れいむとシロ   作:ねっぷう

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第97話 「最終局面」

『ワシが幻想郷を相手にしているだと?阿呆め、気でも狂ったか…』

 

霊夢の言葉を嘲笑して一蹴するジエ。再び霊夢とシロが攻撃を仕掛けようと踏み出したとき、シロは自分の身体におとずれた変調を感じた。

 

シロ「…!ガフ…!」

 

『…どうした?…ほほう…!』

 

突然身をよじりながら血を吐き、その顔や身体に無数の小さなヒビが入り始める。その様子を見たジエが何かを察したように目を細めた。

 

霊夢「シロ!?どうしたの!?」

 

シロはうすうす気付いていた。自分は他者が寄せる希望をも取り込み、さらに強く大きくなれるようだが、自分自身の本質は変わっていない。確かに希望を喰らうたびに強くなっているのは実感がある…だが、希望は力を与えると同時に自分の肉体にも少しずつダメージを及ぼしている、と。ならば我が取り込んだ希望をすべて破棄してしまえばよいのだが…そうなれば我は途端に弱くなり八頭龍に勝てる可能性が限りなく低くなってしまう。自分の身が持たなくなる前に、決着をつけるしかない…のか…。

 

霊夢「どうしたっていうのよ…!!」

 

それを、霊夢に言う訳にはいかないな…。我がそんな事を言ってしまえば、霊夢の事だ…きっと我を庇いながら戦うだろう。それだけは避けたい…。

 

霊夢「そうだ…!先代の字伏たち!言ってたわよね?戦いに連れていってくれれば私たちを強くするって…それが今だわ、はやく強くしなさいよ!」

 

霊夢はシロの背中に張っている巨大な氷の柱に触りながら、先代に呼びかけた。すると氷の一部が字伏たちの顔に変わり、ゆっくりと口を開いた。

 

「お前たちは…もう…強い」

 

霊夢「はァ!?それだけ!?」

 

期待はずれな返答に霊夢は思わず声を荒げてしまう。先代の字伏は続けて言った。

 

「分からないのか?お前たちは特別なのよ。シロは言わずもがな…」

 

「霊夢よ、お前は何故、あの神社に住んでいるというのに字伏化の兆しがあらわれない?」

 

霊夢「知らないわよ、何が言いたいの?」

 

「私たちは…今のお前ぐらいの歳の頃には…既に字伏化の兆しが現れていたというのに…」

 

『貴様ら、何をゴチャゴチャ言っている?白面が苦しんでいる、このまたとないチャンスで…ワシが攻撃をしないとでも思ってるのかよ!?』

 

ジエの口から紫色の妖気の竜巻が放たれた。シロはそれをギリギリで転がるように避け、竜巻は結界に当たって炸裂した。

 

「だがお前は字伏にはならない。それは何故かというとお前だけが特別だからだ」

 

霊夢「前も言ってたけど、私は特別ってどういう意味なのよ?」

 

『ち、避けたか。だが今度こそ叩き潰してやろう!』

 

動けないシロに向かってジエは抜け殻を叩きつけるように振り下ろした。今度こそ避けられない、と思った霊夢とシロだが、突如シロの身体の氷の部位から十数人もの字伏が飛び出して一撃を受け止めた。確か、前は5体しか出現しなかったのに今は全員の字伏が形を保って出現したのか?

 

「霊夢、お前はただ妖怪を退治してきた私たちとは違ったのだ。当然、お前も妖怪を退治してきたであろう…だがお前はシロを含めた数多の妖怪と生活の中で触れあってきた」

 

霊夢「何言ってるのよ、私はただ巫女として妖怪を…!」

 

「ただの退治される側とする側の関係ではなく、顔見知りとして触れ合う機会が多かったのだろう?それも、獣の槍の妖気すらも打ち消す程にな…」

 

「それが、お前が不思議で特別、そして強いという所以さ…」

 

そう、霊夢は妖怪退治以外での形でたくさんの妖怪と触れ合ってきた。宴会やその他の行事などでの関わり合い…本人にも心当たりは多数あるだろう。それも、霊夢の誰とも分け隔てなく接する、他者を惹きつける不思議な力のおかげだろう。

 

「私たちも、霊夢のような巫女だったらなぁ…」

 

だが、霊夢以前の先代にはそのような力は無かった。だから霊夢だけが、歴代の中で特別であり唯一字伏化しなかったのだ。

 

シロ「あ、字伏ども…!」

 

博麗の字伏たちはジエに向かって飛び上がった。自分らが受け止めていた抜け殻の片方を粉々に破壊し、彼女ら自身も砕け散っていってしまう。

 

『ぐあ…このカスどもが…!』

 

「カスだと?八頭龍!ならばそのカスがお前にとってどれほどの痛手を負わせるのか…身を以って知ってみよ!」

 

霊夢「先代!!」

 

残りの字伏たちはもう片方の抜け殻をも完全に壊してしまった。命と引き換えに敵の攻撃手段を削ったのだ。そこから、何匹かの字伏は衝撃に耐えてそのままの勢いでジエの胴体に激突する。

 

これで、これでやっと…

 

あの時の5体の字伏だ。ジエの腹に弾丸の如くめり込み、その場で爆発を起こした。

 

『コイツら…死を以って殻を破壊し、ワシを…!』

 

かつて、博麗の巫女であった字伏たち。打倒八頭龍という悲しき使命から長らく戦いの日と自分らが散れる時を待ち望んでいた幻想郷の英雄たちは特攻と共に、その生涯を終えた。

その気概に圧倒されるジエだが、彼奴にはそれに臆する暇も休む暇もなかった。なぜなら…戦いはまだ終わっておらず、霊夢とシロが目の前に迫っていたからだ。

 

霊夢「シロ、大丈夫なの?」

 

シロ「ああ、心配するな!」

 

霊夢「よーし!」

 

ばーか、先代たち…私が妖怪と触れ合ってきて、それが私が特別である理由だって?それが私が強い理由だって?まったく…本当にばかね!!

 

霊夢の陰陽玉がジエの顎を殴り抜け、折れた牙の破片が飛び散る。

 

 

 

 

──冥界

 

ついに、白玉楼の奥、西行妖の前で開けている冥界の門の場所を黒竜が嗅ぎつけてやってきた。妖夢は打ちなおした二本の刀で黒竜たちを斬っていき、小町、映姫、幽々子も応戦するがいくら倒しても湧いてくる黒竜を捌き切れないでいた。

 

小町「ちと…多すぎるんじゃないかい?」

 

小町の鎌は既にボロボロだった。あの鉛を何重にも重ねたような黒竜の鱗を何十回何百回と斬ってきたのだ、いくら死神の得物だとしても当然と言えるだろう。

 

幽々子「いくら倒しても、一度に一掃する数よりも後から湧いてくる数の方が多い…!」

 

妖夢「せっかく打ちなおした剣も…もうもたない!」

 

襲い来る黒竜の攻撃を鎌で防いだ小町だが、直後にとうとう鎌はポッキリと割れてしまった。

 

映姫「小町!」

 

映姫が自分に群がる黒竜に弾幕を浴びせながら叫んだ。

 

妖夢「くっ…!」

 

黒竜が口から放った妖気のレーザーが剣を持っていた妖夢の手の甲をつらぬいた。痛みで思わず剣は手から離れ、地面に刺さる。黒竜は武器が壊れた小町と剣をなくした妖夢にすかさず襲い掛かった。

剣を拾いに行く暇もなく、押さえた手から流れる血を見てもうダメか…と思ったその時、突然目の前の黒竜が真っ二つに両断された。綺麗な切り口だ、上等な剣かかなりの剣術の腕で斬られたに違いない。まさか…!

 

「邪龍の眷属を斬るなど、雨を斬るよりずっと容易い事。いくら数が多いとはいえそれに後れをとるようなら…まだまだじゃな、妖夢や」

 

後ろで結んだ白髪、長い白い髭の剣を持った老人。先代の白玉楼庭師、魂魄妖夢の祖父であり、彼女の剣術の師匠でもある魂魄妖忌だった。

 

妖夢「お、おじいさま…!?」

 

「ちと世直しの旅に出ていて、たまたまここが懐かしくなって戻ってきたら…こんな有様で驚いたぞ」

 

「変なジジイめ、すっこんでろ~~!!」

 

声を荒げて再び妖夢らに攻撃を仕掛ける黒竜たち。しかしその時、西行妖の幹がまばゆく光ったかと思えば、無数の魂たちが幹の中から現れ黒竜たちを撃ち抜いた。

 

幽々子「…あ!」

 

西行妖の方から綺麗な歌が聞こえてくる。根元に座り込んでただ歌を歌う老人が居た。その歌を聞いた黒竜たちは皆頭を抑えて苦しみだし、やがて動かなくなった。

 

幽々子「お、お父さん…!」

 

何だろう、頭の内から温かい記憶が溢れ出て来る。これは…生前の記憶?まさか記憶を操る婢妖に憑かれたことで…?

あれは正しく、歌聖と呼ばれた私の父だ。1000年近くも前、幽々子の父親である歌聖は己の望み通り、満開になった桜、後の西行妖の下で永遠の眠りについた。すると、歌聖を慕っていた者達も後を追うように、満開になったその桜の下で死んでいった。その桜は死んでいった者達の生気を次々と吸い取っていき、ついに妖力を持つ妖怪桜「西行妖」となってしまう。

そして幽々子もまた自身の「人を死に誘う能力」を疎い、西行妖の下で自らその命を絶つ。 その後幽々子の死体によって西行妖は封印され、二度と満開にならないようになった。

西行妖はここに来て自らが昔に吸い取った生気を魂として黒竜にぶつけたのだ。その中には最初に桜の前で死んだ幽々子の父親も混ざっていたのだ。彼は幽々子に優しく微笑みかけると、まるで散ってゆく桜の花びらのように消えてしまった。

 

映姫「だけど、やはりまだ黒竜たちはやって来る…!」

 

だがその瞬間、空から落ちてきた大きな球体によって向かってくる黒竜たちは叩き潰された。

 

映姫「あ、貴方は!」

 

ヘカーティア「もう冥界の黒竜は全部始末したから、もう大丈夫よん」

 

両手に冥界で倒した黒竜たちの死体を丸めた巨大な球を持ったヘカーティア・ラピスラズリだった。どうやら彼女が冥界の黒竜を既にすべて始末したらしい。

 

映姫「う、うぅ…」

 

小町「あぁ、四季様ったら何を泣いてるんですか~」

 

 

 

 

─────────

 

 

ほつれというのはなんにでも存在するのだ。

時は200万年前、人類が現在のものに近い生活を営み始めた時代。そのころ、今でいう南米アルゼンチンの沿岸に、とある島があった。その島には複数の人間の部族がおり、時に争い、時に協力し合いながら暮らしていた。

その島の海岸にある洞窟も、そういったほつれであった。その洞窟は海岸の岩の裂け目の中に出来ていて、中は深く、下の方は海水が溜まっていた。その真っ暗な深淵の穴の中には…一匹の生き物が居たそうな。

その生き物は奇妙な姿をしており、時折穴に海水と共に迷い込んできた魚や、誤まって洞窟に落ちてしまった小動物や鳥を貪りながら長い年月をかけて少しずつ成長していった。

 

「それじゃいくぞ」

 

「恨まないでくれよ」

 

その島では、岩の裂け目の洞窟には巨大な生き物が棲んでいると噂が立っていた。そこで島の人間は年老いたり酷い病にかかってしまい養えなくなった者を洞窟に放り込んで、島の守り神とされる洞窟の生き物に捧げるという忌まわしい風習が出来上がっていた。

その洞窟の生き物はたびたび落とされる人間という獲物を喰らい、別のモノに変貌していった。動物は人間を喰らうと…人知を超えた存在、怪物に成るという。

 

それから更に長い年月が経ち、その生き物が漠然と自分がどういった存在であるかを自覚し始めた頃である。上で何かあったのだろう、普段よりも多くの人間が落ちてきた。

 

「暗い…寒い…ここはどこだ…?」

 

『ある者は守り神の棲む洞窟じゃと言うていた。別の者はバケモノの巣窟じゃと言った。だが、ワシにはむつかしゅうてわからん』

 

その生き物は喋った。いや、その人間にはただの怪物の鳴き声にしか聞こえなかったであろう。大量に落されてきた人間を一人残らず喰らいながら怪物はどんどん成長を遂げ、その洞窟がやや窮屈に感じた時、思い切ってその洞窟を飛び出した。目に飛び込んだのは洞窟には無かった緑、青、赤、たくさんの食べ物。再び長い年月をかけて島の植物も動物も神霊の宿る大地も、そして人間を喰らい尽くした怪物は島そのものを平らげ、まだ見ぬ食べ物を求めて海を渡った。

 

いくつもの島や生き物を喰らいながら海を渡った先には、大和の国、日本があった。今まで襲ってきたどこよりも神聖な気に満ちていたこの国を喰わないという選択肢はなかった。

まず日本へ上陸した怪物はどうしたと思う?じっくりと人間を味わうために、たまたま目に入った里に「年に一度、美味そうな娘を一人ずつ献上せよ」と要求した。里の人間も恐ろしい怪物に逆らう事が出来ず、言われた通り娘を差し出し続けた。

 

ある年、怪物はいつものように里の娘を喰らいに行ったところ、娘の他に大きな酒樽が置いてあった。やけに気前がいいなと思いつつもその酒を飲みはじめると、あまりの旨さに夢中で樽の中に顔を突っ込んだ。その時、自分の身体に何かが突き立てられる痛みを感じた。驚いて樽から顔を出してそちらを見ると、見たこともない男が剣を以って怪物の身体を切り裂いていた。怪物も抵抗するが男の剣捌きの前に完膚なきまでに叩きのめされ、いよいよトドメの一撃を貰おうかという時…

 

『ワシの鱗は特別な金属だ!その鱗でこしらえた剣をやる、だから見逃してくれ!』

 

男に敗北した怪物はその国を出て隣の大陸へ渡っていった。

 

それから永い永い年月の間に恐ろしい巨大妖龍として猛威を振るい続けたそうな。ある妖の噂を耳にはさむまでは…

 

 

────────────

 

 

シロ「そうか、分かったぞ!おい霊夢、この戦い…」

 

霊夢「えぇ、もらったわ!」

 

『キュエイアアアアアアア』




今回は自己解釈の部分が多く出てきちゃいました。霊夢が強い所以は天性の才、他者を惹きつける不思議な力があったからこそなんです。
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