「ヘファイストス様〜、夕飯を届けに来たんですけど今大丈夫ですか?」
「あぁ、響?悪いんだけど部屋に入って机の上に置いててくれる?今やってる作業終わったら食べるから」
「はい、わかりました」
そう言ってドアを開けると同時に肌を焼く様なチリチリとした熱気が吹き抜けてくる
もう何度と無く経験したことだが、未だにこの感覚が新鮮に感じてしまう
かと言ってこのままドアを開けっ放しにするのはマズイので素早く部屋に入り、扉を閉める。
そして部屋の隅にあるテーブルにクロッシュ(ドーム状のカバー)をかけたままの料理を置いてそのままヘファイストス様の作業を眺めるとそこには鷹のような鋭い眼差しで炉の中にある新しい作品に集中している紅炎の美女というべき存在が居た
今は炉の温度と音を見る限りでは焼き入れが終って仕上げに入ってるみたいだしそう時間もかからずに終わるだろ
そう思った俺はそのままソファーに腰掛けて作業を見ていることにするのだった
〜〜〜〜30分後
「うーん、こんなモンでしょ」
そう言って銘を彫って作り終えた
作業が終わったのを見計らって声をかける
「ヘファイストス様、何か手伝うことあります?」
「なら悪いんだけど、そこにある完成品を届けてくれる?私は片付けがあるから」
「わかりました。とりあえず誰か下のカウンターの子に渡しときます。何時ものオーダーメイドですよね?」
「そうよ、何でもまた遠征があるらしくて少しでも良い武器を作って欲しいってロキから頼まれたのよ」
「あぁ、あのクソ犬の・・・」
「こらこら、一応お得意様なんだからそんな言い方しない。・・・まぁ、アンタがあの狼君を嫌う理由もわからなくもないけどね」
「いや、嫌いって程じゃないんですけどね。アイツって妙に高圧的でやたらと他人を見下すんでダンジョンで色々と陰口叩かれてるのみるんでイライラするんですよ。注意しても『面と向かって言いたいことも言えねぇ様な雑魚には興味ねぇ』とか言って聞く耳持たないし・・・本当は優しい癖して不器用な性格で損してるってのが・・・なんか言ってて恥ずかしくなってきたんで、とりあえず行ってきます!!あ、でも夕飯はちゃんと食べてくださいよ!?後で確認しにきますからね!」
そう言って目の前にあったミスリル製のロングソードを手に取って部屋を飛び出して行った
それを見て、ヘファイストスは閉まった扉を見て小さく呟く
「なるほど、同族嫌悪って奴ね「違います!」・・・相変わらずの地獄耳ね」
そこでふと、響について考える
「そう言えば、あの子を拾ってきてもう3年になるのか・・・鍛治の才能がこれっぽっちもなかったのは少し残念だったけど・・・本当によく働いてくれる子よね」
出会った当初は今時では・・・特に荒れくれ者の多いこの都市では滅多に見かけないほどにスレていない優しい好青年という印象でとても世間知らずな青年であった。
挙句、他の世界からの転生をしたなんて話を聞いた時には変わり者を通り越して変人の認定を押そうかと思いもしたけれど、生憎と神の特権とも言える能力で嘘を言っていないのがわかってしまうため、それが嘘でないことに驚いたものだ
けれど、同時に合点がいった
世界を越えるなんて体験でもしないと説明を受けなければ納得できない程に彼の魂の強い輝きは下界の人間とは思えない程に異質だったからだ
そうして恩恵を授けたは良いが、本当に驚いたものだ
恩恵を授けたその翌日に1人で11階層まで装備無しで潜ってオークの群れを相手にほぼ無傷で潜り抜け、数体討伐して戻ってきたのだ
かと思えばトータル300オーバーの成長を見せたり、ウチの中級クラスの冒険者に片っ端から模擬戦を申し込んだりして対人戦のスキルを磨くなんて強さに対しての貪欲さもみせる
かと思えば、それから3ヶ月が過ぎたあたりでウチのファミリアにいる下積みの連中の武器が馬鹿にされていたのを聞いたというだけで
ウチの下級職人の為に3日間帰らずにダンジョンに潜って小さなバックパック二つ分のドロップアイテムをかき集め、ついでに12万バリスの稼ぎを出した
そしてそのドロップアイテムを全て、私に渡して「これを今下積みをしてる職人の人たちにあげてください。」なんて言って私や近くに居た椿たちの目を丸くさせた
そう言った後にさっさと自分の部屋に戻って行った
けれど、私は聞き逃さなかった
彼が去り際に悲しそうな表情で「俺には物を作る才能がありませんから・・」と呟いたのが無性に悔しく感じたものだ
それ以降、一月に一回の頻度でドロップアイテムをウチのファミリアの為に取りに行っているし、ギルドからの|冒険者依頼〈〈クエスト〉〉で特に人探しをやっていてウチのファミリアの印象をより良いものにしている事もあって、内外ともに評価は良い
そこまでならば私も本当に良い子を眷属にしたものだと自分を褒めるだろう・・・いや、後悔はしていないのだ。ウチのファミリア内でもすこぶる印象が良いのは私も認めるところだからだ。
ーーーーーーーただし、数々の問題行動も同時に起こしている。
一つは、「ギルド直轄の大衆食堂殺虫事件」
事の発端はギルドに貼られていた格安報酬の塩漬け依頼で響が担当の子を困らせた罰として受ける事にした冒険者依頼だった。そして響は最初こそ真面目にやっていたのだ。しかし、「駆除して欲しいと言うにしては虫の影も形も存在しないし、それらしい気配も感じない。」まぁ、常に最低限清潔にしておくのが食堂の『暗黙の了解』なのだから当たり前だ。これが知り合いから頼まれた単なる頼み事ならば「見つかりませんでした」の一言で済む。だが、今の冒険者依頼の達成条件に関わるとなると話は別だ。
そこで響は思い付いた。
「居ないなら向こうから呼び寄せてしまおう」
そう考えた響の行動は早かった。自身の魔法を応用して発動させ、周囲の虫を呼んだ。
その効果は凄まじく、数秒の内に店内に潜んでいた黒い悪魔数匹を誘い出し、滅殺した。
それで、終われば問題はなかっただろう。だが、例の魔法は響が感覚で適当に発動させた魔法であり、制御関係も適当になされていた
つまり、何が言いたいかというと『食堂』どころか『オラリオ』のゴキブリが食堂に詰めかけ、周辺の住民たちの阿鼻叫喚が木霊し、3時間の激闘の末に総ての怨敵を抹殺して辛くも戦いに勝利したが、食堂はゴキブリの死骸だらけで清潔とは程遠い状況となっており、当然ながら響は虫の死骸まみれの格好で担当の子に説教され、ただでさえ心身疲労困憊だった状況であったせいか終わる頃には死人のような顔つきからミイラの様になっていた。その後、店には半月の営業停止、響には罰金と周辺住民に対する謝罪と店の清掃を1人で行う事が義務付けられたのだった。・・・ちなみに響の初めてのレベルアップはこの害虫との死闘であったりする。
他にもヒュドラの子供を拾ってきた『ヒュドラテイム事件』や『宝剣粉砕事件』(何でも昔読んだ物語に地面に突き刺さった抜けない剣をへし折ったら中から潜在能力を開花させてくれるお祖父さんが出てくる話があってこれもそうなのではないか?と思って抜いた側から叩き折ったらしい・・・無論、何も出て来なかった)、そして、つい最近あった。『中層の毒霧事件』なんでも冒険者パーティ3組程に連続で囮に使われて頭にきて魔法と持ち込んだ毒薬の総て自重無しに使った結果、中層の内の一層が一時期立ち入り禁止になる事態にまで発展した。これについてはギルドからも注意だけで済み、響を囮に使ったパーティの所属ファミリアからも多額の賠償金が支払われている。
・・・本人曰くあまり目立つのは好きではないって言っている癖に妙に目立つ青年である。
結果、現在では「何処か眼が離せなくなる問題児」だろうか?
・・・・さて、感傷もこれくらいにして今日の夕飯は何かしらね。
そうしてクロッシュを開けるとそこにはクロッシュに埋め込まれた火の魔石の保温効果の為かさながら出来立ての状態を維持したままの玄米、ロールキャベツの入った春雨スープと唐揚げが鎮座していた。
メニュー見る限り、どうやら今日の夕飯を作ったのはあの子らしい。・・・なるほど、通りで夕飯を食べるように念を押してきたわけだ。
「うん、今日の夕飯も美味しいわね。あの子って、前にいた所で料理の修行でもしてたのかしら・・・妙にレパートリーが豊富なのよね。美味しいから良いんだけど」
つくづくここに来る前には何をしていたのか気になる子だ。今度、あの子に前に居たとこの事を聞いてみるのも悪く(ガチャ!)・・・あの子が戻ってきたことだし、さっさと夕飯を片付けてしまいましょう。
「ヘファイストス様〜、味付けはどうですか?」
「問題無し、いつも通り美味しいわよ。これ食べた後でステイタスの更新するから待ってなさい」
「わかりました。」
〜〜〜〜夕食後
「さて、ステイタスの更新を始めるわよ」
俺はヘファイストス様の工房のソファーで寝転び背中には神様が馬乗りで乗っている。
「うーん、やっぱり鍛治関係のアビリティの発現は無いわね」
「付与魔法はかけまくってるんですけどね〜」
「あぁ、そっちならクラスが上がってるわよ」
「本当ですか!?」
「ほら、この通り」
そう言って目の前に差し出された羊皮紙にはこう記されていた
『ステイタス:Lv.4
二つ名:『邪竜』、『毒霧』
力 :696 C
耐久:534 D
器用:726 B
俊敏:820 A
魔力:760 B
スキル:『毒竜の加護』,『万物の聴き手』,『孤軍奮闘』(例のゴキブリ騒動で後天的に発現したスキルで前者2つは先天性)
魔法:『毒の滅竜魔法』,『サモンブック』(異世界の物を本限定で召喚する能力でマガジンとジャンプを毎週召喚している)
発展アビリティ:《魔導》《調合》《魔防》《付与》 』
「うーん、攻撃避けまくってるから仕方ないとしてもなかなか力のアビリティが上がらないなー。何でだろ・・・・魔物をぶん殴ったり引き千切ったり、投げ飛ばしたりする程度じゃダメなんですかね?」
「お願いだから前に聴いたインファイトドラゴンと綱引きだとか足の速い魔物に紐巻き付けて自分を引き摺らせて耐久、敏捷上げなんてマネはしないでよ?あれ、他の主神からたまにからかわれるんだから」
ちなみにヘファイストス様は知らないが先日ミノタウルスとスクラムを組んで遊んでいたりもする。
いや、ヘファイストス様、アレって意外と楽だし成長効率も良いんですよ?なんて言えないよなー
なのでこういう場合・・・
「可能な限り努力します」
そう無難に応えるとやはりと言うべきか、ヘファイストス様は深いため息をついた。
まぁ彼女もわかっているのだ。
ダンジョンで探索などをしている以上、ステイタスの数値が高いに越したことはない
場合によっては誰かを庇う場面もあるだろう・・・そういう場合、庇った側の耐久が低ければ低いほど死に直結するリスクというものが上昇する
今でこそオラリオ最大の鍛治職人ファミリアの主神としての名声を欲しいままにしているが、長寿で知られるエルフよりも神様故に悠久に近い時を生きる彼女だ。ここに至るまでには多くの同胞たちの死を看取ってきたのだ。
中には天寿を全うした者
理想を叶え果てた者
道半ばで果てた者
色んな人が居たはずだ。
だから俺が伏した言葉に関してもわかっているのだろう
だが、あえて言わせてくれ
「アレって意外と童心に還って楽しいんです!!」
「それが危険だからやめろって言ってんでしょうがこの馬鹿眷属!!」
《ドゴスッ!!!》
怒号と共にヘファイストス様の鉄槌が俺の頭頂を殴打するのだった。
・・・・痛い。
あまりの激痛に蹲って頭を抱える俺
そこで何か被るものを見たのか「あっ!!」という声を漏らし、思い出したかのようにヘファイストス様が一言
「アンタ、悪いんだけど眷属探しが上手くいっていないらしいヘスティアの様子がちょっと・・・いや、かなり心配だから様子見てきてくれない?・・・うん、そう。受けてくれるのね。助かったわ」
まだ何も答えていませんけど!?頭抱えて蹲ってただけですよ!?
・・・まぁ、そんなこんなで明日からの予定に神様のストーカーが追加された。
・・・・急いで
・・・・ちなみにその日の俺の睡眠は限りなくゼロに近かったとだけ言っておく。