水上の地平線   作:しちご

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はじめまして、しちごと申します
なんかだらだらとした連作小話みたいなのを書いてみたくて投稿しました

シリアスっぽい設定は建前です、制海権を失った火葬の日本には関係ありませんが
ユーラシア大陸ではキョンシーとゾンビと地底人の出現でおおわらわ状態とか
そんな感じの超いい加減世界です


01 臥龍は変生す

世界が壊れた日、人類は全てを失った。

 

日中開戦より暫く、後に第三次世界大戦ともユーラシア大戦とも呼ばれる最中、

鉄と鋼の及ばぬ世界で、呪禁が祝福が、各国の霊的な攻防がもたらしたものは、

 

つまるところ世界の崩壊であった。

 

極点の秘跡は異界に通じ、数多の空を魍魎が埋めた。

暴かれた聖櫃は須らくの亡者を呼び起こし、生者の世界に呪いを撒き散らす。

禁所の悪霊は世界に解放され、インディアンの呪いがコンドルに託される。

 

なかでも深き水底より浮かび上がる怨念 ―― 深海棲艦と呼称されるソレ

 

常世の理の及ばぬ幽の船体、オカルト染みた方法でしか対処できない不条理の塊。

負の感情で世界を侵し、海を、空を、海岸線を幽世へと換える汚染源。

 

制海権制空権その他一式を失い、なし崩し的に休戦状態に陥った日本国にとって

当座の問題は制海権の確保、太平洋の打通、つまりは深海棲艦に対抗する事となる。

 

 

 

 

『水上の地平線 01 臥龍は変生す』

 

 

 

 

魂は陽に属して天に帰し、魄は陰に属して地に帰す。

 

地に沈み数多の想いを受けた魄という器を召喚し、

数多の資材を注ぎ込んだ儀式で形成される魂という中身を入れる。

 

本来ならば百年の歳月をもって完成させる行程を数時間に短縮、

これが人造付喪神、一般に艦娘と呼ばれるモノであると言う。

 

眼近に居る「妖精さん」と名乗る謎のオカルト生物の説明は

そんな怪しげな解説からはじまった。

 

「まあそんな事より、ひとつ聞いてええか」

 

鉄扉で囲まれた建造ドックの中、怪しげな溶液だの配線だの魔法陣だのに括られて

とりあえず口だけは動くが幸い、胡散臭いナマモノに質問を飛ばす。

 

「記憶の中に、あるはずのない不思議な光景がいくつもあるんやけど」

 

実に不可解な話、艦艇としてソロモン海で沈んだ後の時代の記憶がいくつか。

何やら人間の身体を持ってインタアネットとかいう電化製品で遊ぶ記憶。

今まさに凄い勢いで改竄されている艦艇の記憶に重なるようなゲエムの設定。

人の良さそうな老婆が皿の上に置いてくれた銀のスプーンにウチまっしぐら。

 

ちょい待て、なんか野良猫の記憶も混ざっとる。

 

性質の悪いコロポックルがドヤ顔で答えて曰く、ウチの型番は人造付喪神13型丙。

召喚した軍艦の魄にそこらの浮遊霊の魂を注ぎ込んだ、それはもう無理矢理に、

リーズナブルでエコロジーなリサイクル艦娘って何さらしてくれとんねん。

 

つまりウチの部品の記憶っちゅう事かと、ならば艦隊これくしょんとか言う

現状にやたらと酷似した設定のゲームの記憶はどういう事よと聞いたなら、

 

死した時点で魂は幽世に移り、それを引き戻して注いだのだからして

違う常世から幽世へと至った魂、つまりは平行世界の記憶だろうと、あと野良猫。

 

爪を立てた猫パンチが解説人形のドタマに唸る。

 

13型の甲と乙は記憶と人格が混濁したため廃棄したとかまで言いだしたので、

先達の無念を込めて目の前の人型雑巾を絞り上げた、餡子が出るまで。

 

なんでそんな適当な事をと問えば、答う。

 

浪漫に資材を使いすぎて建造に回す分が足りな――

 

時速100マイルの小人型剛速球が建造ドックの壁に叩きつけられた。

 

とりあえず手足の動作はできるようになったらしい。

配線が外れていく、法陣から足を踏み出し鉄扉の前に立つ。

 

建造完了予定時刻まで残り僅か。

 

足元を見る、靴とスカート、実に絶望的な光景。

朱色の水干っぽい上着に勾玉がひとつ。

 

コレはアレやな、朝潮型航空駆逐艦の制服やな。

 

前を見る、鉄扉に映るは軽めの色の髪を二つ括りにした小柄な少女。

鉄の塊がよくもまあこんな可愛らしく化けるもんやと、嘆息する。

 

しかしどうにも、近代化改修の素材として即オサラバな未来しか見えてこない。

いや、まだ戦力の揃っていない提督の建造ならばワンチャンある、きっと。

 

大型建造やったら即終了だがなッ! などと記憶が囁いてくる。

 

平面生物に転職した諸悪の根源も囁いてくる。

 

―― 本来ならば出来立ての魂は未成熟なため、

どのような艦娘もはじめは魄の記憶に従って行動する。

 

―― 結果として同じ艦の艦娘なら、はじめの一言は常に一致すると。

うかつに個性を出したら即解体フラグとか何言ってんのこの悪性粘土ろいど。

 

ああ、ええと、ナニ? ウチの最初のご挨拶は何かシルエットがミラージュで、

無責任に頑張れなどと言ってくる小人型踏み竹を踏み潰し、ああもう、時間が

 

扉が開く、目の前には無駄にイケメンな軍人と槍持った銀髪の小娘。

いかにも海軍といった印象に少し困惑する、自衛隊やないんか。

 

「け、軽空母龍驤や。独特なシルエットでしょ

 でも、艦載機を次々繰り出すちゃんとした空母なんや

 ……期待してや?」

 

よし、イントネーションはともかくイケた、はず!

 

内心の動揺を億尾にも出さず、顔に張り付けたジャパニーズズマイルも煌々と

反応を見て確かめる分には喜ぶイケメンと安堵する銀髪。

 

あ、叢雲や。

 

何か凄い勢いで艦艇から艦娘へと改竄されていく最中の艦艇時代の記憶から

目の前のワンピースなクール風味美少女が駆逐艦叢雲だと思い出す。

 

初期艦だと頭の中の提督のゴーストも囁く、叢雲提督かよウチの部品。

 

「よかった、軽空母で済んでくれた」

 

叢雲が疲れ切った表情で不穏な一言を漏らす。

 

「はじめましてだな、君がこの鎮守府で2人目の艦娘だ」

 

ふたりめ、ですとな。

 

「えーとな、提督さん、キミ、ちょい聞きたいんやけど」

 

湧き上がる嫌な予感を抑えながら端的に問う。

 

「鎮守府に着任した日付は」

「今日からだ」

 

「燃料と弾薬」

「使い切った」

 

イケメンに相応しい、草原を渡る春風の如き爽やかな笑顔での返答やった。

 

出撃も出来ないのよと大量のペンギンを抱えた叢雲が虚ろな声で言う。

……オーケー、酸素魚雷は最優先で確保や、というかとりあえず、

 

「なに初日の初手から空母レシピ回しとんねん!!」

 

思わず馬鹿を蹴り倒したウチは間違っていないと思う、きっと。

 

 

 

(TIPS)

 

 

 

ブルネイ鎮守府、などと銘打たれているが実際のところ

「ボルネオ島を中心とした東南アジア方面」の鎮守府である。

 

ブルネイ第一鎮守府がブルネイに置かれた後、後続の鎮守府、泊地は

マレーシア、インドネシア、タイランドなど15ヶ所に設置され、

親中派のテロに悩まされつつ、日本との交易ラインを守護する任に就いている。

 

優先的に行われた中東打通作戦も何とか成功し、各種資源の流通が蘇生

慌ただしく設置された各泊地の見直しをする余裕ができたところだとか。

 

さて、そんなわけで名前を冠する割に意外に手薄だったブルネイ・ダルサラーム国。

首都バンダルスリブガワンは西側のブルネイだが、海岸線で見れば東の端。

日本の土地で言えば県1つ分の面積の国といえど、泊地1つでは手が足りない。

 

そのような声に応え、第三鎮守府五番泊地はブルネイ西部セリアに設置された。

かつて帝国軍がブルネイに到達した折、上陸した土地である。

 

「つーか、なんで油田ほっといて東に泊地作っとんのよ」

 

龍驤の声に提督が答える。

 

「首都の方が便利だからかね」

 

第三鎮守府の旗下でありながら、何故か最寄が第一鎮守府本陣。

どこらへんをどう見直したのかと小一時間問い詰めたくなるような、

大本営の混乱ぶりがよく伝わってくる五番泊地の歴史はこうして幕を開けた。

 


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