れいむとシロ   作:ねっぷう

86 / 101
第86話 「嘘と慟哭」

ずっと遠くの空に見える黒い穴に向かって空を飛び続ける霊夢とシロ。空は驚くほど快晴で、雲一つない。だがそれが逆に、ポッカリと浮かび上がっている黒い穴をより一層不気味に見せる。

 

シロ「そういえば、いつの間にか霊力が回復しているな」

 

霊夢「まだ完全じゃないけどほとんど元通りよ。どうやら阿求たちは私に霊力が無いことは既に想定済みだったみたい。あの防具には着れば霊力の回復を促進させる効果があったみたいね」

 

阿求と霖之助はそこまで考えてくれていたようだ。それに、一晩ぐっすり休んだことで疲れも綺麗さっぱり抜けた。

それに伴って霊力もほとんど回復している。

 

霊夢「そうだ、今のうちにこれ飲んでおこう」

 

霊夢が飲み込んだのは少し先の未来を見せる紺珠の薬。戦いにおいてその力を発揮してくれるはずだ。それを飲んだ瞬間、霊夢の頭の中にある光景が浮かんだ。

何か大きな物体に叩き斬られる、シロの姿だった。

 

霊夢「…は!」

 

シロ「どうした?」

 

霊夢「な、何でもない…気のせいね」

 

シロ「…ちっ、さっきから邪魔くさい…」

 

先ほどから二人目がけて、光の弾幕や衝撃波、はたまた大岩までもがどこからか飛んでくる。

まるで二人を分断しようとしているような、明らかな妨害を目的とした攻撃だ。

 

シロ「また紫が邪魔しようとしているのか?」

 

霊夢「いや、多分違う。この攻撃、前にどこかで…」

 

そういえば、何だか周囲に白い靄がかかってきたような気がする。空には雲一つなかったはずなのに。

 

シロ「何か変だ」

 

それにこの靄にはかすかに妖気が混じっている。

確かに、この力強さと勇猛さを感じさせるような重たい妖気、霊夢の言う通り前にどこかで…。

 

シロ「な…!?」

 

直後、四方八方から飛来してきた大岩。大岩は確実に二人を狙いながら次々と襲い掛かってくる。

 

霊夢「ちょ、誰よこんなことしてるのは!」

 

いや、霊夢は気づいた。この大岩が狙っているのはシロだけだ。

岩の一つがシロの横っ腹に命中して痛みに動きを一瞬止めた瞬間、その隙を突くように一気に岩が集中してシロに降りかかる。

 

シロ「けあ…!」

 

岩はシロに当たったらそのまま身体にひっついて離れなくなる。そのままいくつもの岩がシロの身体にぶつかってはくっつき、ぶつかってはくっつきを繰り返し、ついにはシロの身体に隙間が無くなりそうなほどまで覆ってしまう。

 

シロ「ぐあ…霊夢、お前は先に行け…行って龍の復活を妨げろ…我は後から行く!」

 

霊夢「ちょっ、そんな…!」

 

最後の岩がぶつかり、隙間から除いていたシロの目が隠れてしまった。それと同時に、周囲の霧が岩の周りに集まって岩ごと薄くなり消えようとする。

その時、霊夢は見た。霧の中に浮かんだ、見覚えのある顔を。

 

霊夢「あ、アイツは…まさか!」

 

霧はシロを包み込んだ岩塊と共に消えてしまった。

 

シロ「…!?」

 

岩塊は地面に落ちると砕け散り、中から出てきたシロが辺りを見渡した。

どうやら今立っている場所はただの平地の草原のようだが、周囲には実を付けた桃の木に囲まれており、湖も見える。

しかし、ここはどこだろうか?幻想郷にこんな場所は有ったか?

 

「鬼は古くから、人を攫って勝負事を持ちかけていた。勝負が終われば帰してやるのだが、どうも人間からすれば分が悪い。そこで人間達は知力を絞り、団結して鬼を騙し次々と罠にかけて葬っていったとさ」

 

シロ「…お前は…!」

 

コイツ…本当かよ。

その小柄な身長に不釣り合いなほど大きな捻じれた一対の角、チャランと音を立てる分銅を先につけた鎖。先っぽの方を一つにまとめた薄い茶色の髪が風に揺れる。

 

萃香「まぁ、今回攫ったのは人間じゃなくて…妖怪なんだけどね」

 

シロ「伊吹…萃香」

 

そう、シロの知るあの伊吹萃香だ。

博麗神社の宴会で知り合い、それからは一度、共に異変解決の為に共闘したこともある。

 

萃香「久しぶりだねぇ、シロよ」

 

シロ「お前、覚えておるのか」

 

萃香にはシロを忘れている様子は見られない。

 

萃香「当り前さ。霧に成っていた私の頭の中に、どうやって隕石の欠片が入り込むっていうのさ」

 

あの隕石が落下した朝方、萃香はたまたま霧に成ってふらふらと幻想郷を彷徨っていた。

霧の身体には欠片も留まることができず、萃香は記憶を失う事もなかったのだ。

 

シロ「確かにな。ところで…何のつもりだ?我をこんな場所へ連れてきて。というか、ここはどこだ?」

 

萃香「ここは天界さ。天人たちが住んでいる桃源郷だよ」

 

ここは天人たちの住む天界というらしい。

 

シロ「そうか、それはわかった。では何故…我をここへ連れてきた?生憎、我は急ぎの用があるのだ」

 

萃香「八頭龍、だろ?」

 

苛立ちながら言い放ったシロに、萃香が返す。

何だと、八頭龍の事を…なぜ知っている?

 

萃香「実は私はずっと霧になって見ていたのよ、お前さんと霊夢の事をね。見てれば自然と状況は理解できたよ。八頭龍とやらが復活して幻想郷が大変なことに成ってしまう…そうなる前に、龍が封じられてる間にケリをつけるつもりなんだろう?」

 

シロ「ふざけているのか?何故我を連れて来たのかと聞いておる!」

 

萃香「ははは、まぁそう声を荒げるなよ。こうして、あれから酒を抜いて素面の状態で会ってやったんだ。ズバリ何故かというと…八頭龍を倒すのは私だ」

 

シロ「…何を言っている、お前ひとりでどうにかできる奴ではないぞ。いつもの酔っぱらっているときの方が思考が正常に働いているんじゃないか?」

 

萃香「そうかもしれないね。八頭龍は私の獲物だ…お前や霊夢には渡さない。だから…ここでシロ、お前を殺す」

 

シロ「本当に気でも可笑しくしたのか?まさか、龍に術でも受けたのか?」

 

シロの目が、じっと萃香を見る。萃香の目にもシロの前とは明らかに変わった目つきが映った。

直後、萃香の腕に鎖で繋がっている三角形の分銅がシロのうなじに直撃した。体勢を崩したシロの腹に拳をめり込ませ、両手の拳を合わせて脳天に叩きつける。

 

萃香「分ッかんないかねェ、シロ!鬼である私が、八頭龍とかいう物凄い奴を知ってみすみすお前達に渡す訳がないだろう!このまま行けば八頭龍は必ずお前達に倒されるかもしれない、だから獲物を取られないように先にお前を始末するのさ!」

 

シロ「ふん、キサマのような粕妖怪にゃ無理だよ…」

 

萃香「ちなみに、お前を始末したら次は霊夢を始末する。今までみたいな遊びの勝負じゃない、本気でな」

 

シロ「…そうか、分かったよ。どうしてもお前とやらなきゃならんという訳か。面白い…」

 

萃香「私もすごく楽しみだ。なんたって…あの白面と一対一で、素の本気で戦えるんだからねェ!!」

 

一気に妖気を放出すると正に鬼の形相でシロに飛びかかる。

シロはそれを避けるが、更に萃香のパンチが横から襲い来る。咄嗟に腕で受け止めるが、あまりの威力に向こうまで吹っ飛んでしまう。

 

萃香「まだまだァ!」

 

萃香は回し蹴りを繰り出し、それがシロの胸に命中する。だがシロも負けじと尾の一本を振り回して萃香の顔面に叩きつける。

 

シロ「やるな…」

 

萃香「お前もな。なかなか歯ごたえあるじゃないか…。霊夢が心配なくせにサ…」

 

シロ「誰が心配するか!」

 

萃香「どっちにしても、霊夢は龍をどうにもできないよ。全ての奴に忘れられてんだから」

 

シロ「そんなこと知るか!」

 

シロと萃香は再びぶつかり合った。

 

 

 

霊夢「シロの奴、全然来ないわ。もう龍が居る穴は目の前なのに!」

 

目の前にある例の真っ黒い穴。この穴の中にある奈落の空間に八頭龍は長く封印されて来たのだ。

だが昨日よりも若干穴が広がっている気がする。いよいよ八頭龍も復活間近という訳ね。

 

霊夢「!?アンタら…」

 

文「貴方ね?八雲紫さんから聞いた、龍神様に危害を加えようとする博麗の巫女は」

 

霊夢の前に立ちふさがったのは、あの射命丸文たち天狗が筆頭の山の妖怪たち。

彼女らももちろん霊夢の事を忘れてしまっている。

 

霊夢「そうよ、今から私はあのクソッタレな龍を倒しに行くの。邪魔だから退いてくれないかしら」

 

はたて「残念だけど、どうやらヘタに龍神を刺激して目覚めさせてしまうとその衝撃で結界がさらに大きく破壊されてしまうらしいの。山の天魔様からのご命令なの」

 

姫海棠はたてまでもが邪魔をしようとする。

どうやら八頭龍の野郎、また紫に都合のいいことを吹き込んでそれを山の妖怪たちに伝えさせたらしい。完全に復活するまで私とシロを足止めするつもりだったのだろう。そして復活してしまえばこの妖怪たちも一気に喰われて全滅してしまう。

 

霊夢「まあいいわ。退かないっていうなら…強行突破でも行かせてもらうわ」

 

 

 

ズザアアアア…

 

シロ「ふん、結構やるようだが…まだ何かワケを隠してそうだな。打ち砕いてやるから、見せてみよ」

 

萃香の攻撃によって吹っ飛ばされたシロは地面に足の爪を突き立ててブレーキを掛ける。

地面に大きく削れた跡がついた。

 

萃香「へへへ、当ったりぃ。やっぱ凄いなぁ、シロや」

 

ふ…いつからだろう、酒を飲み続けて…本当の自分を隠すようになったのは。いつからだろう…決して嘘をつかない鬼である私が、嘘をつき続けてきたのは。

 

シロ「けああ!」

 

萃香「鬼火!」

 

黒い炎を迸らせた両腕を叩きつけ、避けられてしまうが地面が大きく揺れて捲れ上がった。

確か、幼くして鬼の国で当時トップだった奴に喧嘩で勝ったときだったかな。

 

シロ「しゃらくさい!」

 

シロが伸ばしてきた尾を掴み、それを握って潰そうと力を込める。尾はバキッと何かが折れるような音を鳴らすとそこから先端がぐたりと動かなくなる。

鬼の中でも誰かを観察して楽しんだり、鬼にしては誠実さに欠けていたことから「異端児」と呼ばれ始めた時からだったか。

いんや、山の四天王と呼ばれ、恐れられ始めた時だったかもしれないね。

 

シロ「ぬあ!」

 

大きく口を開けて青い炎を放出する。それに対して萃香も口から特大の火柱を吐き出した。

互いにぶつかった炎はその場で爆発し相殺される。

私は自分でいうのもアレだが強い。ちょっとその力を振るっただけで他の奴らは皆ビビってしまう。どいつもこいつも私を恐れてまともに接しちゃくれない。当然だ、鬼の力なんて恐怖の対象でしかない。だから、だから私は…─

 

萃香「本当の自分を、見せちゃいけないのさ」

 

シロ「あ?何を言っておる!出でよくらぎ!」

 

萃香はくらぎに向かって妖気の弾を投げつけ、それが当たった瞬間に爆発して無数の衝撃波を放つ。しかしくらぎの前にはその攻撃も跳ね返され、逆に萃香に命中してしまう。その萃香に、くらぎが鎌のような爪で追撃の斬撃を与える。

 

シロ「どうした?これで終わりではないな…もっと我を楽しませよ」

 

地面に倒れ込んだ萃香に向かってシロは言った。

 

萃香「ふふふ…くくっ…楽しませてやるさ」

 

だけど、こんな私にも普通に接してくれる奴に出会ったのさ。それが、霊夢だった。霊夢の誰にでも平等に接する態度はすぐに私を釘付けにした。でもまだまだ…私の心には足りないものがある。

そしてその後に現れた、かつて単身でいくつもの国を滅ぼし、妖怪が束になってかかっても敵わなかった白面の者。

そう、シロ…お前と出会うまではね。

 

 




はい、流兄ちゃんポジションに萃香を置きました。

裸飲酒の伊吹萃香にはなりませんでしたが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。