れいむとシロ   作:ねっぷう

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第96話 「幻想郷」

阿求「勝てるわ!八頭龍のくそったれにヒビまで入ってきてる!」

 

霊廟の窓から見える戦闘を観戦している阿求が叫んだ。歓声を上げているのは阿求だけではなく、避難している里の人間たちからもどっ、と声が上がる。

 

阿求「こんな幻想郷が一丸となって強大な敵と戦っているなんて…」

 

「なんだ、稗田の譲ちゃん泣いてるのかい?」

 

感動のあまり流れてくる涙を指で拭っている阿求の肩を、里の門番の男がぽんと叩いた。

 

阿求「…こんな歴史的瞬間に立ち会えて…。泣けてくるわ…」

 

 

 

妖夢「あの世の魂たちよ。幻想郷で戦う方々の為に、力をお貸しください…」

 

冥界の至る所からこちらに飛んできて冥界の扉を通って幻想郷へ向かって行く魂たち。いつ、黒竜たちがこの場所を嗅ぎつけて妖夢らを始末しようとやってくるか分からない。ただ、黒竜の襲来を警戒しながら戦いの行く末を祈るばかりであった。

 

 

 

何故だ…何故このワシがこんな雑魚共に押されている!?どこだ!?どこで形勢がおかしくなった!?絶対無敵の力で好きなだけ好きな異界を喰い、生命を踏みにじるはずのワシが、どこで戦いを読み損ねた…!?

 

あいつら…あいつらか!

 

世界の陰の気が集まってできたという妖怪と、この幻想郷を守る要であるあの霊夢とかいう巫女…。二匹からの波動が幻想郷に住まう全ての者を結び付け、ワシが有利の戦況をくつがえした…。

そうか!あの時切り裂いた白面を喰ってしまわなかった、妖気の竜巻で殺すのではなく喰ってしまえばよかった…そこがワシのあやまり!ならば…!

 

 

魔理沙「やった!龍の身体のヒビが…真っ二つになるぞ!」

 

戦っていた者たちは、ジエの鼻先から胴体にかけて縦に真っ二つに入った亀裂がどんどん深くなっていくのが見えた。このままいけばこの龍は砕け散り、ついに決着が付く!

 

神子「何か…おかしいと思いませんか?」

 

藍「ええ…確かに…」

 

ジエを中心に取り囲うように球状に妖気の膜が張ってきている。神子と藍はこの異変にいち早く気づいた。

 

藍「不味い…!」

 

その時、視界が赤く染まるほどの赤い閃光と共にジエの身体がヒビに沿って真っ二つに裂けた。それをジエの最期だと思った者たちは喜ぶ暇もなく、避けた瞬間に炸裂した妖気の渦に吹き飛ばされた。近距離に居た者は瞬時に跡形もなく消え去り、その場にいた者は目がくらみ吐き気がするほどの膨大な妖気によってその場を離れることを余儀なくされた。

その直後、広がった妖気が固まっていき、ジエを取り囲う結界と化した。

 

神子「くっ、奴め…結界も張れるのか!」

 

結界の中はジエの妖気で曇っていて様子を確認することができず、いくら攻撃を加えてもまったく壊れる気配はなかった。

 

藍「結界内に取り残された者はいないか!?」

 

布都「霊夢殿とシロ殿が結界内に…!」

 

 

ジエの妖気が渦巻く結界の中。そこに取り残された霊夢とシロはただ目の前の謎の蒸気に包まれているジエと睨み合っていた。

 

『どうだ、この結界はもう出ることも入ることもできない。これで邪魔は入らなくなった、思う存分戦えるぞ…!』

 

霊夢「シロ、大丈夫?」

 

シロ「ああ平気だ…」

 

霊夢「この防具のおかげか、私も平気だしかえって力が湧いてくる…」

 

シロ「我もだ。この博麗の字伏がようやくのタイマンに張り切っているようだぞ。さァ、八頭龍を滅ぼしてやろうぞ!」

 

氷と化している博麗の字伏たちがより一層鋭く輝く。自分らに刷り込まれた打倒八頭龍のモチベーションも最高潮だろう。

蒸気の中からジエの真っ赤な目が覗き出た。その身体はさっきよりも一回りほど大きくなっており、背びれは高熱を帯びたかのように真っ赤に変色している。蒸気はここから絶えず出ているようだ。

 

『ワシは今お前達に傷つけられた要らない殻を脱いだ。分かりやすく言えば脱皮というヤツだ…。だがただの脱皮と思うなよ、お前らを確実に殺して喰らうためにワシはこの姿になったのだ…』

 

ジエの胴体からぶら下がっている縦に裂けた脱皮の殻が持ち上がり、まるでジエの頭が3つに増えたかのように別々に動き始める。

 

『これがワシの奥の手だ!!』

 

なんてことだ、ジエ以外の頭を全て倒したと思ったらまた頭が増えるなんて。だが流石に増えた頭は意志を持っておらず、ジエの腕のようなものでジエの意志で動かせる程度にすぎない。それでも十分に脅威ではあるが。

 

 

布都「交戦している、という事はまだ二人は生きている!?」

 

結界の中に渦巻く妖気の中に何かが戦っている動きを見た布都。交戦中ということはまだジエも二人も生きていると思っていいだろう。

 

屠自古「だけど、アレが龍の力だとすれば…」

 

神子「この限定された結界内では霊夢たちも…龍に勝つことは不可能!」

 

 

抜け殻の頭が霊夢とシロに襲い掛かる。シロも尾でそれを受け止めようとするが、抜け殻でもジエ本体よりももっと硬く、尾の一撃もはじき返されてしまう。

 

シロ「ぐぐ…コイツ!ならば我も…!」

 

シロの二本の尾が妖気のスパークを帯びて変形していく。一本は嵐と稲妻を纏った尾へと変わり、もう一本は槍のような無数の刃物の付いた尾だ。嵐の尾はかつてシロが苦戦を強いられたとらに対するメタファーであり、刃物の突いた尾もかつて自分が最も恐れた獣の槍のメタファーである。

その二つの尾を振り回しジエに攻撃をしようとするが、やはり殻で受け止められてしまう。嵐の尾が殻の頭に噛みつかれ、槍の尾も硬い殻の前には全く通らなかった。

 

シロ「ちィィ…」

 

霊夢「まだまだ!」

 

ジエの目の前まで迫り、霊力の込めたお祓い棒の一撃をお見舞いしようとするが、直撃する寸前で抜け殻の頭に防がれてしまう。

 

霊夢「くそっ…!」

 

その時、霊夢の身に危険を感じたのか、防具の背中部分についていた仙高蟹の腕が勝手に前方へ伸びた。直後にジエは高熱を帯びて真っ赤に染まった斧のような背びれで霊夢を斬り潰そうと突進をした。恐らくそれを防ごうとしたのだろう、前に伸びた仙高蟹の腕はその熱と衝撃に耐えられずにバキバキと粉々に砕けてしまう。

さらに抜け殻の片方を逆立った鱗で切り裂くように霊夢にぶつけた。霊夢が身に着けていた仙高蟹の防具はズタズタに破壊され、防具を優に貫通した棘が霊夢の足や肩を貫いた。

 

『駄目だろう…?』

 

シロ「霊夢!」

 

『お前もだ、白面!』

 

体勢を崩し落下していく霊夢を掴もうとしたシロの行く手をジエが遮った。

 

 

 

 

藍「うおおお!」

 

無数の黒竜と戦っている八雲藍。紫が死の間際に憑けてくれた式のおかげか、以前よりも何倍もの力を使える。弾幕を無数に放ち、次々と黒竜たちを薙ぎ払っていく。

 

藍「あれから…約一年か…」

 

一年前、私は山の妖怪を使って憎き白面の者を滅ぼそうとした。

私が妖怪として幻想郷に来たとき、私の居場所は無かった。私の事を他の妖怪たちが敵として恐れ、憎んでいた白面の者だと間違えられ、行く先行く先で迫害される日々。妖怪の楽園と聞いていたのに何故私がこのような仕打ちを受けねばならない?まるでボロボロの野良犬のように雨の中にうずくまるそんな私を拾ってくださったのが紫様だった。原因は白面の者にあると教えられた時、私はいつか白面と会う事があれば必ず復讐してやると誓った。

 

だが…実際に白面…いや、シロ殿といざ相見えた時、私は圧倒的な力の前に敗れた。私の憎しみなど、この方の前では焼け石に水のように全く意味を成さない。

紫様は仰った、あの白面の者がこの幻想郷に来て霊夢に出会ってどう変わったのか、いつか気付く日が来ると。その日がきっと今日なのだろう。

 

藍「私は八雲藍!新たな幻想郷の未来を切り開く者だ!」

 

 

 

星「法力『至宝の独鈷杵』!」

 

空飛ぶ宝船こと聖輦船の甲板上で襲い来る黒竜たちと戦っている寅丸星、雲居一輪、村紗水蜜、封獣ぬえを始めとした命蓮寺の門下の者たち。星は一本の棒のように回転する二本のレーザー、独鈷杵を生み出し、それを振り回して黒竜をなぎ倒していく。雲山とのコンビネーションを発揮しながら戦う一輪も、アンカーを用いて黒竜を叩き潰す村紗も強力な妖術を駆使して戦うぬえも、次から次へと襲い掛かって来る黒竜には苦戦を強いられていた。

 

一輪「こんな時に…!」

 

皆が思っていた。聖は今どうしているのだろう。あの時、一人旅に出ていってしまった聖は何をしているのだろうか。もしかすればもうこの騒ぎで死んでしまっているかもしれないし、別の場所で一人戦っているかもしれない。

でも、いずれにせよ…

 

星「見ていてください、きっと私たちは幻想郷を守り抜いて見せます!」

 

その時、彼女らの隙間を縫うように大きな力がどこからか放たれ、黒竜たちを正確に射た。

 

村紗「これは…法力?まさか!」

 

何者かの仏法を修行して得られた不思議な力、法力による攻撃を受けた黒竜たちはその場で爆発飛散していく。星たちが後ろを振り向くと、そこには網代笠を被り、七色の半透明な魔人経巻を広げた女性が立っていた。

正しく、聖白蓮本人である。しばらくは博麗神社にて時逆と共に戦いの準備の為に法力を練っており、ようやく準備が整ったので戦場へとかけ参じたのだ。

 

星「聖!!」

 

聖「遅れてしまって申し訳ない、今、帰りました。さァ、幻想郷の命運をかけた戦いです!気張っていきましょう!」

 

私は旅の中でいろいろなものを見てきた…いつまでも自分の心を固い檻で閉じ込めてしまっていてはダメだわ、人間たまには何にもとらわれずに羽を伸ばせる時間が無いと。それに気づくきっかけを与えてくれた皆さん、そして霊夢とシロ…ありがとう。私も戦います!

 

 

 

純狐「私たちの役目は民を殺そうとする黒竜の殲滅!少しでも死穢のあるお前達に、負けはしないわ」

 

黒竜の喉元を掴み、その箇所を気で爆発させる。爆裂する黒竜の死体を自らの純化させる能力で爆弾と化し、それを他の黒竜に向けて投げつけることで一掃していく。

 

私はつい最近まで、己の恨みを晴らすためだけに行動し、とうに人間らしさや生物的な感情など忘れてしまったと思っていた。だけど、ヘカーティアやシロ…あの子たちと出会ったことで私は少しだけ救われた気がする。

 

純狐「不倶戴天の敵、嫦娥よ!見ているか!?私は…私は今、自分のやるべきことを成し遂げようとしているぞ!!」

 

確かに私はまだ恨みや憎しみを捨てきれていない、憎悪の塊だ。でも今芽生えているこの素晴らしい心…その心の在り処を大切にしようと思う。

 

 

 

 

シロ「ぐは…!」

 

ジエの抜け殻がシロの脇腹に噛みつき、そのまま堅い結界の壁に叩きつける。黄金の身体に血が滲み、いくつもの痛々しい傷が出来上がっている。叩きつけられたシロは壁をずるずると滑り落ち、丁度下に倒れ込んでいた霊夢と重なった。

 

『弱いな、弱くてくだらぬ!博麗の巫女も、最強と謳われた白面の者も…弱すぎる。ワシと戦うのも無駄な行為に過ぎない』

 

ジエは紫色の舌を出し、真っ赤な目を見開き高笑いしながら叫んだ。

 

『お前たちはワシに勝てると本気で思っているのか?思ってはいないだろう!!何故なら、弱いからな!今からワシが見せるのは自然の摂理、圧倒的な捕食者による破壊と摂食だ!巫女よ…お前も分かっていたはずだ、弱い者は喰われ強い者が生き残る…それが決して逆らう事の出来ない自然の摂理、弱肉強食であり自分たちは喰われる側の弱者であるということを!ワシは強者だ、お前たちは滅ぶのだ!!』

 

シロ「何だと…コラ…」

 

気力を振り絞って顔をあげ、四足で立ち上がろうとするシロ。その下に倒れていた霊夢もお祓い棒を杖にして立ち上がろうとする。

 

霊夢「弱肉強食、ね…。確かに、弱者が勝てもしないような強者に立ち向かう事は、強者からすれば愚かで無駄な行為に過ぎないわ」

 

もう霊夢の身体を守るものは何もない、あるのはいつもの巫女服にお祓い棒に陰陽玉だけ。血が流れ出る身体を奮い起こし、シロの頭の上まで浮かんでいく。

 

霊夢「でもねぇ!やってるヤツをやらないヤツが見て笑ってるのよ。だったらもちろん私は”やってるヤツ”で有りたい。私が傷つけば皆を救えるなら…私が戦えば誰かを救えるなら…私は傷ついて、戦ってやるわ!!」

 

『自分を愚かな弱者だと理解して、まだ戦うか…』

 

霊夢「愚かでもこっちの方があったかいに決まってるじゃない。そしてアンタは強者でも私たちには勝てない。だってアンタが相手にしてるのは私たちだけじゃないから…」

 

分かる、分かるわ。皆が戦っているのが。皆が自分たちが愛した幻想郷を守るために立ち上がり、闘ってくれている。傷つこうとも、たとえそれが愚かな行為だとしても…。

 

霊夢「今、アンタは…”幻想郷”を相手に戦っている!」

 

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