やはり趣味を極めるのは間違っていないはずだ   作:hideo99777

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地獄の鬼

あの日から数日くらい経った。

俺は比企谷と共に貴重な昼休みをぶっ潰して話し合っていた。

正直俺は面倒だった。

最初の案が手っ取り早く、穏便に済ませられる。

 

「ファミレスで話し合ったんだが、方針が決まった」

「内容は?」

 

少し虚ろな眼付きのまま訊く。

 

「ツイッターを使うんだ」

「ツイッター?どうやって?」

「そいつで応援アカウントを作り、架空の人物に推薦人を集める」

 

架空の人物なら何を言われようがノーダメージ。

やったぜ。

 

「でも…一色を当選させないようにするんじゃ?」

 

一応体裁は整えて置く為に尋ねる。

「前提を間違えてたんだ。一色の不安要素を取り除けば断れなくなる」

「それは良いとして、バレたらどうするんだ?」

 

今一番心配なのはこれだ。

 

「まぁリスクが高いが仕方ねぇ」

 

おい、ふざけんじゃねぇ。

 

「なぁ比企谷…分かってるだろうが…」

「あぁ、お前には被害が及ばないようにする」

「それでいい、ありがとう」

 

そう言いつつ、哂った。

 

 

 

後日、俺は図書室でペンを走らせる。

推薦人がどうとかの書類仕事だ。

目頭を押さえ、背もたれにもたれ掛かる。

そして首をもたげ大きくため息を付いた。

 

ああ、どんどん空しくなっていく。

俺はなぜこんな事をやらなければいけないのか。

もちろん分かっている。

演技のためだ。

比企谷でもいい、誰かがここを辞める口実になる出来事を起こすまで待つのが目的だ。

 

そうじゃなくて、俺はなぜ奉仕部の部員として存在しなければいけなかったのか。

俺にはそれが分からない。

 

俺はただ一人で居たかっただけだ。

そう思うと静かな怒りが込みあがる。

俺のペンを持つ力がほんの少しだけ強くなった。

 

「せんぱ~い。これキツいですよ~」

 

吐き気を催す甘ったるい声色で、一色が喋る。

どうも俺はこの声に対して苦手意識というか嫌悪感を抱く。

雪ノ下さんでも同じ反応が出るが、城廻先輩は少し反応が軽い。

といってもほんの少しだ。拭い去れるかどうかは期待は出来ない。

まぁそもそも最初から期待してはいないが。

 

「あ、この前遊んでた人って葉山先輩の彼女とかですか?」

 

俺は疑惑の視線を彼に向ける。

 

「……どうだろうな」

 

俺の疑惑の視線を感じたのか少し焦り気味に答える。

 

「えー?教えてくれても良いじゃないですかー」

「これ終わったらな」

 

彼は一色の言動をいなし、彼女は黙りこくってしまった

 

「ま、あれくらいなら問題なさそうですし、良いですけどね」

 

さっきの甘ったるい声色とは打って変わって冷たい声色へと変わる。

 

「というか、葉山の事す……どう思ってんの?」

 

好きと言おうとしたらしいが、少し言い淀んで言葉を変える。

一色は少しの間目を見開いて硬直していたが、すぐに正気に戻る。

 

「何ですか口説いてるんですかごめんなさい無理です好きな人がいるんで…」

「そうじゃねぇよ。単純にどう思ってんのか聞きたかっただけだ」

「そうですねー…なんかいいなと思ったらとりあえず手を出…繋いでみたいなーって」

 

いやー恐ろしい子恐ろしい子。

こいつのはらわた水銀並の重金属がもだくってる。

 

「三上せんぱーいこれやる意味あるんですか?」

 

うわっ…俺に話振ってきた。

 

「あるっちゃあるし、無いっちゃ無い」

「なんか曖昧なんですけど」

「別に今更足掻いてももう無理だ。お前は雪ノ下にも由比ヶ浜にも勝てねぇよ。その面じゃ相当意味はねぇ」

「まぁ別に勝てなくても良いんですけど。でも、案外勝っちゃったら怖いなーって」

「無理だよ。そもそもお前勝てる部分もクソも無いだろ」

「はぁ」

「最初の推薦人連中も投票はしない。ま、陰で爆笑だわな。そして、落ちたらさらに爆笑だな」

 

そして俺は比企谷に目配せをする。

 

「そういうの、腹立つよな」

 

比企谷がしゃべりだす。それと同時に一色は彼を見る。

 

「やっぱ…やられたらやり返さないとな」

「はぁ、まぁ、できたら良いですけど」

「出来る」

 

比企谷は確信に満ちた声色だった。

 

「さっきから書いてるこれ、なんだと思う?」

「推薦人名簿ですよね」

「ああ、お前の推薦人名簿だ」

「はぁ…え?私もう推薦人集まってるんですけど」

「規定は30人以上だ。何人集めても問題ない」

 

そう言いながら比企谷は名簿を置く。

 

「ネット上じゃお前の応援アカウントが稼働していたんだよ」

 

俺は少し軽めな口調で話す。

 

「これだけ居れば勝てる」

「い、いきなり言われても無理ですよ。ていうか、なっても結局できないですよ。あんまり自信ないっていうか、それに部活もあるし…」

 

「確かにあのくだらない部活も大変だろうな。ただ、リターンはでかい。なんだと思う?」

「はぁ…経験とかですかね?あと内申とか?」

「違うな。ま、それも大事かもしれねぇが違う。お前は生徒会と部活を両立させる完璧超人を演じる事ができる。お前はまだ一年だ失敗しても誤魔化せる。生徒会がだるいなら部活を盾にすりゃ良い。逆もまた然りだな」

「で、でも大変ですよね」

「そういう時はお前の愛しのクソ野r…ゲフンゲフン、葉山に頼みゃ良い。家まで送ってもらっえるアフターケア付きだ」

 

一色は信じられないといった様子で固まっていたがしばらくして口を開く。

 

「もしかしてせんぱい達って頭良いんですか?」

「まぁな」

「一応人並にはな」

 

比企谷がドヤ顔で言い続けて俺も同調する。

 

「…これだけ支持されたらしょうがないですね…その提案はそれなりに魅力的ですし…それにクラスの子に陰で笑われるのも嫌ですしね…」

 

少し笑顔が曇ったが、すぐに元に戻り俺たちに向き直る。

 

「せんぱい方に乗せられてあげます!」

 

 

 

仕事が終わった後、俺は疲労にまみれた体のまま、奉仕部に顔を出した。

 

「お前らの意志は変わらないのか?」

 

比企谷が口を開いた。

 

「変わらないわこれが最善策よ」

「あたしも変わらない」

「あなたまで出る必要はないでしょう」

「出るよ。負ける気もない」

 

「どうして…」

「だって…ゆきのんが居なくなったら無くなっちゃう…あたし、そういうの嫌なの」

「そんな事にはならないわ」

「でも!」

 

半ば空気と化していた比企谷が口を開く。

 

「実際選挙に出る必要もない。雪ノ下も由比ヶ浜もな」

「どういう意味かしらあなたの案は否定した筈だけれど」

「ああいうのはもう止めだ」

 

比企谷はそう言いつつ、どこからか紙を取り出す。推薦人名簿の紙だ。

あの二人も驚いていた。

 

「これはあなた達がやったの?」

「有志の人間だろ。どこの誰かまでは知らん」

「そう…」

「すごい数だね…」

「ああ、全校生徒の三分の一はある」

 

本気で死ぬかと思った。三途の川の向こうに俺の祖父母が見えて来ていた。

なんか俺を追い出そうとしてた。

後、CTRLキーとVキーをやたら使った。

 

「一色の会長を務めるための枷は全て達成した。だから、もうお前らが生徒会長をやらなくていいんだ」

 

由比ヶ浜は少しの間呆けていたがやがて口を開いた。

 

「良かった…じゃあ解決だ」

 

「そう…私が動く理由も、無くなったのね」

「そういうことになるな」

「ええ、分かるものだとばかり思っていたわ」

 

そう、この中の人間は何も分からない。

俺がここを辞めようとしている事も。

 

「先生に報告してくるわ」

 

雪ノ下はそう言い立ち上がる。

 

「あたし達も…」

「一人で十分よ」

 

雪ノ下は、少し微笑みながら部室のドアを開け、廊下へと出て行った。

 

「じゃ、俺はもう帰るよ…疲れた」

「おう、じゃあな」

 

そして、疲労にまみれた体に鞭打ちながら廊下を歩いた。

 

 

 

後日、俺は生徒会室の設営の手伝いに駆り出された。

一色に責任取れとか言われた。

まぁ目的がある。

遂行には好都合だ。

 

「あ、三上君」

 

目的の人物だ。

俺は先輩に辞めるということを打ち明けなくてはならない。

 

「持ちましょうか?」

「ああ、ごめんね思ったより私物が多くてさ」

 

俺は腕に掛かる重みに小さな呻き声を漏らす。

 

そして、俺と城廻先輩は廊下を並んで歩く。

 

「実はね、期待してたんだ」

「え?」

「雪ノ下さんが会長になって、由比ヶ浜さんが副会長で、比企谷君は商務。それで三上君は会計かな」

「はぁ……」

「それでさ…時々私が遊びに行って、四人で思い出を語り合ったりとかするの」

 

城廻先輩はそういいつつ笑みを浮かべた。

 

「いや、あの中にいるのは俺以外の三人だけですね」

「え?どういうこと?」

「俺は、奉仕部を辞めます」

 

俺の顔は強張って仏頂面のままだった。

一方城廻先輩は目を見開いていた。

 

「どうして…?

「心も体もボロボロにして…何も得られなかった…もう…終わりにしなくてはならない」

「…なんで…なんで…」

 

城廻先輩はただ言葉を反芻するだけになっていた。

 

「俺が人の心を失ってまであそこに居続ける理由もない。だからです」

「でも…奉仕部の皆は?君のことを大事に思っている人だっているんだよ!?」

「いえ、俺はもうボロボロになった…もう…疲れました」

 

城廻先輩は涙を流していた。

俺はその様子に何も感情を示せない辺り、もう駄目になっているんだろうか。

 

「もう茶番は終わりだ」

 

俺は、城廻先輩に言い放ち、先へと歩き出した。

そして、決意した。

 

 

 

 

 

 

俺は地獄の鬼になる。

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