れいむとシロ   作:ねっぷう

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第82話 「奈落の妖龍」

紫「これは…どういうことなの?」

 

朝一番、幻想郷の結界に重大な異変を感じた紫は寝床を飛び出した。

開いたスキマから、まずは幻想郷の空を覗き込む。すると空に真っ黒い穴がぽっかりと空いていた。

まずい、結界に穴が空くなど…。他に異常をきたしている場所は無いか?

紫は焦りながらくまなく結界を探った。本来幻想郷を覆う結界は内側からなら明確な内と外を隔てる壁というのはなく、もし結界より向こうに行こうとすればいつまでも同じ景色が延々と続き、一度引き返せば元の場所に一瞬で戻ってしまう。現に魔理沙もこの体験をしたことが有る。

しかし、今回結界に穴が空いてしまった事で結界のバランスが崩れ、内側からでも分かる明確な壁ができてしまった。もっとも、魔理沙のように結界の向こうに行こうとしなければ分からない事ではあるが…。

 

紫「あの穴の正体を見極めねば」

 

紫はゆっくりと空に昇り、その穴をじっくりと調べた。

やっぱり。幻想郷を隔てる二枚の結界…その内側にある結界に穴が空いている。これでは修復するのにえらく時間がかかってしまう。とりあえず、一般の人間や妖怪には見えぬよう隠す術をかけておこう。

しかし、外の世界からの何らかの圧力で空いたとすれば2枚ともども貫通されているはず…内側一枚だけという事は…2枚の結界の間に、穴をあけた何かが居る?

紫は恐る恐る結界の穴の中に入り込んだ。入った瞬間、物凄い妖気の渦が襲った。

まるで雹が降り注いでいる中に立っているような、突き刺さるような感じだ。

 

『ワシは…誰だと思う?』

 

その空間に低い声が響き渡った。実際に耳に聞こえているのか、心に語りかけてきているのかは分からない。紫は驚いて振り返る。

 

紫「な…!」

 

そこに居たのは、出会ったら山か谷かと見間違えてしまいそうなほどの巨大な体躯を誇る何か。

まるで燃え上がる紅蓮の流れ星のような紅く丸い目がじっと紫を見据えた。

 

【挿絵表示】

 

 

紫「だ、誰だと思うとは…どういうこと?」

 

その言葉に、紅い目が少し笑ったように細くなった。

 

『ワシは全ての大地を司る龍神…』

 

紫「龍神ですって?」

 

『理由は言わぬ…貴様らはワシら龍神の怒りを買った。なので、今よりこの地を喰らって滅ぼしてやろうと思う』

 

既に龍の隕石の欠片が頭に入り込んでいた紫は、よく考えれば支離滅裂で突拍子の無い宣言をいとも簡単に受け取ってしまった。

 

紫「滅ぼす…幻想郷を…!?」

 

『そうだ。山を崩して呑み込み、川の水も湖の水も全て飲み尽くし大地を削り取る。もちろん、住まう生き物も妖怪も全てだ…全て喰らって滅ぼす』

 

龍は恐ろしい声でそう続けた。

 

『だがしかし、ワシがするある提案を呑んでくれるのならば、鎮まってやらないこともないが…』

 

紫「その…提案とは?」

 

『博麗の巫女。そいつを連れてきてワシに喰わせるのだ』

 

───────────

 

シロ「けええええ、何処へ行ったァ!?」

 

シロは冥界を抜け、幻想郷まで戻って来た。

空を飛び続けながら辺りを見渡す。

 

シロ「何処だ…」

 

物凄いスピードで飛び回りながら眼下を見渡す。

居ない…居ない。一体、紫たちは霊夢をどこへ連れていった…?

 

魔理沙「おや…?」

 

シロの目の前に見えたのは、霧雨魔理沙ととら。もちろんこの二名も自分の事は覚えていないのだろう。

今度は、我がお前に忘れられるのか。…ふん、何を我はそんな事を気にしている…。

しかしまずい、このまま飛んで行けば勢い余って激突してしまう。

 

とら「アブねぇ!」

 

とらは箒に跨って飛んでいる魔理沙を引っ張る。

うまい具合に飛んでくるシロを避ける事が出来た。

 

シロ「…アレは…」

 

シロも見つけた。雲よりも上にある、空に空いた真っ黒な穴が。まさかあそこでは…。

今までよりもさらにスピードを上げてその穴目指して飛んでいった。

 

魔理沙「何だったんだアイツ、危ないなぁ!」

 

とら「…」

 

とらは気になっていた。

さっきの紅白が言っていた通り、あの人間の事をわしと魔理沙は知っているのか?

だったら、あの紅白まるで…忘れられた…。

 

とら「おい魔理沙、さっきの奴を追うぞ」

 

魔理沙「へ、ちょ…」

 

もしもわしらがアイツを忘れてるんだったら、ありえない話じゃねぇ。現にわしも同じ目に遭ってる。

だからわかる、あの紅白の気持ちが。

とらは魔理沙の腕を掴んだまま、シロが飛んでいった方向を追いかけていった。

 

 

 

霊夢は目を覚ました。

辺りは真っ黒な空間、そこに渦巻く強力な妖気。

どうやら自分は祭壇の上に寝かされているようで、身体は動かせない。いや、動くことができない、か…。

 

紫「目を覚ましたのね。できれば眠っているうちに済ませたかったんだけど…もう時間が無いわ…」

 

霊夢「~~…!」

 

声も掠れて出て来ない。というか全身から力という力が抜けきってしまっている…まるで体中の筋肉が無くなってしまったかのようだ。紫の術によって体の霊力、他に人間ならば誰しもが最初から持っている気までもが奪われていく。

 

紫「貴方も本望でしょう?博麗の巫女は幻想郷を守るのが役目…貴方が龍神様の一部と成ることでそれが達成されるの」

 

何だって…龍神、つまり八頭龍が私を…!?

あまりの脱力感に上手く頭が回らない。私は死ぬのか…?

 

『ハハハハハ…ついにこの時が来たか…ッ!』

 

この声、聞き覚えがある。前に時逆に博麗大結界ができた時代に連れていって貰った時に嵐の中心に居た八頭龍の頭の一つ。あとの七つの頭はその時は確認することができなかったが、あの頭がリーダーのような立ち位置だったのだろう、雲から一つだけ頭を出して紫たちと対峙していたな。

 

紫「はい、博麗の巫女はご用意いたしました…これで、どうか…」

 

『ハハハ、覚えておるぞ…500年前、そして150年前にワシに痛みを与えた巫女…代が変わってしまったとはいえ喰らってやるのを楽しみにしておった』

 

霊夢は頭をごろんと横に向けると、その姿を見た。

間違いない、あの時の龍だ。

そんな事を思っている間にも気はどんどん奪われていく。このままでは意識まで堕ちるのが先か、あの巨大な龍に一呑みされるのが先か。

 

『では、頂くとしよう…ついに博麗の巫女を腹に収める時が来たのだ!』

 

そう言いながら180度にまで達するかというほどまで大きく口を開ける。

 

 

ズシャアア

 

藍「かは…お前、何者なんだ…!?」

 

シロ「いいからそこを退け」

 

穴に到達したシロの前に立ちふさがった藍を一瞬にして叩き伏せて見せたシロ。

腹を抑えて膝を曲げている藍にそう命令する。

 

藍「ど、退いてやるものか…今、あそこでは幻想郷の命運を左右するやり取りが…ぐあ…」

 

藍の髪を掴んで強引に引っ張り上げる。

 

シロ「いいから退けと言っておる。そしてお前はやはり忘れておる…気が立っている我がどれほど恐ろしいのかをな…」

 

 

龍の開けた大口は確実に霊夢を祭壇ごと呑みこもうと襲い掛かる。

コイツが私を喰ったら幻想郷を滅ぼすのを辞める?そんなわけないじゃない。

でも…そう思ってしまえば、思う事が出来れば…私の死は役立つのかな…。

 

『キハハハハ!』

 

いよいよ上顎の牙が霊夢に突き刺さろうとした瞬間。怒号と共にシロが穴を潜り抜けてここへやって来た。

 

シロ「けえええええええええ!!」

 

紫「…アイツはさっきの…!」

 

『ク…ハハハハハ!何も思う事はない、やはりお前かァ!白面ンン!!ようやく会えたなァ、では500年前の恨み…お前にぶつけてや…』

 

ドゴォ

 

刹那、一撃。霊夢ごとシロを呑みこもうとした龍の顔の側面にシロの拳の一撃が命中した。

人間と変わらない大きさの小さな拳の衝撃が、歯茎を露出させるまで龍の頬の肉を鱗ごと押し上げる。殴られた箇所からは煙が上がり、それが如何にダメージを与えたかを物語っている。

 

『…白面の者』

 

しかしそれ以上は何も起こらなかった。歯茎と牙を剥きだし、喉からヒューヒューと音を鳴らしながら再び喋り出す。

 

『白面の者!』

 

『白面の者』

 

『白面の者ォ…』

 

『白面の者オォ!』

 

この空間中に無数の声が響く。八頭龍の頭同士は多少の意識や感覚を共有しており、シロの一撃を喰らったリーダーの感情が他の頭にも表れているのだ。

 

『ワシは一度も忘れた事が無い…忘れられるものか!500年前の事をな…』

 

 

500年前、ワシはある異界を喰らって滅ぼした。その異界に宿る生命の気、植物の気、土の気、全てがワシの栄養となって肉体を形作る。その後、ワシは相棒と共に、大陸で次に喰らいたい異界を捜して移動を繰り返していた。だが丁度その時、隣の日本にまだ見ぬ異界があるだろうと考え、そこに向かう事にした。

途中で見つけた妖怪共の群れをゆっくりと追って海の中を泳ぎ、ようやく日本へたどり着いた。

それからも群れを追い続け、ついにこの幻想郷を見つけた!

早速喰らおうとした時、その妖怪共が抵抗してきた。今思えばなぜあのような雑魚共にワシが怯んでしまったのかと思う。

さらにその群れから飛び出してきた何か。その何かの攻撃があろうことかワシに命中したのだ。

 

『信じられん…このワシを殴り、後方に仰け反らせるなど…!』

 

遥か昔、神話の時代より存在するワシにとってはな。

 

『何だ、何者だ…まさか、まさか…!』

 

白面の者。その名を聞けば誰もが震えあがる、最恐の大妖、白面の者。

ソイツの尾がワシの鱗を削り、吐き出される炎は鱗を焼き焦がした。我は恐れた、お前を!目も見えず、体もボロボロなのにあそこまでワシを追い詰めたお前を!

 

 

『あれほどまでの屈辱を味わったのは…遥か昔、まだワシらが人間しか喰らわぬほど小さかったころ、ある男に罠にかけられ死にかけた時以来だ…』

 

シロ「強い言葉は誰にでも言える、いつまでもそうしてほざいていろ。おい霊夢…」

 

紫「…お前、龍神様になんてことを…」

 

紫は無造作に霊夢に足を乗せた。

 

シロ「足を退けな」

 

紫「ただでは帰さない!」

 

シロ「足を退けろと言ってんだ!」

 

シロはすぐに飛び上がり、紫の首元に掴みかかる。

体重をかけてすぐに紫を霊夢の上から引きはがして龍に向かって投げつける。

 

『ハハハ…白面、巫女よ。どうだ、仲間に裏切られた気分は?これが…お前がしたことだ。身を以って絶望というものを味わったか?』

 

シロ「かかか、この程度で絶望だと?笑わせるな…こんなものは子供が転んで擦りむいた程度だ」

 

『…けぇ、本当に憎たらしい妖だ…』

 

龍は目を細め、声を震わせながら言った。

 

紫「今より龍神様に捧げられる貴女には話しておきましょう。博麗の巫女には人柱としての素質があるの。この幻想郷の最高神である龍神様に捧げるためのね。巫女なんてそれだけの存在…捜そうと思えば素質のある人間なんて外の世界でいくらでも見つかるわ。悪いなんて思わない、謝罪もしない、でも一つだけ思うことが有るわ。感謝ね」

 

紫はすぐに霊夢が乗っている祭壇まで戻ると、薄気味悪い笑顔で人差し指を立てながら言った。

 

霊夢「勝手な、事を…」

 

紫「あら、もう喋れるの?」

 

霊夢「なんでか分からないけど、シロが来たとたん元気が出て来たの…。私はそんな役目なんてまっぴらゴメンよ!」

 

シロ「お前の言う通りだ、霊夢。人間の言葉を借りれば、糞くらえってヤツだよなぁ!?」

 

シロは霊夢の横に着くと、変化させた鉄の尾を紫に向かって振り下ろす。その渾身の一撃はさすがに応えたようだ。

紫は焦った表情を浮かべた後に叫んだ。

 

紫「藍、藍!いつまでへばっているの?早く来なさい!!」

 

藍「は」

 

藍は紫の呼びかけが聞こえた瞬間すぐに駆けつけた。

 

シロ「ちっ、さっき我が倒したばかりなのに、復活の速い奴め…」

 

と、その時。どこからか一筋の稲妻が走った。

青い稲妻は目にもとまらぬ速さで霊夢とシロの間をすり抜け、紫と藍に襲い掛かった。

 

藍「ぎゃ…!」

 

稲妻を喰らって硬直している2人に向かって極太のレーザーが放たれた。

紫は辛うじて硬直から抜け出してそれを回避するが、藍はそれに巻き込まれてしまう。

 

紫「だ…誰!?」

 

紫の視線の先には二つの影。

それを見た霊夢とシロも驚きを隠せなかった。

 

とら「わしだよ」

 

魔理沙「紫、何やってるんだこんなところで?私にも邪魔させてくれよ」

 

そこに居たのは、額に電気を纏わせたとら、そして八卦炉を構えている霧雨魔理沙だった。

 

 

 




ついに500年越しのシロと龍の対面です。

ちなみに、もう頭が八つって時点で想像がついたかもしれませんが八頭龍は八岐大蛇とほぼ同一の存在です。
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