シロ「…らしくないな、博麗霊夢」
霊夢「シロ…私を覚えていてくれたの?」
シロ「何言っておる、お前はいずれ我が殺すのだ…そっちこそ覚えていろ」ギン
霊夢「シロ~」
霊夢は嬉しさのあまりシロの肩に手を置いた。
それも、半べその顔のまま。
シロ「げ…離れろよッ」
シロはすぐに飛びのいて霊夢から離れた。
シロ「実は今日、我はずっとお前を見ていたのだ。まさか里の人間どもが…魔理沙もお前を忘れてしまうとはな…。ここの館の連中も駄目だったようだし…」
霊夢「シロ~」
今度は半べそのままシロに抱き付こうとしてきた。
それをシロは嫌そうな顔をしながら引きはがし、霊夢の頭を掴む。
シロ「とにかく逃げるぞ」
「侵入者発見!」
「あの女を逃がすつもりだ!」
その時、紅魔館の妖精メイドたちが地下牢の空間に押し入って来た。
誰にも気づかれずに館に侵入したはずだったのだが…。
シロ「行くぞ」
シロは尾をドリルのように回転させ壁を破壊し、霊夢を掴んだまま地面を掘ってそのまま地上へ向かった。
どうやら追っ手は地面の中までは来ていないようだ。
シロ「これからどうするのだ?」
紅魔館のすぐ近くの地面から飛び出しながらシロは霊夢に尋ねた。
霊夢は少し迷った後。
霊夢「…とりあえず、私が解決してきた異変の主犯が居るところ…そこをしらみつぶしに周っていこうと思う」
シロ「と、いうとどこだ?」
霊夢「白玉楼ね。前に行った事あるでしょ?」
かつて紅霧異変を解決し、その年の冬。
普通なら春が訪れてもおかしくないはずの時期になってもまだ冬は終わらず、雪が降り続けている。
冥界の白玉楼の主である西行寺幽々子が、「春」を集めて幻想郷の春が来なかったからだ。
その後霊夢たちは見事幽々子を打倒し、その異変を治めた。
紅魔館がダメなら白玉楼ならどうだ、という事だ。
シロ「あそこか…」
霊夢とシロはすぐに冥界へ向かった。
二人は冥界に入り、白玉楼の方向目指して飛んでいく。
彷徨っている幽霊たちの間を潜り抜けながら飛んでいると、いよいよ目の前に長ったらしい階段が見えた。
その階段を飛びながら登り、門を強引に開けて中に飛び込む。
霊夢「あ!」
中に入って庭に向かうと、縁側に二人分の影が見えた。
一人は西行寺幽々子が縁側に座っており、魂魄妖夢が何やら木の枝きれのようなものを手に持っている。
妖夢「ご無沙汰です、霊夢に…シロさん」
霊夢「妖夢…!アンタ、覚えてるの…?」
目の前に居りたった霊夢とシロに妖夢はそう言った。
よかった、妖夢は忘れていなかった。しかし、何故妖夢は大丈夫だったのだろう?
ここが冥界だから範囲外だったのだろうか?
霊夢「なんでアンタだけ覚えていたの?幽々子はどうなの?」
妖夢「幽々子様は残念ながら覚えておりません。でも私は覚えてますよ…いや、思い出したというべきでしょうか」
霊夢「…思い出した?」
妖夢「私も今朝、貴方の事を忘れていました。いや、完全に記憶から消えていれば忘れているとも思わないハズなんですが…何かが私に呼びかけて来るんです。その呼びかけの声の主は私の持つ白楼剣だと気づきました」
『魂魄妖夢、お前は忘れている…強いあの者らを…思い出せ…私を使い自らの頭を斬れ。さすればお前の迷い…記憶の歪みを断ち切れるだろう』
妖夢「その声の呼びかけに応じるまま…私は自分の頭に剣を刺し込みました。するとこれが頭から出てきて、今まで貴方の事を忘れていたのに気付きました」
妖夢は胸のポケットから二つの砂粒のようなものを取り出し、手の平に乗せて見せた。
青紫色の水晶のような小さな粒だ。
妖夢「さらに白楼剣は語りました…」
『この欠片は八つの頭を持つ龍…八頭龍が作った隕石の欠片…。八頭龍は異界を喰らう…今この幻想郷を狙っている。朝方に幻想郷に着弾した隕石は…砕けて欠片になりながら…幻想郷とそれに繋がる全ての…界にばら撒かれた。そしてこの欠片は頭に入り込み、その者から霊夢とシロ、そして八頭龍に関する記憶を消す…』
シロ「…その欠片を剣で斬れたというのなら、隣の者に入った欠片も斬れるのではないか?」
霊夢「そうよ、アンタの白楼剣を使えば幽々子も思い出してくれるんじゃ…」
霊夢は妖夢の腕を掴んでそう頼んだ。
しかし、そこで霊夢はハッ、と気付いた。
何と妖夢が握っていた、今まで木の枝きれか何かだと思っていたのは既に原型が残らないほどボロボロに変形した白楼剣だったのだ。
妖夢「見てのとおり、白楼剣でも私一人分の欠片を断ち切るのに精いっぱいで…」
たかが欠片を斬るだけであそこまで剣がボロボロになってしまうとは…。
霊夢「そうだったの…。でも、なんで記憶を消すなんて…」
シロ「奴め、人の記憶を消す欠片など…妙な事をやりおって」
妖夢「…しばらっくれようとしてもダメですよ。これも白楼剣が教えてくれたわ、シロさん…貴方は20年前、外の世界である人間とある妖怪に関する記憶を食べてしまう化身を使いましたね?」
シロがまだ白面であった時、白面の力の源は未知、つまり自分に対する恐怖。他の者が白面を恐れれば怖れるほどそれを自分の力に変えてしまう…それが白面が強大であった秘密。
だが自分が復活するときにはとらとある人間を中心に妖と人間の連合ができつつあった。そこに生み出されるのは希望…彼らなら白面の者を倒せるかもしれない…。それを、白面は見過ごすわけにはいかなかったのだ。
シロ「ふん、その剣…何でもお見通しという訳だな。そうさ、我も昔…同じことをしたよ」
妖夢「それを、恐らく八頭龍は見ていた。如何に白面が人々を恐怖のどん底へ突き落としたのかを…。だから八頭龍は考えた…自分が復活した時、憎き白面の者に対する最高の復讐劇とはどういったものなのだろう…それは敵と同じ方法で敵を絶望させる、それこそが敵を侮辱する最高の意趣返しになるとね」
霊夢は思った。確かに、私に関する記憶を消しておけば、私に味方する者は居なくなって断然やっつけやすくなる。
シロに関する記憶を消すのも意趣返しという事で説明が付いた。
霊夢「だけど、何故八頭龍は自分に関する記憶まで消したの?」
妖夢「そこまでは分からないけれど…単純に自分に対しての対策を練っている妖怪も居るから、自分に関する記憶も消すことでより簡単に幻想郷を喰えるようにしたいからではないかしら?」
対策を練っていた妖怪、つまり紫たち賢者の事か。
そういえば紫は自分の事を覚えているのだろうか?あの紫の事だからその程度お見通しで、何らかの策で回避しているのかもしれない。
霊夢「なるほど、八頭龍がやろうとしてることは分かった。とりあえず今は、可能性は低いけど私たちの事を覚えている人を探すのが先決ってことね」
シロ「八頭龍は本格的に目を覚ます準備を始めているはず。それは明日かもしれないし、今日中かもしれない…急ぐぞ」
霊夢とシロは後ろを向きながら飛び立とうとする。
だが霊夢は思い出したように振り返り、座っている幽々子の手を握りながら言った。
霊夢「じゃあね、私たちが必ず何とかしてみせるから!」
忘れられていても霊夢にとって知人は知人。
今は忘れられていたとしても自分を拒絶しない人の存在はとてもありがたい。
幽々子「…うん」
二人は勢いよく飛んでいき、すぐに見えなくなるほど遠くまで行ってしまった。
幽々子「ねぇ妖夢、私は忘れているのね。あの巫女がとても暖かい事、そしてあの妖怪がとても強いことを」
幽々子は遠くに消えていった二人の方を見ながら言った。
妖夢「そうです。敵は、あの二人がもたらす希望を何よりも恐れているのかもしれません」
シロ「次は何処へ行く?」
霊夢「そうね、次は紫と藍を捜しましょう」
そう言いながら冥界を抜けようとした瞬間、二人の目前に結界の壁が出現した。
二人は止まり切れずに結界に激突し、跳ね返される。
霊夢「な…!」
地面に着地した霊夢だが、地面に足を付けたとたんまるで接着剤が靴の裏に塗られていたかのようにその場から動けなくなってしまった。
そして何者かの手が霊夢の首を掴んだ。
シロ「おら、何だお前達は…!?」
シロもその姿を見た。
動物の耳のような二本の尖がりのある帽子、金色に輝く自分と同じように9本の尻尾を持つ…八雲藍。
さらにその後ろに居るのは、昨日まで普通に話し込んでいた八雲紫だった。
シロ「おら、お前ら…何のつもりだ?」
そう問いかけるシロ。
藍「何でしょうか、あの妖怪は」
紫「知らない、見た事もないわ。でもこれで…生け贄として龍神様に捧げる、博麗の巫女は手に入ったわ」
紫の術で動けない霊夢を、藍は乱暴に肩に担ぐ。シロは自分の額に血管がぴくりと浮き上がるのが感覚で分かった。
シロ「何のつもりだと聞いておる!」
そう声を荒げるシロに向かって紫は指先を向ける。
指先から放たれるリング状の結界がシロの身体を縛り付けた。
シロ「ぐお…貴様らァ…霊夢に何の用がある?ええ?応えよ、八雲紫ィ…藍!!」
藍「黙れ。お前こそ何者だ、何故博麗の巫女と共にいる?」
二人の冷徹な視線が向けられる。
そういう事か…コイツ等も、忘れておる。昨日、戦いへの意気込みを話しながら酒を飲んだばかりの…紫でさえも。
紫「何者かは知らないけど、諦めてもらおう。この巫女は大いなる龍神様にその命を捧げてもらうのよ」
龍神様?ああそうか…妖夢が言っていたな、八頭龍は自分に関する記憶も忘れさせていると。
だからこの者らは奴を龍神と思うているのか…。
霊夢「紫に…藍…アンタらまで私を覚えていないの…?」
担がれた状態で霊夢は口を開いた。
藍「何を言っているんだお前は?ていうか、ただ運よく博麗の巫女に選ばれただけの存在で紫様にそのような口をきくな」
藍は霊夢の頭の上に手を置くと、霊夢は急に顔を俯かせて気を失ってしまった。
シロ「キサマらァ!ふざけるんじゃない!!」
紫「残念、私たちは貴方みたいな程度の低い妖怪と遊んでるヒマはないの」
紫と藍、霊夢は開かれたスキマに入っていった。
何とか結界を振りほどき、自分も後を追おうと隙間に飛び込もうとするが、寸前にスキマは閉じられてしまった。
くそ…霊夢を龍に捧げるだと…?そんな事させるかよ…お前は…。
シロは急いで冥界を抜けるべくその場を後にした。
要するに八頭龍は大嫌いな白面がしてきた方法で白面を苦しめ、奇襲が仕掛けやすいように自分の事も忘れさせた訳です。