れいむとシロ   作:ねっぷう

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第93話 「夢幻泡影」

皆が来てくれた。皆が戦ってくれている。妖怪たちの攻撃、神子たちの攻撃、天狗の起こす風、河童の兵器、聖輦船の特攻…

 

各々の猛攻の前にはいくら八頭龍のリーダーであるジエであろうとも一たまりもなく、苦痛に顔を歪めながら身体が繋がっている奈落の穴、南西の方角へ向けてどんどん後退していく。

 

『…!…!!』

 

流石に自分だけではこの状況を打破するのは厳しいと考えたジエ。

 

『来い、ゲガルドよ!来てくれ、この邪魔な虫けら共を殺すんだ!!』

 

ジエが咄嗟に呼んだのは相棒のゲガルドだった。

 

霊夢「ゲガルド…!?」

 

ゲガルド…確か、500年前にもジエと共に幻想郷へやってきた右腕とも呼べる龍!

まずい、今来られたら…今来られてしまったら!

 

藍「…!そういえば…」

 

そういえば、紫様の姿が先ほどから見えない。当たりを見渡すが、やはりそれらしいのは見当たらない。

藍は最悪のパターンを想像してしまった。

 

 

─午後4時20分、冥界

 

『結界か、ぬぅ…誰だァ!?』

 

まさに冥界を喰い滅ぼそうとしている最中だったゲガルドは、突如目の前に現れ行く手を塞いだ結界に対して言い放った。冥界も既に大規模が滅茶苦茶に食い荒らされており、周囲には木々はおろか幽霊一匹見つからない。喰われてしまったのか別の場所に居るのか…。

 

紫「誰だとはつれない言葉じゃない?この八雲紫を忘れたとは言わせないわ、八頭龍!」

 

ゲガルドの元へ現れたのは紫。周囲に結界を張り動ける範囲に制限をかけている。ガシャドクロを初めとした魂たちを見た紫はすぐにこれが冥界に居る幽々子たちからの差し金であると気づき、戦いの勝利のためにはあの冥界の門が必要不可欠だと思った。当然、八頭龍が冥界を見逃しているはずもなく頭のどれか一つが冥界に居るだろう。ならば冥界の幽々子たちが危ないと思い立ち、幽々子たちが見つかってしまう前にケリをつけようとしたのだ。

だがちょうどあの時自分を突き飛ばしたゲガルドに当たるとは運がいい。500年前でのことも併せて容赦なく闘う事が出来る。

紫にギョロリとした目を向けたゲガルドはその姿を見て笑いたてた。

 

『プッ!誰かと思えば、さっき俺に一撃でノックアウトされた奴かよ!?確か…何て言ったっけ、そうそう、八雲…だったかな?お前も喰ってやるよォ!!』

 

口を開いたまま突進してくるゲガルドを避ける。ゲガルドの下顎が地面を削り取り、岩塊や土塊が無数にはじけ飛び紫へと向かって行く。

 

紫「魍魎『二重黒死蝶』!」

 

紫は蝶々のような形をした弾幕を広範囲に交差させるように放ち、向かってくる岩塊を全て相殺して見せる。岩塊をすり抜けた弾はゲガルドに向かっていき、その真っ赤な甲殻に降り注いだ。

 

『か…おっと、惑わされるかよ!』

 

紫「境符『四重結界』!」

 

二重黒死蝶はおとりで本命に四重結界を放った紫だが、既に見破られてしまっておりゲガルドの体当たりが直撃してしまった。弾幕すらも飲み込みながら鋭い咆哮を挙げ、紫は受け身をとることもできず地面に激突する。

ゲガルドが今度こそトドメを刺そうと紫が落下した地面をすくい取って口に含むが、そこに紫が要る気配が無いことに気付く。スキマを使いゲガルドの背後にまわり、大きく開いた空間の裂け目から大量の道路標識の看板を取り出して放った。

 

『効かねぇ効かねぇ!そうやって俺に効かねぇ技をどんどん撃って消耗していけばいい!ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!』

 

いくら幻想郷最強の妖怪と謳われた紫も、ジエの相棒格であるゲガルドの前には圧倒的な力の差があった。

 

『…さっきからジエが呼んでいるな。とっととお前を食い殺して行かなきゃならんのよ』

 

 

 

『ゲガルド!ゲガルドよ来い!はやく来て、ワシに敵するザコ共を喰い殺すのだ!』

 

霊夢や妖怪たちに押されながら必死にゲガルドの名を叫ぶジエ。

 

 

 

─同時刻、神子の仙界

 

魔理沙「そろそろ私も行かなくちゃな」

 

「お、おい、行くってどこへ?」

 

魔理沙は再び箒に飛び乗ると上へ浮かんでいく。

 

魔理沙「悪い、私もこの幻想郷を壊されたくないんでよ…霊夢のとこへ行かなくちゃならんのよ」

 

「どうしても、行くんだな…」

 

父親は魔理沙にそう尋ねる。帽子を深くかぶりなおしてから魔理沙は答えた。

 

魔理沙「ああ、久しぶりに会えたって感じだったけど…ごめん」

 

「…そうか、お前は前もそうだったように自分勝手に出ていっちまうんだなぁ…。いいぞ、行って来い!八頭龍とやらに負け

 

るんじゃないぞ?」

 

魔理沙「お父さん…。うん!じゃあな!」

 

この仙界から一人の魔法使いの少女が、闘い続けている親友の元へ飛び立っていった。

 

 

 

自らに向けて放たれた標識や電車までもを喰らいながら確実に紫を痛めつけていくゲガルド。

 

『やはり弱いじゃねぇか。妖怪の賢者だかなんだか知らないが、大したこともない…』

 

その細長い口にマグマをたぎらせる。食べて体内に送り込まれた土や岩を高い体温で溶かしてマグマに変化させたものだ。高熱の液体が口元から滴り、地面の草木を燃やしていく。

何故私の能力が奴に効果を示さない?能力による攻撃は確かに届いているのに、能力そのもので奴に干渉することができない。その攻撃もまるで…効いている気がしない。何か…八頭龍にはいまだ明らかになっておらず誰も知らない秘密がある?

 

『やっぱりあんなザコ共しかいない幻想郷を守ろうとするヤツもザコだったかよ?そんなヤツのために無駄に命張って…お前もとんだ苦労ものだな…』

 

紫「…」

 

ゲガルドはその状態のまま紫に向かって突進していく。だがその時、ゲガルドの鼻先に衝撃が走った。

紫がスキマの中に手を伸ばし、ゲガルドの目前に出現させ巨大な光弾を放ったのだ。当たった箇所から煙が上がり細い嘴の顔に亀裂が走る。

 

『痛ってぇ、油断しちまったァ!!』

 

額から放たれた衝撃波に曝されて吹っ飛んでしまう紫。首まわりの棘を前方へ向かって伸ばし、ゲガルドの目が紫を見据える。

 

『無駄なあがきをしやがって…そろそろトドメといくか…』

 

紫「くっ…!」

 

やはり、コイツは強い…。…いやいや、元からそのつもりで来たんだ、今更引くわけにもいかない。

 

『オラァアア!!』ゴア

 

 

「ぐああぁ…!は、白面の者を封じるために、私たち博麗の巫女を…利用してきたのか八雲紫…!」

 

「私はこうして獣に成る…。が、お前がいくら幻想郷のためとはいえこれまで行ってきた悪事のツケは必ず回ってくるでしょう…」

 

 

紫「結界『光と闇の網目』!」

 

無数のレーザーが向かってくるゲガルドの甲殻をじりじりと焦がし、弾幕が顔に入っているひびの隙間を集中的に狙って行く。

 

 

「た、助けてくれ…命だけは…」

 

「キサマァ、最初から我らを殺すつもりで利用したなァ!」

 

 

ゲガルドの棘が紫の身体を切り裂いた。

 

『…ん?』

 

そこで龍は紫に変調が訪れていることに気付く。確かに自分の前にはたかが妖怪如きが敵うはずはないのだが、何だか紫が先ほどからずっと動きが鈍いような気がする。それも、ここ冥界で自分と戦い始めてからだんだんと、徐々に紫が弱くなってきているのだ。

 

『今、気づいた。確かにお前は俺ら八頭龍が見てきた妖怪の中で白面の者の次に煩わしく、そして強い。だけどそのお前がどうも動きが変だと思ったらよ…お前、腹の中に何か抱えてるな?』

 

そう言われた紫は不敵に笑いながら言った。

 

紫「ええ、そうよ。私はお前を倒せる切り札を抱えている…」

 

『ほォう、だったら見せて見ろよ…!』

 

180度にまで達しようかというほど口を開き、再び紫に食らいつこうと首を伸ばす。

だが、バリィという電気に触れた時のような音と共にそこでゲガルドの動きがとまった。

 

『結界の壁を作ったか、だがその身体でどこまで持つかよ?』

 

ゲガルドは一旦頭を離らかすと、その口元に黒煙をたぎらせる。周囲が丸ごと溶けてしまいそうなマグマの熱線を極太のレーザーのように発射した。

 

 

 

藍「はぁ…はぁ…紫様はどこへ…!?」

 

紫を捜して冥界まで追ってきた藍。龍に喰われてしまった跡であろう大きくえぐれた地面を辿っていく。

ジエは相棒であるゲガルドを呼んだ、しかし相棒は呼んでもやって来ず、紫が見当たらない。藍が感じた最悪の予感は紫がたった一人で龍を足止めしているのではないかという事だった。

もしもそうなら、一刻も早く私も主の為に加勢しなくては。

 

藍「!?あれは!」

 

藍の最悪の予感が的中した。向こうに見えたのは、一人で結界の壁を張り龍と対峙している紫の姿だった。急いでその場へ向かいドーム状の結界の壁をこじ開けようとする。

だがさすがの藍でも腕を突っ込もうとしただけで激痛を伴いはじき返されてしまうほど強固な結界。恐らくは龍を逃さず最期まで闘うために張ったのだろうが…。

 

藍「紫様!」

 

 

紫が目の前に展開した結界に、喰らった岩盤が体温で溶けて出来上がったマグマの熱線が浴びせられる。

 

『ゲヒャヒャヒャヒャ、耐えろ耐えろ!そして耐えられなくなったとき、お前は熱線で焼かれながら俺に喰われるのだ…』

 

結界の外から藍の呼びかける声が聞こえる。何度も自分の名前を叫び、結界の中に侵入しようと腕がズタボロになりながら奮闘している。その間にも熱線は確実に結界の壁を破壊しようとどんどん威力を強めていく。

 

藍「ダメです、紫様!貴女が居なくなってしまっては!!」

 

紫様はやはり刺し違えてでも奴を倒すおつもりだ。

 

紫「私が、お前に喰われるですって?莫迦なことを…私は紫。八雲紫よ」

 

前にかざしていた両手の平から膨大な妖気が放出される。目の前の結界の幅が急激に小さくなり、周囲を覆っているドーム状の結界と融合ながら圧出される。高密度高硬度となった結界が熱線を押していき、ついにはゲガルドの口内にまで押し戻してしまった。

 

『ヴォエ…な、何を入れた…!!』

 

紫「獣の槍の力を私の体内で能力を使い増幅させて一気に放った…それだけのこと」

 

そう、紫は霊夢らがいる戦場からここへ来る途中で博麗神社に立ち寄り、500年前に紫が散布した獣の槍の妖気を回収していた。それを悟られないように体内に隠しながら自らの境界を操る能力によって少しずつ練って倍増させ、それと結界の力を合わせてあの強力な熱線を押し込むことができたのだ。今ゲガルドの体内には獣の槍と紫の全妖気、境界の能力を応用して自分のものに変えてしまった熱線のエネルギーが入っていることになる。

 

『け…獣の槍だとォ…!?』

 

ゲガルドの表情が一変する。反応からしてやはりこの龍にも獣の槍の力は効果があるようだ。直接見た事はないとはいえその逸話は聞き及んだことがあるのだろう。何せ自分をあそこまで痛めつけ逃げることを余儀なくした白面の者がさらに恐れるのが獣の槍なのだ。

 

紫「八頭龍でも、獣の槍はご存知なようね」

 

つまり、紫の意思次第でいつでも起爆できる爆弾が喉にあるようなもの。

 

『チクショオオオオオオ!!』

 

今こそ…

 

紫「 深弾幕結界 …」

 

 

──夢幻泡影──

 

 

炸裂した膨大な妖気の結界はゲガルドの体内を内側から押し広げる。目、鼻や耳、口に至る穴から妖気が噴出し、のたうち暴れまわりながらその身が崩れていく。八雲紫と全妖気に獣の槍の力、逆流してきた自分のエネルギーの炸裂はいくらゲガルドと言えど耐えきれるはずも無かったのだ。

既にグシャグシャになったまま動かないゲガルドの身体は砂となって消えていった。

 

藍「紫様!!」

 

閃光が収まったのと同時に藍は紫に駆け寄ろうとする。が、目の前で紫は何かがこと切れたように倒れ込んでしまった。

 

藍「しっかりしてください、紫様…!何故お一人で戦いに…」

 

紫の上体を抱きかかえる。体は驚くほど軽くなってしまっており、今にも浮かんでいってしまいそうだ。藍の目には大粒の涙がたまる。

 

紫「泣かないで?私がこうなったのは天命で、私の意志でもあるの…」

 

藍「そんな…紫様が居なくなったら私は…幻想郷はどうすれば…」

 

紫は握っていた手を開くとそこには術式の書きこまれた紙が有り、紙はふわりと浮かび上がって藍の頭の中に入り込んだ。

 

紫「シロに言われたわ…」

 

 

「人間の子供は遊びの一環として、丹精を込めて砂の団子を作り…時にはそれを宝物として大切にする。しかしその子供が大人になる頃には、当然砂の団子は崩れて無くなっているだろう。お前は…その砂の団子をいつまで守り続けるつもりだ?」

 

 

紫「どうやら私は…砂の団子を守るために頑張り過ぎちゃったみたい。だから天がもう休めと言っているのね…。今、藍に憑かせた式は新たな幻想郷を担っていくための術が書きこまれている。私が築いてきた古い体制は私と共に崩れる…これからは貴方が新しい幻想郷を作っていくの。人間も妖怪も、皆が楽しく暮らせるように…」

 

指先が煙のように消えかかっている。

今まで、殺して傷つけて…奪って奪い返して、いろいろやってきたツケがようやく回って来たのね。

 

藍「…紫様…!」

 

消えゆく私の最期の想い。残された霊夢や皆…何一つ、何一つとして八頭龍の思い通りにさせるな!

身体の傷を舐めようとしても舐めさせるな、目を瞑ろうとしても瞑らせるな、何一つさせてはいけない。霊夢とシロよ…頼む、この私が愛した幻想郷を守ってくれ…。

 

 

 

『ゲガルド、何故来ない!?ゲガルドォォォォオオオ!!』

 

もう決してやって来るはずのない相棒の名を叫びながら、ジエは妖怪たちの猛攻を受けて西の方角へ引きずられていく。

 




【夢幻泡影】─むげんほうよう
人生や世の中の物事は実体がなく、非常にはかないことのたとえ。「夢ゆめ」「幻まぼろし」「泡あわ」「影かげ」はいずれも壊れやすく、はかないもののたとえ。



鏢さんvs紅煉、お役目様vsくらぎを混ぜた感じに…。
萃香に続いてまた霊夢と縁の深い者が亡くなってしまいました。今までいろいろとしてきたことの罪滅ぼしのつもりだったのでしょう、紫は。
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