れいむとシロ   作:ねっぷう

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第79話 「長夜之飲」

シロ「なぁ、さっきから何を書いているんだ?」

 

その日、ずっと机の上に広げた紙に鉛筆で何かを丁寧に書いている霊夢にそう尋ねた。

 

霊夢「勝負した妖怪の記録をとってるの。これを仕上げると紫が上等なお酒をくれるの」

 

シロ「お前では到底手に入れられそうもない酒が置いてあるのはそれだったのか…」

 

机を挟んだ向こう側で寝転んでいたシロが起き上がる。

ふと目線をずらすと、霊夢の横に本が積まれてあるのに気付いた。

 

シロ「その積んであるのもお前が書いたのか?」

 

霊夢「ああそれ?歴代の巫女が書いたのを参考にしようと思って」

 

なるほど、そういえば霊夢より以前の博麗の巫女も多く居たんだったな。

ここ幻想郷の妖怪は我が外の世界で倒してきた妖怪とは違った、見た事もない妖怪をよく見かける。

例としてはあの数の天狗は外でも見なかったし、妖精などといった種族もここに来てから初めて目にした。

という事で少々内容も気になってくる。

 

シロ「見てもいいか?」

 

霊夢「いいわよ。言っておくけど、実際に対処した者の記述だから阿求のとこのよりずっと実践的よ」

 

シロ「ほう」

 

シロは積まれてある中から適当に一冊ぬいて、頬杖を立てながら読み始めた。

まず書かれているのは河童か。次も河童か。って、アレ…?

 

シロ「なぁ、これひたすら河童の事しか書いてないぞ?」

 

霊夢「六代目のやつね。河童が大好きだったみたいよ」

 

シロ「いいのかそれで?」

 

霊夢「良いみたいよ。いろんな視点から書かれることに意味があるって紫が言ってたもの」

 

霊夢は鉛筆を置いて手を揉みながら言った。

じゃあ適当に書けば貰い放題なのか…と考えたが、やはり好きに書くのと手を抜くのとでは違うのだろうな。

 

霊夢「ちなみにその六代目だけど、当の河童からは相当嫌われてたそうよ」

 

シロ「ふ~ん」

 

とりあえずその六代目の本をざっと読み終え、また適当に別の本を抜いて広げてみる。

すると一ページ目から目いっぱいに文字が羅列されていた。

 

シロ「これは凄いな、妖怪共の対処法がびっしりと事細かに記述してある」

 

霊夢「じゃあ私の前に巫女をしていた人のやつね」

 

霊夢はすぐにそれを書いた巫女を言い当てた。

 

シロ「ほう」

 

その時、シロの右足に電流が走るような、妙な違和感を覚えた。

…気のせいか?

 

霊夢「とにかく、その先代はすごかったらしいわ。私とは違って霊力は弱かったらしいけど、単純な体術や体力は歴代で最高だったとか」

 

シロ「だが、幻想郷の均一を保つにはこういった知識は広めておいた方がいいんじゃないのか?」

 

幻想郷は妖怪が人間を怖がらせ、人間が妖怪に立ち向かう事でバランスを保っている。

 

霊夢「うーん…うわんに『うわん』って答えるような対処法ならいいけど、もっとこう…具体的な退治の仕方なんて知ったら妖怪の住処に自ら踏み込む馬鹿がでるから賛成しかねるわね」

 

シロ「そんなもんか」

 

霊夢「それに、牛鬼のうなじに張り付けば攻め手が無くなるなんて対処法、知ったところでどうすればって話よ」

 

牛鬼と言えば、前に竹林で妹紅と共に戦ったことが有ったな。

確かに、あれに対してのその対処を知ったところで何ともならんな、と思った。

 

霊夢「その人は三日三晩暴れる牛鬼に張り付いて、ついには鎮めたそうだけど」

 

シロ「…なぁ、そういえばその先代の巫女とやらは役目を終えた後どうするんだ?初代は山の崖で一人で暮らしておったが…」

 

霊夢「あぁ、私も昔に気になって色んな人に聞いたんだけど皆分からないの一点張りよ。でも今じゃそんなの興味もないわ」

 

シロ「ふ~ん」

 

 

 

霊夢「よし、今日の分は終わったわ~」

 

霊夢は鉛筆を机の上に乱暴に叩きつけると腕を上げて伸びをした。

どうやら今日の分は書き終えたようだ。

 

紫「どうも、ちゃんと書いた?」

 

八雲紫が平然と戸を開けて入って来た。

 

霊夢「書いたわよ。見る?」

 

紫「どれどれ…」

 

紫は霊夢が広げた紙に目を通す。

 

紫「よし、合格よ!じゃあこれを呑みましょう」

 

ピッと何もない空間を指でなぞり、そこにスキマを開く。

そしてスキマに腕を突っ込み、酒の瓶を何本か取り出した。

 

霊夢「サンキュー、これが飲みたかったのよ。疲れた後の酒はね…」

 

そんな事を語りながら瓶の栓を抜き、そのままラッパ飲みをした。

 

紫「シロもどうかしら?」

 

シロ「…まぁ、そんなに好きではないが…少しだけな」

 

 

霊夢「ぷはー…」

 

もう既に夜になっている。

霊夢は既に酔っぱらっており、机に肘を付きながらまだ呑み続けている。

 

シロ「…ふぅ」

 

シロも普通の湯呑に入った酒をちびちびと飲んでいる。

特に美味いとは感じないが、ただ喉が渇いた時に呑むには水と変わりない。

 

霊夢「ちょっとトイレ行って来るわ」

 

霊夢は瓶を手に持ったまま部屋を出ていった。

 

シロ「けけけ、せいぜい我が設置しておいた分身に殺されぬようにな…」

 

霊夢「うっさいわね、トイレくらい普通にさせなさいよ!」

 

そのシロの声が聞こえたとたんに急に戻ってきてシロの頭をスパーンと叩いてから、再び部屋を出た。

 

シロ「いてて…」

 

紫「うふふ…」

 

シロ「何を笑っておる」

 

途端に笑った紫に対して少し威圧を掛けながら言った。

紫は扇子を広げて、顔を扇ぎながら答えた。

 

紫「いやね、貴方たちはそうやって戦いに臨むのだと思うとね…」

 

シロ「それがどうした?」

 

紫「もうすぐ、幻想郷中を巻き込んだ戦いが起こる。その混沌の中でも…貴方たちだけは変わらないと思うと、おかしく思えてしまってね…」

 

シロ「…では我からも言わせてもらおう。人間の子供は遊びの一環として、丹精を込めて砂の団子を作り…時にはそれを宝物として大切にする。しかしその子供が大人になる頃には、当然砂の団子は崩れて無くなっているだろう。お前は…その砂の団子をいつまで守り続けるつもりだ?」

 

そのシロの言葉に対して、紫は俯いてから口を開いた。

 

紫「ええ、私は絶対にこの幻想郷を守る。其の為なら誰を何人殺そうが何を壊そうが…たとえ私自身が滅んでも…」

 

シロが見たその紫の顔には、八雲紫としての機械的な底なしの執念のこもった笑みが浮かんでいた。

いや、狂気じみた執念、まさに妖怪というべき顔か。

 

紫「でもその後で…八頭龍の脅威の去った後のこの地で、今よりももっと自由に暮らしてみたいわね」

 

シロ「くくく、だが八頭龍が消えた後は…我がこの幻想郷を滅ぼしてやるのだがな」

 

紫「あら、それなら私も全力で貴方を潰しにかかりますわ」

 

シロ「へぇ、楽しみにしておるよ」

 

二人に冗談交じりに笑いながらそう言い、互いに酒を飲み交わした。

 

 

ふと時計を見ると、既に午前2時をまわっていた。

最初の紫が持ってきた酒も全部飲んでしまい、後から紫が持ってきた別の酒も終わろうとしていた。

 

霊夢「…」ガー

 

霊夢も酒瓶を持ったまま腹を出して寝てしまっている。

 

シロ「ケッ、腹を出して寝てしまっては風邪をひく…そうすれば殺し甲斐が無くなってしまうだろう」

 

そう言うとシロは隣の部屋から薄い布団を持ってきて霊夢にかけてやった。

シロも思いもよらないその行動に、紫は思わずまた笑いをこぼしてしまった。

 

紫「貴方も、変わったわよね…」

 

シロ「なーにが?」

 

霊夢「う、う~ん…」

 

寝返りを打ちながら寝言を言う霊夢。

 

霊夢「次は…平和になってから…皆で、呑みましょうか…」

 

紫「…ええ、楽しみにしているわ…」

 

シロ「行くのか?」

 

紫「そろそろ行くわ。楽しかったわ、じゃあね」

 

紫は開いたスキマに飛び込んでいった。

シロはそれを見た後、ちょこちょこと酒瓶をまとめてからまだ開けていない瓶を一本持って神社の屋根の上へ登った。

 

 

───────────────

 

その晩の朝方。

うっすらと青みがかった幻想郷の空に、異変が起きた。

まるでガラスを割るように空に穴をあけながら突如出現した隕石。だがその隕石は燃えることなく、真っすぐに幻想郷に落下しようとしている。その隕石はゆっくりと幻想郷の西の丘の上に着弾し、その瞬間…まるでガラス玉か砂糖菓子のように粉々に砕け散った。

 

その破片は飛んでいく。

この幻想郷中に…ゆっくりとばら撒かれて行った。

 




何のとは言いませんが、フラグが立ってしまいましたね。

はい、次回からいよいよ最終章です。
霊夢とシロの物語の完結編、見てくだせえええ。
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