってこれるか心配だな…」

 

ムジカが他のミツルギとそう話したとき、妖怪の山の方角から何かがこちらに飛んでくるのに気が付いた。

 

とら「おお、戻ってきやがった」

 

藍「シロ殿ー!ご無事でしたかー!?」

 

霊夢と魔理沙、鈴仙と早苗を抱えたシロがその場に降り立った。

 

 

その後、ミツルギのダイトは次はもっとちゃんとした時にシロと仕合をする約束を、ムジカとグルカはぞれぞれが戦った藍ととらに一言、豊姫はまだ目を覚まさない依姫をおぶってから帰りの戦艦に乗り込んだ。

5隻の戦艦と大破した戦艦、計6隻の戦艦が妖怪の山に存在する槐安通路目指して飛んでいき、いよいよ月に帰っていった。

 

霊夢「さてと、ちょっと永琳の所に行かなくちゃ…」

 

魔理沙「私もだ、このままじゃちょっとダメだ…」

 

霊夢と魔理沙は足を踏み鳴らすように歩きながら竹林に入っていった。

 

 

永琳「…どうやら、終わったようね」

 

永遠亭の窓から遠くに見える、撤退していく月の兵士たちを見てそう呟く永琳。

実は霊夢たちが出撃前に渡した紺珠の薬、これは一時的に少し先の未来を見るだけでなく、その副作用として飲んだ者の穢れを浄化するという効果があるのだ。

穢れ、つまり死穢が少しでもある状態で純狐に挑めばたちどころに死穢が純化され命を落としてしまう。だが薬によって穢れが祓われていれば、純化の力が通用しなくなるのである。

純狐が鈴仙を見た時、「月の兎を送り込むなどついに月の民は頭がおかしくなったか」と言っていたように月の兎など人間と同様に戦力外だったのかもしれない。鈴仙も薬を使う事で純狐に対抗できるようになっていたのだ。

永琳は玄関で騒いでいる霊夢たちの声を聞くと、椅子から立ち上がった。

 

 

 

サグメ「…おや」

 

凍結した月の都から妖精が居なくなった。

恐らくあの切り札たちが敵に勝ち、敵の侵略は失敗したのだろう。

いよいよ月の都を解凍する準備に取り掛かろうとしていた時に、急にあたりが暗くなった。

上を見上げると、地上から戻って来た軍隊が頭上を埋め尽くしていた。

 

 

 

───────────────

 

その後、不思議なことに枯れてしまった妖怪の山の植物はしばらくして元通りになった。

どうやら撤退せずに自らの意志で地上に残ることを決めた玉兎が何名か居るようで、彼女らが何かしてくれたのだろうか。

地上をやたら毛嫌いするのは月人の貴族だけで、下っ端の兎にはそういうのは割とどうでもいいらしい。

直接ミツルギと関わった藍、とら、シロ以外の妖怪にはやはり月の戦艦や兵器も見えていなかったらしい。

だが里の人間はバッチリと竹林の方角へ向かう戦艦たちを目撃しており、色々と理由をつけて誤魔化すのが大変だった。

 

霊夢「はー、今日も暑いわー…」

 

部屋の中で机の下に足を入れて寝転がる霊夢。

机の上には永琳にもらった紺珠の薬が置いてある。霊夢は結局それを服用していなかったのだ。

 

霊夢「暑すぎる…」

 

ふらっと庭にある水道に向かう霊夢。

壁に4匹も張り付いているセミの声がぴたりと止んだ。

しっしっ、と壁を叩いてセミを追い払うと、急に霊夢が立っている場所に日影が出来た。

上を見ると、シロの化身であるくらぎがこちらに顔を向けていた。

そういえばシロは出かけていて、くらぎを置いていったのか…。

くらぎは霊夢を神社にやって来たよそ者と思って近づいてきたのだろう、霊夢と分かると屋根の上に戻っていった。

 

霊夢「よいしょと」

 

水道に最近手に入れたばかりのゴムホースを取り付け、それで庭に水をぶちまける。

 

霊夢「あ、そうだ。確か紅魔館にアレがあったわよね…」

 

 

霊夢「あははははは!前なんかとは違って気持ち良いわ~!」

 

霊夢が魔理沙、早苗を呼んでやって来たのは紅魔館にある大図書館の一角を弄って作ったプールだ。

以前にこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットが月から帰還した後に海が羨ましくなって作った水遊び場だ。

その時は雪の降る真冬で全然楽しめなかったが、今日は猛暑日だ。

 

早苗「へえ~、紅魔館にこんなプールがあったんですね~」

 

魔理沙「そういえば、鈴仙は来てないのか?」

 

霊夢「ああ、何か仕事があるからって」

 

レミリア「夏場でも館の中だけは寒いからって図書館の天井まで開けて…」

 

パラソルで作った日陰の中でビーチチェアに寝そべっているレミリア。

あれ以来たびたびプールを使っていたがだんだんと使い機会が減っていたらしく、今回は急に霊夢たちが泳がせろといった事で久々に遊ぶ気になったらしい。

 

その様子を、空いた天井の影からこそこそと見ているとらとシロ。

 

シロ「けけけ、行け…」

 

とら「おめーもしつこいよなぁ、ホントはあのレイムを殺す気なんて無い癖に…」

 

シロ「何を言っておる、我はアイツを殺す事だけが楽しみなのだぞ」

 

そう言いながら尾の一本を変化させた黒い蛇を放った。

 

霊夢「ん?」

 

突然プールに何か巨大なものが勢いよく入り込み、水がどばっと溢れ出していく。

 

レミリア「ぎゃーっ!」

 

魔理沙がビーチチェアごと流されていくレミリアの足を掴む。

頭をもたげた黒い蛇は大口を開けて霊夢に襲い掛かる。

 

霊夢「アレはシロの…!?」

 

だがその時、また空いた天井から二人の何者かが降りてきて蛇の首元にしがみ付いた。

突然の事に驚いてのたうち回る。

 

鈴瑚「おお、いつぞやの!お久ー」

 

早苗「確か…月の兎の鈴瑚さんと清蘭さん?」

 

何と、この蛇の首にしがみ付き鎮めて見せたのは妖怪の山で戦った玉兎の鈴瑚と清蘭だった。

 

清蘭「さっき鈴仙に会ったのよ。そしたらあの館で面白いことやってるって言うから…」

 

二人は蛇の首からジャンプして降りる。

すっかり落ち着いてしまった蛇は自分の胴体の半分もない深さのプールに身を沈めた。

 

シロ「ちっ、邪魔が入った…」

 

とら「けけけ…」

 

咲夜「そこで何をしてらっしゃるのですか?シロさんにとらさん?」

 

二匹の後ろにいつの間にか現れた咲夜が話しかけた。

 

シロ「む、おまえは確か従者の…」

 

咲夜「そんなに混ざりたいなら行ってくればよろしいのに…」

 

とら「だってよ?」

 

シロ「…ふん、まぁそれもいいかもな…」

 

シロはひゅるんとその場から下に降りていく。

 

霊夢「あ、シロ!」

 

ここでもセミの声がやかましく鳴り響く真夏の猛暑日の事だった。

 

    

       ───東方紺珠伝、完───




紺珠伝、雑ですが終わりました。

今回この紺珠伝編を書こうと思ったのは、どうしても純狐を出してみたかったのと、やはり儚月抄を読んだからですね。
数日前にそんなに儚月抄ってアレなのか、って思って評価を調べてみたんですよ。
そしたらやはり評判はよろしくないようで。
自分も儚月抄自体は面白いと思ったのですが、やはり豊姫を筆頭とした月の民の言い分が気に入りませんでした。
今回は自分が書いている小説という超絶有利な土俵に月の民を引きずり込んで戦ってもらいましたが、やっぱりそれでも何かがスッキリしません。
そこをシロ達に月の民を正気に戻させ、謝らせるという形で個人的に納得する形をとりました。

あ、小説自体はもうちょっと続きますよ。
そろそろ本格的に八頭龍との決戦…最終章へと突き進んでいきます。



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