ことの発端はIS学園のなんでもない、というよりむしろイベントもなにもないある日の学食での話であった。
ラウラが日本食を気に入っているという話になっただけだ。セシリアやシャルロットも日本食はどちらかというと好きだ。しかし納豆などは臭いで駄目だが、ラウラは違う。日本人でも駄目だという人もいる納豆を始め焼き魚やおひたしも大好きである。
もともとは教官として慕っている織斑千冬を真似て食べていただけなのだが、これがいたく気に入った。
このことを知った箒はお弁当などを作る際には日本食を入れよくラウラに餌付けしていた。気分は小動物系のペットに餌をやる感じ。箒にとってラウラは一夏を狙うライバルでもあるのだが……あれは天ぷらを揚げるため家庭科室にて調理していたときのこと。
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箒は天ぷらを揚げるため学園内の家庭科室に来ていた。寮のキッチンを使ってもよいのだがなにしろ油で揚げると煩く、また少々キッチンが汚れてしまう。そうなると同室の鷹月に迷惑をかけてしまうので――鷹月は笑って許してくれそうだが――こうして家庭科室まで赴いているのだ。
天ぷらをつくっているのはもちろん意中の一夏のため……だったのだが一人来客だ。ある意味招かれざる者とも言える。
「箒よ……こ、これは何を作っているのだ? カツでもないようだが……」
「天ぷらだ。魚介類や野菜等の食材を鶏卵と溶き汁を小麦粉にあわせたものを衣として、油で揚げる代表的な日本料理だな」
「日本食……! その、なんだ……ひとつ食べさせてもらえないか?」
身長差的にも強制的に物理的に上目遣いでチラチラッと自身の方を伺ってくるラウラに小さくため息を吐く箒。
転校してきた当初の威圧感や冷たさはどこへやら、今ではとても可愛い小動物のようだ……身長や他のどことは言わない部分が大きい箒としてはそういう“可愛い”は羨ましくもある。
閑話休題。そんなラウラなのだが箒的にも今の方が好ましく、外国人でありながら日本食を好むところは正直少し嬉しい。特に納豆をご飯にかけてそそるように食べてるあたり本当に好きなのだとわかって、日本食をこよなく愛する箒はつい頬が緩む。
「仕方ないな。ほらエビにさつまいも、シソの葉でも好きなのを選べ」
「むぅ、少し待ってくれ。これは蓮根か、カボチャに……」
ムムムムム、と悩ましげな声をあげつつ何を選ぶか決めかねている様子だ。どうやら始めにいった“ひとつ”を律儀に守るために厳選しようとしているらしい。そんなラウラを見て箒は再びため息を吐く、ただし今度は少し微笑みながら。テーブルにしがみつき天ぷらを選ぶラウラの後ろ姿が、ショーウィンドウに張りついた子供がおもちゃを選ぶかのようでつい笑ってしまった。
時計を見ればもう昼過ぎ、きっと一夏も食後だろう。
「ラウラ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! さつまいもとエビで決めかね――」
「昼はまだか?」
「てい、る……まだだが……?」
「よし、なら一緒に天ぷらを食べてくれないか。どうも一人で食べるには作りすぎてしまってな」
「い、いいのか!?」
「ああ、作りすぎてしまったのだからむしろ食べてもらいたい」
「そうか、ならば私は箸と皿を出してくるぞ!」
トテテーと食器類を取りに行くラウラは年相応、むしろそれ以下の少女に見えるが歴とした軍人だ。しかし、またそのギャップがツボに入った箒は圧し殺すように笑う。本当に変わったものだと。
その後、家庭科室にて二人は天ぷらを食べたのだが。これまたラウラの天ぷらを食べたときの反応がとてもよかった。一夏は味付けまで予想をつけてしっかりと味わって食べてくれるのだが、ラウラは純粋に美味しさに目を輝かせて食べる。作った身としてはどちらも嬉しいものだ。
そして、これを期に二人はときたま一緒に食事をするようになった。
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「で、なんだ?」
「いや、だから寿司を食べたことはあるか?」
「……ないな、どんなものなのだ?」
「銀シャリと呼ばれる酢飯の上に生魚を乗せ握ったものだな」
「日本ではそのようなサバイバル環境でも食に拘るのか……恐るべし日本の食への思い」
「違うぞ、絶対にお前の想像しているものは違うぞ」
きっと山奥で遭難した人間がナイフで生魚をおろし握り飯の上に乗せて食べている光景を思い浮かべている。断じて違うと箒は訂正する。日本の食のイメージのため、米でソーセージを巻いて油で揚げたものを巻き寿司と呼び「お米だからヘルシーね!」などという間違った文化をこれ以上広げないために。テレビでこれを見たとき箒は殺気を振り撒いた、鷹月がいなければ即死だったくらいだ――テレビが。
なにはともあれ、ラウラは寿司を食べたことがなく知らないらしい。
「ふむ、なら次の休日寿司屋に行ってみるか?」
「頼む、生魚を美味しく食べる方法は私も知りたいぞ。アマゾンで食べたときには腹を下してな……あれは辛かった」
遠い目をするラウラを見つつ、だからそれは違う、決定的になにか間違っていると箒は思った。
土曜日、ラウラと箒は寿司屋に来ていた。箒としては回らない本格的なところへ連れていってやりたかったのだが如何せん学生の財布事情。代表候補生のラウラはさておき箒には些か厳しかったので普通の回転寿司へやって来た。
「回転……寿司? 寿司が回転するのか!?」
愕然としているラウラの手を引き店内へ入る箒。説明をするよりも見せた方が早い、百聞は一見にしかずだ。決して説明が面倒になったわけではない。
そして店内に入ったラウラの反応は驚きで染まっていた。
「箒! 皿が、皿がまわっているぞ! それにあの彩り豊かなのは……あれが生魚を酢飯に乗せたものなのか!?」
「ああ、そうだが少し落ち着け。店内だ」
「む、すまない……しかし生魚がああなるとは食とは本当に侮れないな。これが目から鱗というやつなのか」
魚だけにな。と言いドヤッとするラウラにチョップを入れた箒は席につく。席には蛇口のしたに湯飲みを押し当てるとお茶が出てくるものがあり、これがまたラウラの心をくすぐる。
「…………これはいくらなのだろか、ひとつほしいぞ」
箒は聞かなかったことにした。
レールの上に乗り流れてくる寿司を取って食べるわけだが……初めは箒が取りラウラにやると寿司に目を輝かせる。生魚ゆえに臭いなどで嫌がらないかと心配もしてた箒だが安心した。
よくよく考えるとアマゾンで生魚を食べてたくらいなので好き嫌いはともかく食べることは普通にできるに決まってるわけなのだが。
「日本は生魚をここまで美味くできるのか……!」
「そう言われて嫌な気分にはならないがそろそろ生魚と連呼するのは押さえてくれ。その通りなのだがなにか変な気分になる」
さて、回転寿司の醍醐味。ラウラ自身も自分の欲しいものを取ろうとするのだが何度か失敗する。運動神経もキレキレなのに何故寿司を捉えられないのか不思議だが、見ていて楽しいので箒はお茶をすすりながらその様子を眺める。
「あ、あっ……ほ、箒……私のサーモンが」
「そう悲壮感に溢れた顔をしないでもまた流れてくる」
「そうか……次こそは確実に捉える!」
この後は二人でまた日本の文化について話し合い――主に箒がラウラの知らないことを語り、それに驚くラウラの反応を箒が頼む――ながら寿司を食べ満喫したのであった。
――これはそんな接点がないようで、思わぬところで意気投合している二人のお話。
「箒、寿司ではなくデザートのプリンまで流れてくるぞ!?」
「……店によってはラーメンまで流れてくるところもある」
「回転寿司とはなんだ?」
「なんなんだろうな……」
日本人の食への業も深い。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
テーマ:ラウラ・ボーデヴィッヒとお寿司
使用時間:22:45~23:40
ラウラと箒、もしくはラウラと箒と日本食みたいな感じになってる。若干サブタイ詐欺っぽいけど、タイトル回収はしたからセーフセーフ。