霊夢「ふぅ…」
防具を脱いで元の箱にしまった。その後に急いで自室に戻って、戦いに必要な道具を集める。
秘宝陰陽玉に、お祓い棒…そして前に永琳から貰ったきり飲んでいない紺珠の薬。戦いに必要なのはこれぐらいでいいだろう。他にも持っていきたいのがあるけど…もし壊れたり無くしたりしたらイヤだからね。
霊夢「それにしても、この神社に獣の槍の妖気が、ねぇ…」
さっき字伏が説明してくれたことを思い出す。
紫が獣の槍から抽出した妖気が神社に散布されており、神社でずっと生活する博麗の巫女はじわじわと妖気に毒され、いずれ獣の槍を使いすぎた使い手と同じく獣と成り、やがて字伏に変化してしまう。博麗の巫女から変化した字伏は特異な性質を持ち、通常の字伏は白面との決戦に備えて石に成るのに対して博麗の字伏は白面の者を封じつつ守るための結界に変化する。
霊夢「さてと…晩御飯はどうしようか。シロ?」
霊夢は縁側から外に出て神社の屋根の上を覗き込む。戻っててと言ったからいつものシロの定位置、屋根の上に居ると思ったのだが…。もしかして、あの場所に居るのかもしれない。
霊夢は神社の本殿に向かって歩いていった。
霊夢「懐かしいなぁ。久しぶりに来たけど、やっぱり変わらないわねここは」
本殿に入った霊夢は中を見渡す。一年と三か月ほど前、霊夢とシロはひょんなことからこの場所で出会ったのだ。
思えばあの時から私の生活はいい意味でも悪い意味でも変わった。復活直後のシロに壊された天井にはプレハブで応急修理を施しただけで本格的には治していない。
霊夢は足元で倒れてしまっている神棚を見つけた。あの時、この札を取らなければ出会うことも無かったのかな…。
神棚に貼ってあったこの御札、最初はシロを脅すのに使ってたけど…今でも肌身離さずお守りとしてしまってある事はシロは知っているのかな。
霊夢「シロ、居るんでしょ?」
倒れている神棚のすぐ前の床に空いた人間の大人一人通れるぐらいの大きさの穴を覗き込む。この穴の周りにはシロが尻尾を突き出したときに空いた穴がさらに九つあり、中は多少広い空間になっていてここにシロがずっと封印されていたのだ。
霊夢は覗き込むと、その空間の中でうずくまっているシロを見つけた。
シロ「我は…我は…」
霊夢「やっぱりここだったの…」
シロ「我は…?」
そう霊夢に向かって呟いたシロ。
霊夢はシロの意図に気付くと、ふふっと笑った。
霊夢「え、ちょ、ちょっと…何よこの声!しかも床が割れてくし…」
そうわざとらしくうろたえる様子を見せる霊夢。
シロ「我は白面の者なり」
シロはそう言うと、一気に穴から飛び上がって空中に浮かび上がった。シロの目がゆっくりと霊夢を見据える。
シロ「…くくく…人間よ。我を上から縛り付け押し込めている封印を解いてくれたな…」
霊夢「な、何よアンタ…。アンタこれからどうするの?」
シロ「決まっておるわ、まずここらの妖怪を惨殺しそれを見て恐怖した人間と他の妖怪の感情を喰ってやるのさ…それを繰り返して我に纏わりつく結界を振りほどく力を取り戻したらこの空間を焼き払ってくれるわ…!」
霊夢「あっそ、それじゃ返す訳にはいかないわね」
霊夢は適当な御札を取り出してシロに投げつけた。
御札を貼りつけられたシロは大げさに痛がる様子を見せる。
シロ「いだっ、いててててて!!その札を我に近づけるな!!」
霊夢「ふ…」
シロ「けけけ…」
その後二人は大声をあげて笑った。シロまでもが普段からは想像もできないような笑顔で。
シロ「けけけけけけ!よくわかったな!」
霊夢「シロこそシャレたことしてくれたじゃない。どういう風の吹き回しかしら?」
シロ「いや、何となくここに入ったら…そんな気になったのだ」
背中に貼りついている御札を剥がしながらそういうとそれを霊夢に渡す。
シロ「…でも、結局場数を踏んで多少なりとも強くなって変わったのは…お前だけか」
霊夢「違うでしょ?アンタも相当変わったわよ。最初の頃と比べると、目つきが明るくなったんじゃない?それに気づいてないのはアンタだけよ」
シロはその言葉を聞いて自分の目の下を指で触れる。自分の目なんて、分かる訳ないだろう。
霊夢「まぁいいわ。それよりも、これからご飯作るんだけどたまには一緒にどう?」
シロ「はァ?何で我がお前なんかと…」
シロはすかさずそう言ってそっぽを向いてしまう。だがさっき黒竜が滅び様に言っていた言葉を思い出す。
「八頭龍は明日にでも復活する!そうすりゃお前らなんかァ…!!」
明日、か。つまり今日この時が最後の安らぎの時という訳か。それならばしょうがない、気晴らしににちょっとな。
シロ「…いや、まぁいいだろう…」
霊夢「ほんと?じゃあ腕によりをかけて作っちゃうわ」
────────────
シロ「…ふぁあ」
茶の間の机の前で座り込みながら霊夢がご飯を運んでくるのを待っている。台所の方から何やらいい匂いがしてくる。
そういえば、アイツから菓子を貰ったり茶を飲むことはあっても…食卓を囲うというのは何気に初めてだな。
霊夢「お待たせ!」
台所からやってきた霊夢がたんたんと皿やお椀を置いていく。
白飯にたくあん、味噌汁に焼き魚…。いたって普通だ。
シロ「ふむ…」
シロは霊夢の反対側に置いてある座布団の上に座った。
霊夢「いただきまーす」
霊夢が食べ始めたのを見てシロも箸を使ってご飯を少し口にいれ、味噌汁の白菜をつまんで口にいれる。
シロ「うん…なかなか…」
米も良い感じの弾力、味噌汁の野菜には上手く味が染み込んでいてとてもやわらかい。それでいて白菜特有の表皮の硬さが残っていてシャキシャキとした食感もある。
続いて焼き魚の身を箸で取って口にいれる。生で食べた時とはまた違った塩加減が飯を進ませる。
ちょっと喉が渇いてきたので湯呑に入れた麦茶をぐっと飲み干した。
シロ「人間の食事とは、かのように美味だったのか…」
霊夢「この程度で何言ってるのよ、今度はもっとすごいの作ってあげるわ」
何を言っている、お前はまた飯を作る機会などない。なぜなら我が殺すのだからな。
と、言いそうになってしまったがそれを押さえ込む。この空気で言うのは場違いなセリフだろう。
よく考えればこういう思考ができるようになったことが、霊夢の言う我が変わったという所なのか?…わからん。
今はとりあえず、食事を楽しむとしよう。
霊夢「ねぇ、これ覚えてる?」
霊夢は自分の袖をまくってそこに残っている傷を見せた。大きな口で噛まれた牙の跡が残っている。
霊夢「前に敵に操られたとらに噛まれた時の傷よ。あの時が初めて、シロが私の為に怒ってくれたのよね?」
シロ「くくっ、そんな事も…あったな…」
霊夢「あ、そうそう!去年の6月に私とシロは出会ったわけだけど…よく考えればもっと前に何度か会ってるのよね」
シロ「そうだな…」
霊夢「確か、私にとっては一年前だけど、シロは500年前に時逆の時間のはざまで会ったわよね?」
シロ「ああ、あの時は我も死ぬ物狂いだったからな…」
霊夢「いやいや、よく考えたらシロは2300年前の中国でも私と出会ってる訳か…」
一番最初に会ったのは2300年前の中国。とある都を焼き滅ぼしている最中だった白面を止めようとして霊夢が目の前に立ちふさがったが、あの時の白面は軽く霊夢をあしらって再び都を滅ぼしに行ってしまったのだ。
シロ「くくくっ、お前と我は…それよりも以前に一度、出会うておるぞ…」
霊夢「え?ほんと?いつ?」
シロ「誰が教えてやるかよ」
霊夢「えー、いいじゃないのそれくらい」
口を尖らせながらそう言う霊夢を見てから、シロは続けた。
シロ「全てが終わったら…教えてやる」
霊夢「ほんと?約束ね?」
霊夢「さて、お風呂にも入ったし明日に備えて寝ましょうか」
シロ「そうだな…」
寝間着に着替えた霊夢が部屋に布団を敷き始める。
それを見たシロはいつものように屋根の上で眠りにつこうと思い、外に出ようとした。
霊夢「あ、今日くらいは中で寝てもいいんじゃない?」
シロ「なんでだよ?」
霊夢「たまにはそういうのもいいと思うの」
シロ「まぁ、いいか…」
霊夢が隣に敷いた布団の上に身体を丸めて寝転がる。もちろん尻尾は邪魔くさいので引っ込めてあるが。
布団はさっきまで押入れかどこかにしまってあったのだろう、少し埃っぽい。が、ほのかに何かはわからないがいい匂いがする。
霊夢「おやすみ」
シロ「…」
霊夢は部屋の電気を消して薄い布団にもぐった。
しばらく天井をずっと見ていたシロだが、そろそろ眠気がやってきて目を閉じようとした。
霊夢「ねぇ」
シロ「何だ」
丁度その時、話しかけてきた霊夢に対してうるさいとでも言いたげな表情で返した。
霊夢「何か話そうよ」
シロ「勝手に喋ってろ」
霊夢「それでね、その時の里の不良易者は結局私が倒したんだけどね。何か私が無用な殺生は行わない妖怪巫女だと思ってたみたい」
シロ「…ふぁあ」
霊夢の話を聞きながらついあくびが何度も出る。
さっきまでずっと疲れた疲れたって言ってたくせにいつまで喋るつもりだ?それにぶっちゃけ話もちょっとどうでもいいし…。
シロ「…?」
急に黙り込んだ霊夢を不思議に思って覗き込むと、いつの間にか寝付いていた。せっかく話を聞いていてやったのに先に寝るとは腹立つやつめ。
そんな事を思いながら、シロも再び丸くなると眠りに落ちた。
翌朝。ふと目を覚ましたが、もう時間は9時ごろだろうか。
開け放たれた戸から生暖かい風が吹いてくる。のそりと起き上がろうとしたとき、霊夢が急に戸をさらに開け放った。
もう既にいつもの巫女服に着替えていて、如何にも準備万端って感じだ。
霊夢「出発するわ!」
シロ「…ああ」
霊夢は背中に背負ったカバンに阿求から貰った例の防具をしまい込み、まだ持ち運び用のサイズにまで縮めてある陰陽玉をポケットに入れ、お祓い棒を片手に戦いへ臨む。
シロも軽く準備運動をし、試しに空に向かって一筋の火炎を放つ。炎の出もいいことを確認すると、霊夢と共に遠くの空にぽっかりと空いた真っ黒い穴を見据えた。
その日の朝、博麗神社から一人の巫女と一匹の妖怪が飛び立った。
巫女はもう誰もこぼさない、絶対に守る…妖怪はもう誰も殺さない、ただ、最大の敵から全てを守ると思いと決意を胸に秘めて。向かうは幻想郷を外と隔てる結界の隙間、最大の敵が眠っている場所へ…。
そういえば、アニメの紅煉の声が若本さんでビックリしました。