やはり趣味を極めるのは間違っていないはずだ   作:hideo99777

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三上は戦場へ行った。

三日目、俺は誰よりも早く起きた。

はい、ごめんなさい。嘘です。

昨日から寝てません。

 

二日目の事はわざわざ語る必要もないだろう。

何にも無かったしな。

ただお化け屋敷行って、思い切り肘をぶつけたくらいだ。

そのおかげか一日中小指にしびれるような感覚が残った。

 

ともかく俺は、コーヒー片手にうなだれていた。

 

「あら、奇遇ね。朝から項垂れてる三上君」

「仕方ないだろ、体にタングステンが乗っかってんだから」

「あなたがこんなに早く起きるとも思わなかったわ」

「あぁ…自分でもびっくりだよ」

「そう…あなたのことだし、昨日から寝てないのでしょう?」

 

はい、ばれました。

何あの人、エスパー?

俺なんてエスパーはエスパーでもエスパー伊藤程度にしかなれないけど。

 

「いいだろ別に…とにかく、今日はどこを回るんだ?」

「今日はまずは伏見稲荷大社、それから東福寺に北野天満宮ね」

「そうか…分かった。俺は一応部屋に戻って準備でもしてるよ」

「ええ…また会いましょう」

 

 

 

準備も終わり、伏見稲荷大社のクソ長い階段を上る。

あのとべっち寿司の班とも行動をしていた。

だが、さしあたっての問題点はただ一つ。

階段長ぇ。

もうふらふらになり、目の前もかすんできた。

 

やっとこさ休憩ポイントにたどり着き、ベンチに座る。

言ってしまえば簡単だが、今はロッキーのテーマが流れてる。

誰もいなかったら、エイドリアンと叫ぶかもしれない。

 

「大丈夫か?」

 

比企谷が、手に持ったお茶を渡すと共に尋ねてくる。

 

「ああ、大丈夫。今頭の中でロッキーのテーマが流れてるだけだから」

「重症じゃねぇか…」

 

あ、このネタわかるのか。良かった。

 

 

 

その後も、ぶらぶら歩いて回っていた。

由比ヶ浜は嵐山あたりで食べ歩きを始める。

俺もそこそこ食べた。

 

「夕食、入らなくなるわよ」

 

その一言で、現実に戻される由比ヶ浜。

しばし悩み、食べかけを比企谷に差し出す。

 

「じゃあヒッキーにあげる」

「いや、いらねぇよ」

 

「これ、どうしようゆきのん…」

「はぁ…少しだけよ」

 

由比ヶ浜の表情が明るくなる。

やっぱ、百合だろ。うん。

 

「あなた達も手伝いなさい」

「お、おう…」

「じゃあ…はい」

 

由比ヶ浜が比企谷に、手持ちの牛しぐれまんを半分にして渡す。

 

「みっくんも…」

「いや、俺は袋で」

「袋で!?食べられるの!?」

「ああ。これくらいのサイズなら二口でいける」

 

そういいながら、思い切りかぶりつく。

思ったより小さく、最初の人噛みで三分の二ほどなくなる。

とにかく、この後、かつ丼を食べ、計画の手筈と場所を決める。

正直、これはできそうにない。

それに海老名のこともある。

俺には無理だ。

もう、何をすればいいかわからない。

 

 

 

「やけに協力的じゃないね」

 

俺は意地悪い笑いを浮かべながら言う。

 

「そうかな」

「見てりゃわかるぞ。あいつらはバカだったから分からねぇけど。とにかく少し邪魔になってたな」

「そういうつもりは無かったんだけどな…」

 

「俺は今が気に入ってるんだ…戸部も姫菜も…みんなでいる時間も結構好きなんだ、だから…」

 

よくまぁそこまで好きになれるもんだ。

 

「それで壊れんならその程度じゃねぇの?まぁ、今でもその程度だけどな」

「そうかもしれない…けど…失ったものは戻らない」

 

ああ、やばい。笑いを堪えられなくなってしまいそうだ。

それならなんでわざわざ持ってんだよ。

 

「上っ面だな。そんな関係」

「そうかな?俺はこんな関係が上っ面だなんて思っちゃいない。今の俺にはこれが全てだ」

「何言ってんだよ。じゃあ戸部はどうなるんだ」

「何度かあきらめるようには言ったさ…姫菜は誰かに心を開くと思えない。でも、先はどうなるか分からない。結論を急いでほしくなかった」

「身勝手だな」

「なら、君はどうなんだい?君ならどうする?」

「仮定しても意味はない。これはお前の問題だ。それに考えるだけでも無駄だ。くだらない」

 

「…君は…何も失っていないからそんなことが言えるんだ…」

「いや、俺はもう失った。奉仕部に連行される前の日常を。何もできない俺には腹が立っていた」

「君は自分が嫌いなのか?」

「いいや。好きでも嫌いでもない。これが自分なんだ。受け入れるほかない。というか、好きか嫌いかで判別する代物じゃない。嫌いなのは奉仕部だ。あの三人も、平塚先生も、お前も、あのグループも全部大嫌いだ」

 

葉山はうつむき加減に話を聞くことしかしなかった。

 

「お前は失ったものは取り戻せないとか言ったな。少なくとも俺の失った物は取り戻せる。くだらないものばっか持ちすぎなんだよ。お前は」

「…」

「背負い込むものが多すぎて、身動きが取れずに失う。滑稽なもんだ。せいぜい暇つぶしになればいいさ」

「…君は…なんでそんなに強いんだ」

「俺は強くない。必要最低限のものしか持ってないだけだ」

「強いて言うなら、日常に対する、確かな理念とそれを取り戻す事への覚悟があるからだ」

 

「…話しすぎた…とにかく、俺はお前のことが嫌いだ。虫唾が走る」

 

こいつは俺に似ている。

同族嫌悪とかいうやつだ。

俺がもし、奉仕部をやめたら、こんな考え方になるだろう。

だが今は考える暇はない。

奉仕部での生活はすべて灰色と化している。

俺は会話に入るノイズのようだった。

無理もない、自分がそうしたんだ。

俺が望んで、望むだけでは無理だと諦め、そうあろうとした。

だが、過去なんて変りもしない。

変えようとも思わない。

俺はもう、奉仕部が嫌いだ。

葉山も、奴のグループも、強化外骨格も、平塚先生も全員嫌いだ。

とにかく、今は奉仕部の辞め時を探そう。

俺が今やるべきはそれだ。

 

 

 

 

手筈通りの場所で待機する。

正直俺は違和感を感じていた。

それは戸部と彼が話しているためだ。

 

「結構いいとこあるじゃん」

 

戻ってきた比企谷に、由比ヶ浜が声をかける。

 

「どういう風の吹き回し?」

 

まぁそう思うわな。俺もだ。

 

「そうじゃない。マジで。このままだと戸部は振られる」

「そうかもしれないわね…」

「…そうだね」

「…まぁ一応丸く収める方法はある」

「どんな方法?」

 

その言葉を聞いた途端雪ノ下達から目をそらす。

彼の事だ。自分を犠牲にするんだろう。

どちらにしろ、ハッピーエンドはありえない。

誰かが犠牲になるしかない。

 

「…あなたに任せるわ」

 

雪ノ下が微笑みを浮かべながら言った。

 

ふと目をやると、海老名が来ていた。

戸部のほうの表情は窺い知れないが、海老名の方は穏やかな顔だった。

 

海老名が立ち止まり、しばしの沈黙が訪れる。

 

「あの…」

「…うん」

 

戸部は確実に振られる。

あの関係は壊れてしまうかもしれない。

だが、それを好ましく思わないやつが、苦労したり、いろいろ悩んだりする。

俺にはそんな下らないもののためにしゃかりきになって気を張れる事にあきれる。

 

「俺さ…その…俺さ……」

 

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」

 

少ない犠牲の方を選んだ。

まぁ、理にかなっているな。少数よりも多数。

お前らの大好きな数の暴力だ。

 

全員があっけに取られていたが。

俺はその様子を冷静に見つめていた。

 

「ごめんなさい、今は誰とも付き合う気はないの…誰に告白されても付き合う気はないよ」

 

彼女は、察したのか、ご丁寧に核心を突く言葉を言い放つ。

 

「話終わりなら私…もう行くね」

「…だとよ」

「ヒキタニくん、それはないでしょー、いやフラれる前に分かって良かったけどよ…無いわー、いや無いわー」

「まだ時期じゃないってことじゃないかな。今はこの関係を楽しんでおく方がいいんじゃないか」

「まぁそうだねー、言うても"今は"って言ったし」

 

「…ヒキタニくん…悪いけど、俺負けねーから」

 

意気揚々と歩き出す戸部を見送ったペギーが、比企谷に近づく。

 

「すまない…」

「…はぁ?」

「君は、そういうやり方しか知らないんだと分かっていたのに…すまない」

 

回れ右で、比企谷が、戻って来る。

 

「…あなたのやり方…嫌いだわ」

 

雪ノ下が話し出す。

 

「上手く説明できず、もどかしいのだけれど、あなたのやり方は、とても嫌い」

 

「…もう戻るわね…」

 

こわばった表情のまま、雪ノ下は足早に歩いて行った。

 

由比ヶ浜も、ひどく痛ましい表情で、比企谷との距離を離していった。

確かに涙がこぼれているのが分かった。

 

だが、少数のために多数の犠牲というのは相当愚かだ。

たとえそいつに、どんな背景があろうと、たとえどんな人生を歩んでいようと。

だからせめて、俺は犠牲にだけはならない。

 

大切なものを見つけるだとか、何かに気づくだとか、そんなものは面倒だ。

別に何も考えない、歯車でいい。

 

そんな身勝手な考えが、俺の頭の中で、偏頭痛のように、煩わしく残っていた。

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