れいむとシロ   作:ねっぷう

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第89話 「光を見た闇」

『そうだな、ゲガルドよ。なんと弱いのか…弱すぎるぞお前たち!』

 

あまりのショックに呆然とする霊夢に向かって、ジエは再び口元に妖気の渦を溜め始める。これであの巫女さえ滅ぼせば、ワシの勝ちだ。

ジエは妖気のブレスを放った。そのブレスが視界を覆うほど近づいてきた時、霊夢の意識はこと切れた。

がその時、ブレスが直撃する寸前の霊夢の腕を何者かが掴んだ。そう、時逆だ。時逆はギリギリで霊夢を少し過去に飛ばす事で救おうとしてこの場に現れた。

 

時逆「しっかりせんかいっ、博麗!!」

 

霊夢ごと過去へ飛ぼうとする時逆だが、身体から伸びる三本指の足をブレスがかすった。

 

時逆「しっ、しまったァ~!」

 

既に半身だけを時間のはざまに移動させており、その痛みと衝撃で思わず霊夢の腕を離してしまった。

時逆も時間のはざまを落ちていく霊夢を追いかけるが、今の龍の攻撃による時間の歪みが邪魔してそれ以上追う事ができなかった。

 

時順「まずいぞ、時間のはざまにあの娘を落っことしてしまった…」

 

時逆「これじゃあ、いつの時代まで飛ばされたかわからねぇ!」

 

時順「だけどそれを知る方法はいくつかある…まず、誰か適当な奴を見つけて、ある時間…ある場所へ行こう」

 

 

─────────

 

時逆「お前、聖白蓮だな?」

 

聖「はい、そうですが…」

 

時間にして霊夢とシロが龍に敗北してから実に5分後のこと。

流離いの旅を続けていた聖白蓮の目の前に、時を遡る妖怪…時逆が姿を現した。

 

時逆「お前さんに…頼みたいことがある」

 

聖「はあ、私に…ですか?」

 

聖は見た事のない妖怪の来訪に、傘を少し上にあげて顔をのぞかせた。

 

時順「そうじゃ。お前を今からとある場所へ連れていく」

 

時逆「今幻想郷は最大の危機に瀕している。それを救える者の行方を聞き出してもらいたい」

 

聖も隕石の欠片によって記憶を消されてしまっているのだが、この異常ともいえる豪雨の嵐。既に幻想郷の崩壊が始まっているのではと思っていた。もしそうだとすれば、私の力で救う事が出来るのなら…私は動きたい。

 

聖「ええ、やります!」

 

 

 

周囲には深い霧が立ち込めている。鋭い岩山が立ち並び、禍々しい霊気が生暖かい風となって吹き抜ける。

とある霊峰の深山に、聖と時逆はやってきたのだ。

 

時逆「約20年前の中国の霊峰さ。ここを少し進んだところで、『白面の者』という言葉を聞いたら…そこに居る者にあたしが教えた事を聞いてみな」

 

聖「…はい」

 

時逆さんによれば、私はその白面の者と重要な博麗霊夢、という者らのことを忘れてしまっているらしい。この先に居る人は白面の者と関係のある方で霊夢さんについても何か知っているかもしれないという。

 

聖「おや…」

 

聖と時逆は開けた場所に出た。

 

「幾百年の間にお前たちは…獣の槍より恐ろしい、この私を忘れていたようだねぇ」

 

声がする。声の方に視線を向けるとそこに居たのは長い黒髪に黒衣の女性だった。手には長い赤い布を持っているようだ。

 

「は…白面の者…」

 

その女性の前に転がっていた人間の頭部らしきものがその名を口にした。その後に、その頭部は煙のように消えてしまった。頭部が消えたのを確認すると、その女性はすぐにこの場を離れようとする。

 

「…ん?」

 

聖「あ…」

 

しまった、話しかけに行こうととたんに茂みを踏んでしまった。

黒衣の女性はゆっくりとこちらに振り向き、隈の濃い不気味な目をこちらへ向ける。

 

「誰かしら?」

 

聖「えっと…貴方は白面の者、に関係する方ですね?よければ…お伺いしたいことがあるのですが」

 

その時、黒衣の女性から禍々しい妖気が放出される。あまりの威圧感に腰が抜けてしまいそうになる。

 

「何を?」

 

聖「博麗霊夢」

 

「それを聞いてどうしますの?見たところ、法力を嗜んでいる尼さんに見えますが」

 

淡々と喋る黒衣の女性。

 

聖「今、私が住んでいるところに危機が訪れています。それから脱却するために、博麗霊夢がどの時代にいるのか知らなければならないのです」

 

女性は聖と時逆の真剣な目をじっと見つめてから、腰辺りまでの高さの岩の上に座った。

 

「そうね…今から3000年も前のインドでの話よ」

 

後に斗和子と名乗ったその女性は長い髪をかき上げてから話を始めた。

 

 

─────────

 

ここは…どこかしら?私は確か、龍と戦って…。

ああそうだ、この周りに流れていく風景は見覚えがある。時逆の時間のはざまだ…。あれ?あそこに居るのはとらじゃないの…何を抱えているの?それにその向こうに居るのは…シロ?何やってるのよ、そんなところで…。

 

 

 

心地良い。実にな。我は闇の塊、この世の陰の気の集合なり。

もっと殺せ…互いに憎しみ合え。我が憑りついた人間に殺した者の温かい鮮血が飛ぶ。殺される人間を見るのは実に気持ちがいい。我が仕組んだ罠で同士討ちをさせてやった。

炎に包まれる都、人間の死体の焼ける匂い、人間の断末魔の悲鳴…。全てが快感となっていく。

 

 

それから、幾ばくかの年月が過ぎた。次は何処を滅ぼしてやろうか?しかし、この気の塊の身体では何かがイマイチ足りぬ。どうしたものか…。

そんな事を考えながら、目の前を通り過ぎていく虫や鳥の姿、移ろいゆく景色を眺める。それすらも数えるのが億劫になってしまった。この我に与えられた楽しみは人間どもに憑りつき、醜く憎しみに狂わせて操り地獄へ叩き落とすこと。

 

「おーい、何してるの?」

 

だが、我はそんな時…出会ったのだ…。

 

「ん?急に無口になったわね、さっきまでブツブツ喋ってたのってアンタでしょ?」

 

何だこの娘は。見た事もない、不思議な格好をしておる。見た感じの顔つきから東洋の娘であろうか?

我は声など出せないハズ。何故我の言葉を聞くことができた?それに何故人間の癖に空に浮かび我と同じ目線に立っている?

 

「アンタ、体が無いのね。ずっとふわふわと漂ってるわ、私はそうゆう気だとか神霊の類については詳しいの。こんな事もできるわ」

 

その娘は我の目の前で光の弾を生成し、それを握りつぶして炸裂させた。

突然の珍妙な技に我は驚きの声を漏らした。

 

──うわぁッ!

 

「あははは!」

 

──もしやお前も神仙の類ではなかろうな?

 

「まさか。私は人間よ。でも私のところじゃこういうのができるの自体は珍しい事じゃないわ」

 

──…そうなのか。

 

「そういえばアンタ、名前は?」

 

──名前…だと?言われてみれば考えた事もなかったな…。

 

「そうなの。じゃあ私が名付けてあげるわ、シロ!」

 

──シロ?

 

「どうかしら?」

 

──シロ、か。良い響きだ、嫌いじゃない。

 

我の名前。シロ…簡単で短いが、下手に気取るよりも呼びやすい方が名前としては意義を果たしているといえるだろう。

それにしても、何故だろう…この気持ちは。この娘と一緒に居ると、何故だかあたたかい感情が湧いてくるような気がする。

 

──なぁ、娘…

 

「何?」

 

──これからも毎日我の所へ来てはくれぬか?もっと…もっと話がしたいんだ。

 

「あぁ、もちろんよ。私もここじゃ退屈だったからね」

 

 

それからというもの、娘は毎日我に会いに来た。

内容はもっぱら娘の他愛のない話だったが…雑話から奇譚に至るまでのどれもが面白く、お伽噺を読み聞かせてもらう子供のように、我は娘の話に夢中になった。

 

「小人族って知ってる?その名の通り体が小さい民族なのよ」

 

「あの時は焦ったわ、スペルカード戦で私が手も足も出なかったんだもん」

 

それまでの事が嘘であったかのように我の時間は劇的に変化した。もう人間を滅ぼすという事など忘れてしまうほどに楽しい。毎日毎日、娘が会いに来るのを楽しみにしている。それを待っている時間さえも楽しい。

話し相手がいるというだけでこんなにも世界は違う物なのか…。共に歩いてくれるものがいるというだけでなんと素晴らしい変化なのだろう。

そうして娘と過ごすのももう一か月…。

 

今までは我が娘の話を聞いて楽しむばかりであったが、我はついに、次に娘が来たときは自らの心の内の思いを明かそうと思い立った。

次の日にいつものように娘がやってきた。

 

「おーっす、シロ」

 

──来てくれたのか

 

「私の日課みたいになっちゃってるからね」

 

──確かにな

 

「ねぇシロ、アンタ気付いてる?一か月前と比べて大分声色や仕草に活気が出て来たよ」

 

──そうか?自分ではわからないが、何か恥ずかしいな

 

「このまま行けば、シロはもっと変われるよ」

 

──…なぁ、今まではお前の話を我が聞くだけだったが、今日は我の話を聞いてくれるか?

 

「ん、いいよ?」

 

──かつて、国々がまだ形の定まらぬ気であった時、澄んだ清浄な気は上へ昇って人となり、濁った邪な気は下に溜まって…我になった…。

 

我はいつもいつも、ただ人間どもが繰り広げる生活を下から見るだけだった。キラキラと光る人間どもはとてもまぶしく見え、同時に妬ましかった。どうして我は陰に…闇に生まれ付いた…?

キレイダナァ、ナンデワレハアアジャナイ?ナンデワレハニゴッテイル?

 

──いいよな、お前達人間は…。我も人間のようになれたらなぁ…

 

「…なるほどね。シロには人間がとても綺麗に見えて、それに憧れを抱いていると」

 

娘は少し大げさに顎に手を当てた。

 

「だったら、こういうのはどうかしら?少しでも人間に近づくために、肉体を持つのよ!それも、洗いたてのシーツのようにしわ一つない、真っ白い肉体をね…」

 

──…

 

「なーんて…」

 

──クックックックックック…そうか、いいことを聞いたぞ娘!

 

「え…?」

 

どうして我はこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。そうだ、身を作り上げればいいのだ。

 

──お前には聞こえるか?この…幽かな赤子の産声が。

 

「まさか、赤ん坊を…!や、やめなさい!」

 

──もう遅い、感謝するぞ…どこから来たのかもわからぬ不思議な娘よ。また機会があれば…永遠の時の果てに、また会おう!

 

その娘は見た。

形を持たない気の塊であるシロが、抱きかかえられて初めて母と顔を合わせている生まれて間もない赤ん坊に入り込むのを。その時の衝撃で赤ん坊以外の全ての人間が燃え、死に絶えていくのを。

そして…なじみ深い、白い獣の身体に白き面、白銀のしなる長い九本の尾…シロの姿を。

 

シロ…!

 

 

────────

 

聖「その、霊夢さんが唯一心を許した人間だったんですね」

 

「当たり前、よ。あの娘は私が歩んできた闇の中で…ようやく見えた光だったのよ」

 

女はうつむきながらそう言った。その様子には先ほどまでの不気味な感じは見られず、その光景を懐かしむような顔をしていた。

 

「そのはるか後にも、私は娘と出会ったのよ」

 

 

 

それは2300年前、あれから実に700年の年月が流れた。

肉体を得られることができた我は、それから直に人の血を味わい、人の恐怖を喰らい、もちろん妖も殺していった。そしていつか人間や妖どもに呼ばれるようになった名は…「白面の者」。どこへ行っても呼ばるるは白面の者。

違うのだ…我の名は白面ではない、我が名は白面にあらじ。我が…呼ばれたき名は…

 

そしてある時、とある王朝に潜り込み、そこを我は滅ぼした。

 

我の炎の爆発に乗じて屋敷の天井を破り、空に飛びあがってそこから都に向かって炎を吐きつけてやったよ。

だがその時だった。不思議なことに、あの時の娘が再び我の前に現れたのだ!

 

「ねぇシロ!こんな事止めなさいよ!!」

 

一目でわかった。あの服装、それに飛べるという事。700年前に出会ったあの娘だった。

長い時が流れたのに何故お前は姿を変えない?もしかして…もしかすれば我と同じなのか?永遠の闇の中、光の下の荒野を歩く者。だったら、我の絶望を…我の孤独を…寂しさを…分かってくれるのだろうか?

 

そうなら…もしも…

 

そうなら!

 

「…娘、お前も我に立ち向かうのか?空を飛ぶ不思議な娘よ…お前のことも我は覚えておこう…」

 

 

 

「私はその時、本当は嬉しかったの。でもその時は既に白面の者として、人間どもに恐怖を与える存在として君臨していた私は…つい気のないフリをして、そう言ってしまったの…」

 

聖「へぇ、そうなんですか。何だか私みたいね…」

 

聖は思った。時逆さんの話によれば、白面の者は今、シロという名前で呼ばれていてもう破壊者としての生活は捨てたという。私も今まで規律や固い運命や使命にとらわれていたけど、ついこの間それを振り切る事が出来た。そういう点では私と似ているかもしれない。

 

「さてと。私は斗和子、白面の御方の化身。今はこの赤い布を取りに来ただけですの。貴方が特別な力を持つ尼でも…私を止めることはできないわ。また、どこかで会いましょう」

 

女性は立ち上がると、長い赤い布を手に持って濃霧の中へ消えていった。

 

時逆「これで、博麗霊夢がどこの時、どこの場所に居るのかが知れた」

 

聖「では、行くのですね…」

 

 

─────────────

 

私、博麗霊夢は見ている。シロが流れ星の如く向かった先にはまだ生まれたばかりの赤ん坊。その赤ん坊の体の中に入り込んだときの衝撃で周囲は熱に曝されて吹き飛び、その子の親を含めた周りの人間が焼け死んでいくのを。

 

その時、背後から光が差し、時逆と聖白蓮が現れた。

 

「これもきっと私のシロの縁の一つだったのね。あの時、シロが以前にも会っているって言ってた意味が分かったわ。…そうね、戦いはまだ終わっていない…そうでしょ?シロ」

 

そして霊夢は知らないのだろう。でも君たちは知っている…白面の者が身を作り上げるためにこの赤ん坊に憑りついたことで、どのような物語が始まったのか。

博麗霊夢は時逆と共に現代へと戻り、再び戦いへ臨もうとしていた。

 




白面がシャガクシャの身体に入る前日譚みたいな感じに仕上げました。
無理やり東方とうしとらをつなげてしまった感がありますが…。

そうなると結果的にとらがうしおに出会ったのも霊夢の所為だし、彼らに白面が敗北したのも霊夢が引き起こした必然の結果でここまでの全てが霊夢の一言から始まったと考えると面白くないですか?
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