私があの人に惚れたのは何故だっただろうか。もともとモテる人ではあるのだけど。
顔よし、家事力もあるし運動神経もいい。気配りだってとても出来て……改めて考えればとてつもない有料物件だった。ただ致命的なのは女心という一点においては全くもって鈍感なところなのだけど――私はそんなところもあの人の魅力だと思っている。
誰にでも優しいっていうと少し違うのだけれど、そういう風に誰かを贔屓することなく接することのできる理由は鈍感さ故だったからと思うから。
話が大きくそれてしまった……ええっと、私があの人に、兄の友人である織斑一夏さんを好きになった理由はなんだったかって話だったよね。
初恋だったんだよ? 初恋にしてたぶん難易度でいえばあの人間嫌いって噂されている篠ノ之束博士を振り返せるくらいのベリーハードさ、もちろん恋としての意味で。
改めて思い出すとあの人には色々助けられたし、その度にドキッとした。
この女尊男卑なご時世で珍しくナンパしてくる男たちに絡まれて助けられた、なんてエピソードまである。あのときは恥ずかしいけどあの人が白馬の王子様にも見えた。
でも思い返せば……やっぱり初めて会ったときかな。
俗にいう一目惚れだったんだよ。お兄について家にやって来た一夏さんを見たときに惚れた。初めにも言ったけど現金な話、顔もいいんだから一目惚れだってするよ。
助けられてから惚れた~なんて言ったら後付けになっちゃう。あの人の気づかいや優しいところに惚れたっていうと私の初恋は嘘から始まる恋になっちゃう。
けど、ちょっと乙女として飾っていうと“燃えるように熱い一目惚れ”だったね。こう、全身に血が巡るのが自覚できるほどに熱くなって……コラ、顔が真っ赤になってただけじゃないって言わないの。
事実そうだから何も言い返せないじゃない……どこまで話したっけ? あ、そうとにもかくにも私の初恋は一目惚れだったんだよ。
でもあの人ってば言い方は悪いんだけど本当に攻略難易度高かったなぁ。お兄の持ってるどんなゲームよりも難しかった。付き合ってくださいと言われれば買い物に付き合うとナチュラルに勘違い、好きだぜと言われればLikeの方な好きと平然と受けとる。
一時期は本気で女に興味がないのかと心配したことすらあるくらいにどんかんだったの。
さらにさらに! あの人の周りだよ!
篠ノ之束博士の妹さんに、中国にフランスにドイツ、イギリスさらには日本の代表候補生にロシアの国家代表まで!
ただの後輩だった私は凄い気後れした覚えがあるなぁ……でもそこで引くほど私の初恋はヌルくなかったし、あいにく私自身もそこで退けるようなブレーキは持ってなかったの。
初恋乙女暴走列車と化した私の行動は迅速かつ一直線だった。エスカレーター式のお嬢様学校にいた私だったがそこを止めてIS学園の試験を受けた。
家族ではお兄に反対され、一度夜通し話し合ったりもしたが結局はあっちが折れることになった。いや、違うって蹴ったりしてないよ?
本気だってことを本気で伝えただけ。そしたら渋々ながらも納得してくれた。
あとはトントン拍子だった。IS適性自体も高かったし、筆記だって正直いって賢かった私には楽々とは言えずとも普通に受かれるレベルであり、無事合格することが出来た。
さて、そこからが問題だったのよ。さっきも言ったけど数えるのも面倒になる一夏さんに惚れた周りのライバル。それも代表候補生から国家代表までいるときた。
そんななかで私はただの料理屋の娘なわけで――でもそんなことは入学前にわかってたし、IS学園に入ると決めた時点で覚悟は決まってた。
それからは猛アタック……したわけでもないの。あの人って常にアタックされてる身で、それに鈍感だったから普通にアタックしてもなにも思ってもらえないなーってわかったから。
ん、計算高い? 女はそんなものなのよー、覚えておきなさいね。
それでやったことは一歩引いたところから支える良妻スタイル! アピールは本当にここだと思ったところだけでやってた……けど効果があったかはやっぱりわからなかった。だっていつもと変わらない笑顔でお礼を言われるから、こっちはドキッとしても一夏さんの心情は全くわからなかったなー。
そんなまま、月日は流れちゃってあの人は3年生で卒業シーズンになったの。というかズバリ卒業式ね。
そのときの私はすっっっっっごく悩んでたの。さっきいったみたいに猛アタックは避けてた私だし、
『あのアピールで一夏さんに少しでも好意をもってもらえたのかな?』『もっと積極的になればよかったかな……』
こんなうだうだともう見てられない感じで。それも教室の片隅、ひとりで、卒業式の真っ最中に!
え、うん。だから卒業式見れなかったのよね、真面目な優等生で通ってた私の一番の不良行為だったわ。
けど、時間は過ぎていくわけで。卒業式が終わりが近づいてきたとき私はふと思った――いや結論から言っちゃうと開き直ったのよ。今さら考えても仕方ない、覚悟はとっくに決めてたじゃないって。
顔に張り手をかまして気合いを入れ直した私は、一夏さんを探すために学園中を走り回った。
で、見つけたのはちょうど卒業式が終わってなし崩し的に仲のよいグループで集まっていた体育館前だった。
うぅー、今思い出しても恥ずかしいなぁ。気合いは入れ直したけど今から“告白”しようとしてた私はテンパってたのよ。
一夏さんを見つけた私は駆け寄ってその両手を握った。そのときのキョトンとしたあの人の顔はよく覚えている、むしろそれしか覚えていない周りの目なんて忘れたのよー。
「一夏さん大好きです! 初めてあったときから一目惚れで……ッ! 一人の女として愛してます!」
私という“女”が織斑一夏を“男”として愛しているという気持ちを伝えた。もうあのときの私にとってはこれ以上なく、真っ直ぐに。
それが伝わったのか一夏さんは“告白”を“愛の告白”としてしっかりと受け止めてくれた。
――ここで私の初恋にして最後の恋は完結した。これ以上なく、これ以下もなく、ね。
まぁ、ひとつ私がやらかしたオチとしては告白した場所……卒業式終わりの体育館前、ほぼ全校生徒がいたことかな。あとは語らなくてもわかると思う。
「なーんてね、ここで私の初恋は完結。私の初恋にして最後の恋のお話でした」
「えっと、ええっと……ママ凄い頑張ったんだね!」
「そうだよ、だから頑張っていい人と結ばれるように頑張りなさいね!」
「うん! 頑張る!」
と、ちょうどいいところであの人が帰ってきたようだ……ってマズ! 昔話に熱が入りすぎちゃって晩御飯準備できてない!
……まぁ、私の初恋が最後の恋で、今結婚してるってことはつまりそういうことだ。
「ただいまー」
「一夏さんごめんなさい! 晩御飯の準備がこれからで!」
「ああ、だったら俺も手伝うよ。近頃蘭に任せっきりだし弾にも怒られちまう」
「お兄なんて気にしなくていいですよ」
「も手伝うー!」
「よし、なら父さんと手を洗いにいこうか」
ふふ、あーあ。一目惚れから始まった恋は上手くいくことが多いらしいけど本当にそうだったのかな。
――何はともあれ、私の初恋はこうして終わりを迎えることなくあの人と娘とともに幸せな未来を紡いでいる。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
テーマ:蘭の初恋
使用時間:22:30~23:28
で書きました。