れいむとシロ   作:ねっぷう

92 / 101
第92話 「冴」

冥界の白玉楼。その奥にある大きな桜の木の根元に、魂魄妖夢と記憶を取り戻した西行寺幽々子が居た。

それともう二名。地獄の閻魔大王、四季映姫・ヤマザナドゥにその部下である死神の小野塚小町だ。

 

妖夢「しかし…本当に良いのですか?冥界と地獄の魂を幻想郷に送り出すというのは…」

 

映姫「元は貴方が提案した事でしょう?今は亡き英霊を現世に引き戻すなど」

 

妖夢の提案、それは冥界を含めたあの世の魂たちを一時的に幻想郷に引き戻す事だった。幻想郷へ思い入れのある魂なら、必ずや味方として何かしてくれるだろうと考えたのだ。

 

映姫「他の閻魔には言ってません、私は独断でここに居ます。もちろん全てが終われば如何なる処罰でも受けるつもり。でもそれよりもやるべきことが有る…私は幻想郷担当の閻魔です。幻想郷が八頭龍によって食い滅ぼされてしまえば、私の仕事が無くなってしまう…そうなるのは嫌なのでね」

 

あの世の魂のあの世とは地獄も含まれている、つまりは地獄の亡者たちも呼び出してしまうのだ。

だが魂たちはこの西行妖の根元にある幻想郷へ通じる門を通らなければならず、戻るべき魂は映姫が審査する。一応は地獄の大悪人がこれに乗じて再び蘇るようなことはないだろう。

 

映姫「それと、ある者の為に外の世界からも助力を仰ぎました」

 

幽々子「ある者のため?」

 

映姫「そう、ある者のため…」

 

妖夢「そしてこれが今私にできる事…八頭龍から幻想郷を守るために…」

 

 

 

神子「この気は…まさか龍が近づいているのか?」

 

紫「だけど、それとは別の気配も感じる…」

 

こちらへ近づいてくる龍の気配とは別の、無数に集っている気の塊。

 

霊夢「婢妖だ!」

 

雲を斬り払いながらこちらへ向かってくる婢妖の大群。それに感化されたように紫や神子たちの頭からも婢妖が出現し、合流しようとする。

シロの婢妖が帰ってきた…もしかしたら、もしかしてシロは…

 

復活?

 

『見つけたァ、巫女ォ、妖怪共ォォオ!一匹残らず喰らってやる!!』

 

が、その時、天空からあのジエが長い身体をくねらせながら現れた。身体でとぐろを巻くように霊夢たちの周囲を囲い込み、そのままとぐろの円を縮めていく。あまりにも巨大すぎる身体は集ろうとする婢妖達の行方を簡単に遮った。

 

霊夢「は、八頭龍!」

 

『お前には何もさせないぞ、何もな!!』

 

ジエは即座に霊夢にタックルを食らわし、そのまま下に向けて叩き落とした。

 

布都「霊夢どの!」

 

既に薄くなっている雲の隙間を霊夢は勢いよく吹き飛ぶように落下していく。だが途中で何とかブレーキをかけ、態勢を整えようとしたとき、霊夢は見た。

眼下にあるのは紅魔館、その前にある大きな霧の湖。豪雨と風によって湖が溢れかえってしまっていて周囲の広い範囲が水浸しになっている。陽光を受けてキラキラと輝く水面に、何かが浮かんでいる。動きを止めてそれをよく見ると…

 

霊夢「シロ…!」

 

 

 

妖夢「では、冥界の門を開きます」

 

妖夢は目の前に出現した大きな扉を内側に向かって引くように開けた。三メートルほどはあろうかという大きな木製の扉で、向こうには幻想郷の彼岸畑が広がっている。

 

妖夢「冥界と幻想郷をつなぐ扉…これがあれば死者の魂は幻想郷へ戻ることができる!後は待つだけ…」

 

その時、冥界中から魂たちが一気にここへ集まってきた。我先にと言わんばかりに扉から外へ出ていく。

妖夢はとっさに伏せ、映姫は慌てて幻想郷へ戻るべき魂か否かを審査し始める。幽々子と小町はそれを見守るばかりだ。

 

小町「気を付けて、巻き込まれれば木っ端微塵だ」

 

小町の言う通り、扉を通っていく魂たちにぶつかればその威力でただでは済まないだろう。

 

 

 

紫「狼狽えるな、怯えてはいけない!」

 

紫たちは果敢にジエと交戦する。しかし相手は伝説として恐れられた龍神そのもの。いくら神子や妖怪たちが立ち向かってもその強固な鱗の前には如何な攻撃も弾かれ、棘で反撃をされるばかりだ。

 

『馬鹿が、妖怪どもめ…このワシにちょいとでも敵うと思ったか!?お前らはもうよい、ワシが狙うはあの忌まわしい白面の化身どもだけだ!』

 

ジエは群がる妖怪たちを強引に跳ね除け、一か所に集まろうとする婢妖に向かって大口を開けて突進していく。

 

 

その少し下で眼下の湖を見ている霊夢。水面に浮かんでいるのは、右肩から左の骨盤のあたりまで胴体を真っ二つに切断されかけたシロであった。血が周りの水を赤黒く染め上げており、シロ自身もピクリとも動かない。

ジエが目を凝らせばすぐ見えるはずのシロに目もくれないという事は、つまりシロはもう…。

 

霊夢「そんなところに…!」

 

今すぐにでもシロに駆け寄りたいが、最期にシロが託した婢妖を滅ぼそうとするジエにも目を向けなければならない。

ジエの大口にあの青い妖気の渦が溜められ、すぐにでも発射しようという構えをとる。霊夢も見たあの威力のブレス、当たれば婢妖も全滅してしまうだろう。霊夢がそこへ向かおうとした瞬間、北西の方角からこちらへ向かってくる大きな塊が見えた。

 

霊夢「あ、アレは!!」

 

アレはまさか…忘れるはずもない、巨大な骸骨の身体がダッシュするモーションとともにこちらへ向かってくる。その骸骨はブレスを放とうとするジエの横っ面を思いきり殴りつけた。

 

「アアアアアアアア!!」

 

『げか…な、何だァ!?』

 

殴られたジエはブレスを的外れな方向へ放ってしまった。

 

霊夢「アレは、前に里に出現した…」

 

ガシャドクロ!

里付近で妖怪や獣に襲われ無念の死を遂げた人間の魂たちが集まり、巨大な骸骨となって人を襲い始めた。その被害は里の中心にまで及び、霊夢とシロがそれを倒したのだ。シロの存在が幻想郷へ知れ渡ることとなった妖怪である。

 

ガシャドクロは間髪入れずにジエの顎を殴り抜ける。ジエの頭部が上に反れる。

 

『こ、このカスがァ!!』

 

苛立ちの声を上げたジエはガシャドクロに噛みついた。ガシャドクロはバラバラになってしまうがその瞬間、ガシャドクロの肋骨の部分の中から別の髑髏が出現し、それは無数の光の弾に分裂して弾丸のごとくジエに襲い掛かった。

 

霊夢「あ…!」

 

ジエに攻撃を仕掛ける魂たちが霊夢に頭を下げたような気がした。そうだ、霊夢に倒されたことで解放された人間の魂たちはあの時も霊夢に礼を言って天へ昇っていったんだ…。

 

霊夢「は、そうだ!シロ!?」

 

怒涛の攻撃にジエが怯んでいる隙を見て、霊夢はすぐに下へ降りてシロに駆け寄る。霊夢が水面からその頭を持ち上げても反応はない。

 

霊夢「ごめんね…あの時、一人で突っ走って…。でも私を守ってくれたのよね…私がもっとしっかりしていれば…。私、大昔のアンタと会って、アンタから話を聞いたわ…」

 

霊夢は3000年前、シロに思いを打ち明けられたことを思い出した。

 

霊夢「でも、泣いてるわけにはいかないよね」

 

婢妖、アンタたちは主が居なくなっても戦おうとしてる、だから私も負けてられない。と、霊夢がそう思った瞬間、空に居た婢妖たちが一斉にこちらへ向かって来たではないか。婢妖は霊夢の周囲を浮かんでいる陰陽玉と手に持っているお祓い棒の中にどんどん入り込んでいく。

 

霊夢「婢妖が…武器の中に…!」

 

婢妖が武器と同化していくたびに知り合いの顔が浮かぶ。魔理沙、霖之助、レミリア、幽々子、妹紅…そして…。

 

霊夢「シロ…婢妖が戦おうとしてるわ。もうちょっとここに居たいけど、私も戦いに行かなきゃ」

 

その時、霊夢の身体に以前とは比べ物にならないほどの霊力が迸りだす。湖の水面が一気に割れるほどの力だ。

 

霊夢「行くわよ、八頭龍!」

 

霊夢は動かないシロを後にして、再び戦いが繰り広げられている上空へと飛び立った。ジエは霊夢の接近にいち早く気づき、戦っていた妖怪たちを無視して霊夢へと頭を向けた。

 

『巫女よォ、叩き潰してやるぞォ!!「ルヴ」!!』

 

ジエは八つの頭のうちの一つ、「ルヴ」を呼び寄せた。するとすぐさま現れたのは、目の上から後頭部にかけて刃物のような突起が伸びている恐竜のような顔をした青い龍だった。

 

『俺が相手だな、博麗の巫女ォ!!』

 

ルヴは尖った歯が細かく並んだ口を開け、霊夢に攻撃を仕掛ける。だがルヴは霊夢に触れられることなく、一定の距離まで近づいた瞬間に陰陽玉による攻撃を受けた。陰陽玉は霊夢の周囲を回転しながらルヴの頭を何度も殴りつけ、終いにはルヴはグチャグチャに消し飛んでしまった。

 

『ゲバァ…そんなァ!』

 

『おのれ、前と違うな!博麗の巫女!!』

 

霊夢「博麗霊夢、覚えておきなさい!」

 

布都「凄い…あの霊夢から以前の10倍、いや100倍近くもの力を感じる…」

 

霊夢「好きにはさせないわ、八頭龍!」

 

『ならば、「キリエ」!!』

 

次に呼び寄せたのは、あの地底へ向かったキリエだった。すぐに霊夢の前に現れたキリエは巨大な顎を振り上げて叩きつけようとする。

それにタイミングを合わせてルヴの時と同じように陰陽玉をぶつけるが、やはり強固な顎の前に撥ね飛ばされてしまう。

 

霊夢「くっ…!」

 

『ガハハハハハ!吾輩の鉄槌をお前如きが打ち砕けると思うなよ!!』

 

低い唸り声をあげながら霊夢に頭突きをかまそうと襲い掛かる。しかし、霊夢は俄然冷静であった。こちらもお祓い棒を振り上げて迎え撃つ構えをとる。

 

布都、思い出したわ。私はこんなことまで忘れていたのね。攻撃を一つ処に集中させながらも他所への攻撃にも気を配る…真ん中の一本だけ針の長い剣山で殴る様をイメージする…

 

霊夢「尖撃!!」

 

霊夢のお祓い棒のフルスイングがキリエの顎に命中し、亀裂が入ると同時にそのまま身体全体にまでかけて粉々に砕け散った。

 

『お…グアアアアアア…!!』

 

『な、キリエすらも一撃だと…!?だが、ワシはどうかな?』ズオ

 

今度はいよいよジエが霊夢に向かって突進していく。

 

さっき、婢妖と武器が同化した時にみんなが笑ったような気がした。みんなの頭の中に入ったことによって婢妖にも染み込んだ皆の希望が。魔理沙に、霖之助さん、とら、妹紅…そして最後に、シロ。よくは分からなかったけれど、私の気のせいじゃない…ほんの少し、ほんの少しだけど、シロも恥ずかしそうに、笑ってたわ…。

 

霊夢「夢想封印…!」

 

 

──『冴』!!

 

 

夢想封印の一撃がジエの脳天に炸裂した。痛みにジエの瞳孔が縮みあがり、鼻先から額にかけて並んでいた黒い棘が削りとられる。ついに、ついに霊夢の攻撃がジエに対してまともにダメージを与えた瞬間と言えるだろう。先刻の夢想封印はジエに対して何の意味もなかったが、今度は違う。霊夢に託された幻想郷中の希望の乗った一撃なのだ。

大気が揺れるような衝撃とともに、渾身の一撃を喰らったジエもさすがに後方へ仰け反りながら吹っ飛ばされていく。

 

『げ、げえええええええ!おのれがァァァァアアア!!』

 

態勢を整えようとするジエだが、突然吹いてきた突風と無数の弾幕による追撃を貰ってしまう。驚きと怒りに目をギョロリと動かしてその方向を見る。

 

「我は大天狗、山の天狗5万の軍勢が到着した!」

 

そこに居たのは大天狗だった。その背後には言った通り5万の鴉天狗、白狼天狗など全ての天狗を集めている。霊夢と馴染のある射命丸文、姫海棠はたて、犬走椛などの姿も見られる。

 

『ワシが成す術もなく攻撃を受け、そして吹き飛ばされているだと…!?こ、この…ザコ共がァ~~!!』

 

藍「な、なんてやつだ…これ程の数を相手にしながら、まだ反撃をする余裕があるのか…!」

 

なおも執念深く抵抗するジエに対して畏怖の念を抱く藍。ジエが天狗たちに攻撃を仕掛けた瞬間、また彼らの背後から別の攻撃がジエの動きを止めた。

 

屠自古「な、何だ…爆発したぞ!?」

 

霊夢も他の者につられて振り返ると、浮かんでいたのは大きな飛行船だった。甲板の上に大砲や巨大なヘレポリス式のバリスタが搭載されており、そこには山の河童が乗り込んで大砲に点火しているのが見える。

その中にいた河城にとりは霊夢と目が合うと、笑顔で親指を上に立てた。

どんどんと大砲やバリスタの一撃がジエに命中し、確実にその鱗や甲殻を削り取りダメージを与えていく。

 

霊夢「ははは…すごいわ…」

 

『キュエアアアアアアアア!!』

 

長い身を振り回して周囲の妖怪を薙ぎ払うジエ。その時、どこかから現れた聖輦船が接近しジエの喉元に激突した。

 

霊夢「聖輦船!」

 

村紗「そのまま押し切れー!!」

 

皆が来てくれた。皆が戦ってくれている。妖怪たちの攻撃、神子たちの攻撃、天狗の起こす風、河童の兵器、聖輦船の特攻…各々の猛攻の前にはいくら八頭龍のリーダーであるジエであろうとも一たまりもなく、苦痛に顔を歪めながら身体が繋がっている奈落の穴、南西の方角へ向けてどんどん後退していく。

 

『…!…!!』

 

流石に自分だけではこの状況を打破するのは厳しいと考えたジエ。

 

『来い、ゲガルドよ!来てくれ、この邪魔な虫けら共を殺すんだ!!』

 




第3話で登場したガシャドクロがやってきました。


今回でもうしとら本編から引用した、『冴』のシーン。実は原作で一番好きなシーンだったりします。個人的に。
一度目は歯が立たなかった獣の槍が、皆の頭の中を通って憎しみが消えたことによって『冴』えて、ついに強力な一撃をお見舞いできたところ。


この小説での『冴』も、めちゃくちゃ書きたかった場面です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。