『さて諸君、霊夢とシロはついこの間月に行き、異変を解決してきたばかりだ。
今日はそのころ人間の里のとある場所に居る、ある女性を見てみようじゃないか。
諸君が知っている白面の者、もといシロについて何か面白いことを考えているみたいだよ。』
「ここ一年近く、今まで以上に奇妙な事件ばかり起きている…」
『稗田阿求。人間の里にある名家「稗田家」の当主であり、九代目「御阿礼の子」。
幻想郷の妖怪について記した「幻想郷縁起」の改定や編纂を行っている。
人間の生活の安全を確保するために妖怪等の能力や実態、または幻想郷における危険地区を記録し、理解や対策の啓蒙、準備のための知識伝播をするための書物が幻想郷縁起である。
過剰に妖怪を恐れたり、あるいは強力な妖怪に手を出したりしないようにする目的もある。
さらに人里に住まわずに妖怪退治や異変解決を行う人物を英雄伝として記録し、有事の際の相談先として紹介している。
主に霊夢や魔理沙を始めたとした妖怪退治屋の事が描かれているのだろう』
「紅魔館の壁が突然崩れる、山の神様の湖に新しい土地神が住み付いたり…何かあるはずだわ、何かが…」
始まりは、人間の里に出現した骸骨妖怪ね。
その時の目撃情報と、天狗たちが作った新聞記事。
そう、博麗霊夢と謎の白い妖怪がその骸骨妖怪を見事に退治したのだ。
その後も奇妙な事件が立て続けに起こった。
霧の湖で不思議な力を得た妖精が暴れまわり、あの吸血鬼の住む紅魔館の壁が崩れたのだ。
紅魔館の壁を崩すなんて芸当、そこらの妖怪やましてや人間になんてできるわけがない。
紅魔館内での内乱か、と思って調べてみたけどどうやらその線は無さそうね。
「その後にある鴉天狗から受け取った新聞に、映っていた…恐ろしいアイツが…!」
その時の新聞を机の上に広げる。
一面に取り上げられた写真にはぼんやりではあるが白い毛並みを持つ九尾の妖怪が映っていた。
写真もブレブレ、よほどの激戦の間に辛うじて撮影出来た写真なのだろう。
「かつて外の世界で単身でいくつもの国を滅ぼし、正に世界で最強の存在とまで言わしめた白面の者…!!」
『諸君らはもう分かるね、その時の写真とは八雲紫と八雲藍によって霊夢の目の前で正体を看破されたシロが自棄になり妖怪の山で天狗たちと争いを起こしたときの写真だ。その後、シロの事をどうしても許せないという八雲藍と戦ったんだ。』
「この白面の者、普段は人間の形に化けているみたい。霊夢さんと一緒に居るのをよく見るという証言がいくつもある」
しかし、何故白面の者が幻想郷にやって来たのだろう?そして何故白面の者は幻想郷を滅ぼそうとしないのだろう?
まず前者については、伝説の獣の槍が関係していると私は思う。
槍が存在した現世とは隔離された幻想郷に住む大物古参妖怪やあの八雲紫でさえ名前を聞いただけで震えあがる獣の槍だ。
槍に関する書物も幻想郷には多く存在する。勿論白面の者の資料も。
槍は白面の者を倒すのに必要不可欠な武器であり、外の世界で獣の槍対白面の者の戦が有った事は二ッ岩マミゾウさんを始め外からやって来た新参の妖怪から教えていただいた。
彼らの情報によると白面の者は獣の槍と長飛丸という妖怪によって完全に滅んだそうだ。
『ははぁん、諸君らよ、どうやらこの阿求は獣の槍と白面の者との深い深い因縁については知らないようだ。
かつてシロに殺された人間によって作られた憎しみの槍が獣の槍なのだ。
先ほど言った、紫からシロが白面の者という凶悪な大妖怪だと知らされた後に、霊夢は冥界の果てで時逆という時間を遡る妖に出会い、過去の外の世界に行ってシロがしてきた悪行を見たのさ。
中国の都の王宮に潜み、その都を焼き野原に変え…次に狙いを付けた日本を滅ぼそうとしたが、日本の人間と妖怪の連合軍によって傷つき、日本の要の柱に身を差し込んで休んだこと。
800年の時を経て復活し、再び日本の妖怪たちと戦い、そして負けたこと。』
「そして最近気になり始めたのが、500年前にまるで何かを隠すように急に建てられた博麗神社…」
これも古参の妖怪から聞いた話だ。
何かを隠すように建てられた博麗神社、普段は博麗神社に居るという白面の者…ここから推測できるのは白面の者は博麗神社の敷地内のどこかに潜んでいて今になって姿を現したという事だ。
しかしこれでは矛盾だらけだ、20年前に外の世界で滅んだ白面の者がどうやって500年前の幻想郷に来れる?
白面の者はずっと海底で傷を癒していたはずだ…。
500年前にあった出来事と言えば、八雲紫が幻想郷に外から妖怪を招き入れ、現と幻の結界を張った事だ。
つまり500年前の幻想郷にやってきた妖怪たちの中に白面の者が紛れていた可能性がある。
これまでは先ほど述べた矛盾の解決にはならない…。何か、誰も知らないところで何かが起こっていたのか…?
「まぁ、これは考えてもラチがあかない…」
『ほうほうこの人…ついにシロと博麗神社の関係に気付いたようだ。
だが、シロが何故幻想郷に来たのかについてはこの阿求が考えるだけ無駄だ。
外での戦いで負けたシロは、それを見ていた霊夢の時逆の後を付け、それを追いかける形で時間のはざまに入り込み、八頭龍に吹っ飛ばされて500年前の幻想郷まで来てしまったのさ。』
「それよりも、この先に起こった事件だ…外からやって来た新しい土地神に、地底に出現したという黒い竜…。そして長飛丸
の襲来により起こった雷雲事件…」
『諸君らなら恐らく分かるだろう、外の世界で滅んだオヤウカムイが幻想入りし妖怪の山に悪臭を放った事件だ。
それは八坂神奈子、洩矢諏訪子に東風谷早苗と共闘した霊夢とシロによって鎮められ、今はオヤウカムイの守り神としての能力であるあらゆる病を跳ね除ける力を使い幻想郷での病の流行を防ぐのに一躍買っている。
地底に出現した黒い竜、これも皆分かるね。
シロが地底に行ったときに現れた黒い竜だ。霊夢とシロ、それと星熊勇儀を筆頭とする地底の妖怪が力を合わせて退治に成功したのだ。
そして長飛丸、とらの起こした雷雲事件。
幻想郷にやってきたとらがある人間をおびき寄せるために空一面に黒雲を張り、雷を落として周った異変だ。
霊夢と魔理沙、シロと戦ったとらはシロが人間と一緒に居るという事に驚き、同時に自分と似た何かを感じ取った。
あれ以降とらは魔理沙に憑りついている。宿敵同士のシロととらも折り合ってやっているようである。』
「それに、ここのところ頻繁に起こる地震と白面の者の復活、長飛丸の幻想入り、それに命蓮寺での騒動、この間の銀色の飛行物体…全てが偶然に起こった事とは考えられない。何か、絶対にあるはず…」
『おや、どうやら阿求は八頭龍については全く知り得ていないようだねぇ。
幻想郷を含めた数々の異界を食い荒らす八頭龍という妖怪が居ることを…その八頭龍が500年前に幻想郷を狙いをつけた事…今も幻想郷を外と遮断している2枚の結界の間に封印されていること…知るはずもないよなァ。』
「幻想郷上空で目撃情報が相次いでいる飛竜の存在…」
私は驚くべき情報を耳にした。
何と幻想郷の空で黒い飛竜が飛び回っているといるというのだ。
飛竜とは文字通り飛ぶ竜の事で、ドラゴンと言った方が分かりやすいかな。
飛んでいる龍を見たというのなら、縁起が良いねで済ますことができるが西洋のドラゴンとなるとちょっと不吉な気がしてならない。
しかも、地底で現れた黒竜と空を飛んでいた竜の特徴が細かい違いはあれどほとんど一致しているではないか。
「春に起こった命蓮寺での騒動」
命蓮寺の住職である聖白蓮が豊聡耳神子を実力行使で捕え、白面の者を滅ぼそうとした事件だ。
その時に命蓮寺上空で掴み合いながら戦う聖白蓮と白い九尾の妖怪を見た人が居る。
間違いない、白い妖怪とは白面の者のことだ。
詳細を知るために命蓮寺を訪ねてみた。寺の弟子の妖怪たちはその時の事について教えてくれたのだが、肝心の聖白蓮がずっと不在らしい。何でも自分にも妖怪に対する殺意があった、それを捨てて来るといって修行に出たと弟子が教えてくれた。
「最近は不思議な銀色の軍隊が竹林に向かって行った事かしら…」
『それはシロを倒そうとした月の民が戦艦に乗ってやって来た時の事だよ。
月の三剣士ミツルギが八雲紫を人質に取り、シロ、とら、藍に勝負事を持ち掛けたんだ。
とらはグルカに勝利し、藍はムジカに勝利し、シロは自ら出向いてきた綿月姉妹に勝った。
それからシロも月に行って霊夢たちと合流してそこでかつての仲間であった純狐と再会する。
一族の憎しみの集合体である純狐はもう憎むのに疲れており、自分を止めてくれるのを、自分を休ませてくれる存在を求めて暴れていたのだ。純狐はヘカーティアと出会い、そしてシロとも再開したことで何とか落ち着いたようだ。
おっと、どこへ行くんだい阿求よ。何だ、出かけるのか。』
──香霖堂
「アレの製作は進んでるかしら?」
私はこの香霖堂の店主、森近霖之助さんに話しかけた。
霖之助さんは私を店の裏の倉庫の中へと案内した。
倉庫の棚には外の世界から無縁塚に流れ着いた道具が所狭しと並んでいる。
その倉庫の中央には倉庫の雰囲気に見合わないような、小さな鍛冶場が作られていた。
「ああ、見てごらん。順調に進んでる」
その鍛冶場で製作途中の「ある物」を見せてくれた。
「ふふふ…そう、確かにこれなら…」
まずひとつは、近いうちにこの幻想郷で今までにない事が起ころうとしている。
ふたつめ、その事と白面の者に何か大きな関係がある。
みっつ、博麗の巫女は何かを隠している。
でも、きっと今のままじゃ終わらないんでしょ?これは私のカンだけど、今にでっかいことが起こる。
そしてその中心に居るのが…博麗霊夢に、白面の者。
「これが私の4つ目の推測よ。見てなさい、いつか必ず幻想郷縁起に白面の者も長飛丸の事も書き記して、絶対に秘密を暴いてやるわ」
時は迫っている。
稗田阿求よ、アンタは相当鋭いがね…アンタの予想は全く及ばないだろうよ。
そうとも…当の霊夢とシロにもね。
うしおととら本編の「記録者の独白」のパロです。