れいむとシロ   作:ねっぷう

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第87話 「萃う夢を想う」

萃香の両腕の筋肉が盛り上がり、真っ赤に変色しながら肥大化していく。本人の胴体よりも太くなった腕はまるで丸太のようだ。

 

萃香「お前も前に勇儀と戦ったんなら見たことあるだろ?鬼の本気モードさ」

 

前に地底に行った時にシロは勇儀と戦った。その時に、それまで普通の人間と同じような体格だったのが急に一回りも二回りも大きく筋肉質に膨れ上がったのを思い出した。この萃香も同じような感じなのだな。だが…

 

シロ「そんな自慢は我に勝ってからにしてもらおうか!」

 

シロは爪を伸ばして萃香に攻撃を仕掛ける。空を斬る音を立てながら向かってくる手を腕でガードし、そのまま萃香はシロの顔面に剛腕から放たれる拳を叩きこんだ。

 

シロ「け…この…!」

 

間髪置かずに肘鉄を鼻先にお見舞いする。

 

萃香「最初から…そのつもりよ」

 

ぐお…あの時の勇儀の本気のパンチと同等かそれ以上だ。やはりくらぎは使うべきか…!

シロは再びくらぎを萃香に差し向けた。

 

萃香「くくく…私の能力は、こんな事も出来るのさ」

 

突然後ろから何かに引っ張られるような感覚を覚えたシロ。目だけで後ろを向くと、背後にあったのは巨大なブラックホールだった。その穴にはくらぎがすっぽりとはまっていて抜け出そうともがいている。

 

「キエアアアアアアア」

 

シロ「おおォッ…!!」

 

くらぎの抵抗も虚しく、くらぎの尾はブラックホールの中へ吸い込まれてしまった。

それに続いてシロ自身も引っ張られるようにどんどん後ろへ下がっていく。

 

萃香「そのままずっとハマってな」

 

脚の爪を地面に立てても柔らかな草原の大地は爪を受け流し、シロはどんどんブラックホールに近づいていく。そこへもう一度、萃香のパンチがシロの腹に命中して後方へ下がっていく。

 

シロ「キッサマァ~~!」

 

シロは尾の一本を黒い蛇の怪物に変えて萃香を襲わせる。だが萃香はその蛇の大口に掴みかかって無理やり固定すると、今度は顎を思い切り蹴り上げた。怪物は下顎が消し飛び、のたうち回っている間にもう一度蹴られて潰されてしまった。

さっきの萃香のパンチの威力も合わさって一気に後ろへずり下がっていったシロはとうとうブラックホールまで到達してしまった。咄嗟にシロは元の獣の姿に戻り、ブラックホールよりも身体を大きくして蓋をするように穴に背中がくっついた。

 

萃香「楽しいなぁ、シロよ…やっぱり楽しい。お前と戦うのはね。前みたいに私が操られた状態じゃなくて、しっかりとこのままで戦えてうれしいよ」

 

シロ「け、いくら操られていたとはいえ…あの時は完全に我に後れをとってたじゃないか」

 

萃香「あの時はあの時さ。今度は負けやしない。あの霊夢にしてもそうさ…始めて闘った時も、巫女の力を使って面白半分に妖怪を退治してるんならちょっと鬼の力を使って懲らしめてやろうと思ったんだけど…本当の私の事も知らないでよ…」

 

シロ「思い出話か、だがお前に先は無いぞ」

 

萃香「ちょっと…顔を殴りにくいな」

 

萃香は空を仰ぐように轟音のような雄叫びを挙げるとその身体をどんどん巨大化させていく。ついに今のシロを優に追い越せる大きさにまでなった。

 

萃香「オラァ!」

 

シロ「ガ…!」

 

萃香の巨大な拳がシロを何度も殴りつける。

 

萃香「ふん、前から…ずっと気に入らなかったんだ。お前の面、お前の目。何だかずっと自分を見ているような気がして…どうしようもなく気持ち悪かった」

 

シロ「くっ…」

 

シロは地面を掴んでブラックホールから抜け出そうとするが、やはり脱出することができない。

 

萃香「でもさ、お前の目…だんだん変わっていったよね。お前は変わっても、私はずっと変わらない嘘つきさ。だから変わっていくお前を見てると劣等感が湧いてくる。私はずっと恐れられるだけさ…久々に妖怪の山へ戻ってみても」

 

萃香の爪がシロの右目を抉った。くちゃっと気味の悪い音を立てながら萃香は目をほじくるように指を引き抜く。当然目は潰れて血が噴き出していく。

 

萃香「でもお前はいいよなァ…私と同じく恐れられる存在なのに、お前はどんどん周りに受け入れられていく。そのムカつく目なんていらねぇよな…私を差し置いてどんどんマトモに変わっていっちまうお前の目なんていらねぇや…」

 

萃香はシロの目が憎らしかった。

自分を見せられているようで気に入らない…その目を潰してやったのだ。

 

シロ「げげ…くはは…」

 

萃香「……何がおかしい?」

 

シロ「けけけ、いや…伊吹萃香、お前は我が羨ましいだけであろう。本当に我がお前の言うように変わっているのかはよく分からんが、とにかく羨ましいんだろう…。羨望は憧れ、憧れは嫉妬へ、嫉妬はやがて憎しみへと変わる。だから、酒を飲んでそんな憎しみに塗れた自分を隠してきたのだろう…けけけっけけ…ケケケ」

 

萃香はシロを睨みつけながら黙ってその話を聞いている。

 

シロ「笑わせてくれるわ、鬼は嘘をつかないとかぬかしておった癖になァア!!」

 

萃香「だまれエエエエエ!」

 

怒り狂った萃香は顔を歪ませ、手に握った分銅で何度もシロの首の後ろや背中を驚異的な力で殴った。

その連続した攻撃の前にさっきまで喋っていたシロもだんだんと頭が地面に下がっていく。

 

萃香「だまれだまれだまれ、だまれエエエエ!!」

 

シロ「たわけ、粕が!」

 

シロは渾身の力でブラックホールを破壊し、そこから抜け出して見せた。破壊されたブラックホールから強力な衝撃波が発生しその振動で巨大化している萃香の身体が跳ね上がる。

 

シロ「怒ったな…粕妖怪が怒ったわ!」

 

二匹は互いに手を掴み合い押し合いを始める。

 

シロ「さァ、どうするんだよ…伊吹萃香ァ!」

 

萃香「どうするだって?続きをやるのさ、他に何があるっていうんだい!?」ボオオオオオ

 

萃香の口から発せられる火炎がシロを包んだ。しかし、その炎もシロには効かずに炎を突っ切って萃香の腹に噛みつき牙を喰い込ませる。

 

萃香「ぐあ…このッ!」

 

シロの後頭部に肘を振り下ろす萃香だが、シロの普通の尾の一本が腕を巻き取って離さない。

 

シロ「お前が我を憎む限りお前は我に勝つことはできないのだよ。我は…無敵の大妖怪なるぞ!」

 

萃香の頭部から横向かって伸びる長い捻じれた角の片方を掴み、それを引っ張って顔面を地面に叩きつけた。

衝撃で土塊や岩が飛び散り、萃香の角もボキリとへし折れてしまった。

 

萃香「ブハ…」

 

シロは萃香の戦意を喪失させるため、鬼の象徴でもある角をへし折ることにしたのだ。

角を折られた萃香の身体は縮んでいき、元の少女の大きさに戻ってしまう。

 

萃香「勝てない、だと…関係ないね…。私はお前を殺して、霊夢にも素の本当の私を見せてやりたいんだ…!」

 

シロ「見せてやりたい、だと?だったら今まで自分を偽らずにしてくればよかっただろう!そうしてこなかったのが…今まで嘘ついてきたのが鬼にも辛いかよ!?」

 

尻尾の一本を地面に突っ込み、萃香の真下から飛び出させてその足に一撃を食らわした。足は空中で案の定変な方向に曲がってしまう。

 

萃香「私は鬼じゃない、こんな私など鬼ではない!!」

 

周囲に散らばっていた岩や高密度に圧縮された土が、まるでシロが磁石になっているかのように物凄いスピードで萃まってくる。だがシロはまだ無事な6本の尾を振り回してそれらを相殺する。

 

シロ「これで終いだ!」

 

鉄の尾に鱗のようにびっしりと並んでいる鉄の刃をまつぼっくりのように逆立たせ、それを萃香に叩きつけるとその勢いのままその小さな体を無数に切り裂いた。

萃香は地面に転がりながら倒れ込み、起き上がろうとして動かない足をバタバタさせる。

 

シロ「我の勝ちだな…」

 

萃香「シロ…おかしいよ、お前はどんな妖怪でも必ず殺して滅ぼすんだろ…なんで私を殺さない…?」

 

シロ「何を言っておる、もう勝負はついた…お前は負けたんだよ」

 

萃香「馬鹿言うな…この勝負はどっちかがくたばるまで終わらないだろ!?」

 

シロ「お前こそ莫迦だ、その身体で何ができる?」

 

萃香「まだ戦う事ができるんだよォ!!」

 

萃香は周囲の植物、土、そして自分の残った妖気を全て右の拳に萃めて集中させる。今のボロボロの萃香からは想像もできない程の膨大な妖気だ。

 

萃香「…『砕月』!!」

 

萃香の放ったパンチはまさに月をも砕く勢いでシロに襲い掛かる。

シロは鉄の尾をかざしてその攻撃を受けようとする。しかし、パンチは容易に鉄の尾を粉々に打ち砕いてシロの鳩尾に深く、鋭くめり込んだ。

瞳が目の中心に移動し、痛みに眼球にヒビのような模様が走るシロを見て萃香は勝利を確信した笑みを浮かべる。

 

やっぱり…お前の負けだ…伊吹萃香。

 

尾の一本を伸ばし、切っ先が萃香の胸に突き刺さる。そのまま尾は萃香の胸を貫通した。尾は萃香を持ち上げるようにくねくねと動いた後、ゆっくりと萃香から引き抜かれシロの元へ戻った。

 

シロ「まだ…やるかよ、萃香…」

 

萃香「へへ、負けちまった…もう…指一本動かす力も残ってねぇや…」

 

萃香はドサッとその場に座り込んだ。風穴の開いた胸からは絶えず血が流れ出ている。

 

シロ「まぁ、粕妖怪にしちゃ上出来だったぞ」

 

真っ白い大きな体がスライムのようにぐにゃりと変形し、そこにはいつもの人間に変化しているときの姿のシロが立っていた。右目は抉られて潰れている、尾が4本も萃香に破られ、その他攻撃を受けた箇所からは血が垂れている。

ここまでやれれば、萃香も上出来だと言えるだろう。

 

萃香「結構いい線いってたと思うんだけどな~…。なぁ、お前さんは負けた事はあるのかい、シロ…」

 

シロ「…あるよ、何度もな。獣の槍にもとらにも何回かやられたし、幻想郷に来てからも結構負けておる」

 

萃香「私は、あんまり負けた事が無いんだ。お前が復活するより前に異変を起こしたときは霊夢たちにコテンパンにされて、それと桃太郎…シロくらいだな。人間が負けると強くなるように、鬼も負ければ強くなる。でも私は負けるのが…遅すぎたんだな。もっと早くにお前と戦って…負けることができていればな…」

 

シロ「だが、自分の力を自分で把握できねぇ…やっぱり粕妖怪だったな。人攫いだか鬼の国だか妖怪の山みたいなちっぽけな世界で…つけあがっていたのかよ」

 

萃香「そうだよな、私は…馬鹿な事をしたよ」

 

自分の腰のベルトから鎖で繋がっている伊吹瓢の栓を開け、それを口につけてごくごくと中の酒を飲んだ。

 

シロ「…おい、体に障るぞ」

 

萃香「いいのさ。嫌な事は全部、酒を飲みまくって身体から追い出してしまう。今までそうしてきた…」

 

瓢の中が空に成るまで一気に飲み干す。

だがそこで急に手が震えて瓢を落としてしまう。どうやら、そろそろかな…。

 

萃香「どうしても本当の自分を見てほしかった…本当の自分と戦ってメチャクチャに負かして欲しかったんだ…。私は本気で戦った…シロも、本気で戦ってくれたかい?」

 

シロ「我が妖を滅ぼすのに手を抜くと思うか?全ての生命ある者を抹殺するのが我の望み…本気でやらねば達成できんよ」

 

萃香の心の中にバラバラに散らばっていた想いが萃まって夢と成り、それがいま叶ったことに気付いた。

 

萃香「そうして…私はずっと、萃う夢を想い続けて…」

 

シロ「夢が何だって…?おい、おい萃香!」

 

萃香は両腕を広げて仰向けに倒れ込んだ。いくらシロが呼んでも、その安らかな顔は二度と目を開けることはなった。

この時、シロの手によって一人の鬼の命が消えた。

 

シロ「…だから駄目なのだ、我以外の妖怪は…」

 

神社から出発するとき、シロは決めた。もう誰も殺さない、と。

そう決めたばかりなのに…また一個の命を滅ぼしてしまった。シロはうつむいたまま、地上に居る霊夢の元へ戻るために飛び上がり、その場を後にした。

 

 

────────────────

 

一方、幻想郷上空。

龍の復活を食い止めようとする霊夢と天狗たちを筆頭とした山の妖怪たちが戦っていた。

霊夢が龍を刺激すれば龍は目覚め、幻想郷がかつてない混乱に陥る事になってしまう。これで天狗が霊夢を始末できれば龍は復活してからの邪魔が一つ消え、霊夢が勝ってもその間に龍は復活を遂げてしまうだろう。どう転んでも龍は復活してしまうのだ。

 

霊夢「はぁ…はぁ…」

 

始めは霊夢の方が推していたが、天狗は個々の実力が高いうえに今回は総動員して霊夢を妨害しようとしている。

その数は霊夢と言えどどうにかできるものではなかった。

だがその横で、天狗の間でも争いが起こっていた。

 

「天魔殿よ、やはりあの巫女を邪魔してはいかん!」

 

「何を言うか大天狗!龍神様が目覚めればこの幻想郷は滅茶苦茶になってしまうのじゃぞ!」

 

人間や普通の鴉天狗よりも十数倍もの体躯を誇る真っ赤な顔の大天狗が、その自分よりも更に何倍も巨大な天魔にしがみ付いている。

 

「そうだ、その通りだが何か引っかかる!あの巫女が…あの巫女が何か重要な役目にあるような気がするのじゃ」

 

「我らの山が、復活した龍神様に崩されてしまったらどうするのだ?」

 

「くそ…ならば、腕ずくでとめて見せる!」

 

大天狗は天魔の首に腕を回し、後ろからしがみ付いたまま離さない。

 

 

二枚の結界の隙間、通称『奈落の空間』。

 

紫「今、龍神様に危害を加えようとするあの巫女を、山の妖怪たちが止めています。どうか気をお鎮め下さい…」

 

『そうか、頼むぞ…』

 

そう恐ろしい声で呟きながら、内心では大笑いしていた。

馬鹿な奴らめ、あの巫女と白面がワシとこの奈落の空間で戦おうが巫女が死のうが天狗がやられようが、時間ができる。どう展開が進んだとしても時間稼ぎになる…もうすぐだ、もうすぐでこの奈落から抜け出せるエネルギーが溜まる…。

 

『く…』

 

紫「どうかされましたか?」

 

『クハハハハ…ッ来た!ついに、復活の時だァ…』パキ

 

龍はその巨大な頭を持ち上げ、紫色の蛇舌をチロチロと出し入れする。それに感化されたように奈落の他の場所からも何か巨大な物が動き出す音が響き始める。

 

 

霊夢と山の妖怪たちが戦いを始めて、一時間以上が経過していた。

 

霊夢「てやっ!」

 

御札を投げ、貼りつけると札に込められた霊力で妖怪たちがどんどん墜落していく。

しかし、文たち鴉天狗の起こす突風が霊夢を徐々に後退させる。

 

霊夢「ぐ…。そういえば…えらく天気が悪くなって来たわね…」

 

いつの間にか雲の上まで来て戦っていたようで、すぐ下には分厚い真っ黒な雲が厚く張っていた。

地上では今頃土砂降りの大嵐になっているのか?

 

霊夢「まさか!」

 

この嵐、見たことある。確か150年前、八頭龍が引き起こしていた大嵐だ。

だったら…まさか八頭龍は…!

最悪の予感に対する焦りで霊夢は遠くに見える奈落の穴にまで一直線で飛んでいく。

 

文「逃がさないわ」

 

霊夢「…文、ごめん」

 

霊夢は文に霊撃を真正面から直撃させる。そしてそのまま天狗たちの間を縫ってついに穴の前へたどり着いた。

相変わらず穴から漏れだす龍の圧倒的な妖気がチクチクと肌に刺さる。それにも臆せずに中に入った時、霊夢は最悪の光景を目の当たりにした。

 

霊夢「お、遅かった…!」

 

『くくく…ハハハハハ!さらばッ、忌まわしき結界ッッ!!」

 

─八頭龍、食欲は旺盛にして狙った獲物に関しては諦めることを知らず。その欲求の前には、1000年の時も一瞬に過ぎない。




死亡キャラが出ちゃいました。許してね。
鬼なのにずっと酒で酔うことで自分を偽ってきた萃香。自分は周りに受け入れられるために嘘をつかなきゃいけないのに、そんな事せずとも受け入れられていくシロが羨ましくて、同時に憎らしかったわけです。


次回からさらに激化していきます。アイツがあそこに行ったりアレがこう繋がったりアノ人がある人に出会ったり…
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