れいむとシロ   作:ねっぷう

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第90話 「流転の兆し」

霊夢「私は、ずっと見ていたの。大事な…相棒の事を」

 

時逆の時間のはざまを、現代に向けて移動する霊夢と聖。

 

霊夢「そして、あの時の私は憎しみに囚われていた。色んなことが重なってパニックになっていたんでしょうね。そもそれじゃダメなの…それじゃあの八頭龍は倒せない。私はたった一つ、これだけを思って戦えば良かったんだ。皆が楽しく暮らせるように…皆を、死なせたくない」

 

3人ははざまを抜け、現代の博麗神社に到着した。相変わらず嵐が吹き荒れていて、はるか遠くから龍の咆哮が響いてくる。

地面に降り立った瞬間、霊夢の上に何か小さな粒が密集しているのに気が付き、上を見上げた。

 

聖「アレは…何かしら?」

 

霊夢「…シロの婢妖!」

 

そう、無数に浮かんでいるのは大量の婢妖だった。

 

霊夢「そう、シロが最後の力で婢妖を放ったのね…」

 

婢妖は、自分らが主の最後の力で放たれたのだと霊夢に悟らせると、その身体の形状を変化させていく。前方や横方向に向けて鉤型の突起が立ち並び、尻尾には節のある甲殻が浮かび上がる。そして婢妖の大群は空に散っていった。

 

霊夢「婢妖だけになっても凄いわね。でも私だって…まだ負けてないんだから」

 

聖「私だって協力しますよ、霊夢さん」

 

霊夢「ありがとう。私らが居れば…負ける訳ないわよね」

 

 

 

『…キュアアアアアアアアアア!!』

 

八頭龍の八つある頭の内のリーダー、ジエは黒雲の中に潜み、感覚を共有している仲間たちが各々の担当する場所を食い荒らしていくのを感じ取り、咆哮を挙げた。

 

『さて、そろそろ俺も行くか』

 

ゲガルドがくるりと頭の向きを変えながら言った。そしてそのまま、雲の中を通ってはるか遠くまで首を伸ばしていった。

 

 

地底─

 

「な、何だァアイツは!?」

 

地底に出現した、巨大な岩壁とも間違えてしまいそうな巨大な龍。その龍に驚いた地底の妖怪たちは建物の外に出て口々に喚きながら龍を指差す。

 

『ガハハハハハ!非力な妖怪共め、このキリエの鉄槌でェ~~~…』

 

自ら「キリエ」と名乗った八頭龍。猿か人間に近い厳つい顔の5倍はあろうかという巨大なハンマーのような顎を高く振り上げる。そして正に槌の如くその顎を叩きつけた。街が叩き潰され、そこを中心に巨大なクレーターが広がっていく。その衝撃で巻き上げられた建物の残骸、岩盤、塵、そして鬼を含めた妖怪たち。キリエは大口を開けて息を吸い込むと、巻き上がったそれらが物凄い勢いで口に吸い込まれていく。ある程度口に含むと、全ての歯が大臼歯になっている口で何度も咀嚼し、そして飲み込んだ。

 

『吾輩は八頭龍のキリエ…ここに蓄えられし熱のエネルギー、全て喰らって我がモノとしてやる!』

 

 

妖怪の山─

 

『…ひひひひ』

 

「ニッド」は富士山にも匹敵するかというほどの大きさの妖怪の山にその身体を巻きつけている。

自身の身体から発せられる粘液により山の斜面は非常に柔らかく脆くなっており、喰らうには打ってつけの地質に変化してしまっていた。その山の土をせり出た顎で掬い取り、木々を根元から引っこ抜いて食べ、滝を体でせき止め水を飲む。

 

『ひひ、ひひひ…この山は俺のモンだァァァ!』

 

 

魔法の森─

 

恐竜か何かかと見間違える程の大きな龍が、滝のように降ってくる雨水を浴びながら森の木々の間を飛行していた。龍と言っても彼は元から魔法の森に棲んでいるごく普通の龍だ。

何か、この森にはヤバい奴が潜んでいる。口元の黄金の毛と髭を震わせながら彼はそう思った。しばらくウロウロとしていると、地面の泥の中から空気がプシュー、プシューと発せられているのを見つけた。彼は好奇心からその発せられる空気に近づいた。物凄い圧だ、中に飛び込めば跡形もなく消し飛んでしまうだろう。

 

しかし彼は…圧で消し飛ばされるよりもっと恐ろしい最期を遂げることになる。

 

地面から大きな塊が飛び出した。雨によってグチャグチャになった泥を纏った八頭龍の頭が飛び出したのだ。

冠のような形状に発達した頭殻が特徴で、頭部の上部からはシューと鼻息が漏れている。その龍は逃げだそうとする自分よりもはるかに小さな龍の尻尾を口の端でとらえ、そのまま高く持ち上げる。そして尻尾の先から前歯で少しずつすり潰して食べていく。小さな龍は身をよじって抵抗するが、胸のあたりまできたところで口に一気に放り込まれ後から入ってきた泥や木々に押しつぶされながら喉の中を通っていった。

 

『このガレフの舌を唸らせる、良質な魔力を溜めた森だ…』

 

 

時刻は午後2時40分。八頭龍の復活の際に破損した博麗大結界は今もなお少しづつ崩れ始め、幻想郷が水浸しになってしまうほどの大嵐と落雷の中、八頭龍は各々が向かった先を喰い滅ぼそうとしていた。

妖怪の山、魔法の森、地底、天界、地獄…それらの強力な妖怪が住み、多くの気が宿る地を中心に喰っているのだ。

伝説の龍神に怯える妖怪たちは次々と敗れていった。地底の鬼を初めとした妖怪も、天界の天人や仙人も、地獄に居る鬼や亡者…閻魔大王に至るまで、終始…八頭龍に適し得なかったのだ。

 

 

 

妖夢「ついに始まったようね。幻想郷の存亡をかけた戦いが」

 

冥界の白玉楼の庭で、魂魄妖夢は呟いた。

 

幽々子「妖夢…でも、霊夢とシロは八頭龍にやられちゃって…全てが絶望に満ちているというのに…」

 

妖夢「この、私が打ちなおした白楼剣が教えてくれています、流転の兆しは…既に訪れています」

 

 

 

屠自古「りゅ、龍が…龍が幻想郷を喰ってやがる…」

 

屠自古は霊廟の窓から見えるその光景に愕然とした。

 

神子「龍はなおも幻想郷を崩し続け、大嵐も相まって外は凄惨極まる状況に…」

 

屠自古「もうだめだァ~…いずれこの仙界も見つかれば一口だぞ…」

 

神子「ええ、早く避難している人に知らせて、別の場所へ避難を…」

 

走り出す二人を、布都が後ろから引き留め、屠自古の胸ぐらを掴んだ。

 

布都「馬鹿者、ダメではない!我らが人々に絶望を広めてどうするのじゃ!?少しでも、少しでも救いの希望を広めるのが我らの仕事ではないですか?太子様」

 

屠自古「希望っていたって…今はその希望がないからこうなってるんだろォ!?」

 

布都「ふっふっふ。太子様も屠自古も、もう安心してくだされ」

 

腕を組み不敵に笑いながら、いわゆるドヤ顔というものを見せる布都。

 

神子「布都よ…何があるというのですか?」

 

布都「あんな龍に明日は無い。だって…あ奴らが居るんですから」

 

こいつ、ついに本当に頭でも可笑しくなったか?と屠自古は思った。しかし、神子はそれが嘘ではないことに気付いていた。彼女らにも、流転の兆しが訪れていたからだ。

 

 

 

博麗神社上空から散っていった、ある妖怪の大群があった。妖怪の名は婢妖といい、元の妖怪の名を…白面の者、シロという。婢妖は長く尾を引きながら幻想郷中へ飛んでいく。

そして今、その一つが向きを変えた。

 

 

魔理沙「香霖、阿求!」

 

魔理沙はようやくはぐれた二人を見つけた。その二人のもとに、父親と共に駆けつけていく。

 

霖之助「おお、魔理沙…!それに、霧雨さんも…」

 

阿求「避難はできたけれど…相手は何せあの八頭龍…ここもいずれは…」

 

「そうそう、妖怪だけが安全な場所へ逃げてるって話だぜ」

 

「本当かい?私たち人間は見殺しにされるってか?」

 

「だったらこんなところでボヤボヤしてられっかよ!」

 

避難民たちは口々にそんな会話を繰り返し、ついにはパニックに陥って一気に霊廟の外へ通じる扉の前に押し掛けた。

人々が我先にと扉へと向かい、扉の前でもみくちゃになってしまう。

 

阿求「ちょっと皆落ち着いて!この嵐じゃ何にもできないって!」

 

阿求がそう呼びかけても人々は大挙して扉へ向かって行く。丁度横を通った人の足に躓き、魔理沙はその場に転んでしまう。霖之助と父親の手を取りながら立ち上がろうとする彼女の頭の中には、あの女の子の姿が浮かんだ。

負けてられるかよ…アイツだってどっかで頑張ってるんだ…。

 

魔理沙「…え?」

 

…天井が透けて見えるぞ…。浮かんでいるのは何だ…無数の何かが集まっているのか?あ、一つがこっちに向かってくる。アレは…妖怪か?

大量に蠢く妖怪の大群から一匹が進行方向を変え、魔理沙の元へ向かってくる。その妖怪はするりと魔理沙の頭の中に入り込むと、頭の中に留まっていた龍の隕石の欠片を…容易に跡形もなく消し飛ばした。

 

 

…む…れ…れい…む…れいむ…

 

 

魔理沙「今、何かが私の頭の中に入り込んだ…?」

 

その時、魔理沙の脳裏にある人物が浮かび上がった。顔、思い出、日頃の態度や口調…知っている全てが事細かにどんどん浮かび上がってくる。博麗霊夢!

 

魔理沙「ははは、なぁんで忘れてたのかなぁ…」

 

魔理沙はそのまま箒の上に飛び乗り、上の方に浮かび上がると声を張り上げた。

 

魔理沙「皆落ち着いてくれ!きっと幻想郷は救われるぜ、なんたって霊夢とシロが居るんだからなぁ!」

 

「何を言ってるのかしら、あの子…」

 

「そうだ、頭がおかしいんじゃないか?」

 

魔理沙「おかっ…、おかしいのはお前らだ!お前らはまだ忘れてるのかよ、アイツらを…」

 

「ちょっと待てや」

 

魔理沙が必死に説得しようとするが誰も聞く耳を持ってくれない。しかしその時、がたいの良い角刈りの男が霊廟の扉の前に立ちふさがった。

 

「俺もなんで今までど忘れしてたんだろな…霊夢、博麗霊夢だろ?ソイツには一年くらい前から白い凄そうな妖怪がくっついてたよな?」

 

魔理沙「そうだよ、それがシロ…」

 

「はっはっは、どうしても出ていって犬死してぇんなら、里の門番をやってる俺を倒してからにしな」

 

「な、なんでだよ…」

 

「俺は博麗の人には昔から何かと助けてもらってんだ。門の近くをうろつく妖怪を退治して貰ったり、代わりに門番をしてもらったり…。あの人は里を守ってくれるんでよ、俺も負けねぇように守ってやりてぇのさ」

 

門番の男も魔理沙と同様に記憶を取り戻したに違いない。

 

「あぁ、霊夢ってあの巫女さんか?」

 

「あの巫女さん、霊夢っていうのか…」

 

巫女、霊夢という言葉に反応した人間たちはそれの話に夢中になって扉の前で足を止めた。

 

「何とか収まったな、白黒の譲ちゃんよ…」

 

門番は胸をなで下ろしながら上に居る魔理沙に向かってそう話す。

 

「え、まりさ…お前、博麗霊夢さんと知り合いだったのか!?」

 

霖之助「うん…思い出した!あの子は大丈夫なのだろうか…」

 

魔理沙「二人とも…思い出したのかよ…」

 

「何言ってるんだ、あの有名な霊夢さんを忘れる訳ないだろう!」

 

幻想郷の全ての人間から、隕石の欠片によって霊夢とシロに関する記憶をバラバラにされていた。二人を孤立させ団結力を削ぐために八頭龍が仕組んだのだ。しかし、その隕石の欠片は打ち砕かれて記憶も元通り修復された…。人々の頭の中にある、婢妖によって…。

 

 

記憶が戻ったのは人間ばかりではなかった。もちろん、妖怪たちにも…

 

私は…何をしていたのかしら?霊夢、シロ、八頭龍…まさか私は…これらを忘れてしまって…。

奈落の空間の外で一人倒れていた紫の元にも婢妖はやってきた。

 

藍「紫様、ようやく見つけましたよ。どうやら私たちはまんまと八頭龍にとって都合のいいように動かされていたようです」

 

紫「どうやら…そのようね。でも、あの白銀の獣と博麗霊夢ならば…どうにかできるハズ、絶対にね」

 

 

 

博麗神社─

 

時逆「どうやら、準備はできたようだねぇ」

 

霊夢「うん…」

 

神社の中から現れた霊夢。その身体には阿求と霖之助が共同制作し、それを譲り受けた仙高蟹の防具が身につけられている。周囲にはサッカーボールよりも一回り大きめぐらいのサイズの二つの陰陽玉が浮かんでおり、手には霊力の迸るお祓い棒が握られている。

正に最終決戦仕様装備とでも言えるような雰囲気だ。

 

聖「でも、大丈夫ですか…?」

 

霊夢「大丈夫に決まってる。自分でも何でこんなに冷静なのか分からないけど…」

 

その時、空の向こうから妖怪の大群が近づいてくるのが分かった。聖と時逆は咄嗟に身構えるが、それを見ても動じない霊夢を見てその妖怪の大群の正体に気付いた。

 

紫「…ごめんなさい」

 

藍「私たちとしたことが…」

 

それは紫率いる、八頭龍の対策を長年練り続けてきた古参妖怪たちであった。彼らも記憶を取り戻し、今一度八頭龍打倒の為に立ち上がったのだ。

 

神子「私はお前に八頭龍が復活した時は共に戦うと約束したのに…」

 

布都「すぐに駆けつけることができなかった」

 

屠自古「八頭龍の術で記憶を操作されていたんだ…でも、許してくれるか…?」

 

春に起こった命蓮寺での暴動の後、霊夢から事情を全て聴き八頭龍打倒を誓った神子たちも霊夢の元へ来てくれた。

 

霊夢「当たり前じゃない。じゃあ…行くわよ」

 

それに対して快く、あるいは素っ気ない態度でそう言うと霊夢は空に浮かび上がる。

見送る時逆と聖に手を振り、霊夢と紫に神子、妖怪たちは空に消えていった。

 

時逆「霊夢のやつ、いつの間にあんなに味方を…」

 

聖「私も思い出しました。あれこそが誰もマネできない、霊夢の人徳が成せる技なのかもしれないわ」

 

 




記憶奪還回です。

原作では婢妖を欠片が打ち滅ぼすんですが、こっちでは欠片を婢妖が滅ぼすという逆の展開にしてみました。

それと八頭龍。奴の八つの頭はそれぞれ違った能力と外見を持っていて、かつ別々の思考で自在に動くことが可能です。リーダーであるジエによってある程度の命令で動くこともありますが。
普段は各地にバラバラに頭を伸ばしていて、八つ全てが勢ぞろいするのは実は珍しいことだったりします。
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