れいむとシロ   作:ねっぷう

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第76話 「夏陽炎 前編」

妖怪の山の麓。

木々の間から木漏れ日が差し込み、近くで流れている小川の水の音が聞こえてくる。

そこの近くの獣道を歩く誰かが。

 

「ふう…今日は何を食べようかしら」

 

聖白蓮だ。春での暴動の後に寺を出て行ってしまった聖は一人で、一妖怪であるシロを憎んでいた己を悔い改めるために幻想郷中を旅してまわっていた。

いつも寺に居た時とは違った、いかにも修行僧っぽい服装に網代笠をかぶっている。

しかしこんな真夏日にそんな厚ぼったい恰好で大丈夫なのだろうか?

 

「よいしょ…と」

 

足にかかるスカートをまくりあげて、川に足を浸して入っていく。

どうやら今日は魚を食べようとしているようだ。

足元に通りかかる鮎やヤマメといった魚を驚くべき反射神経で次々に捕まえていく。

6匹ほど捕まえたところで川から上がった。

が、その時背後から落ちている枝を踏んでへし折るような音が聞こえていた。

妖怪かしら?と思って恐る恐る振り向くと、案の定そこには6匹の妖怪が木にしがみ付いたり茂みから目だけを覗かせて聖をじっと見ていた。

 

「…何か御用ですか?」

 

聖は両手を合わせ、彼らに微笑みかけながらそう言った。

 

「人間だ…」

 

「でも法力の匂いがする…強そう」

 

だが次の瞬間、妖怪の一人が聖に飛びかかり、首を両手で掴むとそのまま地面に叩きつけた。

毛むくじゃらの細いのにやたら筋肉質な腕…妖獣だろうか?

 

「何だお前ら、根性なしだな。全員でかかりゃ簡単に喰えるだろう」

 

「きゃ…ッ」

 

どっと倒れ込んだ聖。

そこに他の妖獣たちが群がり、蹴ったり踏んづけたりと痛めつけようとしてくる。

 

「私は…貴方たちに手は出しません。妖怪も人も神も仏も全て平等なのです。だから、貴方たちがそれを判っていただけるよう…」

 

聖は正座で座り込むと、眼をつむって妖怪たちにそれを説いて聞かせようとする。

しかし妖獣たちはそんなのお構いなしに聖を殴りつけ、そのまま足に噛みつく。

力があまり入らない。そういえばここの所ずっと体調が優れていなかったな…もう疲れて法力も出せない…。

 

ザッ

 

「…何だァ、お前は?」

 

倒れ込んだままの聖と妖獣の間に誰かが割って入った。

日の光の影になっていてよく見えないが、スカートを履いているのがシルエットで分かる。女の人かな?

 

「お前は関係ないだろォ!とっととどっか行けって…」

 

「今時関係ないからって何でもかんでも見逃すバカばっかじゃないのよ」

 

薄れていく意識の中で聞こえて来たその言葉を聞いた。

 

 

────────────────────────────────

 

「…あれ?」

 

黒い地に赤いハートの模様がたくさんあるベッドの上で目が覚めた。

身体に青いタオルケットがかけてある。

普通の洋風の部屋だ…白い壁、窓に掛かったチェック柄のカーテン、本棚と…。

 

「あら、気が付いたの?」

 

ベッドの隣の椅子に座っていた人が話しかけてきた。

あ、この人は私が私を寝かせてくれたのか、と気付き跳ね起きてその場で深々と頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい!ご迷惑をおかけして…」

 

「いいのよん。それよりももうちょっと休んだ方がいいんじゃない?顔が青いよ?」

 

その人は私にタオルケットを掛けなおすと、またゆっくりとベッドに寝かせてくれた。

礼を言おうと思ってその人を見た時、私は思わず固まってしまった。

今風の黒い肩の出たTシャツ、赤青緑のカラフルなスカート…首についているチョーカーに繋がれた鎖。

頭の帽子の上に赤い天体のような球体が載っており、他に黄色と青い球体も横に浮かんでいる。

 

「それとありがとうございます…助けて頂いて」

 

「ああ、たまたま地上を見てたら貴方が目に入ったからね。ちょっと行ってみたワケ」

 

笑いかけながらそう言った。

 

「あの妖獣たちは…まさか…」

 

「大丈夫よ、ちょっと脅かして追い払っただけ」

 

それを聞いた聖はほっと胸をなで下ろした。

よかった、あんな形とはいえ自分と関わった妖怪が死んだとなれば色々と思ってしまう。

 

「ところでさ、貴方はどうして一人で旅なんかしてるのかしら?どうやら尼さんっぽいけど単なる修行って訳じゃなさそうだし…。よかったら話してくれない?」

 

その人は膝の上に肘を立て、手を顎に当てながら言った。

 

「…私は、人も妖怪も平等であるべきと常日頃から寺の弟子たちに解いて聞かせてきました。もちろん殺生なんてもってのほかです。でも、それをずっと言ってきた私が…ある妖怪を殺めてしまおうと計画したんです。私の思想を壊そうとするその妖怪を憎んでしまい、そこを誰かに付け込まれて…。そんな少しでも殺意や憎しみを持ってしまった自分を悔い改めるために一人で修行の旅に出ていたのです」

 

「…ふーん、なるほどね。だから妖怪相手に手を出さなかったのね」

 

そういうとその人は急に立ち上がった。

 

「私は地獄の女神、ヘカーティア・ラピスラズリ」

 

ヘカーティア…面白い名前…。

それに、今地獄の女神って言った…?

 

「じ、地獄の女神…という事は私は地獄に落とされて…」

 

「違う違う、貴方はちゃんと生身で生きてるわよ。ちょっと気の毒だったから連れて来ただけよ」

 

「女神様…ありがたやありがたや…」

 

「あーもう、そういうのはいいから普通にして?ね?貴方の体調が良くなったら、地上まで送り届けてあげるから…」

 

そのヘカーティアさんは私がもう一度寝たのを見ると、この部屋を後にした。

私も、もう少し寝ようかな…。

 

 

「う~ん…」

 

目が覚めた。

何やらとても香ばしいにおいがする。何の匂いだろう?

 

「どう?具合は」

 

さっきのヘカーティアさんが部屋に入って来た。

 

「まあ、たいぶ良くなりましたね」

 

半日ほど寝ていたのだろうか。

枕もとの机に置いてある時計を見ると、針は8時を指していた。

確か私が倒れたのは太陽が真上にあったからお昼頃…一日寝ていたとは考えられない。

夜の八時か。だが久々に8時間も寝られたおかげで確かに体調も良くなった。

 

「そう、それは良かった。ところで夕飯できてるんだけど来なさいな」

 

「いえいえ!食事まで頂くのは…」

 

そういう聖だが、空腹には勝てずに腹の音が鳴ってしまった。

聖はあっ、と言った顔で慌てて腹を押さえる。

 

「いいから来なさいな」

 

「…ではいただきます…」

 

ヘカーティアに連れられて部屋を出ると、すぐそこは台所だった。

キッチンも冷蔵庫もあり、現代風の普通の台所だ。

キッチンテーブルには3人分の椅子と3人分の料理が置いてあった。

 

「ささ、座って座って」

 

言われるがまま椅子に座る。

 

「あの、これは…?」

 

前に置いてある不思議な料理を見て聖はそう聞いた。

何やら野菜が入ったシチューにも見えるが…。

 

「それはカレーライス。もしかして尼さんは食べた事ないかしら?」

 

カレーライスという料理なのか。

本音を言ってしまえば未知の食べ物、おいしそうには見えない。

もしかして地獄の食べ物なのだろうか?

 

「ただいまー!!」

 

そんな事を考えた居た時、戸が勢いよく開けられ元気な声が響いてきた。

 

「あら、クラウンピース。おかえりぃ」

 

この子はクラウンピース、というのか。

星条旗を貴重とした柄のワンピースに同じく星条旗柄のタイツ。

金髪の頭にはピエロを彷彿とさせるような不思議な帽子を被っている。それに、背中にあるあの羽根。

妖精かしら?

 

「お客さんよ、挨拶しなさい」

 

「こんばんわー!」

 

「こんばんわ」

 

元気よく挨拶をしてくれたクラウンピースにこちらも返す。

その子は椅子にどかっと座り、早速スプーンを握る。

 

「ご主人様、はやく食べよう!」

 

「じゃあ食べましょうか。聖ちゃんもどうぞ」

 

「あれ?私自己紹介しましたっけ?」

 

「ふふふ、女神さまは何でもできるのだ」

 

ヘカーティアとクラウンピースはスプーンで普通にこのカレーライスという料理を食べ始めた。

どうだろう…ええい、せっかく頂いたものを食べないわけにはいかない…。

スプーンでまず一口すくい、自分の口へ運ぶ。

 

「…あら」

 

思ったよりも、いやそれでは失礼か。美味いじゃないか。

唐辛子等といった辛みとはまた違った不思議な辛味だ。

 

「どう?美味しいでしょ?」

 

「はい、とても」

 

何故だろう、辛いはずなのにいつまでも食べ続けていられる。

ああ、水が欲しい。でもそれ以上に次の一口を味わいたい。恐ろしい料理だ、これがカレーライス!

表面にこのカレーが染み込んだジャガイモ、柔らかく煮られた玉ねぎ…具の野菜も良い感じ。

 

「ご主人様ー、今日は地上でねー…」

 

ヘカーティアとクラウンピースは他愛のない会話をしながら食事を楽しんでいる。

ああ、いいなぁこういうの…。そういえば、寺の弟子たちはどうしているだろうか。

しっかりとやっているだろうか…私が居なくて困っているではないだろうか…。いや、あれほど教えを説いてきた私があんなことをしたんだ…今更会わせられる顔もない…。

 

「ごちそうさまです、とても美味しかったです」

 

「はいよー。お風呂もできてるけどどうする?修行の旅ってことはろくに体も洗えてなかったんでしょ?」

 

「あ…では入らせていただきます」

 

「明日は私の車で地獄観光なってどうかしらん?」

 

私のお皿を片付けながらそんな事を聞いてきた。

 

「地獄観光…ですか?」

 

「そう。観光って言っても車に乗って上から眺めるだけだけどね」

 

「はぁ…」

 

 

 

翌朝。窓のカーテンから漏れる光で目を覚ました。

そのカーテンを開けてふと窓の外を見ると、聖には見た事もない光景が広がっていた。

 

「おお…」

 

すぐ下には薄い黄色い雲があり、上の方のずっと遠くには空に浮かんだ屋敷か宮殿のようなものまで見える。

窓から身を乗り出して周囲をよく見ると、どうやら今居る家は空中に浮かぶ小さな惑星の上に建っているようだ。

それを見てしばらく感嘆したあと、部屋を出た。

 

「おはようございます」

 

「あらおはよう。朝食も用意してあるわ」

 

私は案内されるまま昨日と同じ席に座った。

前には目玉焼きにパン…普通の洋風な朝食だ。

 

「さっき窓から見たのですが、凄いですねここは…」

 

「ああ気付いた?ここね、私が所有する地獄の空に浮かんでる惑星」

 

地獄の空に浮かんでいる惑星…。何だかすごいな。

 

「でも地獄って思ったよりも明るいんですね」

 

「でしょでしょ?地獄に落とされた奴らも同じこと言うのよね。つい2000年くらいまでは今よりも真っ暗だったんだけど、ある弓術の天上神がやってきて地獄の闇を深める太陽をいくつか撃ち落したのよ。それから今みたいに明るくなったってわけ」

 

「はぁ、大変なんですねぇ」

 

朝食を食べ終えてしばらくした後、昨日言っていた地獄観光とやらに行く準備を始めた。

家の外に出るとすぐそこに赤いオープンカーが停めてあった。

 

「さぁ乗って乗って」

 

「あー、ご主人様お出かけですかー?」

 

丁度クラウンピースがふらりとやって来た。

 

「貴方も乗る?」

 

「乗る!」

 

聖が助手席に、クラウンピースが後部座席に乗った。

ヘカーティアが運転席でエンジンをかけると、車は小さな惑星を走り、そのまま宙に浮かんだ。

 

「すごい…浮かんでる…」

 

「神様は何でもできるのよ!」

 

そのまま雲の中を走っていき、ついに地獄の様子が見える所まで降下した。どんな地獄絵図が広がっているのかと思ったが、全然そんな事は無かった。

如何にも地獄の亡者っぽい集団がベンチに座っていたり、広がる繁華街には妖精たちが見える。

 

「どう?思ったのと違った?」

 

「はい、大分…」

 

「でも地獄に落ちたいなんて思っちゃだめよ」

 

冗談交じりの談笑をしながら地獄の空を飛ぶ彼女たち。

 

「あ、アレは…!」

 

ヘカーティアは急に車を急降下させ、広場に降り立った。

何事だろうと思っていると車から降り、道の端に座っている何者かの下へ歩いていった。

 

「ちょっと?貴方今日は装置の当番だったわよね、こんな所で何してるの?」

 

「げっ、ヘカーティア様…!」

 

額から一対の角を生やした、地獄の鬼の少女だ。

短いジーンズジャケット、ショートパンツ、首に下げたネックレスからギャルっぽい印象を受ける。

 

「は、はは…すぐ戻りま~す!」

 

「全く…」

 

その鬼の少女はそそくさと街の中央にそびえる大きな施設に向かって走っていった。

それを確認したヘカーティアはこっちに戻ってきて再び車に乗った。

 

「さ、観光を続けましょう」

 

「はぁ…」

 

 

 

「なんでアタシだけ…他の当番の子だって皆サボってるのに…」

 

街の中央に存在する大きな施設。

その中の何やら大きな装置の当番だったらしい先ほどの鬼の少女。

 

ガキッ

 

その時、回転する扇風機に細い棒を刺したような音と共に、動いていた装置が止まってしまった。

 

「あれ?何か詰まったかな…」

 

 

聖たちがヘカーティア、クラウンピースと共に地獄観光を楽しんでいる中…。

地獄全体を巻き込んだとんでもない事が起ころうとしていた。

 

 

 




舞台は地獄です。

今回の話はちょっと二次色が強い話になってしまった…。
地獄にそんな惑星は無いし、クラウンピースもヘカーティアの部下とはいえ一緒に暮らしている訳ではないと思いますが。
たかが二次創作という事で勘弁してください。

あ、ヘカーティアが住んでる惑星はドラゴンボールの界王星みたいな感じを想像して戴ければわかりやすいと思います。
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