『ゲガルド、何故来ない!?ゲガルドォォォォオオオ!!』
見える。紫様に倒され、もう決してやって来ないはずのゲガルドの名を叫ぶジエと、それと闘い続けている霊夢と妖怪たち。
皆がそれぞれの方法で八頭龍を攻撃し、偶然か必然か西の方角へと後退させていく。西には何があるかというと、龍が復活した場所、奈落に通じる穴だ。その下の地上には無縁塚がある。そこは結界の綻びが有り冥界とも繋がることが有るのであの世からの魂たちがすぐに来れる、幻想郷の中でも最も危険な場所とされており、日頃訪れる者は少ないとの理由から龍とは存分に戦える場所なのだ。
だが私は紫様が最期に残した言葉を頼りに、一人ある場所へ向かう。
霊夢「うおおお!」
神子たちとともにジエに向かって行く霊夢。だがジエも頭を振り回して抵抗し、それに巻き込まれた霊夢は大きく後ろへ撥ね飛ばされる。神子の剣による斬撃も、布都の火炎や屠自古の雷撃も確かに手ごたえはあるのだが、どうも効いている気がしない。
霊夢「まだまだ!」
霊夢は手にお祓い棒を握って御札を口にはさみながら再びジエに突撃する。
屠自古「太子様、こちらの方がいくらか押しているが、やはり…」
神子「確かに…まだ足りない。八頭龍を完全に倒すには…!」
「まだ霊夢たちじゃ優勢を取ることはできても、完全に八頭龍を倒すにはまだ足りない。やはり…500年前のあの時のように、博麗の巫女だけでは足りないの。藍は…知っているでしょう?行って…起こしてあげなさいな」
それが、紫様が最期に残した言葉だった。待っていてください、今…参ります!
─午後5時、三途の川の岸。
シロ「…ここが、人のよく言う三途の川とやらかよ」
足元には積み上げられた石の塔が無数に点在しており、浅そうだが幅の広い川の向こうには一面の真っ赤な彼岸畑が見える。
話に聞く、正しく三途の川と言う奴だ。
シロ「夏だというのにいやに冷たいな」
つま先を川にちょんと入れる。夏だというのに、足の感覚が無くなるほどに冷たい。
確か、向こう岸まで渡り切ると死んでしまうとかそんな話だったか。まぁ、我がここに行きついたのはそういうことなんだろうな。
…八頭龍、か。負けてしまったのだな。絶対無敵の力でこの世に君臨するはずの我が…お終いか、ここで。けっ…我だけで長い事戦って来たよなぁ…あんな槍ともやったし、あんなのも殺したり、あんなのともやりあった。八頭龍に負けたのが良い潮時であろうな…どうせ今までも一体で好き勝手やってきたんだ。一匹で戦って…後の事は霊夢に総て任せて、我は消えるとしよう。
川に足を突っ込み、フラフラと渡り始める。川の水の冷たさでだんだんと足の感覚がなくなって来る。
今まで、土地神に真っ二つにされても魔界の粘土の中にぶち込まれても死ななかった我がこうも簡単に切断されただけでこうなってしまったのは、他の者らが我を忘れていたから…充分に力を発揮できなかったからだ。
膝のあたりまで浸かってしまう地点まで歩いた時、後ろに気配を感じて振り返った。そこに居たのは金色のこんもりとした九本の尾をなびかせる、八雲藍だった。
シロ「お前は…藍!!」
藍「シロ殿、捜しましたよ。一時はどうなることかと」
シロ「お前こそ何しに来た?お前は…八頭龍と戦うのに忙しいのであろう?」
藍「確かに。だけど私は紫様の命令で…ね。シロ殿は…戦場へお戻りにならないのですか?」
シロ「ふん、もう我は疲れたよ。潔くここで滅んでやるとしよう」
そう言いながら川の対岸を指差す。
藍「そうですか…。私は、シロ殿と普通のひと時を過ごしたいだけなのですが」
シロ「…は?何を言っておる…」
静かにそう言った藍に対してシロは困惑の感情に目を細めながらそう言った。
コイツはどうした、らしくもない。それが…我と初対面でアレだけ刺々しかったお前かよ?
藍「里で油揚げを買って、霊夢と一緒に神社で食べて…夏にはセミの声を聞きながら麦茶を飲むのもいいかもしれません…」
藍はそこまで一気にしゃべったところでシロの腕を掴んで引っ張ろうとする。シロも身体を後ろへ向けて振り払おうとするが、藍は下にうつむいたまま腕を離さない。
シロ「何をする、離せよ」
藍「シロ殿は…幻想郷を滅ぼすって仰いましたよね?だから…そうしないうちに、どこかに行かないでください…」
シロ「くくく、人間の血の温かさ、妖共の阿鼻叫喚…忘るるはずもないよなぁ…。当然だ、幻想郷もお前も滅ぼしてやるさ。霊夢の次にな」
藍「霊夢の次…?では、ずっと幻想郷を滅ぼさないつもりなんですね…」
ふん、と鼻を鳴らしてシロはそっぽを向いた。
藍「いつまでも…お慕い申しあげておりますよ。…実は、紫様が龍との戦いで命を落としてしまいました。もしもここで龍を倒しきれなければ、皆死んでしまいます。霊夢も…魔理沙も…」
何だと?あの紫が命を落とした?…アイツ、言っていただろうが…「でもその後で…八頭龍の脅威の去った後のこの地で、今よりももっと自由に暮らしてみたいわね」ってな…。
シロ「…死なないぞ、奴らはな」
藍「え?」
シロ「先にあの龍を倒してしまえばよいではないか!!」
急に尾を激しく振り回しながら大声でそう叫ぶと、呼応されるようにシロを中心に川の水がしぶきをあげながら渦を巻き始める。
シロ「殺させるかよ、奴らは我が殺すのだぞ!あのアホ霊夢が…何をしておる!?お前なら何とかできるであろう!!」
あの土地神の時、幾星霜の悪霊と戦った時、仙高蟹の時だってそうだ、あの時みたいに…我と霊夢なら、どんなやつだってやっつけられる…
─あ…!
藍「やっと…いつものシロ殿に戻りましたね。そんなシロ殿を…皆が待っていますよ」
シロ「だが、今まで世の悪として君臨してきた我が、今更英雄気取りで…!」
藍「何を言っているのですか。少なくとも幻想郷には、そう思っている方なんて居ませんよ!」
霧の湖の水面から、ある妖怪が飛び出した。
シロ「先に八頭龍を倒してしまえばいいのだろう?なァ、藍!」
ようやくその妖怪は意識を取り戻した。いや、蘇ったというべきだろうか。もうその身体に傷などはない。その場には自分の目を覚まさせてくれた藍の姿は無かったが、その名を叫んで問いかけた。
シロ「待っていろよ…」
飛び立とうとした瞬間、体中からピシピシと何かがちぎれるような音が聞こえている。
(待っていたぞ、シロ。今こそ最後の決戦の時…)
シロ「お前たちは…我を封じる結界と成った歴代の博麗の巫女の成れの果て…!?」
音とともに聞こえてきた声の正体はシロの身体に纏わりつきながらその能力に制限をかけてきた、歴代の博麗の巫女の声だった。
(約束通り、我らはお前に対する封印を解き、武器となってお前を強くしよう!)
身体が元の巨大な獣の姿へと戻っていく。その身体はメキメキと大きくなり、ついには尻尾を除いた胴体だけで湖の近くに建つ紅魔館とほぼ同じ全長にまで巨大化したではないか。ようやく、500年ぶりに力を完璧に開放できたのだ。
だが、何かがおかしい。我は絶望や恐怖を喰らいてより大きく強くなるが、今の我にはそれら以外の力が身体に流れこんでくる。
その妖怪は限りなく陰に極振りされた存在であった。全ての生き物を滅ぼすという野望、それと陰を司る能力がそれを現しているだろう。だが、結界で封じられている間に多くの人間や他の妖怪と関わり合い、触れ合った事により憎しみは徐々に消え失せていき、その存在は少しずつ、少しずつではあるが陽に傾き始めていたのだ。
そして今、封印が解けた事で内包、蓄積されていた陽の気が解き放たれた。白面金毛、その白き面は他者の絶望と恐怖を喰らい、黄金の毛を持つ体は他者の希望を吸収してその妖怪は際限なく強くなる。絶望も希望も自分の力に変えてしまう、正に最強無敵の大妖であり、これこそが白面の者の本来あるべき姿、「シロ」なのだ!
わかる、分かるぞ…アイツらが我に寄せる希望が。その希望が我を強くする。それと同時に幽かな恐怖を感じる…これは誰のものだ?
結界であることを辞めた博麗の字伏は氷に成る。シロの額から首筋、背筋にかけて無数の氷の棘を生成し、その腕の手首から肘、足は足首から膝にかけてに鋭利なブレードが出現する。神社に現れた黒竜を圧倒した時よりも、さらに強固になり殺傷力も高まっているだろう。
シロ「では…八頭龍をぶっ飛ばしに行くか!」
そのころ、紅魔館では。
レミリア「な、何なのアレは…!」
窓から見える、自分らが住む館よりも巨大な妖怪に驚くレミリア・スカーレット。
背後から妹のフランドールがとたとたと走ってきて隣の窓を覗き込んだ。
フラン「…シロだ!」
咲夜「アレがシロさん…?以前よりも何百倍もの力を感じますが…!」
レミリア「…咲夜、私たちも向かいましょう?戦場へ」
幻想郷に残され、戦いに参加していなかった者たちは見た。その白銀に輝く顔に、黄金の身体を持つ妖が空へ飛び立っていくのを。見た者は鼓舞され、その妖を追うように、戦いの場へと向かって行った。
『…見つけたァ、白面!どうやって蘇ったかは知らないけどよォ、ここでもう一度ぶち殺してやる!』
飛んでいくシロに立ちふさがったのは、復活直後に天魔を喰らってみせた「ニッド」だった。発達した前歯が歯茎ごと露出しており、顎が出張った顔はアロワナを彷彿とさせる。
『あの巫女の元へ行くつもりだろうが、私たち二頭を突破できると思わない事だ』
もう一体は身体中に泥を身に着け、冠のような形状に発達した頭殻が特徴の「ガレフ」だ。
二頭は口を開けながら突進をしかけ、シロの背中や太ももに噛みついた。
『ヒヒヒ…このまま噛み千切ってぇ…!!』
シロ「かわいいなぁ…八頭龍。もはや縛るものが無くなり、力を全て解放した我に勝てると思ってるところがな…」
『…何だと?…!?』
背中に噛みついていたガレフは急に後ろから何かにしがみ付かれ、引き剥がされるように引っ張られる感覚を覚えた。後ろへ目を向けると、シロの尾の一本と繋がっている巨大な女がガレフの首元に手を回していた。
シロ「『斗和子』!」
尾の化身の一体、斗和子はガレフの首を締め上げながらシロの身体から引きはがした。
『この…ッ!』
身体を振り回して斗和子を振り払ったガレフは、口の中にどす黒い妖気を溜め始める。そしてそれはヘドロのようなべったりとした泥となってシロに向けて放たれた。
泥がシロに直撃し、跳ね飛ぶのを見て、ガレフは太い舌で口の周りを舐めた。
シロ「『くらぎ』!」
泥が跳ねていたのはくらぎの力を反射する能力によるものだった。シロの尾の化身であるくらぎは、シロ自身の力の開放に伴って大幅に能力が上がり、ガレフたちまでには及ばないがかなりの巨大化を遂げている。
『な…!』
先ほどの斗和子の吐きつけた炎がガレフの身体に纏っている泥を弾き飛ばし、その甲殻と鱗を焼き焦がしていく。さらにくらぎの鎌のように鋭くギザギザした棘のある腕が、ガレフを頭から真っ二つに切り裂いた。
『が、ガレフ~~!!』
煙となって消えていくガレフを見たニッドが声を上げる。
シロ「次はお前だな」
『け…調子に乗るなァ!』
細い真っ黒な目に怒りをたぎらせ、大きく発達した牙を剥きだしてシロに襲い掛かる。それに対して再びシロは斗和子を使って攻撃させようと向かわせるが、ニッドの絶えず粘液を纏わせている体の前にはツルツルと滑ってしまってなかなか攻撃を当てることができない。
『どうだ、滑って触れねぇだろ…?』
シロ「確かにな。だがな、お前のような体質を持ったヤツは我も飼っているぞ…出でよ、『あやかし』!」
尾が黒くごつごつした体表の長い怪物へと変化する。あやかしというその化身はかつて聖白蓮との戦いのときに発現した黒い怪物だ。こちらもシロの力の開放に伴いより大きく強くなっている。ニッドとあやかしでは身体の大きさにかなりの差があるが、何回りも小さいあやかしの身体でも堅く巻きつけばニッドの動きを封じるには十分の力を持っていた。
シロ「トドメだ…『シュムナ』」
『ひ…!』
尾の先端が顔を持つ巨大な霧の妖に変化した。シュムナの霧の身体は中に取り込んだあらゆるものを溶かして食べてしまう。
ニッドも例外ではなく、シュムナに包まれたとたんに溶けて消えてしまった。
シロ「急いで…行かねば」
『邪魔だ、退けェい!!』
霊夢「ぐう…!」
ちくしょう…ヤツは何度突っ込んでいっても…強い。こんな時に、こんな時に…アイツが…シロが、居たらなぁ…。いやいや、やめよう…もうシロは来ないんだ。私も見たでしょう、湖の上で力尽きたシロを。だから、だから私が…頑張らないと!
『ふははは、もう少しだったなァ、ゲガルドが来ずとも他の仲間は来てくれたようだぞ!』
ジエの言う通り、既に二つの頭がその場にやってきていた。ジエ側は一気に妖怪たちを体当たりで突き飛ばし、霊夢を衝撃波で吹っ飛ばした。
霊夢「くそっ…!…!」
吹き飛ばされた霊夢が体勢を立て直そうと、ふと横に目を向けた時、目に映った。どんどん近づいてくる、巨大な光輝く影を。
霊夢「…シロォ!」
とてつもなく巨大な頭を見上げて、その目を見る。もう今までの下から睨めあげる憎しみの目ではない、ただ目の前の敵を真っすぐに見据えている澄んだ目であった。
霊夢が呼びかけると、シロはその目をゆっくりと霊夢に向け、ずらりと並んだ牙を剥きだして声を上げた。
シロ「今まで何をしていた、霊夢よ」
霊夢「な、あ、アンタこそ今までどこほっついてたのよ!」
シロ「お前こそ今まで何をしている、まだ八頭龍を倒せていないのかよ?」
霊夢「アンタが来たから今からやってやるわよ!」
シロ「けっ、せいぜい足を引っ張るなよ!」
いよいよ復活した最強の大妖と最強の人間のコンビが、龍へと戦いを挑むのだった。
黄金の身体に氷のような結晶を纏っているというのは、モンハンFのガルバダオラを見ていただければわかりやすいと思います。
うしとら原作の方で、最終的にはとらの鎧という形でしか戦いに参加できなかった字伏たち。もしも紅煉が字伏を始末していなければ大量の字伏がうしおたちと共に白面をフルボッコにする展開が見れたかもしれませんね。