シロ「分かったぞ。八頭龍よ…」
シロはジエから距離を取りながら言った。
シロ「お前はやはり我を恐れておるのだな…」
『ほう、面白い事を言うな!ワシは一度お前に勝利しているのだぞ…』
シロ「あの時の我は既に萃香との戦いで傷を負っていたし、この霊夢の後先考えない行動に付き合った故…。だが今はそんな事はない、我も霊夢も驚くほど冷静だ…」
そう、あの時の敗北は混乱の中での軽はずみな行動をとってしまった故の敗北だったのだ。しかし今は違う、霊夢とシロの頭はハッカを突っ込まれたようにクリアな感覚であり、今までにないほど冷静だった。
シロ「全ての者が我の事を忘れた時…我を忘れるという事は我に対する恐怖もなくなるという事。それなのに何故我は滅びなかった?何故我はあの奈落の空間でお前と会った時、一撃を喰らわすことができた?それはお前が我に対して恐怖を抱いていたからじゃないのか!?」
『馬鹿な。そのような事だけで…』
霊夢「そうか…!あの500年前から、龍はずっとシロを恐れてきた…いつも心の内にあるのはシロの事…シロによって与えられた痛み…恐怖…それがずっと龍の心の内に有った。今もそうだ…それが逆にシロを生き長らえさせていたのね!」
シロ「お前は本当に強い、我が認めよう。だがそのような圧倒的な力を持ちながら、何故異界しか食おうとしない?それは我の事がやはり恐ろしいからではないのか?我が恐ろしいから、その対象が絶対に姿を見せることのない異界しか喰わないようになったのではないか?」
ジエは霊夢とシロを睨みつけ、歯茎を剥き出したまま黙った。
霊夢「なるほど、現世を喰い荒らしていればいつか必ずシロとぶつかる事になる…それを回避するために異界だけを…」
シロ「まァ、コイツが怖がってるものは他にもあるんだけどな。ジエよ…お前は外であった我と妖怪たちとの戦いを見ていて、それに影響されている」
特定の者に関する記憶を消してしまうなどと言った策も、シロが今までしてきたことのある策である。
シロ「見ていたのなら知っているはずだ…あの時は一匹の妖怪と一人の少年によって国中の妖共が結ばれ、我はそれらによって倒された」
そこでお前は思った…自分の恐れる白面があそこまでやられている。妖怪の団結はげに恐ろしいものだな。だが待てよ…もしも自分がいつか復活した時、あの戦いのように幻想郷の者どもが団結して自分を倒そうとしてきたら…!
シロ「そして、最悪の予想がだんだん現実をなりつつあった…霊夢は幻想郷中の者どもを結び付けていった。だから自分も白面のように団結した妖怪たちによって滅ぼされてしまうのではないか?くっくっく…だからコイツは我だけではない、幻想郷そのものが恐ろしいのだろう、八頭龍!!」
シロによって図星を突かれたジエはゆっくりと目を閉じ、口の端からシューと熱い息を深呼吸のように吐いた。そして一気に赤い天体のような目を見開き、とても龍とは思えない、何か別の怪物じみた表情を浮かべた。
『お前たちの言う通り…言う通りだァアアアア!ワシは憎み恐れる、白面の者を!博麗の巫女を!!』
ワシははるか昔、ある島の洞窟で産まれた。その後一度日本へ渡り、今度は大陸の方へ居を置くことにした。それから百何十万年という時を自由に地を喰らいながら過ごしたが、ある時ちょっとした噂を耳にはさんだ。
国を単身で滅ぼして回る、白い面に白い肉体の大化生がこの大陸に存在すると。まさかワシのようにそんな大規模な単位で人間を滅ぼす者が存在するのか!ワシは驚愕すると同時にその存在を酷く恐れた。ソイツを関わらないように過ごしていくためにはどうすればよいか…ワシが考えた出した結論は、決してソイツがやって来ることのない異界をターゲットにすることだった。
なのに…なのに500年前、ワシは白面と邂逅してしまった。ワシに恐怖と憎しみを与えたヤツを…許せるか…!?
ジエは霊夢を体当たりで突き飛ばし、シロの胴体を高熱を帯びた背びれで切り裂いた。だがシロはすぐに体勢を立て直し、嵐の尾と槍の尾をジエの下顎に巻き付ける。槍の尾の刃が鱗に刺さり、嵐の尾が徐々にダメージを与える。
シロ「だから、お前は我を憎み恐れるだけじゃ絶対に勝てないと言っておろう!!」
『ダマレェエエエ!それがどうした!?』
霊夢「くっ…!」
霊夢はジエの額にお祓い棒を突き立てる。
多分、この戦いの中できっと何人もの私の知り合いが命を落としてる。分かるのよ…さっきもゲガルドが来なかった時に紫の姿もなかった。鬼が参戦した時も萃香の姿が無かった…いつもならこの騒ぎで顔を見せないはずがないのに。私の所為だ…私が巻き込まなければ…。
(くくっ、違うさ…霊夢)
霊夢「え…!?萃香…!?」
シロ「けっけっけ、お前の怖いのが来たぞ!」
霊夢の背後から紫色の日傘、鎖の付いた腕輪をはめた小さな握り拳、文字の書かれた御札、そして古ぼけた易の書が現れる。
それらはジエの背中にそびえる背びれを、根元からバキリと根こそぎへし折ってしまった。
『何だとォ!?』
シロ「やっぱり凄いモノであるな…博麗霊夢の、誰彼構わず惹きつける不思議な力ってのはなァ!」
霊夢「あ、ああ…皆…」
(霊夢とシロよ、私を苦しみから解放してくれてありがとう…これは私からの礼です)
霊夢「初代…」
(決して消えず朽ちず…私たちはお前の心の中に有り続ける)
霊夢「萃香…」
(お前は最強の人間巫女だ…お前の力をヤツに見せてやれ)
霊夢「アンタは…あの時の易者…!」
『何だ…一体何なのだコイツらは…!キ、キエエエエエ!!』
助けに来てくれた、霊夢とかかわりの深い者たち。それに向かってジエは頭を振り回し、大口を開けて噛みつこうとする。が、そこに手ごたえは無く、別の場所からその幻はジエに攻撃を加えた。
『ひ、ヒィィ…!』
(八頭龍よ…お前はこの地で必ず朽ち果てる)
『何だ…この、この、コノヤロ…コノヤロォ!!』
目の前に向かって何度も噛みつきかかるが、やはり手ごたえは感じない。得体の知れない者たちに、ジエは今までにないほどの恐怖を感じ、急激に気分が悪くなった。目はグルグルと回り焦点が合わず、口の端からは大量の泡が吹き出して付着している。
(霊夢…如何なる重圧も、力による脅しも、貴女には全く意味が無い。相手がどんなに強大だとしても、貴女の前では意味をなさない。だから…さぁ、頑張って!)
霊夢「紫…!」
八雲紫、伊吹萃香、初代巫女、易者の幻は再び消えてしまった。
『ハァ…ハァ…ハァ…!』
霊夢「ふふふ…もう完璧よ。来なさい、八頭龍!!」
『キュエイオアアアアアアアアアアアアアアア!!』
長い咆哮と怒りと共に襲い来るジエを、霊夢とシロは迎え撃つ。
─皆、ありがとう。こんな私の為に…。いや、そんな卑屈になっちゃだめね、以前よりは明らかにマシになってるんじゃない?博麗霊夢!!
─我はここへきて何か変わったのか…?変わったような気もするし、変わっていないような気もする…まぁ、そんな事は今はどうでもいい。我はシロだ!!
──わかるぞ、皆が戦っているのが。今さら、今さらこんなヤツに…負けるもんか!
そのころ、黒竜と交戦中の聖輦船。
聖「くぅ…!」
倒しても倒しても数が多い…流石に、聖輦船も皆も限界か…。
自分を含めた皆がもうボロボロで、満足に戦える状態ではない。それなのにまだ黒竜は何匹も湧いて襲い掛かって来る。
「燃えっちまえぇ~~~!」
黒竜の吐いた火球が聖輦船に命中した。既に壊れかけであった聖輦船はいとも簡単に火球の威力で燃えてしまい、船の主軸の骨格である竜骨だけが残った。
村紗「船が…」
「次はお前らだァ、死ねぇ~!!」
竜骨ごと燃えカスにしてしまうような勢いで熱線と火球を放つ。しかし、その瞬間に黒竜は突然胸元が破裂し、消滅していく。聖ではない、他の誰かが法力を放ったのだ。
聖「あ…!貴方は…!」
竜骨の後端に座り込んで、数珠を持った手を顔の前で合わせているボロボロの袈裟を着こんだ老人。
聖「命蓮…!?」
聖が今の道を歩もうと思ったきっかけであり、彼女の弟である命蓮が助けてくれた。
─神子の仙界
妹紅「『禁』!」
とうとう避難した人間までも始末しようと仙界にまで攻めてきた黒竜たち。それを迎え撃つは、藤原妹紅と上白沢慧音だ。人間と縁の深い二人は真っ先にここへきて防衛に買って出たのだ。
妹紅は黒竜に貼りつけた符で禁術を発動し、どんどん敵を消し去っていく。
慧音「人間に手出しはさせない、出ていけ!」
黒竜の尻尾を掴み、振り回して周囲の黒竜にぶつけながら投げ飛ばす。
妹紅「うぐ…」
慧音「妹紅!」
鞭のようにしなる黒竜の尾が妹紅の腹をつらぬき、そのまま地面に突き刺さって同化する。
「お前もだぁ!」
数体の黒竜が慧音に群がり、その爪を突き刺そうと腕を振り上げる。釘のように地面に縫い止められてしまった妹紅はそこから抜け出せず、慧音ももうダメかと思ったその時。周囲の黒竜が何か鋭いモノによって瞬時に4枚おろしに切断されてしまう。何事かと二人は顔を上げると、見えたのは深い藍色の身体に両腕から伸びる鋭い三本の爪の大きな獣。
慧音「お前は…青藍!」
慧音を救ったのは、二人のかつての宿敵である青藍だった。白面の者に家族を殺され、憎しみのままに獣の槍を振るい続けた女の末路の特異な青い字伏。妹紅に倒されて憎しみから解放された彼女だが、冥界の門をくぐって二人を救いにやってきたのだ。
それと同時に、妹紅を地面に縫い止めていた黒竜の尾が粉々に砕け散った。
妹紅「あ…!」
忘れるはずもない、千年以上も昔に自分が殺した岩笠という男だった。月へ帰った輝夜姫の残した蓬莱の薬を富士山の河口へ投げ入れて捨てようとする岩笠一向に付いていった妹紅。だが富士山の女神に拒否され、二人以外の兵士を殺されてしまう。仕方なく下山の途中、魔がさした妹紅は岩笠をその手で殺め、薬を奪ったのだ。妹紅にとってはここが全ての始まりだったといえるだろう。
妹紅「岩笠…来て、くれたのかよ…」
魔理沙「アリス!大丈夫だったか?」
空で黒竜と交戦中のアリスの元へやってきた魔理沙。
軽く黒竜に巨大な星型の魔法で作った弾幕を浴びせて吹き飛ばしてやる。
アリス「魔理沙…危なかったわ。丁度…人形の子たちも居なくなっちゃったから…」
そう話している間にもさらに黒竜が集まって来る。
魔理沙「一気に片づけてやる。マスター…あれ?」
マスタースパークを放って黒竜をまとめて吹っ飛ばそうとする魔理沙だが、ここでミニ八卦炉の燃料が無くなっていることに気付く。これでは気休め程度の火力しか出せないだろう。
魔理沙「まずいな…」
襲い来る黒竜に対して二人ももうダメかと思ったが、突然目の前に大きな影が現れた。その影は強靭な四足で黒竜を踏みつぶし、巨大な牙の生えた口で噛みつき、瞬時に黒竜を薙ぎ払った。
アリス「あなたは…あの時の…!」
魔理沙「アイツが…化け獅子のアイツが助けてくれた…!」
アリス「あら…龍の張った結界が、薄くなっていくわ…」
「やっと…黒竜共も消えたのね。まったく、あの奴ら…幻想郷の結界の要である博麗神社や周辺の大木が狙われることに気付きもしない」
黒竜の血が滴り、ボロボロで折れ曲がっている日傘を杖にして博麗神社の屋根の上に山のように積まれた黒竜の骸の上に座り込んでいるのは、花を操る妖怪の風見幽香。ひっそりと誰も居ない場所で彼女も戦い続けていたのだ。
「いっつも私はこんな役目ばかりね。でも…これでいいんでしょ?岩崎…」
「幽香は強いんだからさ、その力を自分より弱い奴に向けちゃダメなんだぜ!」
「岩崎…貴方はあの時、強い者の力の使い方ってのを…説いて教えてくれたわね。貴方の言う力の使い方は…最期までできなかったけど。ま…私の性分ってやつね…」
口元から垂れる血をボロボロの袖で拭う。傍には引きちぎられた片腕が転がっており、その身体には黒竜の尾や、妖力で爆発するのを押さえ込んでいる牙が何本も突き刺さっていた。もうこの身も長くはないだろう。
「話していなかったけど、意外と面白い喧嘩も…あったのよ」
幽香ははるか遠くの西の空で繰り広げられている戦いを遠目に見る。
「ねぇ、霊夢、魔理沙…面白かった…よねぇ?」
そう呟いてから、ゆっくりと目を閉じる。その間に自分が座っていた骸の山から黒竜の一体が這い出してきて、その真っ白な爪を幽香に向けて振り下ろした。
だがその時、ゴシャ、という鈍い音と共に黒竜が再び倒れ込む。幽香は思わず目を開くと、霞む視界に映ったのは黒竜を殴り飛ばしている男の姿だった。
「なぁんだ…岩崎、迎えに来てくれたのね…?」
地面に咲いていた一輪の花の前に、ガラン、と日傘が骸の山を転がり落ちた。
こんな時に、アイツが居ればよ…。
とらは無数の黒竜に囲まれながら思っていた。
とら「しゃらくせええ!!」
黒竜が吐いてきた火炎に自分の炎をぶつけ、向かってくる黒竜の角を引っ掴んで電撃を浴びせる。
わしゃ、何を期待してんだ。来る訳ねぇだろ、アイツがこんな所によ…。
とら「オラ、てめぇら纏めてかかってこいや!」
でも、なんだかいけねぇな。
自分の背後に何かの気配を感じる。が、交戦中の黒竜の所為で振り向いて確認することができない。
とら「誰でぇ、マリサか?…あ…!」
後ろを目だけを動かして確認するとら。目に入ったのは、青い作業服に首にタオルをかけた、まるで仕事をほっぽり出して大慌てで駆けつけて来たかのような短髪の男だった。その男はとらの肩にゆっくりと手を置いた。
とら「…けけけ、くくっ…そぉいう事かよ…。言ってたな…閻魔とやらも気の利いた事してくれるじゃねぇか」
額に雷を迸らせ、不敵に笑いながら目の前にいる10体以上もの黒竜を睨みつける。
─「行っくぞーっ、とらーっ!」
とら「うるっせーんだよ、うしおーっ!!」
それは9月の夏の終わり。太陽がさんさんと照り、入道雲が広がる青空の下での出来事だった。
うしおがとらの元へ駆けつけてきました。ここが書きたかったからとらを登場させたと言っても過言ではありません!書けてよかったです。
霊夢のところに来てくれた4人。何故易者が混ざっているのかというと、易者が好きだからです。最初に構成を考えていた段階では魅魔あたりでも出そうかと思ってたんですが、ちょうどその時に鈴奈庵を読んだんです。そしたら急に出したくなったんで変更しました。易者と蟒蛇さんはかなり好きなヤツらだったりします。