とら「わしだよ」
魔理沙「紫、何やってるんだこんなところで?私にも邪魔させてくれよ」
そこに居たのは、額に電気を纏わせたとら、そして八卦炉を構えている霧雨魔理沙だった。
霊夢「魔理沙にとら…!なんで…私を忘れてたはずなのに」
とら「お前らの事が少し気になってな…来てみたら面白い事してるじゃねぇか」
魔理沙「よっと」
魔理沙は箒に跨り、飛び回りながら紫に攻撃を放つ。
紫「く…!」
魔理沙「今のうちだ!」
シロは飛べない霊夢を尾で巻き取って抱え上げると、この空間から出ようと飛び上がった。
魔理沙の弾幕によって発生した煙の中から紫が結界を放つ。しかしとらがその結界をことごとく破ってしまう。
『逃がすかァ、白面ンン!!』
さっきの龍が口を開け、妖気を青い竜巻のようなブレスとして吐き出した。それは4人に迫るが、シロととらがそれを防ぐように同時に炎を吐いた。二匹の火柱は龍のブレスにぶち当たってしばらく拮抗したのち、爆発を起こす。
紫「奴らは…!」
爆発が収まった時には、既にこの場から消え失せていた。
『…チッ』
結界の穴から無事出て来た4人は人里の人気のないところに降り立った。
どうやらもう夕方のようで、龍の影響か夕立かはわからないが天気は曇っていて雨がパラパラと降っている。夕立なら夜のうちに止むだろう。
霊夢「はぁ…ところで魔理沙…いや、貴女はどうして私の所へ…?」
霊夢はシロによって普通に立って歩けるぐらいには気を回復させたが霊力は使えない。今の霊夢は巫女としての不思議な力もない、ただちょっと身体能力が高いだけの人間に過ぎないのだ。
魔理沙「ああ、たださっきの私もちょっと言い過ぎちまったのと…自分でもわからないけど、お前さんは死んじゃいけない気がしたから」
シロ「お前も何故我を追ってきた?」
シロはとらに尋ねる。
とら「わしも、前に色んな奴から忘れられたことが有るんだ…だからお前らの事を見てもしやと思ったんだ。でも、前は誰がわしにそんな事をしたんだっけ…思い出せねぇや」
シロ「ていうか、お前もなんで忘れるかねー!」
とら「いてて!何しやがるコイツ!」
二匹は髪を引っ張り合いながらその場で喧嘩を始める。霊夢がそれを止めようとした瞬間、大勢の傘を差した里の人間が霊夢たちを囲った。
霊夢「な、誰よアンタら?」
「里の役人だ。君の名前は?」
霊夢「役人ですって…私を捕まえるつもり!?」
魔理沙「紫のヤツめ…あらかじめ里にまで手を回してやがったか…逃げるぞ!」
「待ちなさい!」
魔理沙は霊夢の手を引いて走り出した。
角を曲がった先で上手く看板の裏に隠れてやりすごそうとする。
シロ「しょうがないな、飛んで逃げるぞ」
シロととらは互いの相棒を抱えてその場から飛び立とうとする。
が、その看板の店の戸から手が伸びて霊夢の袖を掴んだ。
霊夢「うわっ!」
「空も駄目よ、八雲紫の手の妖怪が張ってる。私は味方です、こっちへ来なさい」
女の声だ。それも聞き覚えのある。
魔理沙もこの声の主について覚えがあるようで、霊夢たちは言われるままその店に入った。
そこはごく普通の蕎麦屋だった。そういえばここは確か、前に福の神が訪れたとかで有名になった蕎麦屋じゃないか。
まさか店の人が私たちの味方…?
阿求「事態は想定より、ずっと悪化しています」
霊夢「あ…阿求じゃない!!」
そこに居たのは、霊夢のよく知る稗田阿求だった。彼女も私の事を覚えていたなんて!
阿求「いろいろ話すのは後です。とりあえず私についてきてください」
阿求に案内されて4人は店の地下へ向かった。そのまま隣の店の地下へ移動し、その店の裏へ出る。
そこから細い路地裏を小走りで抜けると、そこにあったのは阿求の家だった。
阿求「ついてきてください」
そのままとある部屋にたどり着いた。長机の上には筆や紙が置かれており阿求の自室であると分かる。
阿求「ここなら安全です、里の役人も入っては来れない」
霊夢「ありがとう…ていうか、聞きたいんだけど何でアンタは覚えていたの?」
霊夢はまず一番疑問だったことを尋ねた。
阿求「私は一度見聞きしたことは決して忘れない求聞持の能力を持っています。龍の記憶操作なんかでは、私から何かを忘れさせることなどできないの」
霊夢「ああ、そんな能力あったわね…。ていうか、なんで龍について知ってるの?」
阿求「幻想郷縁起に収めるために、そちらのシロさんの事を嗅ぎまわっていたら自然と情報が手に入りました」
一度見た物を忘れない程度の能力を持つ阿求の前には龍の記憶操作の術も通用しなかったようだ。この能力は稗田一族が幻想郷縁起を書き記していくために効率の良い能力だが、代が変わるごとにその記憶を大半を忘れてしまう。文献を読んで記憶することで今世の知識を深めることは可能で、実際に貸本屋などで大量に借りた本の内容を全て記憶している。
シロ「で、我らを招いた理由は何だ?」
阿求「お見せしたいものが有ります」
阿求は4人を座らせてから、部屋の襖を開けた。
襖の奥に居たのは香霖堂の店主である森近霖之助と、その横にある布をかぶせられた何か。
霖之助「僕も霊夢の事は忘れてしまったけど、阿求くんから話は全部聞いたよ」
霖之助は第一声にそう言った。彼も、なじみ深い存在であった霊夢の事を忘れてしまっているが、阿求から全てを聞いており忘れようとも霊夢に協力しようという姿勢を持ってるようだ。
魔理沙「香霖じゃないか!」
霖之助「魔理沙まで来ていたのかい?まぁいいが…。僕と阿求くんが見せたいのはズバリこれだよ」
霖之助は布を指差し、その布を勢いよく剥がした。
すると、中にあったのはマネキンに着せられた青を基調とした奇妙な模様の胸当てや籠手に脛当て、その上下に着せてある網タイツに近い鎖帷子であった。更には背中から伸びる蟹の鋏のような腕までついている。
霖之助「少し前に無縁塚に流れ着いていた、妖怪が対妖怪用の為に作った立派な鎧。見つけた時は壊れてグシャグシャだったんだけど、わずかだが使える部位を仕立て直して、その上にかつて妖怪の山に出現し霊夢とシロくんが退治したという『仙高蟹』の頑丈な甲殻であしらった防具だよ」
霊夢「ああ、あの蟹の…」
どこかで見た模様だと思ったが、あの蟹の甲殻で作った物だったのか。仙高蟹は外の世界の昔話と民話などに登場した実在の妖怪なのだが、時が経つにつれ仙高蟹の逸話は忘れ去られついに幻想郷に姿を現したのだ。それを霊夢とシロ、そして射命丸文と姫海棠はたてを初めとして山の妖怪たちで討伐に成功したのだ。
確かに、あの蟹の異常なまでの防御力を持つ甲殻ならば防具に使っても凄い効果を発揮するだろう。
阿求「ちなみに、仙高蟹の甲殻は私が山の天狗たちに頼んで廃棄する予定だったのをいただいたものです」
あの後は討伐した仙高蟹を山の妖怪たちと招待した一部のメンバーで鍋にして食べたのだが、その残った殻を阿求がもらい受けていたのだ。
霖之助「八頭龍との戦いにおいて、君は今までの妖怪退治のように無傷でやり通せるか分からないし、最悪致命傷によって命を落としてしまうかもしれない」
阿求「この物理的な防御力に加えて妖怪の妖気を含んだこの防具であれば…高い確率で貴女を守るでしょう」
凄い、この二人は私の為にこんなに凄いものを作ってくれていたのか。
霊夢は素直に、その嬉しさに感動した。がその時、玄関の方からドタドタと足音が聞こえた。
阿求「まずい、役人が入って来たわ。ここも見つかるのは時間の問題、早く逃げた方がいいわ」
霊夢「うん、そうね…」
霖之助「頑張って、幻想郷を守ってくれよ」
霊夢「ええ…」
とら「ふ~ん、お前らがここを守るねぇ…本当にできるのかね、シロとかいう奴よォ?」
シロ「やはりお前は気に入らん」
とら「こっちのセリフだ、ムカつく顔しやがって。お前もいつかわしがコテンパンにしえやるからな、シロとやら」
シロ「次は我が勝つぞ、とらよ」
霊夢は渡された防具をまとめて箱に入れる。
その箱を抱えてシロと一緒に屋敷の裏へ通じる階段に出ようとする。
阿求「私は幻想郷の妖怪についてまとめた幻想郷縁起というものを書く使命が有ります。なので戦いが終わったら、是非貴方の事も書き記しておきたいのだけれど」
阿求は去り際にシロにそう言った。シロは天井の角を見ながら指先でこめかみを掻いたあと、小さく頷いた。その阿求に続くように今度は魔理沙が霊夢の袖を掴んだ。
霊夢「…なに?」
魔理沙「その、さっきは悪かった…私はお前の事忘れてるけど、絶対に何かあったら協力するから!」
霊夢「あはは、そうね。もしも!アンタが私の事思い出したらどうしてやろうかしら?」
冗談交じりにそういうと、霊夢とシロはその場を後にした。部屋を出ると稗田家に仕える人たちが待機していて、私たちを神社に通じる林に囲まれた獣道まで護衛してくれるらしい。
シロは咄嗟に数珠のブレスレットに化け、霊夢の腕に収まった。
霊夢「今日はもう疲れたわ。また次の事は明日にしましょ」
シロ「そうだな、我も少し疲れた。今日はいろいろありすぎたからな…」
そんな会話をしながら神社へ通じる石階段を登り切る。
シロ「…む、妖気だ」
神社の鳥居の奥から感じる妖気に二人は足を止めた。
霊夢「まさか、紫が遣わした妖怪が…?」
シロ「どっちにせよ、邪魔をするなら消し去るだけだ」
二人は一気に階段を駆け上がる。そして鳥居の奥に居たのは…黒い鱗と甲殻を持つ身体、大きくせり出た目の上に大きく羽ばたく大きな翼、長く細長い尻尾…。
「けっけっけ、見つけたアァァ」
「白面と巫女だァァ!」
何とその正体はかつて地底に現れて旧都を恐ろしい威力を誇る火球で滅ぼしかけた、黒竜だった。
地底で見たヤツよりもかなり小柄だが、5体も居てしかも喋り、表情を作っている。
霊夢「な、なんで地底で倒した黒竜がここに…!?」
黒竜の一体が鳥居の上に飛び乗る。その重さに鳥居は音を立てながら曲がってしまった。
「実はな、我ら黒竜はみぃんな八頭龍の手下なんだ。その地底だかに現れた黒竜ってのも八頭龍が送り込んだ刺客みてぇなもんだなぁ」
霊夢はまだ霊力が戻っていない、ただの人間と同レベルだ。ここは我がやるしかない。
シロは変化させた鉄の尾から鉄板を弾幕のようにして黒竜に放つ。
「効かねぇ効かねぇ!」
鋭い鉄板も黒竜の硬い鱗には浅く突き刺さるだけで大したダメージを与えられている様子はない。
シロ「コイツら、前の黒竜とは違う…!」
「黒竜には二つのタイプが居る。一つは体がデカくて戦闘力が高いが頭が良く回らないタイプ、そして体は小さく戦闘力も劣るが頭の回って小回りが利くタイプ。俺らはその頭が回るタイプなのよォ!」
黒竜はシロに飛びかかり、の肩や腕、足に噛みついて口に並んだ牙を突き刺す。その後すぐに口を離して再び後ろに下がる。
そしてシロの身体に刺さったまま抜けた牙が次々と爆発していくではないか。
シロ「げあ…!」
牙の抜けた黒竜の口には新しい牙がすぐに生えそろってきているようだ。
「俺らは頭が良いうえに八頭龍から新しい術を覚えている。これでお前らを始末するのが役目だ」
「その後は山に行って山の妖怪共を皆殺しにしろとの命令だァ」
黒竜の吐く炎を細いレーザーのように圧縮した熱線を霊夢に向かって放った。
まだ能力の使えない霊夢はそれを走りながらギリギリで避け、蔵の裏まで走っていきそこへ隠れる。
「建物の裏に隠れたってダメだァ、撃ち抜いてやる!」
シロ「霊夢、今のお前では勝てる相手ではない!お前は我が殺すのだ、コイツ等に殺されぬうちに逃げろ!」
シロはまだ爆発していない牙を引き抜きながら叫んだ。
「お前の相手は俺たちだ!」
だが黒竜たちの技はこれだけではない。細長く硬いムチのような尻尾を振り回してシロに突き刺したまま、それをトカゲのように自ら切断してシロの身体に残した。
シロ「けえぇ…」
霊夢(くっ、シロが…)
蔵の中に隠れた霊夢は扉の隙間からその様子をじっと見ていた。すぐに参戦したいが、生憎シロの言う通り今の自分にはまともに戦える力はない。ではどうすれば…。
霊夢「そうだ、さっき阿求達から貰った防具…!」
霊夢はさっき防具を入れた箱を自分の前に移動させる。そしてその箱を開け、中の防具を手に取る。
「けけけ、白面は後でじっくりと嬲り殺してやるとして…まずは巫女を殺してしまおう」
黒竜の一体が口から熱線を吐き、それを蔵の壁を貫通させて中の霊夢ごと撃ち抜こうとした。確かに熱線が何かに当たった手ごたえを感じた黒竜だが、巫女が隠れたのは蔵。しまってある物にあたった手ごたえでは、と思って念を押すために蔵に歩み寄る。
「一応、蔵ごと焼いておくか」
火球で蔵を燃やそうと口元に炎を溜める黒竜。
「…な!?」
しかし、その時蔵の扉を突き破って何かが伸び自分の首元をがっちりと挟み込んだ。蟹やザリガニなどを彷彿とさせる棘と薄い毛の生えたハサミだ。
「なんだァこりゃあ!?」
扉の中から、阿求から受け取った防具を身にまとった霊夢が姿を現した。胸当てに籠手、脛当てに鎖帷子はどこか忍者を思わせる。霊夢はその防具の効力を試すため、黒竜に挑んだ。
【黒竜(知能型)】─こくりゅうちのうがた
通常の黒竜とは違ったタイプの黒竜。通常の黒竜は圧倒的な体躯と純粋な力で暴れるだけだが、この知能型はえらく小型な代わりに人間並みの知能を手に入れている。
知能が上がったおかげで通常の黒竜が使えないような攻撃方法に長けており、噛みついて相手の身体に残したままの牙を爆発させたり、尻尾で敵をつらぬき尻尾は自分で切断して放置などの妖術寄りの戦い方を見せる。
今回、霖之助が言っていた鎧。あれは神野と東の長がうしおの為に作ったきり忘れられてしまったあの鎧です。
その鎧がいつの間にか幻想入りし、それを無縁塚にて発見した霖之助と阿求が使える部位だけを仕立て直し霊夢専用の防具にしたんです。