ううむ、昨晩は飲みすぎたか……チッ、面倒だが風呂にはいるとするか。そこらにほってあるタオルを足で拾い上げ風呂場へ向かう。この頃少し肌寒くなってきたな。
「一夏、着替えを持ってきてくれ」
「ああ、わかった千冬ね……下着で歩き回るなぁぁぁぁぁ!!」
寒かったのは――服を着てなかったかららしい。昨日にどれだけ飲んだか思い出せんな。小言を言いつつも着替えを取りに行く弟を横目に、シャワーを浴びるため私は風呂場へ向かう。
下着を適当に脱ぎ捨て洗濯機へ叩き込む――しまった、一夏のやつに洗濯ネットへ入れろと言われていたか――気にせず風呂場へ。なんでも洗濯ネットに入れた方が長持ちするとか言うのだが何故アイツは女性下着に詳しいのか……私のせいか。どう考えても私のせいだったな。まぁ、そんなことは熱いシャワーとともに流してしまえ。
……ふむ、思い出してきたぞ。昨日は翌日、つまるは今日が休みだからと山田君と明け方まで飲んでいたのだったな。そのまま帰宅後服を脱ぎ捨てて寝たな……つまり、
『千冬姉! 脱いだ服くらい洗濯機へ入れてくれよ!』
「ああ、すまん。あと下着を洗濯ネットに入れておいてくれ、忘れていた」
『ああ、また……いや、入れ忘れたのを伝えてくれるだけ改善してきたのか……?』
どうにも弟が優秀すぎると怠けてしまっていかんな。一夏がまだ小学生の頃には人並みには家事ができたはずなのだが中学に上がる前頃からガツガツとやり始めおって……楽が出来るのでいいと言えばいいのだがな。アイツが婿に出たときのことを考えると近頃怖くなってきた。こんなことを言うとまた山田君に茶化されるのだろうがな、どうにも今一人暮らしになると家事が出来ると思えん。
――久々に手伝うとするか。
「ということで一夏。家事でなにかすることはあるか?」
「どういうことか知らないけど、取り敢えず千冬姉は自分の洗濯物ぐらいちゃんと洗濯機へ入れてくれ」
「あ、あぁ……」
「それに家事っていってもな、もう昼だから掃除も終わったし」
「なに? もう昼か……」
そうか明け方に帰ってきたなら昼間で寝ていてもおかしくないな。しかし一夏のやつは午前の間に家の掃除を終わらせていたのか……広いともいえんが普通の一軒家だぞ? この頃こいつの家事力の底が知れん。
「あー、そうだ。昼飯はなにがいい?」
「なんでもいいぞ」
「そういうのが一番困るんだけどな……えーと賞味期限が危ないのはなんだったかな。たしか冷蔵庫に……」
30分後、今のちゃぶ台には鮮やかな昼食が並べられていた。いただきますと挨拶し食べるが相変わらず、いや前にも増して美味くなっている。将来料理屋だって開けそうな腕前だ、が……しまった、家事を手伝おうとしていたのにいつもの癖が出たぞ。
いや、言い訳になるのだが一夏の奴も何の違和感もなく家事をこなすのでな……余りにも馴染んでいるというか。
「はい、千冬姉。食後のお茶だ」
「ああ」
昼食後の茶を啜りつつ今のテレビを眺めるも特になにもやってないな。というよりも私も一夏もテレビ番組にそれほど興味がない質だ。私はニュースくらい見るが一夏のやつはニュースすら滅多に見んからな。世間の常識にほっていかれてないかとたまに心配になるほどだ。
アイツは将来何になるのだろうか、いや何になりたいのか……出来れば私への負担なぞ考えずにやりたいことをして欲しい。
姉にして親代わりの私からすればお前の叶えたい夢が私の叶えない夢になり得るんだ。なんて正面向かっていうには少し言いにくいのだが……言葉にせんと伝わらんかもしれんな。一夏の奴も私に負担をかけないようにとムキになってる風に見えなくもない。高校に行かずに就職すると言ったときには情けない話、少し泣きそうにもなった。
私はそこまで不甲斐なかったのか、そこまで気負わせていたのかと。
今だって適当にくつろげばいいというのに台所に立っている。
振り返れば台所で食器を洗い流す一夏の背中が見、え……私は頭を抱える。
またやってしまった。完全に一夏に家事を任せる癖がついているぞ……! 気負わせてるとか考える前に私自身が家事をだな……!
「い、一夏。なにか家事を手伝うぞ?」
「いや、もう特にすることはないけど? 今日はどうしたんだ千冬姉?」
「なんでもない、ただ手があいていたからな」
「ハハッ、なら疲れてるだろうし休日くらいゆっくりしといてくれよ!」
もう、なんだろうな。私の弟は天使なんじゃないだろうか? 家事は出来るし気遣いも出来る。小言は少しうるさいがそれもこちらの健康を気遣ってこそだ。
いやいや、待て。これにずっと甘えてるから私は家事が全く手につかなくなったわけでだな……む?
「……あれ、しまった、醤油が切れてる。千冬姉、俺ちょっと買い物に」
「待て一夏、私が買ってこよう。醤油だな?」
「え、ああ……いいのか?」
「暇をしてたところだ、お前の方こそ休んでおけ」
こうしてついにやることが出来た私は近所のスーパーへと向かったのだが家事とはこんなに探さないとやることがないものだっただろうか?
スーパーの各調味料が置かれた一角にて立ち尽くす一人の女がいた、私だ。
な、何故だ。なんで醤油にこんなに種類があるんだ? いくら睨めど種類の多さは変わらん。
「薄口に濃口……再仕込み、白、溜……そして各々メーカー」
既に20代の女として致命的なところまで来ているらしい。なにもわからんぞ。
…………一夏ならきっと、きっとどんな醤油でも美味い飯を作ってくれるはずさ。そう考えた私は手元にあった醤油を適当に一本取り、購入後帰宅するのであった。
……まぁ、もうしばらくは一夏も婿には出んだろう。次の、次の休みには家事を手伝うとしよう。
――次の休日、冒頭へ戻る。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
テーマ:織斑千冬の休日
使用時間:22:30~23:13
手早く書いたんで短いです。