やはり趣味を極めるのは間違っていないはずだ 作:hideo99777
此処に来る事の終わりを目前に控えた会議室ははいつもの様に横たわり、停滞した会議を象徴するものだった。
今は違う。最悪の援軍がいる。あの二人だ。
さぁーて仕事を押し付ける良い宛てが出来た。
事の発端は何日か前、俺がディスティニーランドに行く事をバイトがあると嘘を付き、Distenyを皮肉ったらしく家でやっていた後の事だ。
「えっと…集められた理由って何でしょうかね?」
一色は相変わらず甘ったるい声で比企谷に尋ねた。
「方針の各員と今後についてだ…」
「はぁ……」
「現状の案は実現は不可能、出来てもせいぜい一部分打ち出した看板の割にはチープな出来になる。そうならないためにはどうするべきだと思う?」
「分かりませんけど…」
分からないのか。あんなの見せられて。
それで良く生徒会長をやる気になったな。
「問題は会議だ。意見はまとめはするが、誰も決定を下さない。だからこそ"馴れ合い"を排除したちゃんとした会議をしたい…反対も否定も対立も歓迎だ。勝ち負けをきっちりつける…そういう会議にだ」
彼の案に、一色は苦笑いしながら副会長に尋ねる。
「えっと…どうですかね?」
「この時期で対案出すのはきついし、波風立てないほうが良いと思う…」
なるほど、酷く真っ当だ。
だが無理だ。この状況じゃ、まともな奴は全員役立たずだ。
イカれた奴が真っ当な人間の目を覚ますのさ。
そして消えていくんだ。
「ですよね……でも、やります」
彼女は、ここに来てやっと会長らしくきっぱりと言い放った。
「私的に、しょぼいのって、ちょっと嫌かなーって」
そしてまた、彼女は変わらない甘ったるい声と笑顔を張り付けていた
とまあ現在の状況に至る訳だ。
胸糞悪いよ本当。嫌になる。
そう言えば会議に集中も糞もしていなかった。
俺が変えられんのか?こんな状況。
まぁ、答えは知ってる。
「違うな。自分が出来るなんてイタい事考える妄想癖なだけだろ。だから間違っても認められないロクデナシなんだよ。自分の失敗を誤魔化す為に策も時間も言葉も労して安心しようともした…誰かのせいにすれば楽だからな」
俺は自分でも憎たらしい笑みを前面に張り出し、皮肉めいた口調で話し出す。
場違いな事は、真っ当な事をコントラストの様に引き立てるんだよ。
「これって単にコミュニケーション不足なだけだと思うけど?」
「一旦クールダウンの時間を置いてもう一度話し合いを重ねれば…」
「「「アグリー」」」
スカした英語だ。馬鹿面かまして間抜けの様に生きていればいいのに。
そこからまた、中身のない会議に逆戻りしそうになる。
俺は、彼らを睨みつけた。ありったけの憎悪を込めて。
俺の中で怒りが煮えたぎる。俺自身を掻き消してしまいそうに。
そして、思い切り机を叩いた。
その音は会場中に響き渡り、彼たを一気に黙らせる。
「ごっこ遊びがしてぇなら幼稚園で馬鹿面かましてろ!!!クソ野郎!!!」
俺はありったけの声を振り絞り、彼らに訴えた。
俺が状況を変えられるのか。どう言葉を選べばいいのか。
そんなの簡単だ。
洗いざらいぶちまけてやれ!
「さっきからグチグチと中身もねぇくせに偉そうにしやがって、覚えたての言葉でおままごとをしてるのがそんなに楽しいか?見せつけられてもクソつまらねぇ!トチ狂った気違いのタマタマ取ってキャッチボールでもした方がマシだ!」
議場の連中は俺を驚きに染まった目で見つめる。
「前に進むわきゃねぇのに、何が"全体を見る"だよ?そもそも前にすら進んでねぇんだから何にも見える訳ないだろ!頭使えねぇのか!馬鹿共!これ以上俺を追い詰める気か?このクズ野郎共!」
有りっ丈言ってやった。俺の中にある物全部吐き出した。
全部がどす黒くて、吐き気を催しそうだ。
それでいて笑いが込み上げて来そうだ。
滑稽でたまらない。
「お前らは最低だ!こんな物失敗して当然なんだよ!」
全てを言いきった俺は力なく椅子に座り込むと、足を机の上に乗せ、前髪で表情を隠した。
「む、無理に2回楽しんでもらえるって思ってもらえた方がいいんじゃない?それぞれの学校の特徴も出るし…ね?」
由比ヶ浜。ありがとう。
俺は正直、こうやって場所から逃げ出すことができるかは考えたが、どう会議に持ち込めるかはあいつらに全部任せていたんだ。
「い、良いと思います…」
一色は困ったように返答する。
「ど、どうかな?」
「う、うん…それもアリなんじゃないかな?ね…?ね…?」
折本は周りに同意を求めた。
良かった。持ち直したようだ。
まあ、結局中身は変わらず、一色率いる生徒会のの力で何とか変える事は出来た。
「なんで三上せんぱいはあんなこと言っちゃうんですかー。雰囲気最悪ですよ?」
「いいじゃんか。あんなもん下痢便耳に流し込んでる野郎が悪い。一発ぶん殴れ」
諦めたように、それでいて突き放すように横の黒板にもたれ掛かりながら言う。
「はぁ…」
彼女は俺と同じく諦めたように溜息をつく
「老けるからやめとけよ。愛しの先輩だってババァ好きの変態じゃないだろ」
俺は底抜けの感情を読み取れる狂気を彷彿とさせる笑みを浮かべると、無表情で自動販売機へ歩き出す。
また、ブラックコーヒーだ。
正直カフェイン依存症になりかけている。
やる気も起きないし、頭痛もする。
だが、コーヒーの苦味と香りが広がる途端、頭の痛みはまるで波が引いていくかのように、静かにより確実に痛みが消える。
とっくに切れていた集中力も取り戻せたし、やる気も奮い立せた。
これからは麦茶生活かもな。
胸糞悪い感情はすべて吐き出され、今はまだカフェインの余韻が残っていた。
本格的な準備が始まり、会議室で適当に仕事を探す。
どこか楽な仕事は無いのか。
そう思いつつ、すっかり作業場と化した会議室を見渡すと、彼女がいた。
鶴見だ。
相変わらず一人で紙に黙々と鋏を入れている。
俺はそっと座り込み、紙と鋏を取ろうとする。
「隆人、いい、一人で出来る」
「出来ると言ってもな…」
「いい…」
彼女なりの意地か。まあ良いだろ俺にゃ関係ない。
問題はこの楽な仕事をどれだけ長く続けられるかだ。
だが、この仕事にはあり付けやしないそうだった。
俺は適当にまた新たな仕事を見つけるべく立ち上がる。
瞬間、彼女の寂しそうな目が俺に目に入る。
視線に気づき、顔を向けると、彼女はそっぽを向いて気に入らないといった顔をする。
「俺なら一人でバカ騒ぎ出来る」
碌な事を何も考えちゃいない顔で言い放つ。
「何それ、バカみたい」
「言ってるだろ。バカだって」
天井をうつろな目で見つめつつ乾いた笑みを浮かべた。
そしてまた、鋏と紙を手に取り、無心に切り続ける。
ああ思い出した。なんか比企谷に頼まれてることがあったよな。
劇か何かの主役を彼女にしようという目論見だったな。
「なぁ…お前…」
「お前じゃない…留美…」
俺は少し溜息を気付かれないようにつくと、言葉を重ねる。
「あのな…留美…」
これでどうだといったニュアンスを含めた口調で言い直した。
「うん……」
「演劇に出る気はないか?」
思い出した案件がまた一つ片付いた。
その後、俺の時間は目まぐるしく回る。
全てが、まるでシャッターを開きっぱなしにしたカメラで撮った写真の様に。
終わりまでの時間を短めにできたので結果的には良いだろう。
その分、疲労も俺の肩へとのしかかり、着実に俺を崩していく。
吐き気を催して、全部を床に撒き散らしてしまいそうだ。
頭も吹き飛びそうになっちまう。
俺の脳みそってどんなのかな。
緑色か?紫か?
違う違う。そんなものうそ臭くて話にはならない。
真っ黒だ。