一時間で書くIS短編   作:バンビーノ

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簪とヒーロー

 私はどうしようもなくオタクだ。言い訳の余地なく余すところなくオタクだ。お気に入りのアニメが放送すれば次の日が試験だろうとリアルタイムで見るし、むしろリアルタイムで見るために普段からしっかり勉強してる。部屋にある棚は漫画やライトノベル、DVDおよびBlu-rayで埋まっている。

 そんな私がそこまでオタクになってしまった理由はかんだろうか? 始めに見たものは確か……戦隊ものの特撮、いつも日曜日の朝にやってるあれだ。実に女の子らしくないとは思うが私はあれが好きだった、嘘、今でも好き。ゴルフの放送などでなくなった日には泣いて母を困らせた覚えがある、今では呪詛を送っている。

 でも、もっと初めは絵本だったかもしれない。“桃太郎”、日本で有名な話のひとつ。桃太郎というヒーローが仲間を連れ、鬼という悪を倒すお話。

 

 ここが私にとってアニメに嵌まった原因なんだろうか? ヒーローに憧れるようになったのはここからなんだろうか……?

 

 

▽▽▽▽

 

 

 なんて考え事をしていたら朝になった――わけなく近頃忙しかったせいで不覚にも見れずに堪っていたアニメを徹夜で消化していた簪であった。

 今日が休日だからと意気揚々と徹夜したはいいものの、一晩中画面を見続けたせいで頭と目が痛い。普通ならこのまま眠るのだろうがどうにも寝つけそうになく気分転換に外へ出ることに決めた。

 と、その前にシャワーを浴びる。少し熱いくらいのシャワーを浴びつつ自身の身体を眺める簪。よくも悪くもスレンダーといったところである。

 趣味は基本的にインドアであるものの腐っても……というか室内で腐るような生活をしていようとそこは日本の代表候補生。それなりに普段から動いてもおり程よく引き締まった肢体だ。

 しかし胸がない。胸、おっぱいがない。古くからの友人である布仏本音や、この頃知り合いになった同じ日本人である篠ノ之箒などはお前何人だと問いたくなるダイナマイトボディであるのに……本当に爆発してしまえと思ったこともある簪だ。

 そこまで大きい胸に憧れがあるわけでもないのだが大きすぎる相手が近くにいるとどうにも気になる。仰向けになってベッドのなかでアニメを見たりする簪からすれば大きい胸は邪魔になるだけともわかってはいるがそれはまた別物なのだ。

 しかもひとつしか歳の変わらない姉も中々な胸である。

 

 ――これは姉が自分の分の養分を吸いとったのではないか? そう思ってしまう。

 

 風呂からあがった簪はズモモモモと少し黒い瘴気を漂わせながら朝の散歩に出る。姉に会った、笑顔で挨拶されるが無反応、膝をつきさめざめと泣く姉を見て少し溜飲がおりた。楯無にとってはとんだとばっちりだが。

 

「おはよう、お姉ちゃん」

「うぅ……簪ちゃんが私を無視した、また何かしちゃったかしら……」

 

 面倒な姉だとちょっと思ってしまった簪は悪くない。

 楯無はシスコンだ、超の付くほどシスコンであり、シスコン過ぎるが故の発言と妹に抱かせてしまった劣等感のせいで妹に嫌われてしまっていたくらいにシスコンだ。

 だから楯無にとってせっかく仲直りできた妹に再び嫌われるのは死活問題。なかなかに繊細になっている――けどそんなことは簪には知ったこっちゃない。

 まぁ、シスコンなことは理解してるので動作不良を起こしている姉を再起動させるための一言を発する。

 

「お姉ちゃん、朝ごはん一緒に食べに行かない?」

「行くわ! 行きましょう! お姉ちゃんが何でも買ったげるわ!」

「別に、朝ごはんくらい自分で買うから……」

 

 再起動どころかいきなりオーバーヒートを起こしそうになっている。徹夜明けにそのテンションは頭に響くので止めてほしい簪だった。

 キラキラと輝きを放ってるのではないかと幻覚すら見えそうなレベルで気分上々な楯無と、メルトダウナーを起こしてそのまま地球の裏へ到達しそうなほど気分急降下な簪という対称的な二人は学食へとやって来た。

 別に簪は姉が嫌いなわけでもなく一緒に食事を取るのが嫌なわけでもない。ただ徹夜明けで姉のテンションが辛いだけなのだ。けどそれを指摘するとまた落ち込みそうな楯無なので言わずにいるだけ。

 

「休日の早朝ってだけあって人が少ないわねー」

「私はその方が嬉しいから問題ない」

「そういえば簪ちゃんが休日のこんな時間から起きてるなんて珍しいわね。どうしたの?」

 

 簪はかき揚げうどんの食券を購入しようとしていた手を止めて楯無に振り返る。

 

「違う……むしろ今から寝る、つもりだったけど今日はもうこのまま過ごすつもり」

「つまり寝てないのね……あんまり徹夜はよくないわよ? 簪ちゃんの珠のような肌が……!」

 

 一瞬真面目トーンになったのにすぐ変なスイッチが入ってしまった楯無を視界からシャットアウト。食券購入するためボタンを押すことに専念する、あんな姉知らないと言わんばかりに。

 そうして食券を食堂のおばちゃんに渡した二人はトレーを受け取り席につく。

 

「そういえば簪ちゃんって昔からかき揚げはとっぷり浸してたわねぇ」

「たっぷり全身浴派……サクサク食べたいなら、かき揚げだけ食べればいい」

 

 そのままサクサク派とは相容れない簪だった。

 しかし、と簪は昔のことを思い出す。姉が更識家の当主になる前くらいから劣等感を抱いて、姉を嫌いに……苦手になっていたのだがそれより前は普通に仲のよい姉妹だった。ちょうど今みたいに一緒に食事を取ったり二人でテレビを見たりもしていた。

 よく見ていたのは――ありがちにして王道な勧善懲悪のアニメや戦隊ものだった。だがよくよく思い返せばその頃はそんなに嵌まっていなかったように思える。

 はて? と簪は考える。ならいつから簪はこうも熱心に見るようになったのか。そう考えてる間にもかき揚げはうどんの汁を吸いぶよぶよになっていくが、簪的にはむしろそっちの方がいいので気にせず思い出そうとする。

 

「こうしてると昔を思い出すわね、簪ちゃんが犬に吠えられて泣いてたりしてたのを私が助けようとして……一緒に涙目になってたわね」

「足もガクガクになってたもんね。でも来てくれただけで嬉しかったよお姉ちゃん」

「ふふ、ありがとう簪ちゃん」

 

 あ、そうだ。思い返せばそのことが今簪がアニメに嵌まった原因に違いない。

 ――それは二人がまだ幼稚園にいるような年齢の頃。理由ははっきりと思い出せないが、簪が近所でもよく吠えると噂の大型犬に吠えられたことがあった。それはもう当時の簪にとっては怖くてしかたがなかった。足がすくんで動けなくなって、でも犬は鳴きやんでくれなくて。

 どうしようもなくて泣き出したときに楯無がやって来てくれたのだ。涙目になりながらも、足を震わせながらも簪のもとへ。そうしてそこから楯無が簪の手を取り家まで連れて帰ってくれた。

 傍目から見れば妹の手を引くお姉ちゃんは涙目で鼻をズビーといわせながらも泣かないように堪えて、手を引かれる妹はワンワンと泣きわめいているその図はどうみえたのだろうか?

 

 でもそんな惨状になりながらも無事に家に帰って、ちょうど両親がいなかったので二人で落ち着くまでテレビを見ているとアニメがやっていたのだ。それはもう痛快なほどにヒーローが悪を倒すやつが。

 

 ――それを見た楯無は簪に宣言した。

 

「わたしが、このせいぎの味方みたいにかんざしちゃんを守る!」

 

 そんな姉の姿が、お姉ちゃん(ヒーロー)の姿がかっこよくて簪は憧れた。

 

 全部思い出した簪は懐かしさに包まれつつ言い放つ。

 

「その結果がオタク(これ)だよ」

「え、急にどうしたの……?」

「……ううん、なんでもない」

 

 別に今の自分に不満もないからよいのだが何故こうなったんだろうかと頭を捻る簪だった。

 ――何にせよヒーロー、姉に憧れたあの日がアニメに嵌まった日でもあることは間違いない。追い求めるヒーローを見続けるため、今では憧れ半分に娯楽半分で。

 

 何故自分が現状こうなってるのか納得できた簪は記憶を掘り返す作業をやめ、朝ごはんであるうどんを食べ始めるのであった。

 

 

 

「あのー、簪ちゃん? 考えごとはいいのだけどうどんが」

「たっぷり全身浴派だから問題ない」

「いえ、かき揚げだけじゃなくなく麺も全身浴してるわけで……伸びてるわよ?」

「なん……だと?」

 

 想定外のトラップに驚愕するもそのまま食べる簪。結論的には伸びた麺もそれはそれでいけた。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
テーマ:簪がアニメに嵌まった日
使用時間:22:30~23:25
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