れいむとシロ   作:ねっぷう

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第84話 「歴代の秘密」

霊夢「凄いわ、これ…」

 

背中にくっついている蟹の腕は私の意志のままに自在に動かせる。まるで腕が4本になったような不思議な感覚だ。

その蟹の腕の先にある大きなハサミは黒竜の首を挟みこんだまま離さない。

 

「げぇええ、喰らえ!」

 

黒竜は霊夢の頭に牙を突き立てて思い切り噛みつく。これで牙が刺さればさっきのシロのように爆発を受けてしまう。

しかし…黒竜の牙は防具が装備された部位にはもちろんの事、なんと何もない頭部や腹にさえも突き刺さらずに虚しく牙は砕け散った。いくら腹にも鎖帷子があるとはいえこの防御力はおかしい、と黒竜は心の中で疑問を抱いた。

 

「な、なんでだぁ…なんで牙が通らねぇ!」

 

霊夢「当然よ、これには阿求と霖之助さん、それに魔理沙ととらの思いがこもっているの。アンタらなんかじゃ打ち砕けるわけないわ」

 

霊夢は気づいていた。この鎧には特殊な細工が施してある。どうやったのかは定かではないが、こんなに守る面積の少ない防具を着ただけで全身まで守られている。この防具の持つ妖気が全身の隅々にまで巡っているような感覚…。

今の霊力の無いこの体でも、これを着ただけで黒竜を打ち倒せる気がする。

 

「キ…キヤァエエエエエエエ!!」

 

黒竜の必死の抵抗も無駄であった。

首の掴んでいたハサミの力をさらに込めると、あれほどまでに強固であった甲殻がねじ切られ首が飛んでいく。

その黒竜は黒い霧となって消滅していった。

消滅していく黒竜に気付いた他の黒竜が驚いて霊夢の方へ首を向ける。

 

「何だとォ、防具だァ!?」

 

「巫女があんなのを持ってるなんて聞いてないぞォ…」

 

シロ「あの…者どもめ…とんでもないものを霊夢に託したな…」

 

やっぱりすごいわ、この防具…。あんなに重量感のあった仙高蟹の甲殻で作られているはずなのに物凄く軽い。それも防具を付けているという実感が沸かないくらいに。

 

「クッソォ、俺がぶっ殺してやる!」

 

口から熱線を吐きつける黒竜だが、当然今の霊夢には焼け石に水の逆。全く効果が無い。

それどころか霊夢は熱線を押し返しながら黒竜に接近し『第三、第四の腕(仙高蟹の腕)』でその腹を切り裂き、頭を真っ二つに切断して倒した。

 

シロ「けけけ、どうだよ黒竜ども…」

 

「うるせぇ!このッ…」

 

黒竜は尻尾が体に食い込んだままのシロの顔を掴んで地面に叩きつける。倒れ込んだままのシロに噛みつき、その爪で体を引き裂かんとばかりに傷を作っていく。

 

シロ「け…!」

 

一方、霊夢にはさらにもう一体の黒竜が襲い掛かっていた。だがこの黒竜は霊夢の防具の力を見て覚え、学習していた。故にハサミによる不意打ちも避けられてしまう。さらに熱線を長時間にわたって同じ部位に当て続け、ごり押しで鎧を貫通しようとしている。

 

霊夢「くっ…」

 

その間にも他の2体の黒竜はシロを痛めつけている。

 

(聞こえるか、シロ)

 

突然シロの頭の中に女の声が響いた。何事かと目を見開いて驚く。

シロの身体に牙が食い込むたび、爪が身体を切り裂くたびに自分の身体を覆っていたあの結界が蠢いているような感覚を受ける。

 

シロ「け、何者かは知らぬがお前の話を聞ける状態だと思うかよ…」

 

(分かっている、だがよく聞け…私たちはお前の力を封じる結界。お前は今よりも力が…欲しいのか?欲しいのならば与えてやる…)

 

その声はシロの頭の中に響き続ける。周りは黒竜たちの唸り声や声によって騒がしいはずなのに、やけにクリアに聞こえる。

 

シロ「我の力を封じていた結界…だと…忌々しい!お前が無ければ、お前が無ければ我は今頃自由に以前のような暮らしができていたものを…。本当に大嫌いだ…大嫌いだけど…やれるなら、やってみろよ」

 

「何をブツブツ言ってやがる、そろそろ死ねやァ~~~!!」

 

シロにトドメを刺そうと尻尾を振り下ろす黒竜たち。

だが、シロの身体から何者かの透明な腕が伸び、その尻尾を掴んで動きを止めた。

 

「な…」

 

霊夢「あ、アレは…?」

 

シロの胴体、四肢、から伸びる腕は尻尾を掴んだまま振り回し、黒竜を放り投げる。

そして徐々に変形し、冷気を放つ透明な氷に成っていく。その氷はパキパキとシロの身体に纏わりついていき、手首から肘にかけてと足首から膝にかけてに鋭利なブレードを成形した。

 

(私たちはこうしてお前の武器となる…さァ、お前の強さを叩きこめ!)

 

「何だとォ、白面までもが防具を…!」

 

シロ「ふん、まぁ…期待はしないでおこうか」

 

シロはそう言いながら、黒竜を腕のブレードで真っ二つに引き裂いた。さらに恐れ戦く黒竜を、特大の火炎で一気に焼き払う。炎の中で砂のように崩れて消えていく黒竜の一体が死に際に叫んだ。

 

「お、俺たちを倒しただけでいい気になるなァ…八頭龍は明日にでも復活する!そうすりゃお前らなんかァ…!!」

 

神社に襲来した黒竜は、全て撃ち滅ぼされた。

 

霊夢「シロ、その氷みたいなのどうしたの?」

 

シロ「…ああ、これは…」

 

そう言いかけた時、氷が溶けだすように水になったかと思えば、それはシロの身体から離れて地面に降り立った。

なんと水は5体もの大きな体躯を誇る妖怪に変化したのだ。

 

霊夢「ちょっ…アレ、コイツらどっかで見たことあるような…」

 

4メートルはあろうかと身長に、白眼の鋭い目の周りの隈取の模様、手足の先の鋭い爪。だがそれぞれの個体ごとにやや頭部の形や身体の模様、毛並みが異なっている。

 

シロ「…字伏、か」

 

霊夢「字伏だって?」

 

そんな…字伏と言えば、前に妹紅に教えてもらった…伝説の獣の槍を使い続け、魂を槍に完全に吸収された人間…。その人間は獣になり、やがてあの青藍やとらにそっくりな妖怪になるという…。

 

「私たちは…白面…いや、シロの恐ろしいほどの力を制限する結界だった者…」

 

なんと、字伏がシロの身体に纏わりついて力を制限していた結界だったなんて…。ここでようやく、以前人間に自分らの本を読んでもらって力を得るために幻想郷へ城ごとやって来たお伽噺の住民、シンデレラが言っていた「シロの身体にある結界はある妖怪で出来ていて、その妖怪の仲間をお前たちは知っている」という事の意味が分かった。その妖怪の仲間とはとらの事だったのだ。

 

霊夢「でもちょっと待ってよ!頭がこんがらがって来たわ…なんで字伏がシロの結界に成ってたのよ…それに、獣の槍は幻想郷には無かったはずなのに、なんで字伏が発生してるのよ~!」

 

「だから、今からそれを話す…博麗霊夢」

 

黄色と白の毛を持つ、髪の短い字伏が前に進み出た。その字伏は続けて口を開いた。

 

「私たちは元…博麗の巫女」

 

霊夢とシロに衝撃が走った。なんと、この字伏は元博麗の巫女…?

 

「500年前、初代の巫女は獣の槍を使い自ら獣となった。初代は獣になったあと、獣の槍を外の世界に帰すように八雲紫に言ってそれを渡した。八雲はそれを外の世界の川に流したのだが、その前にあることを密かに行っていた…」

 

と、犬のようなピンと立った耳を持ち、面長な顔つきの字伏が言った。

 

「八雲は外へ槍を返す前に、槍の妖気を一部抽出して博麗神社に散布した。こうして、獣の槍と同じ性質を持つ神社に居た歴代の巫女は…神社に住んでいるうちに徐々に妖気に毒され…獣と化してしまう」

 

「そうなってしまえばもう巫女などやっていられない。人間であった時に博麗の巫女としての結界術を持っていた私たちは普通の字伏にはならずに結界と成る。結界と成った我らは神社の下で眠る白面の者を封じる結界としてそこへ加わっていく…」

 

 

「ぐああぁ…!は、白面の者を封じるために、私たち博麗の巫女を…利用してきたのか八雲紫…!だが…私にはわかる、私たちが結界に成ろうとも、いつかは白面の身体を離れる時が来る…その時は八頭龍が滅ぶとき…その決戦が来れば、私たちは結界であることを辞める。そうなれば必ずや白面は龍を倒し、この幻想郷も白面に滅ぼされる…」

 

丁度、霊夢の前に博麗として神社で暮らしてきた巫女は獣に成りかけながらその様子を上からじっと見ている紫に対してそう呟く。きっと今までの先代も同じように獣と成って来たのだろう。憎い、憎いぞ白面の者、八頭龍、そして八雲紫…!

 

 

だが普通の字伏とは違う彼女らには、既に憎しみという感情は存在しない。あるのは八頭龍から幻想郷を守り、白面の者を守りながらその力を強引に押し込め温存させるという使命感のみ。

そうして結界として初代以降の巫女はシロの身体に纏わりついてきたが、あの5体の字伏はとりわけ人間だった時の戦闘能力が高かったので字伏に戻れただけでほとんどの巫女は未だ結界のままである。もしも結界であることを辞めることができても、字伏の形を保っては居られないだろう。

 

「八雲紫は外の世界から巫女としての素質がある人間を攫ってくる。その素質の基準に、獣の槍を扱えるかどうかも含まれている」

 

霊夢「じゃ、じゃあ私もいつかは獣になっていずれ字伏に…?」

 

霊夢は自分が妖怪へと変貌していく姿を想像して顔をひきつらせた。もちろん獣になるのも嫌だし、あれだけ巫女として人間が妖怪化するのを取り締まって来たのに自分が妖怪に成ってしまっては元も子もないと思う。

 

「いや、お前は…霊夢は字伏にはならない」

 

一人の字伏がそう言った。

 

「お前は歴代の巫女の中でも特別…ただただ特別だからだ…」

 

霊夢「私が特別…?ちょっと、それってどういう…」

 

「私たちはそろそろシロの身体に戻る。この姿を保てるのはわずかな時間のみ」

 

字伏たちは霊夢の疑問に答える前にぞろぞろとシロに向かって歩み寄っていく。

 

「また、時が来れば…私たちはお前の封印を完全に解き、先ほどのようにお前の武器と成って戦いをサポートしよう」

 

(私たちを最後の戦いに連れていけ…そうすればお前たち二人は強くなる!)

 

字伏は再び結界と成ってシロの身体に絡みついた。

最後の戦いの時に博麗の字伏たちはシロを封印を解き、その力を解き放つと言った。

 

霊夢「先代たち…かわいそう。無理やり人間を辞めさせられても、それでも幻想郷を守ろうとするなんて…」

 

シロ「分かったよ…。やっと忌々しい結界が解ける!もうじきの辛抱か…」

 

シロは自分の手を見つめながらそう呟いた。

 

霊夢「ちょっと着替えて来るから。先に戻ってていいわよ」

 

シロ「…あぁ」

 

霊夢は自分の部屋の方へ歩いていった。

 

シロ「なぁ…先代の巫女とやら。何故お前たちは我に関わる?いや、何故獣の槍はそうまでして我と関わろうとする?もしこれが、獣の槍と我との宿縁の延長線にあるものだとすれば、実に数奇なものよのう…」

 

 




【博麗の字伏】─はくれいのあざふせ
歴代の博麗の巫女が、獣の槍の妖気を含んでいる博麗神社で生活し続けてきた事により妖怪化した、字伏特異種。通常の字伏とは違い魂を削り取られたわけではないのである程度の人間だった時の記憶は残っている。また通常の字伏とは生態、外見、能力共に異なっている点がある。まず通常の字伏は白面との最終決戦に備えて石に成るのに対し、こちらは力を温存させるために結界と成って白面を封じる。外見も字伏よりも色彩が薄く、本来黒いはずの模様は白くなっている。能力も字伏は雷と炎の扱いに長けているが、この特異種は雷を扱えるのはそのままだが炎の代わりに冷気を扱う事が出来る。
最終決戦時には封印を完全に解いてかつ戦いをサポートしてくれるらしいが…?


以上、伏線回収回でした。
ちょっと独自解釈や独自設定が多くなってしまいました。実際に紫はこんなことしてるわけじゃないし歴代の巫女についても原作では言及されていませんし、所詮二次創作ってことで許してね。
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